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第07話:構造改革(物理)と、消えた村々(実際)

「断絶の谷」に、大陸一の巨城を築く。お嬢様が放ったその一言で、ベルシュタイン領の地図は塗り替えられることになりました。お嬢様は「他の砦の予算をゼロにする」という、既存の国防概念を根底から覆す「選択と集中」を断行されたのです。


(ああ、お嬢様! 弱者が勝つために一点にリソースを全振りするそのお姿、まさに経営の神髄に触れたかのようです。凡百の領主なら、全方向を均等に守ろうとして共倒れになるところを、お嬢様は『全員で生き残るための一点』を見定められた。その決断を正解にするのが、この私の、そしてベルシュタイン家の総力を挙げた『過剰なるロジスティクス』の出番ですわ!)


「お嬢様、ご安心ください。断絶の谷の要塞化、および後方のシェルター建設、並行して進めさせていただきますわ」


私はいつものように、冷静に、かつ一分の隙もない礼をしてお嬢様の前を去りました。しかし、執務室のドアを閉めた瞬間に、私の伊達メガネは音を立てて発光せんばかりに輝きました。


(その地域に住む領民一万三千人を、物理的に、かつ強制的に、一人の落伍者も出さずに移動させなければなりません。納得させる? いえ、そんな中途半端な説得は不要です。納得など、後から勝手についてくるものですから!)


私は即座に、領内の全運送業者を招集しました。断る者は「お嬢様の慈善事業の邪魔をする不敬罪」として、今後の営業許可をすべて差し押さえるという、愛に満ちた脅し……いえ、交渉を成立させました。


「全業者に告げます。馬車三千台、牛車五千台。これらを一晩で集めなさい。積み込むのは領民の荷物ではありません。領民の『人生』そのものですわ!」


私の号令により、領地全土で空前絶後の「大移動」が始まりました。まず着手したのは、放棄が決まった北の砦に近い村です。そこの村長は、頑固で知られる老人でした。


「わしはこの村で生まれ育った! 砦がなくなろうが、ここを動くつもりはない!」


「村長さん、その中途半端なこだわりは、お嬢様の『全振り』に対する冒涜ぼうとくですわ」


私は冷徹な微笑みを浮かべ、村長の前に三つの「過剰なる補償」を提示しました。一つ、要塞後方のシェルターにおける、最新の魔導暖房付きの新築住宅。二つ、お嬢様の私財から捻出された、村の年収五倍分に相当する『引越し祝い金』。三つ、新天地での雑草(魔力回復草)栽培の優先雇用枠です。


「……五、五倍だと? それに新築の家まで?」


「ええ。それだけではありませんわ。今すぐ移動を開始するなら、貴方の家のタンス一つ、猫一匹に至るまで、私の手配した精鋭が運びますわ。」


(愛ゆえに、私は一切の容赦をいたしません。お金で解決できることはすべてお金で。それでも動かぬ者は、物理的に家ごと持ち上げて運ぶ準備もできておりますわ。お嬢様が『命を救う』と仰った以上、たとえ本人が嫌がっても、私は力尽くで彼らを幸せな場所へ放り込む義務があるのです!)


数日後、ベルシュタイン領からは「村」という単位が、文字通り消滅していきました。かつて村があった場所には、撤収後の清掃まで完璧に行われた更地だけが残されています。


「アンナ、すごいわね。皆、あんなに住み慣れた土地を離れるのを嫌がっていたのに。今は要塞の裏で、お祭り騒ぎをしているじゃない」


お嬢様が要塞の展望台から、シェルター周辺の賑わいを見て驚かれたように呟きました。そこには、新築の家の豪華さと、潤沢な補償金に目を輝かせた領民たちが、「リーゼロッテ様万歳!」と熱狂的に叫んでいる姿がありました。


「皆、お嬢様の深遠さを理解したのですわ」


お嬢様は満足げに微笑まれましたが、私は知っています。このシェルターの地下には、お嬢様には内緒で、さらに三層にわたる「過剰なる防衛施設」が建設されていることを。お嬢様が「全員を守る」と仰ったのなら、私はその「全員」を、核攻撃にも耐えうるような過剰なシェルターで守らなければ気が済みません。


(さあ、アンナ。次は要塞の物資集積ですわ。お嬢様が三年分の食料と仰ったなら、私は三十年分を詰め込みますわよ。保存魔法の魔導師をもう百人、王都から拉致……いえ、高給でヘッドハンティングしてきましょう!)


お嬢様の前では涼しげな顔で紅茶を注ぎながら、私の頭の中では、次の「過剰なる予算投入」のシミュレーションが、火花を散らしながら加速していました。お嬢様の「全振り」を、私はこの領地が沈没しても浮き上がるほどの「物量」で支え続けるのです。


お読みいただき、ありがとうございました。

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