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絶対秘密同盟  作者: 山東京子
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はじまり

 教師と生徒の禁断の恋愛―漫画とかテレビでよくあるけど、ああいうのって現実にはまず、ない。あったらあったで、教師はクビになり、生徒は停学とか退学とか散々な結末に終わるのがオチ。「禁断の恋愛」は響きはよいが、実際にあったら高くつくのである。


 大体、生徒を恋愛対象にするなんてよくできるな~というのが現役教員の私の正直な気持ち。高校生といえば、もう大人びた子もいるけれど、それでもやっぱり自分の子どもみたいな気がしてならない。何が流行っているのかとか、どういうことに興味があるのかとか、話が全然理解できなくて自分が宇宙人みたいな気持ちになってくる…。





 …というのは、私が年をとった証拠か。



 まあ、30歳の私からしたら高校生は最年長でも18歳。12歳も違えば、そりゃ話も合わないか…。



 

 「岸森先生、何ブツブツ言ってらっしゃるんですか?」


 

 ゲッ、今の全部声に出てた?

 ひとり言なんて、ほんとに年をとった証拠だ…。




 「何かがっかりしてます?」

 


 おまけに、思ったことが顔にも出てしまうらしい…。

 


 私に声を掛けてきた、同じ国語科の山田先生は笑いたいところを必死にこらえているような顔だ。というか、いつの間にこの国語科室に入ってきたのか…。一人だと思っていたのに。




 「いえね、これ、生徒が授業中に読んでたから取り上げたんです。それで、ふと中を見てみたら、あまりにも荒唐無稽なので、呆れていたんです。」




 私が山田先生に渡した漫画は、「絶対秘密同盟~この恋はナイショ~」という恥ずかしいタイトルに、きらきらの瞳のかわいい制服姿の女の子が、男だか女だかわからない(でも多分男)長い髪の毛の長身の輩(きっと教師)に抱きついている表紙という、持っているだけでも残念なものだった。



 女の私でも恥ずかしいのだから、男性の(しかも若い)山田先生にしてみたら、赤面ものであろう。山田先生は、それでもパラパラと中身を見ていた。




 「こういうのね、本当にやめてほしいですよね」




 なぜかとても実感のこもった言葉に、私は一瞬理解できなかったが、すぐに女生徒たちが山田先生に群がりたがることを言っているのだと悟った。




 「でも、山田先生はファンクラブができてるくらいで、そんなに深刻じゃないでしょ?それともストーカーされてるとか?」

 からかうように言った私に、山田先生はため息をつく。



 「ストーカーはさすがにないけど…。でも僕にとっては深刻ですよ。生徒からのバレンタインチョコレート、断ったら何かもう泣いてくる奴とか、逆恨みしてくる奴とかいて、勘弁してほしいですよ、ほんとに」



 ふうん。ファンがいっぱいいたら、みんな授業も熱心に受けてくれて、さぞや授業もやりやすいだろうと思ったけど、そういうものでもないんだ…。


 生徒に別段人気があるともいえない私からしてみたらうらやましいくらいだったけれど、人気者も人知れず苦労をしていることがわかってちょっと自分の浅はかな羨望を反省。




 「どうせ岸森先生はあれでしょ、「いいじゃん、授業がやりやすくて~」って思ってたんでしょ」


 ゲッ。全部バレバレ。

 


 「いやあ、そんなこと思ってないけど…ははは」


 我ながら嘘くさすぎる芝居。




 「まあ、生徒に恋愛感情持つなんてありえないことですよね」

 

 「うん、やっぱり恋愛するなら教師同士ですよ」



 …?

 いやそれもどうかと思うけど。

 ていうか。



 「何、山田先生、誰か意中の人でもいるの?」

 


 ついつい下世話になってしまう私…。



 おお、あんな漫画見ても全然表情を変えなかった山田先生が、赤くなってる!


 面白くなって、調子に乗る私。


 

「え、何? 誰? 私でよければ協力するけど!」




 赤くなったままモジモジしている山田先生。

 何だこりゃー。

 かわいいなあ(笑)。

 こんな山田先生は見たことがないぞ。

 



 私は大卒で今の高校に赴任して8年目。

山田先生は院卒でしかも私よりも4つ下なのでまだ教員になって2年目ととてもフレッシュ。なんだけど、しっかりしていて責任感もあり、なかなか「イケメン」なので生徒に騒がれても教師と生徒の間ということで一線を引いて絶対に親しげな態度をとったりしないし、指導係を任命された私が教えることもあまりないほど立派な先生なのでありました。



 というか、数回授業見た限りでは、授業を面白くする工夫もたくさんしていて、マンネリ化して久しい私も見習わないとなあ…と思うぐらいで。



 …いや、そんなことはどうでもよくて。

 だから、珍しく私が役に立てるかもしれないことがあるということで、ここは可愛い後輩のために一肌脱がねば!



 すごくやる気満々の私を尻目に、なんとなく意気消沈?している山田先生。




 「…いや、いいんです。自分で頑張るから」


 「何言ってるのよー。たまには私だって山田先生の役に立ちたいわけよ。是非手伝わせて!」




 思わず山田先生の両肩を掴んだ私の目をまっすぐ見つめてきた山田先生。

 ひょえ~。さすがにこれは恥ずかしい!



 「…そういうの、やめた方がいいですよ」


 

 何でかものすごく怒った口調の先生に、私はひたすら恐縮して慌てて手を離す。



 「ごごご、ごめんなさい! つい、その、あの、気合が入っちゃって…」



 女子高育ちの私はどうも、男性との距離のとり方が(いまだに!)わからず、「近過ぎる!」と怒られることしばしば…。


 「顧客」である生徒にはさすがにこれはないけど、山田先生みたく、可愛がってる同僚には時々「スキンシップ」をしてしまう…いや、今日びこれはセクハラととられても仕方ないか…。

 


 ものすっごく気まずい雰囲気の中、無言の私たち。

 


 訴えるぞとか言われたらどうしよう(密室にいるし、私たち!)…とかよくないことが頭をぐるぐるまわる。



 すると、山田先生の顔がふっと悲しそうになって、口を開きかけた、そのとき。

 



 


 コンコン。


 



 部屋をノックする音がした。

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