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<序章>



幕を降ろせ、喜劇は終わった。




     ――――フランソワ・ラブレー

 アメリカ、某所の一室。


 白髪の男は皮張りのソファに深く座り込み、相手をきつく睨みつけていた。

 彼の目の前に座るのは三十代後半ほどの、髪をオールバックにした男。

「――アレ・・をニホンに向かわせる?」

 ほとんど唸るように白髪の男は言った。

「いや、そもそも自由の身にさせる気か?正気か?無茶苦茶にもほどがある」

 否定と拒否をありったけに詰め込んだ言葉。

 しかし相手にはそんなもの一切届かない。

「それしかあるまい。ニホンに潜むバケモノは普通の人間じゃ仕留められないだろうからな」

 オールバックの男は睨み付けられても涼しい顔をしたままだ。

 説得のしようがないとばかりに白髪の男はぐったりと項垂れた。

「アレの手綱はそう簡単には握れないぞ」

「それは分かっている。今まで何十もの愚か者を肉片にしたのだし」

「制御の出来ないロボットよりもタチが悪い」

「ふん、命令通りにしか動かないロボットよりかはいくらかマシだろう」

「若造が、何一つアレを分かっていない」

 オールバックの男は言いながらタバコをくわえ、火をつけた。

「分かってるさ。少なくともお前よりは」

 声には出さず、唇だけ動かした。当然相手には届かない。

 多少揺らぎながら煙は上へと立ち上り、くるくると回るファンに掻き消されてしまう。

 それを見上げながら吸い込んだ煙を時間をかけて吐き出す。

 そして、ポツリと呟いた。

「言い方が気になったから言うが、彼女・・は人間だからな。一応」

「あんなモノが人間だと?笑わせるな」

「だから一応ってつけたじゃねーかよ」

 呆れたようにため息をつく。

 手元にあった書類を手にとり、しばらく文章を追っていたがつまらなさそうな顔でテーブルに放った。

 白髪の男が『アレ』と呼ぶものの過去の遍歴についての書類だ。

 前に見た資料とたいして内容が変わっていなかったのであまり目新しいものがなかったらしい。

 オールバックの男は今度は自分から書類を取り出す。

「ちゃんと見張りもつける。アンネゲルト・ブラルという女だ」

「ドイツ人か」

「血筋はな。生まれはニホン、育ちはアメリカだ。かなり優秀だぜ」

 オールバックの男は相手に資料を投げつけた。

 資料の一番上にクリップで写真が留められている。

 不機嫌そうな顔をした二十代中ごろの女が写っていた。

「まだ若いが、彼女が適任だと思う」

「……何故だ?」

「そいつはシークレットだ。俺が生真面目なタイプ好きだからじゃダメか?」

「くだらない……」

 白髪の男の呟きにオールバックの男は肩を小さくすくめてみせた。

 タバコの火を灰皿で揉み消し、荷物をまとめて立ち上がった。

「まあそんなわけだ。借りてくぜ」

「……フン。アレに殺されるのが関の山だな」

「キツいお言葉で―――おっと」

 ドアノブに触れる前、オールバックの男は一度だけ振り向いた。

 白髪の男は訝しげに眉をひそめる。

「アレが動くこと、他言はしないように。ま、どっからか洩れそうだが」

「どういうことだ」

「勘弁してくれ、まさかボケてきたのか?あの存在を欲しがる奴は大勢いるんだぜ」

 これまでにもわざわざアレに会うために不法侵入する奴がいたのだ。

 今までだっていたのだから。

 これからだっているはずだ。

 そのような事をオールバックの男は語った。

「計画に手を出されたなら殺す。いくら世界に名を轟かすようなお偉いさんでもな」

「何故そこまで……まさか・・・

 頬をひきつらせながら白髪の男は言う。

そのとおり・・・・・。これはしょせんプロローグに過ぎないんだよ」

「お前は……くすぶっていただけなのか」

「そうだよ。だから、邪魔をしないでくれ。俺はあんたを殺したくはない」

 それだけ言って、ドアの向こうへと彼は消えた。



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