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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
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8 「村長と悪魔と死の王と陰陽師」

 目を覚ましたレナに事情を話してから3時間ほど経過した昼。


 俺は、昼食の野菜スープを持って彼女がいる部屋の前にいた。



 ゴブ筋の件を反省し、彼女の部屋には誰も近づかないようにした。

 完全に人化できる天狐やミカエル達などにも念の為、今は近づかないように頼んだ。

 ドワーフやエルフなどの人と交流のある種族もこの世界ではどう認識されているかわからないので、レナを刺激しないために唯一、人間である俺だけで来ていた。


 

 部屋の中からレナのすすり泣く声は聞こえていないし、入っても大丈夫だと思う。



 ……大丈夫だよな?


 ……コンコン


 不安なので控え目にドアをノックしてみる。


「……どうぞ」


 少しの間があって、部屋の中から返事が返ってきた。

 許可が出たので、ドアを開けて中に入ると、レナはベッドの上で膝を抱えて、その隙間に頭を埋めていた。


「あー……お腹が空いてると思って野菜スープを持ってきたんだけど……食べる? 」


 そう聞くと、レナが顔を上げてこちらを見た。赤く泣き腫らした顔だった。だけど、涙は止まっているようだった。



「あっ……ありがとうございます」


 木製のお椀に入った野菜スープを差し出すと、レナは目を伏せながら、おずおずといった感じで受け取ってくれた。


「はい、スプーン。あ、そのままベッドの上で食べたらいいから」


「え……でも、もし汚してしまったら」


「別にいいって。洗ったら落ちるし。今は無理しなくていいから」


 一応ミカエルが治療したとは言え、一度は昏睡状態に陥るほど衰弱してたから無理をしないのに越したことはない。筋力とかも衰えてるだろうしね。

 それにベッドには【付与】で、常に清潔に保つようにしてあるので野菜スープを零したぐらいではシミつかない。



「は、はい」


 結局、レナの方が折れてくれた。



 スープを受け取ったレナは、ベッドの上で食べれる姿勢を作ると、恐る恐ると言った様子でスプーンでスープを掬って食べ始めた。


 俺はレナの食事を見届ける為に部屋に一つだけある木椅子に座らせてもらう。



「おいしい……」


 スープを一口口に含んだレナはポツリと零した。


 どうやら口に合ったようで、ほっとした。

 【鑑定】で効能の方は確かめられたけど、味に関しては自分に合わせていたので口に合うかは、少し不安だった。


 今回の野菜スープは、しばらくレナがものを口にしていなかったことを考慮して、村に残っていた野菜を形がなくなるまで煮込み、オリーがくれた実を絞った果汁を少量加えて塩で味を整えたスープだった。


 最初は、薪を使った竈の火加減に四苦八苦したが、天狐の【狐火】で火加減を調節してもらうことでその問題は、あっさりと解決した。

 【狐火】は、天狐の意思で光量や熱量を自在に変えることが出来るから、光源や調理の時など日常生活のちょっとしたとこで重宝していた。


 火を得意とする仲間は他にもいるが、長時間安定して維持するのは天狐が一番上手だった。

 そもそも火が得意と言っても火を扱った破壊や攻撃的な意味合いの得意なので、コンロの代用として使うには少々火力が高すぎた。


 金属が溶けるような火力は、料理では必要ない。




 レナは、あまり食欲がなかったのかゆっくりと時間をかけて野菜スープを食べ終えた。


「おいしかったです」


「よかった。口にあったみたいで安心したよ」


 食事を口にしない場合も想定していたので、食べきれたようで安心できた。




 彼女が食事を摂ったのは確認できたので、そろそろ出るか。


 今はそっとしておく方がいいだろう。俺も他にやらないといけないことがあるし


「それじゃあ、そろそろ俺は戻るよ。今度は夕方に食事を持ってくるから。もし、他の子が目を覚ました時にはすぐに伝えるよ」



 レナから空になったお椀とスプーンを受け取って俺は席を立った。



「じゃ、無理せず今はゆっくり休んでいてね」


 部屋を出る前に安静にしておくように伝えて、俺は彼女の部屋を後にした。




 レナの部屋を出て一階まで降りた俺は、止めていた息を吐き出した。緊張で若干強張った顔を両手で揉み解す。


 どっと疲れた気がする。



影朗(カゲロウ)、いるか? 」


 誰もいない廊下で呟くと、足元の影が不自然に蠢いて、中からす影朗が水面から出てくるように浮かびあがってきた。


 闇に姿を潜めるモンスター【影に潜む者(シャドウハイドミン)

 その姿は、ゲームの時と変わらず黒い外套で身を包み、フードで顔がすっぽりと覆われて闇に包まれ、唯一銀色の瞳だけがその闇の中から見えていた。



「俺がいない間、レナには何か変わった様子があったか? 」


「……泣いてた、だけ」


 影朗は首を左右に振った後、ぼそぼそと答えた。


「……そうか。影朗は引き続き彼女の影に身を潜めていてくれ。部屋から出ようとした時は止める必要はないけど、俺に連絡して欲しい」


 影朗は肯定を示す頷きを一度して、足元の影に再び潜るように姿を消した。





◆◇◆◇◆◇◆



「おーい、村長。ちょっといいか? 」


 家を出て村を歩いていると、三人組に声をかけられた。黒骸(コクガイ)、サタン、清明(セイメイ)という少し意外な組み合わせだった。


 3人ともどこの班にも属してないフリー(無所属)だったと記憶しているけど、仲がいいのか?


 そう疑問に思う俺だったが、サタンが抱える真っ黒な棒の山と黒骸のもつ捻じれた立派な角が目に止まった。


 3人で採集にでもでかけてたのか?


 初めはそんな呑気なことを考えた、よく見たらサタンの角が片方、根元からなくなっていた。


 ちょっと待て。


 黒骸が持っている角は、サタンのじゃないか?


 そして、サタンが抱えているのは、高位のスケルトンであるブラックスケルトンの骨じゃないか?




 実に晴れやかな顔でこちらにやってくるサタンには、ちょっとお話の時間が必要なようだった。






「……で? お前らこれはなんだ」



 俺は、3人が目の前の積み上げた素材を指さして尋ねた。



「悪魔王の角、だな」


「そこの死の王に生み出された骨の残骸だ。いい素材になりそうだったから持ってきたぞ」


 お互いの素材を持ってきた2人は、悪びれる様子もなく堂々としていた。



 頭を抱えたくなった。



 2人に非難する目を向けても、どちらも飄々としていて気にした様子は全くなかった。つい、ため息が出た。


「色々と言いたいところだが、周りに被害とか出してないよな清明? 」


「うむ、その辺は抜かりない。被害など皆無だ」


 それならいいんだが……いや、良くはないんだけど周囲に出てないのならまだいい。


「とりあえず、2人とも治療でもしてもらってこい。それと今回は見逃すけど、仲間内で喧嘩はしないように。周りのことも考えて行動してくれ」


「……わかった。気をつけよう」


「仕方ねぇ……わかったよ」


 今回のことを不問として、今後の自粛を促したら、2人とも渋々ながら納得してくれた。


 反省してるのかは怪しいが、叱らなくても2人ともバカじゃないんだしそこらへん分かってくれていると思う。多分


 ミカエルのもとに治療を受けにいった黒骸とサタンの後ろ姿を俺は少し不安気に見つめた。



 2人の姿が見えなくなってから俺は、残っていた清明に聞いてみる。


「あの2人は何が原因で喧嘩なんてしたんだ? 」


「確か、どちらの面が子供により悲鳴を上げられるかで言い争ったのが喧嘩の原因だったな。最後はうやむやになってしまっていたが」


「そんな理由でかよ……」


 あまりにも低レベルな理由に、頭が痛くなってきた。


「……それで、清明は俺が渡した札を使って結界を張ったのか? 」


「うむ。耐久を確かめるにはちょうどよい機会だったのでな。結論から言えば、札を複数使用して、結界を重ねて張れば、この辺にいる野生のモンスター程度であれば問題ないだろう。ただ、全力ではないとはいえ、サタンや黒骸といったレベルの者達の攻撃となると、余波ですら私の力で一時的に結界の力を底上げしなければ危うかったが」


「うーん、まぁそうだろうね」


 【付与術】や【製紙】、【呪符作成】のスキルで効果を増幅させた札とはいえ、元々の素材が移動中に手に入った素材で作ったものなのだから仕方ない。


 元々、黒骸やサタンのような存在を想定して作ってない。


 間に合わせの結界としては十分ということか。



 清明には、追加で作った札の束を渡した。


「これで村全体を囲む結界を頼めるかな。結界を張る際には間違っても味方を対象に入れないでよ? 札の数にも限りがあるんだから、何度も破られるのは勘弁だからね」


 札は、使い捨てである代わりに少ない素材で大量に作成することが出来る。そのため、今の状況でもまとまった数を用意できているけど、札の等級は、効果を増幅させた上で周囲で確認されている野生モンスターの攻撃を何とか防げるだろうという微妙な代物。


 そんな低レベルな結界では、仲間のほとんどが紙を破るように容易く破壊してしまう。


 札はその辺で手に入る素材でも作れたりするとはいえ、やはり仲間たち並みの敵を想定したものを作ろうとすれば、いま手元にある素材だけでは、とてもではないが無理だった。


 

 あ、そういやサタンが大量に持ってきた骨は、黒骸が生み出したスケルトンの骨だ。

 骨を見ただけじゃわかんないけど、黒い骨は高位のスケルトンに見られる特徴の1つなので、そこそこ強力な呪符の素材になりそうだ。


「清明、呪符の素材に適したものが手に入ったから暇を見つけてお前の分も作っとくよ」


 素材だけじゃなくて、素材を加工する道具も不足している現状、高位のモンスター素材の使い道はそれぐらいしかない。呪符を作成するのに特殊な道具は、ほとんど必要ないしね。


「それは真か? 助かる。全て失って困っていたのだ」


 他に作れるものがなかったからなのだが、清明は顔を綻ばせて喜んでくれた。


 どうせならあの2人の喧嘩を止めて欲しかったけど、清明はあの2人の喧嘩の被害を抑えてくれたし、村に結界を張る作業を行ってくれる。これぐらいの役得はあっていいだろう。



 清明とはその後、いくつか要望を聞いてから別れた。



 あれ? そう言えば、召喚したモンスターって死んだら素材剥げたっけ?



影朗(カゲロウ)

種族:シャドウハイドミン(影に潜む者)

固有スキルで、影に身を潜むことが出来る。更に影から影へと移動することも出来る。

黒い外套で身を包み、フードで顔をすっぽりと覆っているので素顔は見えない。顔に当たる部分は、闇に包まれていて唯一、銀色の瞳だけを見ることができる。


素顔はカケルも知らない。



19/02/25

改稿しました。黒骸とサタンと出会った時のシーンを書き加えました。


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