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17/25

17話

 梅雨入りして間もないものの、今日の夕暮れ前の空は鮮やかな薄橙に澄みきっていた。


 見渡す限りの蒼から橙へのグラデーションの中に白い雲が散在し、それらは、立ち並ぶ高層ビルの向こうに沈みつつあった夕陽によって頬を赤らめている。そして、赤面する彼らが見守る中、紅音と水鳥は自宅から少し離れた場所にある駅で電車を降りた。


 東京都屈指のターミナル駅でもあるそこは、改札を抜けると大勢の人混みがあった。人の群れを縫うようにコンコースを歩きながら、二人は南口の改札の方へ歩く。


「立川の方は始めて来たなぁ、私」


 紅音は黒マスクを摘まんで口許を空け、伊達眼鏡越しに水鳥を見てそう言った。


 すると水鳥もちらりと視線を寄越して「そうなの?」と呟いた後、こう続けた。


「私も、物心がついてからは初めてかな。プライベートで電車を使ったのは人生初だよ」


 紅音は嘘だろうと驚きつつ、同時に不信感も芽生えてしまう。


「……ええと、水鳥さんや。私を連れていきたい場所があると言ってた気がするんだけど」


 プライベートで初利用ということは、自分で訪れたことは無いのではなかろうか?


「大丈夫、大丈夫。初めて行くけど場所はしっかり調べてるから」


 それならいいが、いい加減、どこに行くかくらいは教えてほしいものである。『着いてからのお楽しみ』というのは、もっと千葉県の夢の国みたいに明らかに期待を煽る場所で聞きたい。


「それにしても、紅音は眼鏡も似合うね」


 誤魔化す意図がある訳ではないだろうが、水鳥が褒めてくるので紅音は気分を良くする。


「そぉ? 変装目的で着けてるから目立ち過ぎても困るんだけどね」

「黒マスク込みで丁度いい塩梅だと思う。髪型をマッシュにしたら渋谷で歩いてそうなくらい」

「お、いいね。今年のハロウィンはそれで仮装するかな」

「なんの仮装?」

「ドシタン・ハナシキコカ」


 そんな馬鹿話をしながらコンコースを南に抜け、歓楽街に挟まれながら更に南下していく。


 行き交う楽しげな人々や騒がしい車の群れの中、逆行するように次第に人気の無い場所へ。


「紅音はさ、Vtuberやってみようとか思わないの?」

「なに、もしかしてエスポワールに誘ってる?」

「別にそういう訳じゃないけど……紅音がやりたいなら氷室さんに話を通すよ。氷室さん、話してる感じだと相当紅音を買ってるから。多分、社長も流石に名前を覚えたと思うし」

「……まあ、興味が無い訳じゃないけどね。身バレのリスクは低減されるし。多分、配信者を始めた頃にその提案をされてたら飛び付いたかも。だけど、流石に今Vtuberをやりますってなったら中の人はバレバレじゃない? それは何だか、今の視聴者に悪いかな」


 何だかんだ、手を焼かされる厄介な視聴者たちだと思うが、同時に、視聴者もきっと、まだ若い紅音の言動に冷や冷やしながら見守ってくれていることだろう。そうしてお互いに積み上げてきた信頼関係というものに、愛着のようなものが無い訳でもない。


 そんな紅音の回答を聞き、夕焼けを帯びて朱の差した琥珀の目が細められた。


「紅音のそういう考え方、私はとても素敵だと思う」


 紅音は頬の紅潮を夕焼けのせいにして、すまし顔で「ども」と軽々しく言っておく。


「……そういや、私は二億円を稼いで残りの人生を謳歌するのが目的ですけれども。水鳥は? 前はあんまり話したくないみたいな話をしてたけど、配信活動は恩返しが目的だったんだよね? じゃあお金が貯まったらどうするかとかは、考えてるの?」


 照れ隠しに話題を逸らした紅音に、水鳥は腕組みをして真顔で考え込んで、こう答えた。


「特に何も考えてないかな。あ――でも、一つだけ」


 目を丸くして首を傾げて先を促す紅音に、水鳥は近くにあった店を指す。


「その前に、あそこに寄ってもいいかな」


 水鳥が指したのは、小さな花屋だった。






 花屋を出てからしばらく歩き、空が紫を帯び始めた頃にようやく到着したのは、霊園。


 開けられた狭い門扉を二人で抜けて中に入り、その厳かな空気に口を噤む。水鳥がスマホを睨みながら覚束ない足取りで砂利の上の石畳を先に進むので、紅音はマスクと伊達眼鏡を外しながら、黙ってその後に続いた。


 じゃり、と、どちらかの靴が石を踏む音と共に一斉に立ち止まる。


 そうして顔を上げた二人の前にあったのは、まるで百葉箱に笠を被せたような墓だ。


 階段が備えられている五十センチと少しはありそうな基礎の上に建てられた、二メートル前後のそれ。階段の手前にある石碑には『供養塔』と彫刻されている。塔の周りには献花台や焼香台が置かれており、仄かに残る線香の香りが夕暮れ時の初夏の風に届けられ、理解した。


 ――合祀墓、というやつだろう。漠然とした知識だけはある。


 個別のお墓を用意しない、または用意できない場合などに無関係の人を一緒に埋葬するためのお墓。水鳥の足がここに向かったということと、まだ、彼女の両親についての話を聞いたことがないこと。紅音はその二点を頭の中で結び付け、表情に緊張の強張りと悲壮の緩みを宿す。


 紅音は誰の墓であるかを聞くまでもなかったが、聞かぬまま迂闊なことも言えずに黙る。


 すると、察した水鳥が借りてきた手桶や持ってきた花をそのままに、立ち尽くして呟く。


「私の両親の墓」


 幾重もの感情と一緒に大量の疑問を飲み込んで、紅音はポツリと相槌を打った。


「……亡くなってたんだ」

「……あ、そっか。紅音にはそれも話してなかったっけ」


 そう語る口ぶりは思っていたよりも軽いので、「聞いてないね」と紅音も暗い雰囲気を払拭するように微笑を浮かべて軽々と返してやる。それから、線香を入れていたコンビニの袋を空けると、供養塔の階段を上って、その中にゴミを入れていく。「ありがとう」「うん」と言い合いながら軽い掃除を済ませた後、ついでに目立つ雑草を抜いておく。


 そして、二人で花を添え、献花台に水を差し、焼香台に線香を置いて、合掌。


 水鳥が何を思っているのかは分からない。だが、彼女の今を思えば、紅音は彼女の亡き両親を安易に弔おうという気持ちにもなれず、今はまず、彼女の言葉を待った。水鳥もこの墓を初めて訪れたということは、思うところは多かったのではないだろうか?


 実に一分近い祈りの末、顔を上げた水鳥は遠い目で供養塔を見詰めて呟く。


「――虐待されていたの、私」


 世界が歪んだ。次いで、自分が眩暈を覚えているのだと、紅音は遅れて気付く。


 気付くと自然と顔が歪み、眉根が寄って、震える唇を噛んだ。大量の悪態を呑み込む。亡くなった人物に対する哀悼の意は備えるべきだという常識と、しかし、最愛の友人に対して注がれ続けた加害の数々に折り合いを付けることができず、紅音は低い声で吐き捨てた。


「弔う必要、ある?」


 初めてここを訪れたということは、即ち、今まで水鳥も墓参りはできなかったのだろう。


 薄暗くなりつつある霊園で、紅音は水鳥の横顔を見る。琥珀の目には紫紺が差し、焦げ茶の髪は紅音と色の見分けも付かない具合だ。


 今日の慰労会を経て、何を思って紅音をここに連れてきたのかは分からない。或いは、一人では寂しかったから、一緒に来ようと思ったのかもしれない。だが、紅音に言わせれば、子供を虐待していた親が、子供に墓参りをしてもらおうなどと、虫がよすぎる。


 紅音の絞り出した悪態を聞いた水鳥は、悩ましそうに十秒ほど悩んだ。


「……分からない。取り敢えず、安らかに眠ってほしいなんて祈りは、捧げられないかな」


 紅音は安心した。彼女が、両親にまで持ち前の善意を働かせているのではないかと心配だった。静かに胸を撫で下ろして言葉を探す紅音に、水鳥は淡々と語り出す。


「さっきの、お金が貯まったらって質問も――答えは、両親の墓を建てたいってことなんだけど。一緒に眠る人に、酷いことをするんじゃないかって思ってて。だから、遺骨を回収できなかったとしても、どこか別の場所に眠らせてあげたいと思ってる」


 その口ぶりから、その両親が水鳥にどれだけ酷いことをしたのかを察することができた。


「もう、あんまり記憶も無いんだけど、私は七歳まで家に軟禁されていたみたい。ご飯は二人の余りものを床に投げられて、部屋を出たら殴られて、トイレだけは許してもらえたけど、お風呂は入れなかったなぁ――泣いても、声を出しても殴られて、ずっと部屋の中で、ゴミに描いてある絵を眺めてた。そんな毎日だった」


 紅音は胸の内に爆発的に広がる感情に振り回されながら、押し黙って耳を傾ける。


 怒りが滲む。できることなら彼女の両親を思い切り殴り倒したかった。


 悲しみが堪えきれない。今すぐ、水鳥の口を塞いで励ましてあげたかった。


 やるせなさを覚える。今になって何を思っても、もう、既に後の祭りだ。


 それでも紅音は多くの感情を呑み込むために唇を噛んで、拳を握り締め、どうにか胸の内でどうにもならないことを割り切って、ふっと力を抜く。目尻が熱かった。


「お父さんは元ヤクザで、お母さんは駆け落ちしたんだって。それで、お父さんが元々所属していた事務所から覚醒剤を買って、使い続けて、気付いたら二人で死んでいた」


 人が死んで良かったなどと口が裂けても言えないが、それで彼女が救われたという事実を紅音は噛み締めなければいけない。


「それで、お父さんの方は天涯孤独だから無理だったんだけど、お母さんの方は実家を探し当てることができたみたい。私を引き取ってくれないかって国の人が言ってくれたんだけど、結構、キッパリと断られたらしい。絶縁した娘だから、って。それで――」

「――児童養護施設に入った、と」


 紅音が言葉を引き継ぐと、水鳥は静かに頷いた。


「そこで初めて色々なことを教えてもらって、自分の環境が酷いものだってことを理解した。自分は両親に愛されていなかったし、愛してくれなかった両親が死んだという事実と、二度と会えないという事実もそこでようやく結び付いた。折り合いを付けられなかった。正直、ここに来たら取り乱すかもしれないと思ってたの。家族と楽しそうにする同年代の人たちを見る度に、自分が恵まれない人生を生きているんだって思いそうになって、途方もない自己嫌悪と、それに匹敵する嫌悪感を両親に向けそうになってた。だけど、」


 そこで言葉を区切った水鳥は、膿み始めた気持ちを深呼吸で洗い流す。


 相変わらずの無表情。しかし、水鳥は気持ちを紅音に伝えるように、薬指を繋いできた。僅かに強張って、僅かに冷たい指先を温めるように、紅音は指を繋ぎ返す。


「……思っていたよりも、私は落ち着いてる。あの人達には愛情も感謝も無いけれど、心配していたよりも嫌悪感も無い。両親の虐待が私の病気……離人症の原因だったらしいけど、今はそれも、ある程度は割り切れてる」


 言いながら水鳥が繋いだ薬指を持ち上げ、「君のお陰」と言ってくれる。


 紅音は泣きそうになる顔にどうにか笑みを浮かべ、誤魔化すように顔を逸らして目を右往左往させる。熱くくぐもった息を笑うように吐き出し、唇を噛んで、もう片方の腕を水鳥の背中に伸ばす。紅音が彼女に抱いている感情は複雑だ。その中には、言語化するのも恥ずかしい感情だってある。けれども今だけはそれを押し殺して、友愛に彼女の身体を抱き締めた。


 片手は薬指を繋いだまま、もう片方の手で、力強く水鳥の身体を抱き寄せる。


 とても華奢で柔らかい身体だった。力を込めたら折れてしまうのではないかというくらい儚く、きっと彼女にも自分の身体がそんな風に感じられているのだろうな、と思わせる。鼻腔には献花と焼香に紛れるようなシャンプーと柔軟剤の香り。吐息は首を熱く撫でる。


 驚いたように身を強張らせていた水鳥も、やがて、そっとその手を紅音の背中に置き返した。


 十秒ほど愛情を確かめ合うように抱擁を続けた後、紅音はそのまま告げる。


「教えてくれてありがとう」

「んーん、私が君に言いたかったの。君には全部、知っておいてほしかった。私の気持ちを汲み取ってくれて、私を感情的だと言ってくれた君に。全部を伝えたい」


 水鳥は全ての気持ちを伝えるように、抱擁を続け、薬指を繋いだまま、繋ぐ指に親指と人差し指と中指と、最後に小指。を、絡めた。全ての気持ちを曝け出すように。




「あのね――私、紅音が好き」




 唐突に、水鳥がそんな告白をした。


 耳元で囁くように告げられた愛の告白に、紅音は目を見開く。


 思わず水鳥の顔を確かめようとしてしまうも、きっと無表情なのだろうが、それでも水鳥は恥ずかしいのか、顔を隠すように腕に力を込めてそれを止め、紅音もそれを尊重する。


 抱き合ったまま、何秒かが経過した。緊張しているのだろう、水鳥の息が少し荒い。


 待望の告白だというのに、あんまりの衝撃に、紅音は喜ぶ余裕も無いまま、呆然と日が暮れていく霊園を眺め続ける。


「……紅音が、女性として好き。大好き。私を理解しようとしてくれた君が好き。私のご飯を美味しそうに食べてくれる君が好き。心配してくれる君が、心から好き。この好きは――キスとかをしたい方の、『好き』」


 紅音は半開きになった口から、不安定な空気が押し出されるのを知覚した。


 色々な感情で歪みそうになる顔を堪え、「うん」と、先ずはようやく相槌を打った。


 水鳥に好意を抱いていたが、胡桃沢の一件で水鳥がこの関係を恋人ではないと断言した時、失恋をしたと思った。だが、その後に胡桃沢に言い寄られた際、水鳥が手を握ったことに心が踊ってしまった。期待をしてしまった。


 期待した分だけ、報われなかった時に辛いと分かっていても、期待した。


 そして、自分から勇気を出して伝えるべきだった言葉を、待ってしまった。


 申し訳ない。そう思うのに、それ以上の嬉しさが紅音の胸に熱を宿す。そして、その熱を分かち合うように紅音を強く抱き締め、水鳥は心のままに言葉を重ねる。


「自分でも、自分の気持ちをよく分かってなかったんだけど――君が、胡桃沢さんに言い寄られている時、凄く嫌だった。そうやって止めるのは駄目だって分かってても身体が動いて、でも、君は手を握ったら止まってくれた。だったら、ちゃんと言わなきゃって思って……その前に、両親のこと、全部伝えるべきだと思って、ここに来たの」


 水鳥は繋ぐ手に力を込め、抱擁する腕を更に強くし、紅音の肩に顔を埋める。


 紅音はどうしようもなく彼女を愛おしく思う気持ちを表現する手段が他に思い浮かばず、今はただ、水鳥を固く抱き返して、お互いの体温が均されるまで、そうし続けた。


 果てに、水鳥は浅い呼吸を繰り返して呼吸を整えた後、抱擁を緩めて身体を離す。


 そして、紫がかった夕陽を帯びた表情のない顔で、けれども緊張に視線を俯かせた。


「もう、隠し事は無いよ。私は紅音が好き。ずっと一緒に居たい」


 水鳥の真っ直ぐな目が紅音を見詰める。


 紅音は照れくさくても、目を逸らさずに見詰め返した。


「私と、付き合ってください」


 紅音はその一言を噛み締めるように唇を噛んで、浅い呼吸を繰り返して考える。


 生まれてから今まで、誰かに恋愛感情を寄せた経験が無い。だから、漠然と水鳥を意識し始めていた頃、自分を同性愛者なのかもしれないと知って、少し戸惑った。社会的にどうこう、法的な結婚がどうこうなどと難しいことを考えるつもりは無かったが、当たり前のように自分は異性を好きになるのだろうとばかり思っていたから、これが本当に愛なのか、自信が持てなかった。自分が水鳥に抱いている感情は、果たして愛なのだろうか、と。


 しかし、彼女が胡桃沢に秘密を暴露された時、何を差し置いても傍に居たかった。


 彼女が胡桃沢を救いたいと言った時、気付けば彼女を支えようとしていた。


 彼女がこの関係性を友人と呼んだ時には締め付けられる胸があって、その後、手を握って止めてくれた時には、嬉しくなってしまう浅ましい心があった。そして今、告げられた彼女の言葉に、彼女と過ごす未来を想像してしまうから、もう、疑う余地は無かった。


 紅音が自らの心と向き合い、そして導き出した返事を紡ごうとした、その時。




 繋がっていた糸をプツンと断つように、霊園の静寂にスマホの振動音が紛れ込んだ。




 紅音が開きかけた口を、目を丸くしながら閉ざすと、水鳥はムッと口を閉じてポケットを叩く。「ごめん、私」と言いながら水鳥は紅音と繋いだ手を離し、抱擁する腕を外す。


 途端に寂しさを覚えた紅音が「締まらないね」と笑うと、水鳥は目を瞑って「ごめん」と繰り返す。そして、スマホに視線を落として再び口を噤んだ。


 そして、「氷室さんから電話」とだけ伝えると、そのまま着信に応じた。


「もしもし、若菜です。お疲れ様です。はい――大丈夫、ですけど、外です。はい。あ、そうです。紅音も一緒に居ます。はい…………なる、ほど?」


 水鳥はチラリと紅音の方を見る。紅音は何でも気軽に言いなさいと伝えるような笑顔で首を傾げ、それを受け止めた水鳥は視線を耳元のスマホに戻した。


「はい、それでは――そうですね、紅音にも一緒に聞いてもらいます」


 そう言って水鳥が通話をスピーカーモードに切り替えるので、紅音は慌てて「お疲れ様です」と通話口に話しかける。すると、向こう側から神妙な声色の氷室が「お疲れ様です」と応じた。それから、彼女は手短に経緯を説明してくれる。


「すみません、お取込み中に唐突にお電話をしてしまって。社用のツールでご連絡するべきではないかと思い、こういう形になりました。それで――その、少々、ショッキングと言いますか。込み入ったお話なので、若菜さんが望むのであれば穂積さんにも聞いていただこうかと」


 要点を得ない七緒の言い回しに「なるほど?」と紅音は首を傾げて水鳥を見る。


 水鳥は「君には丁度、全部話したからね。隠すようなことは無いよ」と言い切った。


「――とのことなのですが、その、私が聞いても本当に問題ないんですか?」

「そうですね、ただ――若菜さんのご家庭に関することをどれだけご存じかにも依ります」

「それは……丁度、両親が他界していることと、彼女に何をしたかまで。本人の口から」

「でしたら、ご一緒に聞いていただく方がいいかと。傍で、支えてあげてください」


 そう前置きをした七緒は、感情を噛み殺して不自然に平坦な声で本題を切り出した。




「簡単に申し上げますと――若菜さんの叔母を名乗る女性が現れました」



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