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ライバルの屈折した考え・苦悩 4

「うわっ、危ねえ。よけろ、成人」

 道也は玉野が言霊で操作している石の束を上手くかわしながら、神がかり的な速さで成人を死角になっていて安全な場所まで移動させる。一人、攻撃対象を見失った石の束はまるで意思でも持っているかのように道也を集中狙いしてくる。石の束は道也が逃げられないように四方向(=上・下・右・左)から襲いかかってくる。そんな玉野の言霊で操作されている石の束を道也は恐ろしいまでの反射神経を見せて全てをかわしきろうとする。道也は本当に全ての石をかわす直前にバランスを崩してしまう。


「今がチャンスだ、いけ! 小石の束よ。奴を倒してしまえ」

 玉野がここぞとばかりに総攻撃をかけてくる。それでも道也は何とか避け続けていたが、中くらいの石をかわしきれなかった。彼はそれをとっさの判断で拳で破壊する。さすがに代償として手が傷ついてしまったが。

「残念だったな、玉野。このスポーツ万能の俺にかかればそんな直線的な攻撃はたいした意味を持たなくなるんだぜ」

 

 予想外の動きを見せて活躍をした道也に、玉野はもとより、幻悟も驚きを隠せなかった。

「ミッチーに成人? どうしてここにいるんだ?」

「そんなこと聞くまでもないだろう? 特に成人にはいてもたってもいられない理由だってあるんだからよ」

「それはそうだけど。でも俺は君達までこんな争いの中に巻き込みたくないと思っての行動だったのに!」

 道也は幻悟の正義感あふれる言動を少し否定的な感じで、心外だとばかりに首を横に振る。

「その考えはどこかおかしいぞ、幻。すでに成人の奴なんか嫌でも関わった。それに一番大切なのは親友なんだから助けあいの気持ちはあって当然という事だよ」

 

 道也は幻悟の手を取り、親友としての友情を幻悟に伝えるつもりだ。それによって幻悟は自分の心に響くものを感じた。

「わかったよ、ミッチー。じゃあそこで奈美ちゃんを助けようとしている成人の手助けを頼む。俺は玉野君と決着をつけるとするからさ」

「そうか。じゃ、そっちの手伝いに行ってくるぞ。幻、お前も頑張れよ」

 幻悟は道也の励ましの言葉を受けながら、何かをしようとしていた玉野の攻撃を遮る。

「誰を狙っている!!お前の相手はこの俺のはずだぞ? 玉野」

 幻悟は自分の親指で自らを指して玉野に認識させる。すると、すごく悔しそうに玉野は言葉を吐き捨てる。


「何故だ? 琴葉幻悟、どうして親友なんてものが出来た? 俺達のような能力者一族(?)が使うようなあり得ない力を級友た達とか一般人は、全て全員が最初は珍しがって来ても次第に距離を置いてきて阻害される存在なのに。お前は辛い思いをしたことは無いのか?」

 


 玉野は、幻悟に同種の共感をしてほしかったのかもしれない。それが叶わぬ願いと彼は自分勝手に考えをまとめてしまい、今まで溜まりに溜まってきた気持ちが口について出てしまったのであろう。

「玉野! 俺だって迫害されてきたさ。でもこんな能力なんか自分で抑えることを覚えたら気の合う友達に出会えた、それだけなんだよ」

「くそー。くそくそくそ~~。黙れ黙れ黙れ――。俺は誰にも相手されなかったし、してももらえなかった。孤独だったんだよ――――――!!」


 玉野は溜まりに溜まっていた不満を爆発させたかのように、自分の能力を暴発させてしまっている。このままではどんな危険な事が起こるか分かったものではない。

「聞け―!! 玉野。勝敗をつける前にこれだけは教えてやる。俺はこの能力を脳力【ブレインパワー】と呼んでっているんだ」

 幻悟の意味深な言葉に反応したのか、暴走が激化する前に玉野はどこか冷静になって幻悟に訊き返してくる。


「どういうことだ?」

「言葉または漢字的にこう言った方が伝わりやすいと思ったんだよ、玉野。人間は何をするにしても脳が全神経に電気信号で命令を出しているという。だからブレインパワーと名づけているんだぜ」

 幻悟がとても生き生きとした表情で語ると、そんな幻悟に感じるものでもあったのか玉野は暴走もおさまり幻悟の事を羨ましくさえ思ってきていた。

「俺の負けだよ、琴葉幻悟。好きなように処分するといい。広長! 小海! 悪かったと言うお詫びだけじゃ済まないと思うが許してくれ。きっと俺は悪魔にでも魅了されていたのだろう」

 

 玉野は敗北を幻悟に告げるなり、膝を折って少しずつ倒れていく。今の玉野の目には生気を感じ取れないが、幻悟は彼を立ち直るまで待ってやるとでも言いたげに彼の方に手を置く。

「どんな事をされてもしょうがないと思っているな? 玉野。俺の答えはお望み通りにしてやると言う事だと知れ、つまりは俺のブレインパワーを使用するさまざまな術を見せてやると言う事だぜ」

 幻悟が玉野との戦いを終わらせる直前のこの時、成人と道也がちょうど奈美の救出を完了させている所だった。そして三人が幻悟のいる場所まで来る。


「無事かい? 三人とも」

 幻悟は三人ともから元気な声を聞く事が出来たので、一安心した。それから玉野の方へ顔を向け直した。

「俺はお前の潔さに感服したので全力を込めて玉野、お前に言葉力を放つ。まぁ、怪我くらいするだろうがな。死なせたりはしないぜ」

 幻悟は前置きはこれまでだとばかりに、言葉力の源を集め始める。そしてこの言葉力で創ったものを玉野にぶつけようとする。

「俺の余力は陽力=元気でいられる力に変換しよう。その後で玉野に攻撃するぜ」

 幻悟は自分の為の陽力とは別に、自らの余力を陽力に変換してから別の形にしようとする。陽力は形を自由に変化させる事が出来るのだ。今回は箱型にしたようである。


「この陽力には殺傷力系と元気回復系の二つがあるんだ。今回は言うまでもなく後者だけどな」

 幻悟は箱型の陽力にしたものを、そのまま玉野市斗の体を包み込むようにする。それからというもの、玉野の傷を負った体がみるみる快復へと向かってゆく。

「うっ、うう…………。これは一体? 琴葉幻悟! どうして俺をほっておかなかったんだ」

 玉野は幻悟に体の傷を直してもらったが、心=精神に多大なる影響が残っているままだった。


 彼はそのまま絶望に打ちひしがれているような表情を見せて幻悟に訴えかける。

「俺は数多くの人達に迷惑をかけてきたんだ、こんな奴に生きている価値なんてないはずだぞ」

 幻悟は玉野の状態を見て極めて深刻な物になっていると受け止める。まるで廃人のように感じられる玉野の状態を見ればそう思う人は多いだろう。



※わかってもらえると思いますが、脳力とか陽力というのは幻悟君がそう表現しているだけで(言葉力)の一種と考えてもらって構いませんので。







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