11 「村長と焼肉パーティー」
オリー達と別れた俺は、次の目的地であるゴブ筋達のいる解体場を目指してあぜ道を歩いていた。
道の両端には、青々とした作物が生えた畑が広がっている。
畑ごとに育てる作物が分けられていて、いろいろな作物が確認できた。報告にはあったけど、実際に見ると結構いろいろ育ててるなーと思う。
ぶっちゃけ薬草とか霊草とか薬になるような植物を除けば、俺の村では米ぐらいしか育ててなかったので多く感じる。
村を始めた頃は、米だけじゃなくて小麦とか野菜とか果物とか色々な種類の食べれる農作物を育てていたんだけど、農作物は種類によって育て方が何通りもあったから何種類も一度に育てるのが結構手間で、結局メインの米以外、気に入った野菜や果物を数種類を残して他は一、二度の収穫で育てるのを止めてしまった。
まぁ、ゲームだったし栄養に注意する必要なかったから、米尽くしだったり肉尽くしだったりかなり偏った食生活を取っていた自覚はある。一番ひどかった時なんて、耐性系のスキルの熟練度を上げるために毎食いろんな状態異常を引き起こす毒キノコ料理を二か月くらい続けたことがあった。割とおいしかったけど、ゲームだったから毒物とか気にせず食べてたので、今は毒物だとわかったら絶対食べたくない。
少なくともここでは、ちゃんと栄養バランスを考えた食生活をしていこうと思う。
そんなことを思いながら歩いていると、時々踏み荒らされた畑を見かけた。多分盗賊が畑の中を移動した時の跡だ。馬蹄が柔らかい畑の土にくっきりと残っていた。
当たり前のことだがそこに生えていた作物は、無数の蹄に踏み潰されていた。もう何日も経っているから踏み荒らされて傷んだ農作物は、変色して明らかに腐ってた。
「……酷いことするな」
見ていてあまり気分のいいものではなく、自分でも眉が寄っているのが分かった。
「……ん? 」
植物の独特の臭いに紛れてどこからか肉の焼ける匂いがした。
こんな場所で? 周囲は畑だぞ?
「クン……クンクン。クンクンクン」
気のせいかと思ったが、確かに匂う。どっから匂ってきてんだ?
不思議に思って周囲の匂いを嗅いでみたが、どこから漂ってきているのか今一分からない。
一応、自分の体も匂ってみたけどそんな匂いはしない。
「………あ、まさか」
嫌な予感がした俺は、急いで解体場に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆
「あー……やっぱりか。っていうか何があった」
解体場が、宴会場に様変わりしていた。
あの解体した肉などを置いていた大きな石板で肉が焼かれ、周りにいる猛獣たちが焼けた肉を争うように食べていた。
時々、猛獣に交じってケモ耳を生やした獣人も食事をしていた。
あ、この子たち森に探索に行ってた探索班たちだ。
探索班のリーダー格のポチも猛獣たちに交って焼けた肉の塊を嬉しそうに齧っていた。
「あー……ポチ、何してんだ? 」
「ワウン? ウォン! 」
事情を聞こうと声をかけるとポチは、齧りついていた肉から口を離して嬉しそうに鳴いた。尻尾をぶんぶんと振ってる。
そう言えば、ポチって喋れたっけ?
「えーと………ポチ、ゴブ筋がどこにいるか知ってるか? 」
「ワフ! ウォン! 」
ポチは、知ってると答えるように鳴くと食べかけの肉の塊を咥えて、ついてきてとばかりにその場から移動する。俺はその後についていった。
ついて行った先にはゴブ筋がいた。ゴブ筋達解体班は、解体場が宴会場になっていても自分達の仕事は投げ出さず、モンスターの解体を続けていた。
「すまない。村長」
ゴブ筋は俺に気付くなり申し訳なさそうに謝った。
「一体何があったんだ? 」
「それが……」
俺が尋ねるとゴブ筋は少し困ったような表情でポチを見た後、解体場が焼肉パーティー場になってしまった事情を全て話してくれた。
俺が、去った後しばらくしてから探索班の仲間達が解体場に押しかけてきたらしい。
探索班のほとんどは、狼や虎、猫と言った動物に近い姿の魔獣たちで構成されている。だから、五感が優れている子が多く、特に嗅覚が抜きんでて優れている仲間が多いのが探索班だ。今回森に行っていたのは、森に生息しているモンスターの把握だけでなく、薬や食料になる有用な植物の調査を頼んでいたからだ。ポチのように嗅覚が優れてるものは、いろんな匂いが混ざっていても離れた場所にある薬草などを精確に嗅ぎ分けられるのだ。初日の薬草採取の時に薬草知識のないポチが次々と薬草を見つけてくることで気付いた。もちろん、そんな警察犬のようなことはゲームの時のポチではできなかった。異世界に来て変わったことだ。
そんな優れた嗅覚を持つポチたちが、どうやら解体した時に出た濃密な血の匂いに釣られたらしい。
森での探索が一区切り終えて村に戻ってきてるところだったので、ポチたちはその匂いがする解体場に押しかけて来たそうだ。
もしかして、換気のつもりで風で血の匂いを散らしたのがまずかったかな……
まぁ、それで解体場に押しかけてきたポチたちは、ゴブ筋が村長が昼食を作ってることを伝えたことで最初は大人しかったらしい。
大丈夫だろうと思ったゴブ筋は、その後も変わらず自分達の作業、モンスターの解体を続けたらしく、ポチたちも大人しくゴブ筋達がモンスターを解体していく様子を見ていた。
しかし、血肉の匂いを間近で嗅ぐのはポチたちには刺激が強かったのか、次第にそわそわし始めたらしい。分かりやすく言えば、目の前にぶら下がる餌を前にして抑えが効かなくなってきたそうだ。
そんな時、現れたのがホムラたち四精霊の頂点達だった。
余った分の料理をゴブ筋たち解体班に分けるつもりで来たらしい。ポチたち探索班はその料理に一斉に群がり、あっという間に平らげてしまったらしい。
しかし、ポチたちはそれだけでは満足できなかったようで、もう自制が効かなくなったポチたちが次に目を付けたのが、巨大な石板の上に小山のように盛り付けられた生肉だったらしい。
一応ゴブ筋は、村長に怒られるかもしれないぞと忠告したそうだが、ポチたちは、もし怒られたら今度同じモンスター狩ってくればいいや、と開き直って効果はなかったみたいだ。
まぁ、確かに肉は食料以外に特に使い道がないから別に問題ないと言えば問題ないし、仮に必要になったとしても森に普通に生息してるモンスターらしいのでポチたちなら容易に獲ってこられるだろう。
で、焼くのなら任せてとその場に居合わせたホムラが肉焼き係を買って出て、ホムラが熱した石板の上で肉が焼かれ、焼けた肉をポチたち探索班が食べていく焼肉パーティー場へと解体場は変わってしまったそうだ。
「そうか。そんなことがあったんだな。まぁ肉ぐらいなら構わないし、ゴブ筋は気にするな。ポチたちには俺から注意しておくよ。あ、そうだ。お前たちまだご飯食べてないんだよな。ご飯持ってきたからお前達も一旦休憩しようか」
「そうする」
申し訳なさそうにするゴブ筋の肩を軽く叩いて、申し出るとゴブ筋はコクリと頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆
それからゴブ筋達に持ってきた料理を配りポチたちを注意した後、騒がしい宴会場となってしまった解体場を抜け出して俺は、操紫に食事を届ける為に安置所に訪れた。
操紫とは無事に会えて食事を渡すことが出来たが、安置所で食事をするのは不適切だったので操紫と俺は、安置所から少し離れた場所に移動し、そこにあった手頃な石に座って食事をしながら話をした。
前にここに訪れてから、一日が経っていたけれど、安置所の様子は一変していた。
以前、地面に直接裸で寝かされ、その上に麻布をかけられただけだった遺体は、花が敷き詰められた氷の棺に白装束を着せられて入れられていた。遺体の胸の上には、石でできた短剣も納められていた。頑冶達、生産班が用意したらしい石の短剣は、多分守り刀の役目だ。
魔氷で作られた氷の棺は、表面が曇っていて、中が朧げにしか見えないようになっている。俺が棺の中身を知っているのは、道中で摘んできた花を、献花した際に見たからだ。中に敷き詰められた花は、ここに訪れた皆が献花していったものらしい。因みに氷の棺は、魔氷で出来ているので、普通の氷とは違い自然に解ける心配はなかったりする。
村人の遺体は、俺たちが発見した時には既に腐敗がかなり進行していたせいで、見た目こそ操紫のお蔭で誤魔化せているが、氷の棺に入れていてもあと数日が限界らしい。腐敗臭も操紫によって一時は誤魔化せてたけど、また少しずつ臭ってきているらしい。
花を棺に敷き詰めたのはそれを誤魔化すためでもあったと操紫は言っていた。
そんな話を操紫としていれば当然、遺体の埋葬をいつするか、どうするかという話になった。
「村長、生き残った子達は、急なことで心の整理がつかないかもしれませんが、最悪私達だけで済ませてしまうことも考えていてください。遺体の状態を考えてギリギリ4日、これ以上先に延ばすことは出来ませんし、早ければ早い方がいいです。葬儀に立ち合うことは大切だということは分かっていますが、子供達には気持ちの整理がついた後、墓参りをするという手段もありますので」
「………そうだな」
操紫からそう言われると、涙を堪えながらこちらの話を黙って聞いていた彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
あの時の彼女は、親しい人の死の悲しみを堪えているように見えて、親しい人の死を受け止めれてたように思えた。確証はない。だけど、俺はそう感じた。
それが薬の影響なのか、それとも彼女の心の強さによるものなのかはわからないけど、彼女は村人たちの遺体を埋葬すると言ったら必ず自分もそれに立ち会いたいと言うだろうと思えた。
正直、彼女にそれを聞く役を誰かに代わって欲しいという気持ちが俺にはあった。
「…………宜しければ、子供たちには私が代わりに聞きましょうか? 」
そんな俺の心情を察してなのか操紫がそう切り出した時、俺の気持ちはぐらりと大きく揺らいだ。
「……いや、あの子達には俺から伝えるよ」
だけど、代わって欲しくてもそれを操紫に押し付けたいとは思えなかった。
いや、もっと素直に言えば操紫に任せるのが嫌だと思った。
別に操紫を信頼してないわけじゃない。操紫だから、操紫たちだから、つらい役目を自分の代わりに任せたくなかった。
彼女にそれを聞くのは俺以外では駄目だろうと思った。
「村長は俺だからな。こういうことは俺の役目だよ」
そう言ったら操紫は、それ以上何も言わずに納得してくれた。
お久しぶりです。
感想待ってます。
現在、他の作品の更新を優先しているので、更新が遅れます。
優先している作品が一区切りつき次第、こっちに集中する予定です。




