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language power(ラングウェッジパワー)  作者: 霜三矢 夜新
言葉の能力の正しい使い方と未熟さゆえの失敗
10/30

特殊能力練習時期 3

 だが、そのせいでトラックが小海兄妹の方へ向かっていってしまったとはいえ、それは不運としか表現しようがない。

「ーーーーーーーーーーーー!!」

 成人は迫りくるトラックに恐怖心を増大され、自らの本能が勝ってしまい抱き寄せていた妹の体を突き飛ばしてしまった。 それが不幸にもけがの程度を分けてしまうことになる。彼はかすり傷程度ですんだが、彼の妹がトラックと電柱の間に左足を挟まれて気を失っている上にトラックからガソリンがれ出ている状況におちいっているのだ。 


 下手をするとトラックが爆発してしまうという危機的状況に陥っているとの大きな差が生まれてしまったのである。

「奈美!? おいっ、しっかりするんだ。大丈夫だからな」

 

 成人は妹の安全を確保しようと何とか救出を試みたが一人の力ではどうすることもできなかった。彼は幻悟に協力を求めつつも一人でどうにかしようとしていた。仮に幻悟が協力したとしても少年二人程度の力では彼女の救出は不可能に近かったとはいえ、幻悟は何も出来ずにいる。そもそも彼には成人の声が聞こえていなかったのだ。


 それは自分の<<言葉力>>の使用方法を完全にマスターしていなかったとはいえ、幻悟は予想範囲外の事故が起きてしまった事実から呆然と立ち尽くしていたからである。

(そんなっ! 僕の言葉力が彼らを危険から遠ざけてくれるはずだったのに)

 どこかから緊急車両のサイレンが近づいてきた。事故の目撃者あたりが呼んだのだろう。


 それで騒然とし始めた事故現場では警官や救急隊員がそれぞれの仕事を確実に全うしている。二人の少年が見ている前で成人の妹は救出され、三人は救急車で運ばれている。失神しているトラックの運転手は別の救急車で搬送された。警察の方では事故の重要参考人として幻悟達三人から事情を訊いておきたかったようだが、医者が彼ら三人の状態からして事故のトラウマが発生する恐れがあるとして面会謝絶にしたという事実を当人達は知る由もない。 


 場所が変わってここはこの市で一番の大病院。そこで成人は今だ混乱の最中にいる。

「まずは君から検査するからね」

「ボクはどこも痛くありません。だから早く奈美を!」

「大丈夫、心配いらないよ。でもね、君も事故に巻き込まれたんだ。検査の必要はある」

 どうにか平静を取り戻した彼と心ここにあらず状態の幻悟は病院の医師に身体的には「異常なし」と診断された。


 だが、精神的なショックをやわらげるためのカウンセリングと体の精密検査は、後遺症に備えて当分は行うとの話を聞く。そして彼らの中で一番重症成人の妹、奈美の症状は足がトラックと電柱の間に挟まっていたのにいくつもの偶然が重なって打撲程度の軽傷ですんでいた。二人の少年は彼女を心配していたのでその症状に胸をなでおろす。



 つまりは幻悟と成人と奈美とは検査入院するかしないか程のケガの差だったのである。

「くそっ、ボクが抱き寄せて離さなければ」

 成人が自分を責めてしまい始めた。幻悟は彼のしぐさを見たことでいたたまれなくなり、彼の気持ちをすべて背負う覚悟で言葉力を使用するための言葉を紡ぐ。

「違う! 成人君は悪くない。悪いのは<<言葉力>>を使い誤ったボクのせいだ。ボクだけに原因と落ち度があったんだ!」

 

 彼の<<言葉力>>のせいで成人は責める対象を自分から幻悟に変えられてしまった。すべての責任は彼にあると言葉力で思いこまされたからである。

「そうだ!! 幻悟君、君が元凶だな。どうして特殊な力でトラックをゴム素材にするとかしなかった!奈美のことをどうでもいい存在だと思っている(!?)とか考えてしまったよ!!」

 成人は幻悟の言葉力にあらがうこともできず、彼に向かって自らの意思とは正反対にも関わらず、勝手に罵倒を繰り返してしまっていた。


(どうしてだ? ボクはこんなこと幻悟君に言いたくないのに)

 成人は自らの考えではこんな行為をしたくないと思っているので止めようとしているがどうしようもない。そんな彼に幻悟は自分が言葉力で起こした代償を背負ったまま、成人と奈美にもの寂しげな表情をしつつ人知れず別れを告げる。幻悟はとっくに覚悟を決めていたのだ。


 成人はいくら幻悟が<<言葉力>>で罪を背負いこむような真似をしたとはいえ、さすがに冗談きついと思っていた。だが、幻悟を見る限りではそうとも言い切れない。だからこれは夢だと思いこむことにした。現実はそんなに甘くはない。そう、幻悟が覚悟の言葉を<<言葉力>>を使用しながら言ってしまったから―――。

「それじゃあね、二人とも。短い間だったけど楽しかったよ。ボクは無に還ることにするから。誰の記憶にも残らない、だってボクという存在は最初からいなかったことになるから」




 ほんのわずかな期間、主人公が!?

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