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シャワー室 1

 シャワー室についた。

 平然と女子シャワー室に入るベンジャミンに少し眉を潜めながらもアンネゲルトも後から続く。

 脱衣場を確認すると使用者は誰もいないようだ。掃除中でもない。

『貸し切り?』

「ああ。じゃなかったら俺入れないし」

「ちゃんと分かっていたわけですか。てっきり変態かと――おっと失礼」

 白々しく口元を手で覆った。

「…お前、いま言いかけたのわざとだろ」

「さあ」

 明後日の方向を向きながらアンネゲルトは肩をすくめた。

 もしや先ほど吹き出したことに対するささやかなお返しだろうかとベンジャミンは考える。

 第一印象はお固いイメージだったのだが、どうやら子供っぽい部分もあるようだ。

 彼女が勤めている場所が場所なので、固い、厳しいという印象を持ってしまうのは仕方ないことなのだが。

『ベンちゃん、sexual perversionってなに?』

「知らなくていいことだ、覚えておけ」

『うぃ』

 大人しく質問をやめた少女をベンジャミンはゆっくりと降ろす。

 少女は両足で立ち、何度か足踏みをしたあと、その場でくるりと回って見せた。

「どこか問題は?」

『ないよっ!』

 腕を大きく広げ、頭の上まで持ち上げながら元気アピールをした。

 ベンジャミンは「そうか」と頷きながら少女の拘束衣を改めて観察する。

「背中のジッパーも縫われてる。めんどくさいな」

『警戒しすぎだね。何もしなきゃ何もしないのに』

「お偉方にはそれが分からんのだよ、頭ガチガチだから」

 まどろっこしそうに糸と苦闘を繰り広げていたがやがて飽きたらしい。

 先ほど使ったナイフを取り出した。

「脱がすぞ」

『いやん』

 真正面に立つと拘束衣の襟首にぴたりと刃の切っ先を当てる。ちょうど少女の喉の下あたりだ。

 そして、躊躇わずに真っ直ぐ下へ引き裂いた。

 布が裂ける音。が、裂けたのは拘束衣だけではなかった。

 薄い胸板からヘソの上まで、身体の中心に縦に真っ直ぐ赤い線が引かれていた。布と共に切られたのだ。

 一拍おいて線から血液が溢れてくる。

『荒々しいやり方だなぁ』

 少女は傷口を眺め、小さく呟いた。

 アンネゲルトは信じられないとばかりの顔をして見ていた。

 躊躇なく少女の身体を切った男に対して、そして己の身体から血が流れても平然とする少女に対して。

「アンネゲルト」

 ベンジャミンが何が可笑しいのかくつくつと笑いながら少女を指差した。

「見てろ。ここからがこいつの真髄だ」

 意味が分からなくてとりあえず少女に視線を移す。

 二人ぶんの視線を半裸体に向けられて恥ずかしいのか顔を少し赤く染め、俯く少女。

 その下の、身体につけられた一本の線が、流れて酸素と結合した血液は残して

「治って…いきますね」

 まるで皮膚が意思を持っているかのように、互いがくっついて傷を埋める。

 瞬きする間もなく一瞬後にはなめらかな皮膚へと戻っていた。傷痕はない。

「そう、こいつは治癒力が半端なく早い。腕を吹き飛ばされても三十分で治る」

『腕があればね。さすがに“生やす”となると一週間はかかるよ』

 多分問題点はそこではないのでは。

 どう突っ込めばいいのかアンネゲルトは真面目な表情で悩む。

『どう、アンネちゃん』

 拘束衣の切れた部分を胸の前でかきあわせながら少女は言う。

『これが七十年前の“バケモノ”だよ。なんか感想はある?』

 どんな答えでも待つと言うかのように、無邪気に。

「そうですね」

 アンネゲルトは少しだけ考えた。

「身体の特性については驚きましたが、あとは普通の女の子ですよ」

『ホントにぃ?』

「ええ、本当です。もっと酷い問題児を予想していたのでホッとしています」

『……なんかアンネちゃん、天然というか、不思議な人だね…』

「そうでしょうか。まあ、私が何より驚いたのは」

 ベンジャミンを横目で見る。

「不死身だろうがなんだろうが、構わず女の子に乱暴する上司にですね」

『ああー』

「おい語弊を感じる言葉はやめろ」



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