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ラプンツェル 1

 その部屋に窓はなく、小さな電灯のみが辺りを照らしていた。

 天井の近くに鼠がやっと通れるぐらいの穴があり、一応の空気穴としての役割を果たしている。

 唯一の出入り口であるドアには何重にも違う種類の鍵がかけられている。

 その下には食べ物を差し入れるスペースがあるぐらいだ。しかしそこには蜘蛛の巣がはられ、しばらく使っていないことを示していた。


 牢獄としか言い様のない場所。


 そんな所にオールバックの男――ベンジャミン・スミスとアンネゲルト・ブラルは立っていた。

 栗色の髪を後ろで一つに纏めた彼女は無表情で部屋を見回す。

 打ちっぱなしのコンクリートが寒々しさを感じさせる。快適だとはとても言えない。

「……こんなところで動物はおろか植物ですら生きられるとは思えませんが」

「普通はそう思うよな。――おい、起きろ馬鹿」

 部屋の隅に向かってベンジャミンは呼び掛けた。

 わずかに声が反響する。

「いつまで寝てるつもりだ」

『寝てないよ…むしろ寝あきた』

 返す言葉を聞いてアンネゲルトは首を小さく傾げた。

「これは、日本語…ですか」

「日本語だ。確かお前は話せるんだったな」

「ええ。多少は」

 電灯では照らしきれなかった隅の暗がりからもぞもぞと白い物体が這ってきた。

 出てきたのは十代後半から二十代前半ほどに見える少女。

 アジア系の血を引いていると思わしき顔つきに、黒髪と黒い瞳。

 服は若干薄汚れた白い拘束着。さらにその上からバンドでしばらている。

「紹介しよう。これが噂の不死身人間だ」

『もっと別の言い方あるでしょーに』

 白い物体は不満を言い表すかのように床をごろごろと転がった。

 日本語で話してはいるが、英語のほうも理解できているらしい。

「あーやだやだ、お前まで婉曲した言い方がお好きになったのか?」

『十年ぶりの再会なのになんなのこの言われよう』

「この子が」

 放置され始めたためにやむなくアンネゲルトは会話に割り込んだ。

「この子が――七十年前・・・・の敵国の女性兵士ですか」

「ああ。イメージ通りじゃなかったか」

「元々イメージもできませんでしたが。そうですか、なるほど」

『んん? ねぇベンちゃん、そのお姉さんは?』

 腹筋を使い起き上がり、改めてアンネゲルトの顔を見る。

 アンネゲルトも無表情で彼女の目を見返す。

 イメージと違うというか、もう少し凶暴だと思っていた。

 彼女を利用しようとした輩はだいたいが彼女によって殺害されたと聞いていたので。

「ああ、バケモノ退治に同行してくれる」

『バケモノ退治? 何それ? 私がやるの?』

「お前に決まってるだろうが。じゃなかったらここにいない。考えろ」

『出たよ、理不尽な罵倒』

「あ、大事なこと忘れていた。バケモノはニホンにいるからな。あとは分かるだろ」

『は?』

 少女はポカンとした顔をした。

 ベンジャミンは幼子に算数を教えるようにわざとゆっくり繰り返した。

「ニホンに行け。――理解したか?」

 少女はまばたきを何回かしたのちに状況を呑み込んだようだ。

『うん、理解した』

 少女は嬉しそうに笑う。

 七十年前、戦場を走り回り味方からも敵からも恐れられた女性兵士。

 その年月も過去も一切感じさせない笑顔で。

『ベンちゃん、まさかわざわざ約束・・を果たしにきたの?』

「約束というにはほど遠いけどな」

『いやいや、あんな戯言聞いてくれた時点でびっくりだよ』

 無邪気に喜ぶ少女と恥ずかしいのかそっぽを向く男。

 つい最近出来た掴み所のない上司の側面を見れた気がして、僅かにアンネゲルトは微笑んだ。

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