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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
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9 「村長のご飯の支度」

 清明と別れた俺は、龍源が狩ったモンスターを解体しているという村の外れに訪れた。そこでは、ゴブ筋たちが巨大な熊のようなモンスターの解体に取りかかっている最中だった。


「村長、どうした? 」


 俺に気付いたゴブ筋が、作業の手を止めてこちらにやってきた。

 モンスターの解体をしていたゴブ筋は、両腕が血塗れで、右手には血で真っ赤に染まったナイフを持っていた。返り血が体のあちこちに散っていて、あの子(レナ)が見たら、悲鳴どころか卒倒しそうな有様だった。元々強面のゴブ筋が血塗れになって更に凄みが出ている。


「村長? 」

 

 点々と返り血が付いている顔を不思議そうにするゴブ筋。



 うん、普通に恐い。



「【清浄水(クリンアクア)】」


 何も言わずに呪文(スペル)を唱えた。

 何もない所から現れた水は、まるで意思があるかのようにゴブ筋の体に纏わつき、体の表面に付着した血を綺麗に洗い流した。血で赤く染まった水が地面に吸い込まれるように消えた後には、ゴブ筋や刃物についていた血は跡形も無くなっていた。


「これでよし」


 綺麗になった。



「ありがとう村長」


 大人しく洗われたゴブ筋は、血が綺麗に洗い流されたことを気づくと、礼を言った。


「解体作業が終わった後に声をかけてくれたら、またするから」


「わかった。……ところで村長は何をしに来たんだ? 」


「もう昼だから、みんなの昼食を作ろうと思ってね。折角、龍源が狩ってきたモンスターの肉が大量にあるんだから、それで作ろうかと思って取りに来たんだ。ゴブ筋もお腹空いてるでしょ? 」


「そこまで空いてないが、村長が作ってくれるなら食べる」


「ん、わかった。村に残ってる食材を勝手に使うのも気が引けるから使える食材は龍源の取ってきた肉とオリー達が取ってきた野草ぐらいだけどいいかな? 」


「何でも食べれるから問題ない」


 予想した通りの答えがゴブ筋から返ってきた。ここにくるまでにゴブ筋以外の仲間にも同じことを聞いてきたけど、ほとんど同じ答えが返ってきた。


 ゲームの時は、みんな例外なくまともな料理なら何でも食べれていたけど、それは異世界に来てからも大して変わってないらしい。意外に思うかもしれないけど、精霊やエルフのような種族も普通に肉を食べれるのだ。


「それじゃあ、解体が済んでる分は貰っていくね。ついでに肉以外のものも持っていくけどいい? 」


「構わない。解体が済んだのは、全てあそこに集めてる」


 そう言って、ゴブ筋が指さした方を見ると、解体されたモンスターの素材が素材ごとに分けられて山のように積み上げられていた。



 龍源がお腹が空いたと言って狩ってきたモンスターの総数、20。少なく思うかもしれないけど、人の数倍は優にある大きなモンスターがほとんどなので、解体した際に出てくる肉や内臓、骨や毛皮と言った素材は、それなりの量になる。


 素材を置くために誰かが生成した平べったい石の板に、自分と同じくらいの高さまで積み上げられた肉の山がいくつも出来ていた。その隣には、食材や素材として使える内臓の山も積まれていた。

 

 その他にも骨や角といったものが、積まれていた。


 何のモンスターの肉なのか区別する為なのか、肉の山の頂上には、モンスターの頭蓋骨が置かれていた。


 えーと、いち、にい、さん、しー……これでもまだ6体分なのか。



 20体、全て解体したらかなりの量になりそうだ。


 友人の肉屋でアルバイトをしていた頃に生肉や内臓といったものに触れる機会はあり、その臭いには多少慣れているけど、ここまで大量に積み上げられた解体直後の生肉や、内臓の山を目にするのは初めてだった。


 肉や内臓は血抜き処理がされているのか、近づいて見ても見た限りでは血が滴っていたりしてない。骨に至っては血どころか肉片もなく汚れ一つない白である。


 特に骨に関しては、まるで標本のために薬品処理された後みたいだった。これも【解体】スキルの恩恵なのだろうか。


 ゲームの時にはそういうものだと気にしなかったけど、こうして現実になった今でもゲームの時と変わらないものを見ると、未だに仮想空間の中にいるような錯覚を覚える。



 しかし、そう思う一方で内臓が発する臭気はどこまでも現実的だった。


 当たり前のことだけど、すごく臭い。


 その臭いでこの村に訪れた時の記憶がフラッシュバックしそうになったけど、頭を左右に振って強引に振り払った。



 さっさと仕舞ってしまおう。


 解体された素材を全て指定する。

 指定した素材が淡く輝き、その輝きが一際強くなると形が崩れ、輝く光の粒子となって空中に展開されている仮想ウィンドウに吸い込まれていった。


 光の粒子が全て吸い込まれた後にアイテムリストを見ると、収納された素材が新たに記載されていた。


「あれ、毛皮はないのか? 」


 収納した素材の中に毛皮が見当たらない。

 そう言えば、そもそも置かれてなかった気がする。


「毛皮なら頑冶がさっき持って行った」


「あ、そうなのか」


 頑冶が持って行ったのか。


 何かに使うのかな?



 さてと、肉が手に入ったし、戻って天狐に手伝ってもらいながらみんなの昼食を作ろうか。



 帰る間際に、ゴブ筋が俺と話している間も黙々と解体作業をしていた仲間たちにも【清浄水(クリンアクア)】で体の血を洗い流して綺麗にした。肉などの素材が置かれていた石板も、血とかで汚れていたから同様に水で洗い流した。


 ついでに獣臭さや血生臭さが漂っていたので、魔法で風を起こして換気もした。


 まぁ、ただの自己満足かな。



「うん。大分すっきりしたな」


 まだゴブ筋たちがモンスターの解体しているから完全になくなったわけではないけど、臭いは大分薄れた。


 その結果に少し満足して、俺はこの場を後にした。



 魔法やスキルって、ホント便利だな。




◆◇◆◇◆◇◆




 昼食は、【料理】スキルを持つ天狐たちに手伝ってもらいながら、みんなの分を用意した。


 時間にして、一時間くらいかかった。


 全員分を作るのには骨が折れたけど、天狐たちが手伝ってくれたから何とかなった。


 調味料には、胡椒や塩の代わりにオリー達が取ってきた香草の類を使ったけど、自分で言うのもなんだけどおいしいものが出来たと思う。一緒に作った天狐達と一足先に食べたけど好評だったし、自信はある。


 パンとかお米がないのがちょっと物足りないけど、ないのだから仕方ない。



 完成した肉と野草の炒め物は、村に散らばって作業をしている仲間たちに配る必要があるので、大皿に盛り付けてアイテムボックスにしまった。こうしておけば、いつまでも出来立てで食べることが出来るからな。


 


「これだけあれば足りるだろ。3人とも手伝ってくれてありがとう」


 最初は1人で配るつもりだったけど、天狐たちが他の作業を手伝いに行くついでに持って行くと言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。


「配るのまで手伝ってもらってなんか悪いな」


「いいのよ、気にしないで。ついでに持っていくだけなんだから大したことないわ。カケル1人で、何でもしようとしなくていいのよ」


 そう言ってくれる天狐は、両手だけでなく器用に九本の尻尾も使って合計11つの大皿を持っている。尻尾は掴んでいると言うより下から支えてるって感じだけど落ちるような危うさはない。神通力でも使ってるのかな?


「そうそう。つまみ食いもできるし」


 そう言うのは、鮮やかな燃える火の鳥、不死鳥の刺繍がされた着物を着た呉羽(クレハ)だ。両手には大皿を2つずつ持っている。



「おいしい」


 そして、手伝ってくれるもう1人が、受け取った大皿に盛りつけられた料理を手掴みでもぐもぐと食べている(ホムラ)……って


「ちょっ、(ホムラ)っ!? それ食べたらみんなの分がなくなっちゃうだろっ」


「むぅ」


 渡したのはさっきなのに、もう半分近く減っていた。


 一応、一皿三人前を想定して盛りつけたんだけどな……


 (ホムラ)はもう昼食を食べてる。その時に、4皿分くらい食べてたのにまだ食べれるのか。


 ゲームの時は、仲間にしたモンスターが一度に食べる量は同じだったけど、呉羽(クレハ)と天狐と俺の三人で一皿で済んだので、別に全員がそれだけ食べるようになったわけではないみたいだ。


 どうやら、この世界に来てから食べる量には、個体差がでるようになったみたいだ。その中でも(ホムラ)は健啖家になったみたいだ。



 これもみんなに自我が現れた影響なのかな?



 そんなことを考えていると、焔がいつの間にか食べるのを再開していた。


「だから、(ホムラ)食べるなって」


「むぅ……」


 焔が持つ大皿には、もうほとんど残っていなかった。


「はぁ、それはもう全部食べたらいいよ。だけど、他の分は全部みんなに渡すんだよ。つまみ食いはダメだからね」


 仕方ないので、焔にはもう一皿追加で渡した。


「うん。村長、ありがと」


 焔は、口をもぐもぐとさせながらも礼を言った。

 焔の食べてて塞がっている手の代わりに、焔の周囲に漂う赤い光の玉が大皿を受け取る。


 赤く輝いて漂う光の玉は、焔の眷属の火の精霊だ。


 原理はよくわからないけど、その火の精霊がいくつも集まって料理が盛りつけられた大皿を下から支えるように大皿を空中に浮かべている。


 焔の周りには、そうやって渡した7つの大皿が火の精霊によって宙に浮いていた。



 料理が盛りつけられた大皿が少女の周囲を漂っているというのは、何とも不思議な光景だ。



「それじゃあ、3人とも頼んだよ」


「任せて」「はーい」「うん」


 そして、俺も3人と別れて仲間に昼食を届けに向かった。




 一番最初に回る場所は、頑冶の所かな




(ホムラ)

種族:ファイヤードレイク(火精の精霊竜)

火精霊の頂点と言うべき存在。ウィンディーク(水精の女王)であるセレナと同格の精霊。四精霊の頂点に立つ精霊の1人。


自分よりも下の精霊である火精霊を使役できる。また、他の属性の精霊も制約付きで使役が可能。

本来の姿は、紅蓮の炎で形作られた竜の姿をしている。

人型は、燃えるような紅の長髪で、金色の瞳をしている。

幼女。身長はカケルの脇腹あたりまでしかない。オリーより小さかったりする。


周囲にはいつも眷属である火精霊が漂っている。



5/26 一部修正しました


14/10/01 19/03/03

改稿しました。

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