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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『生え変わり』

作者: 冬月トウジ

 

「あら、お帰りなさい。ずいぶん早かったのね。何よ、そんなに改まった態度で。言いたいことがあるならはっきり言いなさい。またその話なの。もう何十回、何百回と聞いているわ。そんなにチップタトゥーを身体に入れたいの?前から言っているじゃない。いくら若い子の間で流行しているからと言って、自分の腕や足に直接ICチップを埋め込んでそれをタトゥーに見立てるなんて。失礼だけどそれがどうしてオシャレにつながるのか、お母さんにはさっぱり分からない。しかも、チップを埋め込むためにいちいち手術することになるのでしょう?あまりにも危険だわ。え、元々体にICチップが埋め込まれているのだから問題ないって?たしかにあなたの少し上の世代から生体反応を察知するために出生時にチップを体内に埋め込むことが義務付けられたわ。チップ世代なんて呼ばれていたこともあったわね。でも、あのケースはきちんと政府が管理している研究所や研究者が集結して、安全が確実に確保されるようになってから発表された政策なのよ。何度も説明しているじゃない。もう本当に聞き分けのない子ね。一生のお願いなんて言われてもね…周りの友達も皆タトゥーが入っていて、自分だけ入っていなくて話に付いていけないのはもう勘弁してほしい?まあ、あなたの気持ちも分からなくはないわよ。そうね、なら一つ条件を出すわ。次の模擬テストで志望校の判定Aを取れたら考えてあげる。大丈夫、お父さんはお母さんが説得するわ。ただし、もしも点数が取れなかったらチップタトゥーの話は今後一切禁止よ。そのくらいの覚悟は当然あるのよね?交渉成立ね。用が済んだなら早いところ勉強に取り掛かりなさい。あなたはいつもエンジンがかかるのが遅いのよ。今回は早めに取り組みなさい。自分のためにも将来のためにもね。」


 とりあえず第一関門突破。ここまでこぎつけるのに本当に苦労した。それでも母を味方に付けられたのは大きい。家庭の実権の9割は母が握っている。その母を上手い事丸め込むことができた。一生のお願いなんていう子供だましも使ってみるものだな。まだまだ私のことを子供だと思って甘く見ている。そこに付け入る隙があったのだからよしとしよう。にしても、ずいぶんと今日は説明口調だったな。まるで視聴者に状況を説明しているニュースキャスターのような…。


 私は高校二年生。私立の進学校に通っている。先ほどの母との会話をかいつまんで説明すると、世間ではチップタトゥーというものが女子高生含め20代を中心に流行している。従来のタトゥーは身体に直接掘って着色するものである。が、この新時代のタトゥーはICチップによって柄や模様を作り出すことができる。さらに、タトゥーを消したいと思った時にはすぐ消すことができる。これが従来のタトゥーとの大きな違いである。その方法も簡単で、埋め込まれているICチップに触れ(指紋認証)刺激を伝達することでタトゥーを消したり別の柄のタトゥーを出現させたりすることができる。これなら気分や服装に合わせてタトゥーの柄も変えられる。私の友達も何人かはすでにチップタトゥーを入れたらしい。(もちろん学校ではタトゥーが浮かび上がらないように気をつけているとのこと。)とにかく約束してしまった手前、テスト頑張らないと。まあ色々と手は打っているから何とかなるだろうけど…とりあえず家じゃ集中できないから塾に行って勉強してくるか。


「まさか、本当に合格ラインの点数を取って来るとは思わなかったわ。そこまでチップタトゥーに本気だったとは思わなかった。見くびっていたわけではないけれど…。ここまで本気になって勉強するとも思っていなかったわ。でも、約束は約束。ちゃんとお父さんは説得するわ。なるべく早くお願いねって、そんな簡単に言わないでよ。まあできることはやってみるわ。とにかく、チップタトゥーのためとはいえよく頑張ったわね。」


 トントン拍子に話は進み、手術当日。両親は仕事であったため私は一人病院へ向かった。正直ここまでうまくいくとは思ってもみなかった。結論から言うと、勉強はした。ただ、いつもと同じくらいの量をこなしただけであった。では、どうして今回のテストでいい点数を取ることができたのか。そこには一つ仕掛けを施していたからである。仕掛けという代物でもないかもしれないが、前回までのテストは手を抜いていたのだ。つまり、これまでのテストで私は合格ラインにギリギリ届くか届かないかの点数を取り続けていたということである。お母さんの傾向的に何かしらの条件を出す場合、勉強に関しての要求が多いのはなんとなく察していた。そこで条件を上手いこと誘導してなんとかチップタトゥーを入れられるところまでこぎつけたのである。やっぱり流行の再最先端を進みたいじゃない。それにしてもこんなに計画通りにいくなんて。喜びよりも驚きの方が大きいかもしれない。大人なんて案外ちょろいのかも。なんてね…

 病院に到着して、受付に予約を入れた者ですと伝えた。元々連絡を入れていたため待合室に通された。数十分ほど待っていると7番にお入りくださいとアナウンスされた。


「お待たせしました。本日はチップタトゥーの手術を受けたいとのことで。最近本当に多くなりました。当院でも数十件施術をしました。ですから安心してください。ただ、一応義務として手術に関する説明をしなければなりませんので、こちらの資料をご覧ください。さーっと目を通すだけでも構いません。資料は念のためお持ち帰りください。それとこちらの誓約書にサインをお願いしてもよろしいですか?手術を受ける方全員にお願いしているものなので。特に深い意味はありません。こちらも義務的なものです。保護者のサインが必要かどうか?それはけっこうです。あくまでもチップタトゥーを入れるのはあなたです。手術を受ける本人の承諾が取れていれば問題ありません。ではこちらお預かりします。簡単な諸注意になりますが、術後2日か3日程度でタトゥーの柄は自然と浮かび上がります。そのタイミングでチップに触れると指紋認証は完了しますので、忘れずにお願いします。それと術後は麻酔の副作用で痛みや幻覚症状が発生する恐れがあります。その時はこちらの薬を飲んでください。それでも体調がすぐれない場合はもう一度病院にいらしてください。諸注意は以上になります。何か質問はございますか?特に無いようなのでこのまま手術に移ります。手術といっても注射を打つのとほとんど変わりませんが。すぐに準備いたしますので待合室でお待ちください。」


 手術自体は本当に簡単なもので、部分麻酔をして、そこに大きめの注射を打って終了となった。ものの5分とかからなかった。万が一術後痛みや幻覚症状が出た時のために薬を処方された。まだ右腕にタトゥーの柄が浮かび上がらないため、あまり実感が湧いてこない。今日が金曜日だから、早くて月曜日か。本当に待ち遠しい。嬉しさが込み上げてきて思わずスキップしそうになる。でも、術後だしあまり動かさない方がいいかな。そんな気持ちが入り混じり、私は右腕を左手で押さえながらスキップした。傍から見ればイタイ奴かもしれないが、今できる喜びの表現方法はこれしかなかった。まるで身体に電流が流れているかのようにビクビクしながら帰路についた。


 翌日。私はKくん(彼氏)との約束があったため最寄りの駅に向かった。集合したが特にこれといった用事もないため、駅に併設しているショッピングモールを散策することにした。歩きながらも、話題の中心となるのはチップタトゥーであった。


「それにしても思い切ったな。思い返せば、半年くらい前からずっと入れたい入れたいって言っていたもんな。でもよく親が承諾してくれたな。親に報告してみてどうだった?え、特に何も?手術費用が安かったことに驚いていたくらい?(笑)そんなもんよな。親なんて結局子供が何をやりたがっているか、何を求めているかなんてそこまで興味ないもんな。でも、よかったな。念願叶って。今日はお祝いだな。と言っても金ないからファミレスくらいしか行けないけど(笑)」


ファミレスに入り、ドリンクバーで乾杯をした。Kくんは一見適当に見えるが、一緒になって喜びを分かち合ってくれる人だ。今日みたいに。根が明るい性格だからこんな風に振る舞えるのかもしれないな。根暗な私はもっと見習わないと…。


「この後どうする?もしよかったら俺の家寄ってく?今日親いないから。」

珍しい。いつもは大体陽が落ちてきたら流れで解散しているのに。私の記念日をさらに上書きしてくれるのかな…。そんな淡い期待を胸に彼の家に向かった。


 家に着くと彼の部屋に通された。結構久しぶりに入った気がする。案外整理整頓されている。本棚に目を向ける。漫画ばっかり置いてある。たまには小説も読むように言わないとな。そんなことを考えていると急に後ろから抱きしめられた。


「急にごめん。でも、今日会った時からずっと我慢していた。とんでもなくいい匂いがして…いつもならこんな感情にはならないのに。」


そのままベッドに押し倒された。こんなに力が強かったのか。まだ心の準備ができていない。けれど、彼が求めてくれるなら…。このままどうなってもいい。私は恥ずかしさのあまり目を閉じた。しかし、押し倒された直後から何も進展がない。どうしたのだろう。ここまできて怖じ気づくのは男としてどうなんだ…。恐る恐る目を開けてみると、彼は私の右腕の匂いを嗅いでいるようだった。そして何かぶつぶつ呟いている。


「ガマンできない、ガマンできない、ガマンできない、ガマンできない…もういいよな…」


次の瞬間、彼は私の右腕に齧り付いた。頭の処理が追い付かない。やめて。私は右腕を必死で振った。それでも和樹は放そうとしない。ブチッ。何かが引きちぎられるような感覚と音がした。まさか。彼を見ると、私の右腕をムシャムシャと美味しそうに食べていた。とんでもない光景に声も出ない。ウソ。腕ってこんな簡単にちぎれるものなの?なんであんな美味しそうに腕を食べているの?そもそも腕っておいしいの?私はパニックに陥って、どんどん視界が狭くなっていった。視界が狭くなるにつれて痛覚なのか触覚なのかどちらかが敏感に反応しているような気がした。


気が付くと見知らぬ天井が広がっていた。起き上がると床に寝そべっていた彼が振り向いた。

「ようやく起きたか。部屋に入るなりいきなりベッドに倒れ込んだからびっくりしたよ。どうやら寝ているみたいだったからそのまま放置していたけど。疲れていたのかもなー。だいぶうなされていたし。とりあえずもう九時過ぎているから送っていこうか?大丈夫そう?オッケー。じゃあ気を付けて帰りな。」


家を出て家に帰る道すがら、色々と思い出していた。さっきの出来事は全て夢だったということだろう。右腕の感覚もいつもと変わらない。それにしても異様な夢だった。手術を担当した医師が言っていたのはこのことなのか。幻覚というかなんというか。おそらく麻酔の副作用的なものなのだろう。そういえば、一応薬を処方されていた。帰ったら飲もう。そして今日は疲れているみたいだから早めに寝よう…。


 月曜日。ようやくタトゥーの柄が浮かび上がってきた。このまま何も起きなかったらどうしようかと思っていたが一安心。一応お母さんには見せたが、元々チップタトゥーに反対していたこともあり反応は薄かった。まあいい。流行を理解してくれるのはこの世代ではない。私は足早に学校に向かうことにした。


 教室では、私がチップタトゥーを入れたという噂が広まっていた。そこまで言いふらしたつもりはないが、おそらくMちゃんに話したことで広まったのであろう。彼女はその手の噂話・ゴシップ好きの友達である。友達としては面白いのだが、ゴシップに関しての嗅覚が鋭いというかあまりにも貪欲なところはちょっと引いてしまう部分もある。多分流行に乗り遅れないことに必死になりすぎているのだろう。当然彼女の腕にもチップタトゥーが入っている。私が席に着くや否や、早速彼女が寄ってきた。


「おはよ。ようこそこっちの世界へ(笑)ようやく仲間入りね。ちょっとタトゥー見せてよ。いいじゃん減るものじゃないし。ふんふん。あなたの柄はこんな感じなんだ。けっこう和風って感じなのねー。まあまあいいじゃん。てかさ、柄が浮き上がってきたってことはあんたも体験した?何って、あれよ。腕がちぎられる夢。夢なのかどうかわからないけど。え?見てないから分からない?そっか。この夢に関しては見ている人と見ていない人がいるから、個人差があるのかなー。まあいいや。とりあえずタトゥーの写真撮らせて!」

チップタトゥーの写真を入手するというミッションを達成すると足早にどこかへ行ってしまった。私が言うのもなんだけど、彼女は流行にとり憑かれているように思えてならない。それにしてもチップタトゥーを入れた人はあの幻覚というか夢を見ているのか。彼女とはそこまで親しくなかったから嘘ついちゃったけど。もう少し情報が必要かも…。


 昼休みになりいつものようにYと昼食を摂ることにした。もちろんYもチップタトゥーを入れている。Yにだったら聞いてみてもいいかなと思いあの現象について聞いてみることにした。


「腕がちぎられる感覚かー。確かにあったかも。私の場合、夜寝る前だったような。金縛りみたいに身体が動かなくなって、黒い大きな怪獣?みたいなものが腕を取っていったのよね。でも朝起きたら普通に腕はついていたからさ。やっぱり手術した後だとその部位が気になっちゃうのかもねー。そういう考えが頭の片隅にあると夢となって記憶に入り込むのかも。まあ痛みとかなければそこまで気にする必要ないと思うよー。今更だけどさ、食事中にする話じゃないよね(笑)全然私は平気だけどさ。てか、彼氏の部屋で寝るとか超憧れる…。」


その後は話が逸れてしまったけど、Yも同じような体験をしていたということは把握できた。少しホッとした。チップタトゥーを入れた人にとっては通過儀礼的な出来事なのだろう。正直私だけだったらどうしようかと思っていたから…お医者さんも幻覚が見えることがあると言っていたしな。ただ、さすがにあのことだけは菜々子にも聞けなかった。恥ずかしさもあるし、何より私の全てをさらけ出さなければならないような気がしたから…。


 チップタトゥーを入れてから二週間ほどが経過した。大分見慣れてきたというか、日常にタトゥーが溶け込み始めてきた。学校ではタトゥーを隠しつつ、お出かけする時はオシャレとしてタトゥーを浮かび上がらせる。周囲の視線を受けながら街中を歩くことにも慣れてきてしまった。念願だったチップタトゥー。流行も先取りできた。羨望の眼差しも十分に受けた。だけど、満たされない。その理由はなんとなく分かっていた。それは、問題のあの日。Kくんに右腕を食いちぎられた幻覚を見た日。私は人生で初めてエクスタシーを感じた。あの時感じたのは痛みなどではなかった。腕をちぎられた瞬間言葉では表現できないほどの快感が私を襲ってきた。だから意識が飛んでしまったのだろう。こんな快感を覚えてしまっては今後やることは決まったようなものである。私は左腕にもチップタトゥーを入れることを決めた。そのためにいつもよりバイトのシフトを多めに入れた。幸いにも私のバイト代で賄える程度の手術費用であること。さらに、保護者の承諾がいらないことも私をやる気にさせた。初めて生き甲斐を見つけたような気がした…。


 一か月間必死に働いて、左腕にもチップタトゥーを入れた。高揚感で胸がいっぱいだった。和樹にすぐ連絡を入れた。明日は土曜日だから、また前回みたいに誘ってくれることを期待していた。その日バイトだわ。途端に落胆した。私はこの日のために頑張ってきたのに。あの快感を味わえなければ意味がないのに。いっそのこと自分でちぎってみようか。でもそれはそれで怖いというか…。やっぱり誰かにやってもらわないと…。


 次の日になっても立ち直れなかった。このままじゃいけない。とりあえず気分転換もかねて出掛けよう。たまには一人でいつものデートコースを回るのも悪くないかもしれない。


ショッピングモールはいつものように混雑していた。一人で回るといってもどの店に行くか迷ってしまう。服を見つつ本屋にでも寄るか。そろそろ衣替えの季節だし…こういうワンピースも欲しいな。適当に服を物色していると後ろから声がした。


「お姉さん。その服買うんですか?急に声をかけてしまってすみません。お姉さんがあまりにもタイプだったので。良かったらお茶でもしませんか?」


てっきり店員さんかと思ったが、どうやらナンパみたいだ。今までこんなことなかったというのに。彼氏と一緒にいないとこんな風に声をかけられるものなのか。彼氏がいることを伝えて断った。本屋に向かい新刊コーナーで足を止めた。いつもミステリー作品ばかり読んでいるから、たまには青春小説や恋愛小説あたりを読もうかな。何気なく一冊手に取るとまた後ろから声をかけられた。


「お姉さん。その本買うんですか?急に声をかけてしまってすみません。お姉さんがあまりにもタイプだったので。良かったら連絡先交換しませんか?」


こんなに頻繁に声をかけられること今までなかったのに。どういうことなのだろう。その後も行く先々で声をかけられた。これがチップタトゥー効果なのだろうか?でも学校でもこんな反応を男性から受けることはなかった。色々と考えながら歩いていたら誰かにぶつかってしまった。すみません、と咄嗟に謝って顔を上げた。


「こちらこそ。ぼーっと歩いていたみたいでごめんね。怪我とかしてない?もし良かったらうちすぐ近くだけど寄っていかない?」


まただ。でもこの人の発言には耳を傾けてしまった。なぜならとてつもなくタイプの顔をしていたから。本当は良くないことなのは分かっている。Kくんに心の中で謝りながら私は気が付くとその人の家にいた。家に入ると、それまで優しかったお兄さんが豹変した。そう、この間のKくんみたいに。私はこうなることを期待していたのかもしれない…。


そして、またベッドの上で左腕を食いちぎられた。またもやとてつもない快感が私の体を襲った。これが私の望んでいたもの。まるで身体に電気を流されたかのような感覚だった。私の左腕をムシャムシャ食べているお兄さん。今回は意識を失わないようにしようと試みた。しかし、視界がどんどん狭くなっていった…。


 起きるとそこはベッドで、お兄さんがいた。この間と全く同じ展開。お兄さんいわく、やはり私は家に入りベッドに横たわった瞬間にぐっすり眠ってしまったらしい。当然左腕は生えていた。挨拶もそこそこに家を後にした。とにかく、またあの快感を味わえたことに感動すら覚えた…。


 人間とは欲深いもので、一度の快楽では満足できなくなってしまうものだ。その後、私は右足と左腕にもチップタトゥーを入れた。理由はお察しの通りである。それとKとはもう別れた。罪悪感という面もあるが、チップタトゥ―を入れた直後に共通して発生することが関係している。それは、異常なほど男性から声をかけられるようになるのだ。特に術後1日から2日にかけてである。モテるようになったというかモテてしまうというか、無意識に男性が寄って来るようになった。これもおそらくチップタトゥーの副作用なのだろう。(ゆえに彼氏が必要なくなったといっても過言ではない。)さて、つぎはどこにチップタトゥーをいれようかな。最近私の頭の中はそのことでいっぱいである…。

 「本当にいいですね?後悔しませんね?私も数多の手術をしてきましたが、首に入れようと試みる人はあなたが初めてです。何があっても責任は持てませんよ?」

そんなことを言っても私の気持ちは揺るがない。大体医者は手術が失敗した時の保険をかけたがる。なぜなら、術後に患者から文句を言われたくないし、それによって医者としての評判を落とされたくないからである。患者が了承しているのだから言われた通りにやればいいのだ。もう私の生き甲斐としてチップタトゥーが確立しているのである。内側から湧き上がってくるこの衝動を抑えられない。自分自身でも抑え込む方法が思いつかない。だから早くチップを入れてくれと伝えた。


 「お姉さんこの後暇してる?良かったら家来ない?」

いつものように声をかけられ家に着く。ベッドに招かれて男は私の首にかぶりついてくる。その刹那、電流が私の身体を襲う。同時にとてつもない快感がやってくる。この電流が快感の正体だったのかな?…そんなことを考えながら私の視界はどんどん狭まっていった…。


 次のニュースです。本日正午、F通り商店街で切りつけ事件が発生しました。警察によりますと、通りを歩いていた男女5人が果物ナイフで切り付けられたとのことです。なお犯人はすでに逮捕されており、20代の男性であるとのことです。男は警察の調べに対し、「自分でもよく覚えていない。ただ、何か強い電流のようなものが流れた気がして…それに導かれるように身体が反応しただけだ。」

と意味の分からない供述を繰り返しているとのことです。切り付けた5人との接点はないことも判明し、警察は無差別的な犯行と見て調査を続けていくとのことです。



 こちらは昨年、『星新一文学賞 短編部門』に応募した作品です。読み返してみると、前半部分の設定を説明する部分が長いように感じました。自分の未熟さを痛感しております。

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