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第04話:【常識人視点】小遣い稼ぎのつもりが、軍隊に入れられていた件

視点:辺境伯領の少年ハンス


俺たち村のガキにとって、領主様のお屋敷ってのは「遠くにあるすごい場所」だった。

だけど、あの日を境に、俺たちの日常は「草」と「恐怖」と「成金」に塗り替えられちまったんだ。


「いいですか、貴女たち。草一本、葉っぱ一枚の欠損も許されません。お嬢様に納品するものは、世界で最も完璧な草でなければならないのです!」


村の広場で、メガネを光らせた侍女のアンナ様が、指揮棒(みたいな鞭)を振るって叫んでいた。

俺たちは、アンナ様が主催する「軍隊式収穫訓練」という名のブートキャンプに強制参加させられていたんだ。


「今日から君たちは、お嬢様直属の『リトル・エージェント』です。……最も多く集めた者には、特製おやつを。そして、最下位の者には……分かっていますわね?」


アンナ様の後ろで、黒塗りの馬車から「シュッ」と不気味な音がしたのを、俺は聞き逃さなかった。

「分かってます!」なんて威勢よく答えたけど、本当は誰も「最下位のペナルティ」が何かなんて知りたくもなかった。


俺たちが集めろって言われたのは、そのへんに生えている雑草。

とにかく苦くて、腹を空かせた家畜ですら無視する、ゴミみたいな草だ。

それを「一束につき銅貨1枚」で買い取るっていうんだから、最初は「お嬢様は頭がイカれちまったのか?」って、みんなでコソコソ笑い合ってたんだ。


銅貨1枚。俺たちの親父が一日中汗水垂らして働いても、数枚もらえるかどうかっていう貴重な硬貨だ。

それが、雑草一束で手に入る。

俺たちは、最初は「お花摘み」の気分で荒野へ向かった。


……だけど、そこには「地獄」が待っていた。


「おい、ハンス! そっちの根っこが少し切れてるぞ! アンナ様に見つかったら、お前の指がペンを握れなくなるぞ!」


「うるせえ! お前こそ、土が残ってるだろうが! 鮮度が落ちたら『お嬢様への冒涜』だって言われるんだぞ!」


俺たちはいつの間にか、泥だらけの顔でお互いを監視し合うようになっていた。

アンナ様がどこからか調達してきた「三千個の特殊マジックアイテム(草の鮮度を保つカゴ)」を背負い、俺たちはまるで戦場に向かう兵士のような顔で荒野を駆けずり回った。


そして、むしり取った草を納品しに「絶望の荒野」にあるオフィスに向かった時、俺たちは腰を抜かした。


「……なあ、お嬢様は『簡素な小屋』に住んでるって聞いてたよな?」


「ああ。……でも、あれはどう見ても、王様が住むような『白亜の宮殿』だよな?」


荒野のど真ん中に、見たこともないほど豪華な建物が建っていた。

おまけに、その周囲には「空気清浄の魔導陣」とかいうのが埋め込まれているらしく、砂埃ひとつ舞っていない。


その窓際に、6歳のリーゼロッテお嬢様が座っていた。

俺たちが泥にまみれて、必死に集めた「苦いゴミ」の山を、お嬢様はまるで「金貨の山」を見るような真剣な目で見つめていた。


「アンナ、順調かしら? 皆、無理をしていない?」


お嬢様が、鈴の音みたいな可愛い声で尋ねる。

その足元には、俺たちの村の全世帯を10年養えるくらいの金貨が詰まった袋が、無造作に転がっているのが見えた。


「はい、お嬢様。領民たちは皆、新しい雇用が生まれたと、涙を流して喜んでおりますわ」


アンナ様が、一分の隙もないお辞儀をして答える。

……確かに、俺たちは泣いていた。

だけどそれは、お嬢様の慈悲に感動したからっていうより、「明日のノルマ(目標値)」が、お嬢様の気まぐれ一つでさらに倍になったからだ。


「よし、ハンス。今日はお前がトップだ。銅貨50枚、受け取れ」


アンナ様から手渡された袋は、ずっしりと重かった。

6歳の幼女の「全振り」という狂気に付き合わされた結果、俺の家には、親父が一生かかっても稼げないほどの金が積み上がり始めていた。


村の子供たちは、もう誰も遊ばなくなった。

鬼ごっこなんて時間の無駄だ。

「一点突破、リソースの集中投下だ!」と叫びながら、夜通しランプを持って草を探すやつまで現れた。


お嬢様が優雅にお茶を飲んでいる裏で、俺たちはアンナ様の「愛(という名の暴力的な効率化)」によって、最強の収穫兵器へと作り変えられていたんだ。


「……なあ。もしこの草が、ただの雑草のままだったら、俺たちどうなるんだろうな?」


誰かがポツリと漏らした。

お嬢様は破産し、俺たちの手元には、食べられない苦い草の山だけが残る。


だけど、お嬢様のあのサファイア色の瞳と、その後ろで眼鏡を光らせるアンナ様を見ていると、不思議と「失敗」なんて言葉は頭から消えた。


「考えるな、むしれ! お嬢様が『勝つ』って言ったら、俺たちは全力で草を運ぶだけだ!」


俺たちは、6歳の幼女が描く「黄金の未来」という名の、あまりにも過激で、あまりにも羽振りのいい地獄を、笑いながら全力疾走し続けたんだ。


お読みいただき、ありがとうございました。

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