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第03話:雑草(お宝)を根こそぎにする、過剰なる兵站

絶望の荒野の一角に、場違いなほど優雅な「移動式宮殿」が鎮座していました。お嬢様は「簡素な小屋」と仰いましたが、そんな中途半端な建物では、お嬢様の尊い皮膚が砂埃で荒れてしまいます。私は領内の全大工に「お嬢様の健康と、君たちの命、どちらが大切かしら?」と優しく問いかけ、一晩でこのオフィスを完成させました。


(ああ、今日も窓際に座るお嬢様は美しい。泥だらけの荒野を背景にしても、その気品は一ミリも損なわれません。むしろ、不毛の地を浄化する女神のようです。この光景を維持するためなら、私はどんな無理難題も、たとえ物理法則に逆らってでも実現してみせます。そのためなら、私一人が不眠不休で動くことなど、呼吸をするよりも容易いことです)


「さて、アンナ。今日からここが私のオフィスよ。まずは、この軍資金100枚をすべて、この草の買い占めに使います」


お嬢様が小さな手で机に置いたのは、ひどく苦くて、家畜さえ食べない「魔力回復草」の干し草でした。


「お嬢様、それは……領内の至る所に自生している、あの質の悪い雑草ですわね。それを全財産で?」


私は極めて冷静に聞き返しましたが、眼鏡の奥の思考回路は、すでに音を立ててフル回転を始めていました。


(雑草! 雑草を全財産で買い占め!? なんという、なんという前衛的な投資戦略! 凡人の私には一瞬、正気を疑うような内容に見えましたが、お嬢様のあのサファイアの瞳を見て! あの瞳は、数ヶ月後の未来に、この草が黄金に変わる光景を完全に見抜いている目ですわ! もはやこれは神託。私はその神託を、現実という名の暴力で具現化するのみです!)


「ええっ!? そんな、そこら中に生えている雑草に全財産を!? お嬢様、正気ですか!」


あえて、アンナという「表向きの役職」として驚きの声を上げます。これは、お嬢様に「私の考えは周囲にはこう見えているのか」と客観的な視点を提供するための高等テクニック。けっして、私自身の動揺ではありません。


「大真面目よ。アンナ、これから言うことを正確に実行して。領民の子供たち全員に声をかけてちょうだい。この草を根っこごと、一束につき銅貨1枚で買い取ると。期限は1ヶ月よ」


「畏まりました、お嬢様。そのご命令、完遂してみせますわ」


私は深々と一礼し、部屋を出た瞬間に、伊達メガネを指でクイッと押し上げました。私の本番はここからです。お嬢様は「子供たちに声をかけて」と仰いましたが、そんな生温い方法では、一ヶ月という期限に間に合いません。


(まず、領内の全世帯に「お嬢様への愛」という名の協力要請を出しましょう。拒否権はありません。子供たちは「リトル・エージェント」として組織化し、歩合制のボーナスを設定。さらに、草の鮮度を保つための特殊な収穫用マジックアイテムを三千個、一晩で領外から買い叩いて揃えますわ。ええ、物流を物理的に封鎖してでも最優先で運び込ませます!)


数刻後、ベルシュタイン領は、かつてないほどの活気に包まれていました。数千人の子供たちが、アンナ流の「軍隊式収穫訓練」を学び、荒野や森へと散っていきます。


「いいですか、貴女たち! 草一本、葉っぱ一枚の欠損も許されません。お嬢様に納品するものは、世界で最も完璧な草でなければならないのです! 最も多く集めた者には、私の特製おやつを、そして最下位の者には……分かっていますわね?」


私は冷徹な声で子供たちを鼓舞し、同時に領内の文官たちを拉致同然で集め、草の検品ラインを構築しました。


「あ、アンナさん! 流石にこのペースは無茶です! 倉庫が足りません!」


「足りないなら、今すぐ空き家をすべて倉庫に改造なさい。予算? そんなものは、私の眼鏡が光っている間は『上限なし』ですわ! 木材が足りないなら、他領の商隊を足止めしてでも調達してきなさい!」


「ひ、ひぃっ! 承知しました!」


(ああ、お嬢様。貴女様が『買い占め』を望まれるなら、この領地から、いいえ、この大陸からその草の気配を消し去る勢いで集めてみせましょう。他領の商人が一本でも触れようものなら、私の『影の部隊』が経済的に、あるいは物理的に排除いたします。お嬢様の独占は、私が命を懸けて守る聖域なのですから)


お嬢様が「オフィス」でお茶を飲んでいる間に、裏ではベルシュタイン領の全経済活動が「雑草回収」の一点に集中されていました。道端に生えていた草は、今や金貨よりも価値のある「お嬢様の所有物」として、特殊な防腐処理がかけられた超高級倉庫へと次々と運び込まれていきます。


「アンナ、順調かしら? 皆、無理をしていない?」


「はい、お嬢様。領民たちは皆、新しい雇用が生まれたと、涙を流して喜んでおりますわ」


(実際は、あまりのノルマに嬉し泣きしている者も一部おりますが、結果的に彼らの懐は潤っていますから、嘘ではありませんわね。お嬢様の慈悲深さに、全領民がひれ伏すべきです)


それから一ヶ月。お嬢様の「全振り」は、完全に形となって現れました。領内にある魔力回復草の99.9%が、私たちの管理下に置かれたのです。周囲からは「辺境伯令嬢がゴミを集めて破産する」と嘲笑されましたが、私の眼鏡の奥にある計算式は、勝利へのカウントダウンを刻んでいました。


そして、運命の朝。王都から血相を変えた早馬が到着しました。


「アンナ! 大変! 王都で謎の高熱病が流行していて、この草が効くんですって!」


「左様でございますか、お嬢様。それは大変なことですわね」


私は、すでにその情報を数時間前に掴み、王都への物流ルートをすべて「アンナ権限」で閉鎖させた後で、お嬢様に微笑みかけました。


(さあ、来ましたわ。投資の回収時間です。一束、銅貨1枚だった雑草が、今や金貨1枚。資産は一気に千倍。お嬢様の先見の明が、世界を震撼させる瞬間です! 震えなさい、お嬢様をバカにしていた愚民共! 貴女たちが生き残るために必要なその草は、すべて、私のお嬢様の手の中にしかないのですわ!)


「価格交渉は、ベルシュタイン領の東の荒野まで、直接出向いてきなさい。そう伝えてちょうだい、アンナ」


「御意、お嬢様。交渉に来た薬問屋たちには、荒野の過酷な洗礼をたっぷりと受けていただきましょう。お嬢様に拝謁する前に、彼らの財布を空にする準備は整っておりますわ」


(お嬢様、貴女様はただ、その玉座で紅茶を啜っていればいいのです。交渉という名の『お剥ぎ取り』は、この私が、冷徹かつ徹底的に遂行いたしますから)


私は、お嬢様の後ろで静かに一礼しました。眼鏡の奥で、かつてないほどの凶暴な愛情と、勝利の悦びに満ちた炎が揺らめいていました。お嬢様の「全振り」を、私は最強の「暴利」へと変えてみせましょう。


お読みいただき、ありがとうございました。

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