アイドル小粒ちゃんの、ウィッチでいろいろ変身しちゃうぞい!
「こっつぶ、こっつぶ、こっつぶちゃ~~ん。ランララ、ランララ、ランランッラ~~♪」
軽快なステップで歩いているこの少女、小粒ちゃん。
実はアイドルなのである。
アイドルと言っても、地下アイドル。
もしくは色物アイドル……。
なんでかって?
一応メジャーデビューはしているものの、芸能活動はコスプレが主な仕事。
今日もコスプレ大会に出場する為に、秋葉原へとやってきた。
やってきたといっても、普通に電車で。
駅を出て、何とかの本店が立ち並ぶ電気街へとやって来た。
久々に来た電気街――と言っても三週間ぶり――を見渡し、開口一番、小粒は言った。
「うっわ~~すっごい人! やっぱりアキバはこうじゃないとねん♪」
「そりゃそうガオ。ホコ天復活したんだかんな!」
腰に下げた小さなライオンのヌイグルミがしゃべった。
慌てて周りに注意しながら、そのヌイグルミを手に取り囁く。
「しーーっ! ダメだよピロちゃん! こんな所でしゃべっちゃ~……」
「気にすんじゃねーよ、誰もヌイグルミがしゃべってるなんて思わないガオ」
「もお~~あたしが気にするの! で、語尾にガオ付けるなぁーーっ!!」
イメージ作りは大事ガオ―――と言って、シュンとしたようなヌイグルミ。
「だけどな、小粒。ピロちゃんってのは、いい加減やめてくれ」
「えーーっ? じゃーなんて呼べばいいのさー、名無しのゴンベイさんなんでしょ?」
そのヌイグルミは、自分に名前などは無いと言っていた。
だから小粒が付けてあげたのだ。
折角付けてあげたのに、文句を言うなんて生意気なヌイグルミだ―――本気でその辺に捨ててしまおうかと考えて思い留まる。
「ピロちゃんはピロちゃん。受け入れないならそこに投げ込むんだぞい!」
そう言って、駅前に据付られたゴミ箱を指差す。
「うわ! や、やめてそれだけは勘弁して! この前みたいに、変な汁まみれになるのは御免ガオ!!」
以前言い争って、本当に捨てられた事を思い出す。
その時は、まさか捨てないだろうと鷹をくくっていた為、小粒のペタンコバストをさんざんバカにしてしまい、あえなくダストイン。
それがコンビニのゴミ箱だったから、その惨状は今思い出しても恐ろしい……。
若い子を怒らせると、ブレーキの故障したトラックのように危険である―――そう認識を改めたピロちゃんだった。
「これからお仕事なんだぞい! しばらく黙ってないと、お仕置きだかんねっ」
「は――はいっす……」
ピロちゃんを黙らせた小粒は、マネージャーとの待ち合わせ場所へと歩き出す。
両手を少し広げて、鼻歌まじりで軽くスキップしながら……。
「ふんふふ~ん、ふんふふ~ん、こっつぶちゃ~~ん。ランララ、ランララ――――」
その動きは小学生中学年くらいまでが、せいぜい許される範囲。
一歩間違えれば痛い子であったが、今年16歳になった小粒でも、それは激しく似合っていた。
三つ編みにした、天然の長い後ろ髪がピコピコと跳ねている。
零れ落ちそうな程、大きなお目め……くっきりとした二重が特徴で、思わず見つめてしまう人も多い事だろう。
各パーツが整っている為…かなりの美少女――といっても過言ではないが、その丸顔が一気に幼さを増している。
加えて、たまに覗く白い八重歯が決定的。
低い身長と相まって、内股でX脚である小粒は、その名の通り『小粒な高校生』だった。
しかも、ピンクと白のフリフリなワンピースを着ていたから、目立つ目立つ。
当然、すれ違うオタクな人達の視線を釘付け。
「おわ! なんだあの子、超可愛い―――」
「どこの店のメイドさんだ――?」
「萌えーーっ!! 激ロリっす!!」
小粒が通り過ぎた後は、必ずどよめきが起きる。
こんなに可愛い小粒が、何故只のコスプレアイドルなのかって言うと―――
―――それはファン層が偏りすぎているから。
いわゆるロリ系ど真ん中で、その筋では絶大な人気を誇っているわけなのだが……。
小粒自身も電波系少女であった為、はっきり言って一般人ウケは良くない。
実際、テレビ出演も経験しているが、その時はどん引きの嵐だった。
「小粒ちゃ~~ん、今日の大会出るのーーっ?」
「もっちのロン!! 出ちゃうよんっ!!」
「こ、小粒ちゃん……握手―――だ、大丈夫ですか!?」
「やっだよ~~~ん、大会で応援してくれたら、後でしてあげるぞいっ!!」
まあこんな感じで、ここ秋葉原―――彼女のホームグラウンドではこの通り。
圧倒的な支持率。
しかも、週末はこの小粒ちゃんが出没する可能性がある為、最近では稀にみる賑わいの電気街。
まさにホコ天全盛期を超える程の、大混雑だった。
いたる所で声をかけられるが、さすがに小粒はプロである――。
のらりくらりとかわし、突き進む。
途中、金髪の外人さんに呼び止められ、うっかり撮影されてしまったが、そこはやっぱり日本人。
小粒も外人には弱いのだ。
調子に乗って「アイアム、スーパーアイドル!!」などと言って、サインまでしてしまった。
おかげであっという間に人の輪が出来たので、急いで退却。
いや、走って逃げる。
「人気者はつらいでしゅね~~」
「調子に乗りすぎガオ」
「うっさい! 黙れ腐れネコ!!」
「ネコじゃないし……」
ちょっと口が悪いのは許してあげて下さい。
多感なお年頃なのです。
そのまま突っ走ると、青いワゴン車が見えてきた。
事務所の車である。
フルスモークの怪しい車。
小粒が近づくと、手を掛ける前にスライドドアが開いた。
「おっそ~~い!! 小粒っ!! 何時だと思ってんの!?」
中から顔を出した女性は、マネージャーの高島麗香。
自称やりての敏腕で独身、32歳。
「あ――あははは……電車が混んでたってゆーか、なんてーか……」
「電車は混んでも遅れません!!」
「あーはい、そーです……」
たっぷりお説教を喰らう。
マネージャーの高島は思った―――はっきり言って、全てにおいて適当な小粒にはうんざりだ。
正直、時間通りに来た試しは無いし、言う事も聞いてくれない事の方が多い。
ちょっと可愛いからって、このワガママ娘が―――
――と言うセリフが、いつも喉まで出かかってしまう。
ただ、この子には光る物がある。
それは――ファンを統率するカリスマ性と、周りを巻き込む独自のワールド。
その強烈な個性は、他の者の追随を許さない。
しかも、一旦仕事が始まってしまえば、一所懸命頑張る子なのだ。
ぶっちゃげ、そんな小粒を誰よりも可愛がっていたのは、高島だった。
だから、つい甘い事も言ってしまう。
「小粒、早く着替えなさい―――今日の大会で優勝したら…なんでしたっけ…貴方が行きたがっていた、スィーツのお店で好きなだけ食べさせてあげるから」
「マジ!? やったーーっい!! 約束だぜい! 約束だぜい! もおーー麗香ちゃん大好きっ♪」
キラキラした眼差しで、高島の胸へダイブする小粒。
「―――全く、現金な子ね―――」
愚痴っぽく言いながらも、小粒をしっかりと受け止めて頭を撫で撫でする高島。
かなり小粒を大事にしている様子が見てとれる。
「んじゃっ、張り切って着替えちゃうぞーーっい!」
ワゴン車の奥に入ってカーテンを閉める。
「あーーそか……そうだった……今日はこの衣装かー…ヘコむなぁ~……」
衣装を手に取りしかめっ面。
だけど仕事なので、仕方なく着替える。
仕事がら、お着替えは超っぱやな小粒ちゃん。
すぐに装着して最後の服――いや、パーツを手に取る。
そして溜息を一つ。
「ハァ~~~。設定だからしょうがないけど……ありえなくね? ランドセルって……」
真っ赤なランドセルを背負う。
本人は――高校生がランドセルって、絶対似合わない――とか思っているが、ぶっちゃけ違和感は無い。
残念ながら、現役と言っても疑う人は少ないだろう。
かと言って、それは大した自慢にはならないし、喜ぶのは一部の人だけである。
ぶっちゃげ、小粒にはまだまだ課題が残されていた。
一般ウケするなにか―――。
「小学4年生のこっつぶちゃんでーーっす! にゃはっ♪」
両手で顔を指差し、可愛くポーズしてみる。
「ま、今日はこれっしょ……」
現実的に、今はこれで勝負するしかない。
「やるからには、優勝してやるかんねっ」
チェストー! と場に合わない掛け声と共に拳を突き上げた。
◇◆◆◇
会場は熱気に包まれていた。
この大会は、いわゆるジャンル問わず――どこまで役に成りきれるかを争い、そのクオリティーを審査員が点数付けするという、いたってノーマルなコスプレ大会だった。
しかし、秋葉原のホコ天復活祝いとして開催される為、各メディアも注目しているイベントである。
小粒の仕事は、ここで優勝して自身を売り出す事と、事務所の知名度UPが目的だった。
それだけに、事務所からの期待はかなりのものだった。
「小粒、頼んだわよ! 絶っ対優勝するのよ!!」
「はいはい、わかってまっす……てか、うちの事務所ってそんなにやばかったのー?」
「そうよ…貴方が中々売れないからね」
「は、ははははぁ……だよねー、あたしもそうかなーなんて……」
今は出待ちの舞台袖。
小粒の出番は一番最後、まだまだ先だ。
会場からは、オタク達の熱い声援と熱気が伝わってきている。
手持ちぶたさと単に暇だった小粒は、舞台袖のカーテンをそっと捲って様子を覗う。
「おーーすっごい人だね~~……げっ、なにあの子の踊り…超やばいんですけど」
舞台では、小粒と同じ位の少女が学園ものの衣装を纏い、歌と踊りを披露していた。
たぶんどこか事務所の子だろう。
目的は恐らく小粒達と同じ。
だが、緊張しているのか動きはぎこちないし、歌もあまり声が出ていない。
しかし、会場はヒートアップしていた。
なぜなら、コスプレのクオリティーが高い上に、その少女は激しく可愛いかった。
長くて艶やかな、黒い髪をなびかせるその雰囲気は、まさにお嬢様。
清楚で可憐なイメージで、恥ずかしそうに照れた表情……。
はにかみながら歌うその姿は、世の男性ならかなりの人がツボであろう。
しかも、踊りの途中ですっころび、会場の皆さんへ向けて必殺のM字開脚―――。
「あちゃー……やっちゃたな~~あの子……見てるこっちが恥ずかしいよぉ~~」
小粒的には、ダメだな―――と思っていたが、逆に会場はテンションMAX。
結局その子はそれまでの最高得点の、99点を叩き出した。
「うえっ! なんでぇ!? どうしてそんな高得点に!?」
当然小粒は驚いているが、審査には『萌え要素』というアキバ独自の追加点が認められていた。
加えて審査員は、全員その筋の男性。
司会の男が、審査員にコメントを求めた――。
「はい、12番の西園寺小鳥ちゃんに、コメントを頂きたいのですが―――」
一人の太った男性がそれに答える――。
「いやーー小鳥ちゃん、良かったっすよ。見た目のクオリティーもいいし……最後のあれでかなりの追加点入れてしまいました」
「あれ――といいますと?」
「やだな~~分かってるくせに……あそこからの下着見せ――まさに必殺技ですよー」
がはははーと一斉に笑い出す審査員達……。
それを見た小粒は、自分の服の袖を噛んで悔しがる。
「ぐぬぬぬ~~この腐れ審査員どもがーーっ!! あの子も卑怯なことしてくれちゃってぇ~~~」
こうなったら、100点満点を取るしかないっ――――。
小粒は燃えていた。
あれをやるしかない―――。
今にも舞台へ飛び出す勢いだったが、まだ順番ではないので大人しく待つ。
それから5人の女の子が出場したが、90点が最高だった。
いよいよ出番―――。
心配そうなマネージャーの高島が、小粒に話しかける。
「小粒、大丈夫? 緊張してない?」
「へっちゃらだよーん。知ってるっしょ、あたしがこういうの緊張しないって―――」
無い胸を張って答える小粒。
確かに、全く緊張していなかった。
彼女の凄いところはこの度胸。
ここで緊張しないと一体いつ緊張するのか分からないが、こういう時、小粒は頼りになる女の子だった。
そして本番にめっぽう強い…。
「――まぁまぁ、黙って見ててよん!!」
不敵な笑みを高島に向け、小さくガッツポーズをしてみせる。
それを見た高島は、小粒なら大丈夫か―――と胸を撫で下ろし、落ち着いて見ることにした。
「さあ次はオーラス!! エントリーナンバー18番、水沢小粒ちゃん16歳ですっ!!」
アナウンスと同時に、軽快な音楽が鳴り始める――。
リズムに合わせたステップで小粒が登場する―――。
「みんなーーーっ!! おっ待たせ~~~!! こっつぶちゃんだよ~~~ん!!」
ワーーー!! と歓声が上がる。
さすが一部で大人気の小粒である。
当然ここには、ファンが多い。
小粒も会場の観客も超ノリノリであった。
歌い出しまでの間、魔法のステッキを振りかざし、その場で連続ターン。
そして正面で止まって――ニコッ。
白い八重歯が顔を覗かせたその笑顔で、審査員の一人がやられ、グハッ―――と鼻血を吹き出す。
破壊力満点の笑顔だった。
小粒ちゃ~~ん!! と声援が沸き起こる中、歌い出す。
「もういっかい――もういっかいだけ魔法を使えたらぁ~~♪」
曲は、『突然魔法がふってきた』っていう魔法少女アニメの主題歌。
もちろんその主人公の、ライムって少女のコスプレだ。
それを完璧に歌い、踊りもリズムにバッチリ合わせている。
ただ歌うだけじゃない。
小粒はちゃんとライムと同じ、小学4年生になりきっていた。
たどたどしく歌うその声は、決してライムの声に似ているわけではないが、雰囲気はまさにその者だった。
もっとも、振り付けは自前のアドリブだったが―――だが、見た目はこれも完璧だった。
「こ――小粒ったら、凄い……。本当にあの子は、どんなポテンシャルしてるのかしら……」
これなら間違いなく100点満点ね―――。
マネージャーの高島も、あきれてしまうクオリティーだった。
曲はAパートが終わり、合間に小粒が小道具の魔法のステッキを振り回す。
そしてステッキを回転させたまま、
空高く投げる―――
―――と、誰もが目を疑った。
ステッキは空中で回転したまま落ちてこない。
その間、小粒は可愛くステップを踏みながら踊り続ける。
そして指をパチン―――と鳴らした瞬間――ステッキが落ちてきて、それをパシッと掴む。
今日一番の、大歓声が巻き起こった―――。
◇◆◆◇
「どうしてあたしが準優勝なわけぇ~~!?」
控え室へと向かう途中――ぶぅたれる小粒。
「情けないガオ~~、卑怯にも魔法まで使って……ククク……」
「笑うなーっ! このヌイグルミ!!」
「フギャ!」
ムギューっとライオンのヌイグルミを握りつぶす。
そのまま歩いていると、廊下の壁にもたれている高島を見つけた。
「ごめん麗香ちゃん―――」
「―――いいのよ、小粒。私が審査員なら、小粒がぶっちぎりで優勝だって」
笑顔で親指を立てる高島。
それを見て、小粒は我慢していた悔し涙が吹き出しそうになり、瞳をウルウルさせてしまう。
そんな小粒の姿に、思わず抱きしめたくなった高島は、手を伸ばしかけて引っ込める。
そして囁いた。
「さあ早く着替えて、約束のスィーツのお店へ行きましょうか」
「ええ!? いいの!? で、でも……優勝じゃないし……」
一瞬喜んだ小粒だったが、すぐに真顔になる。
「なによ、今回の目的は貴方と事務所の名前を売る事。充分なインパクトを小粒は残したと思うわ。だから、目的はほぼ達成した……OK?」
優しい顔で話す高島に、小粒は思わず飛びついた。
「れ、麗香ちゃ~~ん。うぇ~~~~ん―――――」
全く、泣き出す事ないのに…よっぽど悔しかったのね―――小粒の頭を撫でながら、高島は思った。
◇◆◆◇
結局、小粒は98点だった。
1点に負けた小粒は本当に悔しかった。
一番の理解者である高島のおかげでだいぶ落ち着いたが、それでも納得出来ないといった表情で、控え室のドアを開けた。
「あら、貴方は惜しくも準優勝の―――誰でしたっけ…?」
優勝した西園寺小鳥が、一人着替えの最中だった。
「ムッカァ~~! あたしを知らないなんて、あんたってモグリね!」
売り言葉に買い言葉。
小鳥の上から目線な挑発に、見事にいきり立つ小粒。
「おっほほほほ~~、はいはい、知ってますわよー。一部のオタク層にのみ人気の、超地下アイドルの小胸ちゃんでしたっけ?」
嘲笑うかのように腕を組み、自身の豊満なバストを強調する小鳥。
舞台での清楚で可憐だったイメージは全くと言っていいほど無い。
「にゃ、にゃんだって!? こ、この猫っかぶり女がーーっ!!」
頭に血が昇ったりテンパったりすると、昔の癖である『猫語』が無意識で発動してしまう。
二人は睨み合い、お互いに牽制している。
自分の胸と、小粒な小粒の胸とを交互に見比べ、―――っふ、と不敵に笑む小鳥。
それを見て、フゥーーーっ!! と猫が威嚇するような構えを取る小粒。
はたから見て痛いその小粒の姿は、完全に敗北しているように見える。
しばらく睨み合っていたが、小鳥がアホらしいといった風に首をすがめ、タバコを取り出し火を点けた。
それを見て、小粒が慌てる。
「わわ! ちょっ――なにやってんのさ!?」
「はい? 何か―――?」
プハーーと小粒に向かって煙が吐き出される。
「ケホッ、ケホッ……うぇ、なにすんだ~~~!?」
「あ~~ら、ごめんあそばせ♪ お子様には少し早かったかしら…おほほほ」
小粒が手をパタパタさせて、煙を追い払う。
「タ――タバコなんか吸っちゃってぇ~~! この猫っかぶり二重人格女ーーっ!!」
準優勝の悔しさも相まって、必死な罵りを口走るが所詮負け犬の遠吠え。
小鳥はビクともしない。
充分にタバコを堪能し、
「それじゃ私、取材の依頼が殺到しておりますので、この辺で失礼いたしますわ。せいぜい頑張って下さいまし、ペタンコ――じゃなかった、小胸さん――だったかしら……お~ほっほほほ……」
勘に触る嘲笑を残し、颯爽と部屋を出る小鳥。
完全に敗者の小粒はぶち切れモード全開だったが、その相手が消えてしまい怒りの矛先をどこにも向けられず唸っていた。
「ぐぬぬぬ~~おにょれーーっ!! あの阿婆擦れ女ーーっ!! いつか見てろよ~~……」
真っ赤な顔でフゥーフゥー唸っていると、突然ドアがコンコン――とノックされた。
「はーーい、小粒ちゃんがいまーーっす!」
180度早変わりで、すぐさま営業モードにチェンジ!
さすがは一応プロのタレントである。
「大会のスタッフの者です。準優勝のコメントを頂きたいので、インタビューしたいのですが…入ってもよろしいですか?」
「はいはい! 全然オッケーで~~っす」
イメージを大切に、成り切った小学生のキャラで返事をする。
それでは失礼――と、スタッフの人がドアを開けた瞬間―――
「うわ――ケ…ケムい……」
鼻を摘むスタッフ。
視線が小粒の目の前にある、灰皿に消された数本のタバコへと向けられた。
「こ……小粒ちゃん―――?」
小粒もその視線の先を見て、スタッフが何を言いたいのか、さすがに理解して慌てて言い訳をする。
「ち、違いますよ~~あたしじゃないんです―――!!」
それから小粒は酷い目に合った。
そのスタッフが超堅物であった為、見逃してはくれなかった。
しかも濡れ衣だったのに。
今どき喫煙程度軽く流せばいいのに、大騒ぎされて人を呼ばれる始末。
完全に未成年喫煙者と断定され、インタビューはおろかマネージャーの高島まで駆けつけて怒られてしまった。
必死に西園寺小鳥が吸ったとアピールしても、信じては貰えなかった……。
「とほほ……踏んだり蹴ったりだったにゃ~~」
「日頃の行いが、いざという時に響いてくるガオ」
「うっさいなぁ……あたしのどこが悪いっていうのさ……」
一人寂しく、とぼとぼと歩いて行く小粒。
結局、スィーツのお店もお流れ…。
ほんとに踏んだり蹴ったりだった。
◇◆◆◇
西園寺小鳥は満足していた。
まだフリーだった彼女に、念願の大手プロダクションからのスカウトがあったのだ。
「ふっふっふ……遂に、私の時代がやってきましたわ……」
片方の唇を吊り上げ、不敵に笑う小鳥。
元が美少女なので、どんな表情も似合ってしまう。
美形の彼女なら、どんな役にもハマル良い女優になれるかも知れない。
実際、今日のコスプレでのステージは完全に演技――。
緊張はしていたが、実は踊りも歌もかなり上手い。
「―――っふ、売れる為ならなんでもしますわ―――」
この向上心が、彼女の支えとなっていた。
「さて――明日は事務所に呼ばれてますから、もう帰りましょう」
そう思い、会場を出た瞬間――――
パチン―――――
頭の中で何かが弾け、その場にガクン――とひざまずく。
「う―――頭が痛い……一体……何が……」
説明しよう――――。
小鳥に何があったのか。
結果から言うと、小鳥はこの時、異星人に身体を乗っ取られた。
「ふ――ふははははーっ! やってやりますわ! 秋葉原を…この日本を、メチャクチャのクッチャクチャにしてやるのですわ!!」
この通り、身体を乗っ取られると性格が凶暴になってしまう。
まあ正確には乗っ取られたのではなく、身体に侵入された―――というのが正しい。
宇宙からの訪問者は、色々な世界を持っている。
我々と同じような環境もあるだろうが、この異星人――宇宙人と言ってもいいが――は、ミクロの世界の住人だった。
もちろん、肉眼では視認不可能。
このように人類が気付かないだけで、実は数え切れない程の宇宙人が、既に地球上には存在していた。
余談ではあるが、新種のウィルスや謎の病原菌などの正体がこれである。
小鳥はいつの間にか、耳からその宇宙人に侵入されてしまったのだった。
「ふはははーーっ!! 欲望のままに…生きてやるのですわーーーっ!!!」
さっきと言っている事が変わっているが、何故かは不明。
小鳥の身体は、いつの間にか黒い女王様(SMの)の衣装を纏い、ぐんぐん巨大化していった――――。
◇◆◆◇
「小粒ちゃーーっん、コスプレ最高だったよ!!」
「お~……ありがと……」
「小粒ちゃん!! 握手してーー!!」
「あーはい……握手っと……」
「小粒ちゃ~~ん! 準優勝だったからって、元気出しなよ!」
「うん……次は優勝するね……」
会場から駅までの道中、無数のファンに囲まれて歩いていた小粒だったが、優勝出来なかったダメージと、トドメの喫煙事件で既に心は折れてズタボロ。
腰を丸くして歩くその姿は、まさにボロゾウキンのようだった。
「しばらく立ち直れにゃいかも……」
そう小粒が呟いた瞬間、ヌイグルミが突然警報を鳴らし出した。
ウ~~~~ピ~~~~ヒャララ~~~~~。
実際、警報なのか何なのか、意味不明なメロディーだったが。
「はにゃ!? き――きたぞいっ! 宇宙人だっ!!!」
メロディーに反応して、でっかい声で叫んだ小粒。
まさに痛い発現を大声でしてしまったわけだが、問題無い。
「え? どこどこ小粒ちゃん、僕にも教えて~~~」
「やっほーーい、宇宙人へ~~い」
「さすが小粒ちゃん! 宇宙と交信が出来るとは……」
小粒の周りで、痛い病気が広がっていく……。
そう―――小粒ちゃんのファンは、殆どの人が痛い人だったのだ。
その時、ホコ天のメインである昭和通りに、巨大な何かが現れた。
超巨大―――その大きさはガンダムなんてもんじゃない、まさにビグザム級。
秋葉原にいる全ての人々が、上を見上げて呟いた。
女王様――――と。
それを見た小粒は、こっそりヌイグルミに話しかける。
「はにゃにゃ!? で…でっかい…今度は一体なにするつもり!?」
「さ~て? 異星人の考えは分からないガオ」
「ピロピロ! そんな呑気なこと言ってる場合じゃないっしょ!?」
「勝手に呼び名を進化させないでほしいガオ。早く変身するガオよ」
そうだね―――と呟き、小粒は建物の影目指して走った。
都合良く、周りの人達はその巨大な女王様に気を取られている…。
今がチャンス――――
「行くよ! ピロピロ!!」
「はいよー」
小粒がライオンのヌイグルミを天にかざす――――
すると、ヌイグルミは無駄に眩しく輝き出す。
そしてぐんぐんと大きくなり、やがて本物のライオンへと姿を変える。
いや、本物ではなかった……デフォルメされていてどこか可愛い――でもなく、ちょっと間の抜けた顔をしたライオンだった。
続いて小粒の身体が七色に光り出す。
「スーパーアイドル小粒ちゃん!! 超ウルトラ・グレートダイナマイトボディー&ビューティホー…………」
「いいから早く変身するガオ……」
「えーーっ!? ヒロインの変身シーンだよ!? ここはバッチシ決めて―――」
「あ~~分かったガオ……好きにするガオよ…」
その後も、小粒の長いセリフが続き、光りに包まれた小粒は一瞬裸になる。
当然お約束だが、シルエットだけでその細部は見えない。
そして次の瞬間、変身を終えて現れる―――
キラキラと光る衣装を纏い、一応華麗に登場。
白いブーツに、フレアーな感じに広がったミニスカート。
七色が入った、目に毒な光りを放っている服を着ている。
その質感はまるで金属だが、普通の布のようにヒラヒラとしていた。
頭には、猫耳なのかウサ耳なのか、よく分からない物が着いている。
「アイドルウィッチ小粒ちゃん! たっだいま参上ーーーっ!! とうっ!!」
颯爽とライオンにまたがろうとするが、上手くいかず――ドテッ――と転げ落ちる。
「慣れないことするからガオ――」
「う…うっさいなぁ……いてて……よっしゃーーっ、いっくぜ~~~い!!」
ぎこちなくライオンに乗り直して、レッツゴー。
ライオン―――面倒なのでピロピロと呼ぶが―――は、空を蹴って走り出す。
もちろん、空を飛んでいるのだ。
「おわ! ちょっ―――落ちちゃう! 落ちちゃうよーーっ!! もっと優しく飛んでよ~~!!」
必死にしがみつく小粒。
落ちないように、ピロピロのピロピロした部分―――その鬣をがっちり掴む。
そして巨大な女王様の前へ―――。
「おほほほほーーーっ!! 喰らえっ!! ですわ~~~」
小粒達が目の前に現れた瞬間―――
目からビーム……。
いや、怪光線。
怪しく光る光線が、地上の野次馬達へと降り注いだ。
次々と、沢山の人へとその光線が当てられていく―――。
「ぐわ!! な―――なんだ!?」
「ぬお!! 身体が――――」
目の前まで来ていた小粒達は、かろうじて光線をかわしたが地上の人達が、その光線にやられ姿を変えていく。
「え? え? どうなっちゃうの!?」
その様子を、ドキドキしながら見守る小粒。
やがて人々は、黒いボンテージ衣装へと姿を変えていく。
男子は怪しいハードゲイ風な衣装……。
女子は怪しい仮面を装着した女王様姿で、手にはムチを装備。
「おほほほーーっ! さあ始めなさい! 気の済むまま、快楽の赴くままに!!」
巨大女王様の掛け声と共に、その人達が一斉にプレイを始めた…。
「ああ……お願いします、僕を罵って下さいぃぃ……」
「おだまりっ!! 女王様とお呼びっ!!」
パシッ―――――――
あっちこっちで繰り広げられる、本気の女王様プレイ…。
オタクの街アキバは、変態プレイの街へと様変わりしていた。
唯一難を逃れた小粒達は、その光景を生温かく見つめていた―――。
「んげっ! 超キモいぃ……」
「気持ち悪がってちゃゲロ……おぇ……じゃなかったガオ、早く助けるガオ」
「え~~、分かったよぅ……んじゃ! いっちょいきますかっ!!」
どこから現れたのか、小粒の手には長い魔法のステッキが握られていた。
その先には大きな球体が付いていて、さらにそこから天使の羽が生えている。
「チャンジ! 歌姫モ~~~~ッド!!」
「そんなモード無いガオ……」
「うっさい! 気分なのっ、気分!!」
ステッキの先が光り、小粒の衣装が一瞬で変化する。
その姿は、今日の大会で着ていた――あの衣装だった。
「折角なんで~~、今日はこれでいきまーーっす!!」
ご丁寧にステッキまでアニメと同じ仕様に変化させ、主人公の女の子――『ライム』に成りきる。
「みんなーーーっ! 歌うよーーーっ!! 曲は―――突然魔法が振ってきた!!!」
ステッキをマイク代わりに歌い出す―――。
「もういっかい――もういっかいだけ魔法を使えたらぁ~~♪」
どこからともなく聞こえてくる、演奏付きで……。
曲が流れ、歌が広がっていく―――。
それに合わせて、小粒の周りから徐々に円を描くように、人々の変態プレイが止まり普通の服へと戻って行く。
その変化を、巨大女王様―――小鳥は眺めていた。
「ふ~~ん、成程……やるじゃない……まずはその、チョロチョロとうるさいハエから叩き落とさなければならないようですわね!!」
宇宙人に乗っ取られているとはいえ、基本は小鳥なのである。
そして小鳥は、根は普通の女の子であった為、人々を殺してしまうような惨事にはならなかった。
起こした被害は、小鳥の人に言えない願望――性癖。
超ドSだった小鳥の、女王様への憧れが具現化したものだった。
「―――全く、チョロチョロとうるさいですわね!!」
小鳥は、手に持っていた巨大なムチを小粒へと放った。
ムチの先端が、小粒のすぐ横を物凄い風圧を残して通りすぎた―――。
「キャアッ!! な、なに!? あんなの喰らったら――死んじゃうよ!? マジで死ぬ!!」
「小粒ちゃん! ここはまかせるガオ! 早く変身するガオ!!」
「うん――分かった! んじゃよろしくねんっ!!」
軽快にピロが動き周り、次々と襲い掛かるムチを避ける。
小鳥はビルや建物には当たらないように、上手くムチをコントロールしている。
さすが、元は普通の一般人。
一応常識があるようだ。
「よ~~し、いっくよーーっ! 変身っ! 攻撃モーーーッド!!」
小粒がステッキをかざすと、またまた衣装がチェンジされる。
一瞬で変化したその衣装は―――可愛いピンク色のナース姿だった。
「な――なんで看護士ガオ!? それは癒し系ガオ!!」
「え? なんで? 注射とか打っちゃうよ? 痛いんだよ?」
「…………まかせるガオ……」
「そうそう、まかせちゃいなって!」
これから悪さをする、子供のような笑顔で無い胸を張る小粒。
そして、小鳥を睨み付ける。
「なんかさー、このでかいの見てるとなんかムカつくんだよねー。誰かに似てるんだよーー」
まんま西園寺小鳥だったわけだが、基本おバカな小粒は、小鳥の顔を覚えてはいなかった。
いや、そこまでおバカじゃないが、興味が無い事に対しては記憶力が皆無となる性格だった。
「よっしゃーーーっ!! スィーツの腹いせだーーーっ!!」
小粒がステッキをかざすと、空中に無数の巨大な注射器が現れた。
針が細くて、とっても痛そうである。
「悪い子には、お注射しちゃうぞいっ♪ プスッといっけーーーっ!!」
小粒の合図と共に、一斉に注射器が小鳥の身体に突き刺さっていく…。
悶絶する小鳥―――
「痛い! 痛い! 痛、痛、痛、痛、痛、痛いーーーーっ!!! ですわーーーーっ!!!」
小鳥の叫びと共に、巨大な女王様はどんどん縮んでいく。
「やったぁ~~! さっすがあたしっ♪ みんなのアイドル小粒ちゃん!!」
ブイ――――!!
ニコッと笑顔のVサイン。
そして、女王様は通常サイズへと戻ってその場へドサ―――っと倒れる。
その横へと舞い降りる小粒。
「さ――早く回収するガオ」
「分かってるよー、いちいち言うなーー」
例のステッキを、女王様の身体にそっと当てる。
すると、球体が光り出す……。
「よし! 回収完了なのだ! 任務完了でーーーっす! ―――みたいな?」
「小粒ちゃん、協力感謝ガオ」
「―――ん? いいっていいって~~、そのうち形で返してくれればさーー」
ニヒヒ……と八重歯を出して、子悪魔的な笑みを浮かべる小粒。
いつの間にか女王様の姿は消え、前の姿―――西園寺小鳥に戻っていた。
一体小粒は何をしたかって言うと―――
何を隠そう、小鳥の身体から宇宙人を回収したのだった。
「この中に宇宙人がいっぱい入ってると思うと……超キモいね」
小粒が指を差したのは、ステッキの球体部分。
この中に、ミクロの宇宙人が沢山捕獲されていたのだった。
「仕方ないガオ、そういう設定ガオよ」
という事で、その球体に宇宙人を沢山捕獲すると、小粒の魔法パワーもアップするのであった。
「あれ? この子……知ってるかも。……誰だっけ?」
「西園寺小鳥ガオよ!!」
微妙におバカで天然?
そんな小粒ちゃんの変身は、この先も続いていく――――のか!?
おわり
痛い作品を作ってしまった……。
『ロリな魔法少女ものを書いて下さい』
というご要望のもと、書き始めたこの作品。
完成まで時間かかったーーーっ!!
まあ、僕はロリコンではないんで、主人公の少女は高校生という設定ですが。
これがいっぱいいっぱいです。
しかし…お気付きの方もいらっしゃると思いますが、パクリ要素満載ですw
だって…魔法少女ものなんて、ネタ思いつかないんだもん。
ですが、断固として言います! これはオリジナルです!!
ごめんなさい、許して下さいw
ですが、思いの他良い作品に仕上がったと思います。
好評なら連載もしますんで、ご希望の方は言って下さい。
結果によって、ガチで書きますよ(笑)