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途上のシャムロック  作者: 納戸
贄のこども
5/96

   5

 レンワイス北部、中流層のど真ん中。基礎校冬期休暇の初日にヨクリはアーシス、フィリルと合流したのち、マルスの家まで足を運んでいた。

 正午よりも前のこの時間は服を着込んでいても少し肌寒いが、息を吸うと澄み切った空気が冷たく心地よい。

 清潔感のある白の石材でつくられた、依頼管理所ほどの面積を有したマルスの家。

 ファイン家は、先のシャニール戦後、没落した貴族だ。以前は首都フェリアルミスに居を構えており、広さも今の三倍はあったらしい。しかしヨクリやアーシスにとって、この建物の大きさは驚嘆に値した。


「すっげぇでけぇなぁ……オレんちとかえて欲しいくらいだ……」

「俺もはじめて見たときは驚いたよ。これで、没落貴族なんだよ?」

「…………」


 フィリルはやはり無表情を維持したままだ。アーシスと顔を合わせたときも、その無口っぷりを遺憾なく発揮させ、いつも騒がしい茶髪の男を閉口させた。

 ヨクリは高見の見物を決め込んでいたが、子どもに好かれやすい性質のアーシスが四苦八苦している様子はなかなか傑作で、笑いを抑えるのが大変だった。


「さて、入ろうか」


 ヨクリは言いながら表の門をくぐり、扉を軽く叩く。

 少し待っていると、扉が開かれ、金髪の青年が顔を覗かせた。簡素なシャツにスラックスという青年の格好は家の中で着る服なのだろうが、上品で貴族らしい。


「やあ。遠いところすまないな。あがってくれ」

「ありがとう」


 ヨクリは笑顔で礼を述べ、マルスに招かれて屋内に入る。他の二人もヨクリにならった。


 三人がマルスに通された場所は、窓のない閉め切られた部屋だった。金髪の青年が明かりをつけると、室内が照明で照らされてつくりが把握できる。

 この家の中では一番広そうな部屋だ。かなり奥行きがある。本棚がいくつか配置され、その全てに窮屈そうに本が詰められていた。

 部屋の中央ではなにやら怪しげな装置が、絶え間なく重低音を鳴らしている。

 端の空間に石材や木材、ヨクリには判別できない植物など、統一性のないものが数多く散在している。奥の長机は殴り書きされた紙切れや書物が乱雑に並べられていた。


「相変わらず散らかっているね」

「……片付けは苦手なんだ」


 ヨクリが室内を眺めながら苦笑すると、恥ずかしそうにマルスは呟いた。青年は几帳面そうにみえて整理整頓が不得意だった。

 作業を終えたあとに周りを見渡すと不思議と滅茶苦茶になっているが、ものの配置は覚えているから問題ないとは青年の談だ。


「なんだここ? 作業部屋か?」

「そう。マルスのね」


 アーシスが訊ねると、忙しそうなマルスに代わってヨクリが頷く。

 マルスは奥から簡素な椅子を四脚取り出し、全員に配る。次に長机の上にあるものを適当にどけて、部屋の入り口側に引きずりながら持ってくる。

 途中で中央の装置に机の足をぶつけ、「あ」と小さく声を漏らしたのを逃さず耳にしたヨクリは不安になったが、マルスは気にとめず本棚からいくつかの書物を取り出し、机に置く。


「……ふう」

「お疲れ」


 一仕事終えたみたいに息をきらし布で汗を拭っていたマルスに、ヨクリはねぎらいの声をかける。マルスはずりさがった眼鏡を押し上げると、「座ってくれ」と全員にすすめた。

 ヨクリはフィリルの隣に座り、机を挟んだアーシス、マルスと対面になる。


「……さて」


 マルスは気息を整えて話をはじめようとするが、アーシスがそれを遮った。


「マルスが居るってことは、嬢ちゃんの指導だよな? なんで俺まで呼ばれたんだ?」

「君、独学でしょ。今日話すのは基礎の基礎だけれど、知識としてあると結構違うから一緒に聞くといいと思ってさ。きっと、ためになるよ」


 アーシスの疑問にヨクリはそう答える。

 アーシスは業者のなかでは珍しく、基礎校を出ていない。出会ったころ、アーシスの知識のなさによく基礎校を卒業できたものだとヨクリは思っていたが、少し前に独学と聞き、そのときは本当に驚いた。確かに依頼を共同でこなした際、基礎のおぼつかなさは気になったがこと戦闘になるとアーシスは強かったので、ヨクリはアーシスのことを勉強をさぼっていただけの実技好きだと思っていたのだ。


「俺も生徒かよ……」


 アーシスは本当に嫌そうな顔をして肩を落とした。ヨクリはアーシスの勉強嫌いを勝手に確信し、一人首肯する。

 ヨクリとアーシスの応酬が終わるのを見届けたマルスはフィリルに向き直って挨拶をした。


「マルス・ファインだ。宜しく頼む」

「……ぁ………け」


 フィリルがなにかの単語を口内でくぐもらせ、僅かに目を見開いた。

 ヨクリは眉をひそめる。どんなときも表情を変えなかった少女がほんの少しではあるが感情の揺らぎをみせたからだ。


「どうした?」

「いえ。……フィリル・エイルーンです」


 しかし少女は一瞬で元の表情に戻し、マルスの問いに挨拶で返す。ヨクリはなんだったんだといぶかったが、他の誰も気にとめていないので追求できなかった。


「じゃあ頼むよ、マルス」


 気を取り直して、ヨクリはマルスに教授を求める。

 ファイン家はシャニールの件が先立って世間に知れ渡っているが、エーテルの分野に明るい。円形都市の発展に大きく貢献している家系の一つであり、マルスはその直系なので知識は並の人間よりも遥かに多かった。


「では、始めるか」


 マルスは厳粛に告げる。


「この国の成り立ちに関わる——図術。その入り口の、更にほんの一端。まずはそれを解説しよう」


 マルスの台詞に合わせるように眼鏡のふちがきらりと光った。


「図術。この国ランウェイルがおよそ五百年前、初号引具を発掘したことで明らかになった、今までのどの法則とも異なったすべだ。特定の紋様をモノに刻み込むことで様々な現象を引き起こすことができる。そして、その紋様を刻み込んだモノのことを”引具”と呼称する」


「引具」


 フィリルは語句を拾った。マルスは予め準備していたとばかりにヨクリに呼びかけた。


「百聞は一見にしかずだ。ヨクリ」

「りょーかい」


 ヨクリは腰の片刃剣を抜き放った。ぎらりと白銀の刀身が照明を反射する。

 マルスはヨクリの剣を指差し、


「これが”引具”だよ」

「カタナ、ですよね?」

「よく知っているね。そう、これは刀って呼ばれているシャニールの剣……でもある」


 フィリルの問いにヨクリは意外そうに答えた。


 ヨクリの携えた片刃剣はシャニールが起源で、刀と呼ばれている。僅かに反りのある細身の刀身と、菱形に正絹が巻かれた柄巻きが特徴だ。


「変わった剣だとは思ってたけど、それシャニール製なのか」

「いや、鍛造しているのはランウェイルだよ。数は少ないけれどね」


 アーシスの疑問を否定する。ヨクリの使う刀はシャニールが滅んだ現在、ランウェイルで製造が行われていた。

 マルスは主軸を修正するように、再びヨクリに催促する。


「話が逸れたな。ヨクリ」

「どうするの? まさかここで術を起動するわけじゃないよね?」

「いや、そうしてくれ。この部屋だけは図術加工が施されてあるからな。もちろん、許可証もある」


 マルスの受け答えに、ヨクリはおそるおそる質問を重ねた。


「……本当に大丈夫なの?」

「……一応、エーテルの消費量を最小に抑えてくれ」


 マルスはくいと眼鏡を上げ、ぼそっと呟いた。「自信ないのかよ……」とヨクリはぼやいたが、青年は目を閉じ沈黙を貫く。

 マルスは再び椅子と長机を邪魔にならない位置へ持って行き、中央の装置も重そうに引きずりながら部屋の奥へしまった。


「……じゃあ、皆、下がって」


 避難を勧めると、他の二人はマルスに連れられて部屋の最奥まで引っ込む。


「どうなっても知らないからな……」


 ヨクリは覚悟を決め、刀を正眼に構えた。柄を握りしめ——図術を起動する。

 きらきらと、抜き身の刃から淡緑色の光が漏れはじめる。部屋の照明よりも強い光だ。

 ヨクリの視界に、部屋の物体に合わせられた数多の線が引かれる。ヨクリは線で囲われたある一点の壁に視線を合わせると、その壁面がちらちらと赤く輝く。

 ヨクリは刀の刃が床に当たらないよう気を配りながら、両腕を軽く振るって空を斬った。瞬間、淡緑色の面が幾何学模様を描きながら、斬った空間の中央に現れる。同時にヨクリの足下から薄緑色の膜が発生し、身につけているものを含めた全身を覆う。それに呼応するように幾何学模様の中心点からなにかが吹き抜ける。

 家を揺らすほどの轟音が部屋中に響き渡った。ぱらぱらと天井からほこりやらなにやらが落ちてきて、無造作に散らばっていた紙やら本やらがふっ飛ぶ。


「おい、大丈夫なのこれ!?」


 薄緑色の膜に覆われたままのヨクリがほとんど悲鳴に近い声をマルスに投げかける。「大丈夫だ! ……おそらく」という及び腰の台詞を青年から賜ったヨクリは、急いでなにかがぶち当たった壁面へ近づいて、宙を舞う埃を手で払いながら目を凝らす。


「…………これ、傷だよね?」

「…………大丈夫だったじゃないか」


 いそいそとヨクリの側まで駆け寄ってきたマルスは、壁面を確認して安堵の表情を浮かべる。

 壁面には小さな裂傷が走っていた。だがそれ以外の損壊はなく、それもあまり目立つものではない。


「最小にしぼっておいてよかったよ……」

「全くだ……」


 二人そろってほっとしていると、


「お前ら、愉快なお兄さんだな……」


 アーシスがあきれ顔でヨクリらに歩み寄った。フィリルもそれに追従してくる。


「これが、図術」

「そうだよ。きみがこれから学ぶものさ」


 ヨクリは刀を鞘に納めながらフィリルに応答した。きん、という鍔鳴りの音と共に、ヨクリを覆っていた薄緑色の膜が消失する。


「もう術は使わねぇの?」

「やめておいたほうがいいだろうね」

「そうだな。紋様が乱れているかもしれない」


 アーシスに、ヨクリとマルスがそれぞれ同じ見解を述べる。


「紋様?」


 フィリルはヨクリらを見上げ、問う。好奇心があるのかどうかはヨクリには判別しかねるが、少女は未知に対しての質問を躊躇する様子がない。さすがは優秀生というところだろうか。


「そう。図術を起動させるには紋様とエーテルの二つが不可欠だ。紋様が僅かでもずれていたりすると術の効果は無くなる。つまり、この壁面に刻まれた紋様が乱れていたら図術に対する防御力が皆無になる、ということだ」


 一旦切って、


「それゆえヨクリの持つ刀などの武器の形状をとった引具は、柄や刃の心鉄のような傷つき難い箇所に紋様が施されているんだ」


 フィリルの疑問にマルスが補足をつけて説明し、再び机と椅子を大変そうに運んでくる。


(何度手間だよ)


 マルスの少し抜けているところは学生のときから変わらない。手伝おうと声を掛けたことはあったが、断られた。どうやら配置が乱れるから自分でやりたいらしく、ヨクリはそれから静観を決めていた。ただ、見た通りマルスの整頓効率はとても悪い。

 息を切らしてマルスが戻ってきて、全員が席へ着くとぜぇぜぇ言いながら話を切り替える。


「つ、次は、エーテルについての解説が必要だな」

「はいよ」


 ヨクリは腰の革帯から鞘ごと刀を外し、柄頭を人差し指で押した。かち、と音を立てて、半透明の筒が柄から突き出てくる。その筒を引き抜いてフィリルに手渡した。


「これは?」

「エーテルシリンダー。エーテルを貯めて引具に供給する道具だよ」


 ヨクリはフィリルの手のひらに乗っている筒を指差して、「この緑色の液体が、エーテル」

 指先の筒には薄緑色をした液体が溜まっていた。じっとそれを眺めているフィリルを横目でみやりながらマルスは演説めいた口調で、


「エーテルは、物体が存在することによって発生する力、と曖昧に定義づけられている。引具とともにその存在が明らかになった……というより、引具によって存在が認識されたと言い換えたほうがいいのかもしれない」

「それは聞いたことないな」


 ヨクリが興味深そうにマルスにたずねた。


「最初に発見された初号引具はエーテルの計測器、のようなものだったらしい。発見されたのがそれでなかったら、今日までの図術学の発展は二百年は遅れていただろう、とまで言われている」

「へぇ……」


 ヨクリは青年の博識さに感服の声を上げる。


「全て叔父の受け売りだがな。……話がまた逸れたな。戻そう」マルスはヨクリに苦笑し、


「物体の存在によってエーテルは発生すると言ったが、厳密には違う。エーテルは物体を成す要素のひとつ、とされているんだ。つまり、エーテルを取り出すには物質を崩壊させてやらねばならない」


 言いながら教科書とおぼしき書物を開き、「詳しいことはこのあたりにのっている」と線が引いてある頁を開く。


「図術はエーテルなしでは発動しない。だが、高濃度のエーテルに触れでもしない限りはエーテルが自然発生することはほとんどない」


 フィリルは本の文字を追いながらマルスの説明に納得したように頷いて、


「つまり、図術を発動させるためには引具に何らかの手段を用いてエーテルを供給しなければいけない、ということですか」

「その通りだ。だからエーテルシリンダーが存在する」


 フィリルに首肯し、マルスは更に続ける。


「エーテルシリンダーには比較的高濃度のエーテルが液状で貯蔵されている」


 少女は書物の文字へマルスの注意を誘導して、


「高濃度のエーテルに触れると、物体が崩壊するのですよね? だから、結果的にエーテルが発生する。では、なぜ?」

 暗に貯蔵の仕組みについて疑問を持つフィリルに、

「エーテルに接触したモノには、結合の脆い部分からエーテルへ帰納するという性質がある。その性質を逆手に取ってつくられたのがエーテルシリンダーだ」


 マルスはシリンダーを指差して、


「筒の中央に細い紐のようなものが垂れているだろう? それは脆い物体でできている。外側の筒よりもその紐が優先して崩壊しているんだ」

「なるほどな……」


 フィリルの代わりに、アーシスが腕を組みながらうんうんと首を縦に振る。


「まぁ、僕が言いたかったのは図術はエーテルがないと発動しない。だからエーテルシリンダーは具者にとってとりわけ重要な道具、ということだ」

「具者?」

「引具を扱う者の総称だ。業者と混合されがちだが、業者を含め、引具を扱うもの全てを指す」


 首をかしげるフィリルに丁寧に答えるマルス。


「ここまで駆け足で説明したが、理解できたか?」

「はい」


 咳払いして問うたマルスに、フィリルはヨクリにシリンダーを返しながら無表情に反応する。


「さて、では締めにはいろう。アーシス」

「おおぅ?」


 呼ばれると思っていなかったのか、変な声を上げながら返事をするアーシス。


「”一斉蜂起”を知っているか」

「あ、ああ。それくらいなら小等生でも知ってるだろ。百年くらい前だっけか? どっかの馬鹿が”獣”を世界に放しまくったってやつ。それで俺たち業者がいるんだろ?」

「はしょり過ぎだし、年間違ってるよ……」


 ヨクリはアーシスの返答に頭を抑えながら気抜けして答える。マルスはできの悪い生徒を庇うように、


「……ま、まぁ要点は抑えてある。……今から百五十年ほど昔——章紋歴三百三十三年、世界各地で同時期に勃発した反政行動。それが一斉蜂起だ」


 ランウェイルでは章紋歴という暦が制定されている。初号引具が発掘された年からはじまり、今は章紋歴四百八十六年だ。 


「ただの反乱ならまだよかった。だが彼らは業者の間で言う”獣”——魔獣を世界各地に大量に放った」

「魔獣……」


 フィリルはマルスの言葉を反芻した。マルスは瞼を閉じ、静かに続ける。


「”魔獣”は、ただの獣じゃない。図術によって生体的に強化され、凶暴性と戦闘力が大幅に増した存在。秘密裏に開発されていたそれが野に放たれ、無差別に繁殖していった。人々は当初なす術なく魔獣に蹂躙された。生物的に圧倒的不利な彼らは、ある策を思いつく」


 マルスは一拍おいて目を薄く開け、


「目には目を歯には歯を。弱者を救うために、当時の人々を治める代表たちは図術を戦闘利用に用いはじめた」

「……戦いには使われてなかったのか」

「うん。医療や都市機能の充実に使われていただけって教わったよ。初号引具が発掘されてから少し経ったころだったかな。そのときに図術の軍事利用を各国で禁止する条約が締結されたんだ。この国ランウェイルと、北のスールズ、それに旧シャニール。引具が発掘されたランウェイルと地続きの二国がその条約を世界に発令して、他国に対する圧力を緩和させた。三国条約って呼ばれているのがそれ」


 ヨクリはアーシスに思い出しながらつらつらと受け答える。マルスはうむ、と同意し、言及を深める。


「ヨクリの言う通りだ。一斉蜂起をきっかけに、ランウェイルは医療などにしか用いられていなかった図術を戦闘用に研究、引具を軽量化することで個々の力を底上げした。そしてその技術を他国に伝えることで、世界は魔獣に対する有効な防護手段を得る」


 そこで切ったマルスはフィリルを見据え、


「——それが今存在する図術」威風堂々と告げる。

「僕は不出来な末端だが、それでも図術を学び、人々のために貢献する技術と知識があるファインに誇りを持っている」


 マルスはフィリルに向かい、誠意を込めて言葉にする。


「僕は君に、図術がなぜあるのかを知っておいてほしい。これからそれを学ぶ君に」

「…………」

「図術とは、自分を守り、自分の大切ななにかを守るためにつくられたものなんだ」


 沈黙を守りながらも真っ直ぐマルスを見詰めていた筈のフィリルの視線が、逸れた。

 マルスは少女の戸惑いを感じたのか、


「すぐに、ではなくてかまわない。頭の片隅で覚えておいてくれるだけでいいんだ」


 と、笑って言う。


(違う)


 ヨクリはフィリルの感情が、マルスの感じたそれではないと直感的に悟った。理屈で説明しろといわれたら難しいが、それでもヨクリは確信めいたなにかをフィリルの無表情から読み取った気がした。

 マルスは振り切って、話の幕を下ろす。


「少々私見が入ってしまったな。この世界、特に僕らの住むこのランウェイルは決していい状況じゃない。シャニールを落とし、北のコルスト山脈を挟んだ向こう側の国スールズとも国交がほぼなくなり……緊張が高まっている。更に国土には魔獣が蔓延り、それを討伐する業者たちへの待遇も劣悪。僕たちの暮らす世界を取り巻く環境は悪化の一途を辿っているといってもいいだろう。だが、これがこの国——ランウェイル国の、現実だ」

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