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第14話:14年目の総仕上げ。要塞という名の愛の結晶

月日が流れるのは、光の矢のごとき速さでございました。あの日、六歳の誕生日にお嬢様が「全振り」を宣言されてから、十四年。鏡の中に立つのは、幼少期の愛くるしさをそのままに、大人の知性と「やり手経営者」の風格を兼ね備えた絶世の美女、二十歳になられたリーゼロッテお嬢様です。


(ああ、見てください、この神々しいお姿を! プラチナブロンドの髪は月の光を束ねたように輝き、サファイアの瞳には大陸の全経済を掌握する叡智が宿っています。この十四年間、お嬢様の美しさを維持するために、私は世界中の希少な美容成分を文字通り「根こそぎ」買い占め、専用の魔導美肌バスを二十四時間稼働させてきました。その努力が、今、ここに結実したのです! これなら、例の鉄血公とやらが軍勢を率いて現れても、その美貌の圧力だけで帝国の軍旗は折れ、馬たちは跪くことに間違いありませんわ!)


お嬢様が、断絶の谷にそびえ立つ難攻不落の要塞の最上階で、優雅に紅茶を啜りながら仰いました。窓の外には、十四年かけて一点投下で築き上げた、物理法則を無視した巨大な防壁が夕日に染まっています。


「滅相もございません、リーゼロッテ様。秘書室長として、明日の迎撃準備……いえ、お嬢様の『投資回収チェックメイト』の舞台が完璧に整ったことに、一抹の感動を覚えていただけにございますわ」


(迎撃? そんな中途半端な言葉では足りませんわ。お嬢様は『一点突破』を掲げられました。ならば、この要塞の地下には、たとえ地上から生物が消えても、お嬢様だけは百年は贅沢に暮らせるだけの食料と娯楽施設を、物量作戦で詰め込んであります。さらに、私が秘密裏に育成した三百人の『戦闘メイド軍団』。彼女たちの制服の下には、帝国の最新鎧を凌ぐ魔導アーマーが仕込まれております。お嬢様に指一本触れようとする不届き者は、影から物理的に消去する準備は万端ですわ!)


「ギルバート様……。あの飢えた野犬のようだった少年が、今や帝国を掌握した鉄血公、か。私の投資が、正しくリターンを生むかどうかの瀬戸際ね」


 お嬢様は、遠く帝国の国境方面を見つめ、不敵な微笑みを浮かべられました。あの日、離宮で甘やかし、教育し、ビジネス理論を「昔話」として叩き込んだ第四皇子ギルバート。彼は今や、漆黒の鎧を纏った軍勢を率いて、この谷へと迫っています。


(投資。ええ、まさにその通りですわ。お嬢様が彼に注ぎ込んだリソースは、帝国の国家予算数年分に匹敵します。もし彼がそれを裏切り、お嬢様に剣を向けるような『不良債権』に成り果てているのであれば……。私は超広範囲殲滅魔導兵器を起動し、帝国ごとスクラップにして差し上げますわ。お嬢様の愛を裏切る者に、この世に存在する権利などございませんもの!)


「アンナ、明日の朝のティータイムには、一番いい茶葉を用意しておいて。……戦場の真ん中で、彼と一緒に飲むことになるかもしれないから」


「畏まりました。……最高級の、それこそ『上限なし』の価格で競り落とした伝説の茶葉を準備させていただきます。どのような事態になろうとも、お嬢様のティータイムを妨げる雑音は、私がすべて物理的に排除いたします」


(お嬢様は、丸腰で彼の前に立つとお仰るのでしょうね。中途半端な武装は不要。己の確信こそが最大の盾。そのお姿こそが、お嬢様の矜持! ああ、痺れますわ! その勇姿を最高の角度から記録するために、私はすでに要塞の各所に三千個の録画用魔導具を配置済みです。お嬢様の勝利の瞬間を、未来永劫の聖典として残さなければなりませんから!)


「ふふ、頼もしいわね。アンナがいてくれれば、私は本当に自分のなすべきことに集中できるわ」


「光栄にございます、リーゼロッテ様。」


 お嬢様が部屋を去り、寝支度に入られた後、私は一人で指令室へと向かいました。そこには、私の「過剰なる教育」を受けた精鋭たちが、一睡もせずに計器を見つめています。


「秘書室各班、最終チェックよ。要塞の備蓄、メイド軍団の配置、およびギルバート公への『精神的圧力』としての花火の準備。一秒の狂いも許しませんわ。お嬢様の二十歳の勝負を汚す者は、私が直々に処理します。分かっておりますわね?」


「「「はい、秘書室長!」」」


(さあ、来なさい、ギルバート・フォン・ガーネット。お嬢様が育て上げた貴方が、どれほどの『価値』を持つ資産であるか、この断絶の谷で証明していただくわ。もしお嬢様を泣かせるような真似をすれば、この要塞そのものを貴方の頭上に落として差し上げますわよ)


私はメガネを指で押し上げ、暗闇の中で紅く光る計器を見つめました。十四年。長く、そしてあまりにも充実した過剰なる準備期間。すべては明日、お嬢様が最高の笑顔で「投資は大成功よ」と仰るその一瞬のために。ベルシュタインの影の支配者は、冷静な仮面の裏で、狂おしいほどの期待と愛情に震えていたのでした。


お読みいただき、ありがとうございました。

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