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『孤独な魔女と剣を捨てた魔剣士は、静かに愛を育む』

作者: 吉本アルファ

氷の魔女と魔剣士の物語


【序章:氷の森】

フレッグは、その日も一人、深い森を進んでいた。オレンジ色の髪は、森に差し込む木漏れ日に照らされて、燃えるように輝いていた。彼は、腰に佩いた魔剣に軽く触れた。この剣は、彼が故郷を追われ、復讐の旅に出てから、唯一の相棒だった。


フレッグは、追放された魔女の一族を探していた。彼らの一人が、かつて彼の故郷を滅ぼしたのだ。その憎しみと復讐心だけが、フレッグを旅へと駆り立てる原動力だった。


進むにつれて、森の様子は異様さを増していった。足元の土は凍りつき、葉をつけたままの木々が、まるでガラス細工のように透明な氷に覆われている。不自然なほど静まり返った森の空気は、キンと冷えていた。


「…この気配は」


フレッグは足を止め、剣に手をかけた。魔力の気配だ。それも、ただの魔法使いではない、桁外れの、しかし不安定な魔力だった。それは、かつて故郷を滅ぼした魔女の力によく似ていた。フレッグの心臓が、復讐への高揚で早鐘を打つ。


森の奥から、か細い声が聞こえた。


「お願い…やめて…」


フレッグはその声のほうへ駆け出した。氷の森のさらに奥、地面にひび割れた氷の板が突き刺さる空間の中心に、一人の少女が立っていた。彼女の長い水色の髪は、まるで氷の結晶のようにきらめいていた。


彼女は両手を前に突き出し、泣きながら、それでも必死に何かを拒絶しているようだった。彼女の周囲には、無数の鋭利な氷の刃が、まるで生け垣のように立ち並んでいる。少女は、自分の周りのすべてを凍りつかせている張本人だった。


フレッグはゆっくりと剣の柄から手を離し、警戒心を解いた。敵意はない。ただ、圧倒的な恐怖に怯えているだけに見えた。


「おい、大丈夫か」


その声に、少女はビクッと体を震わせ、青い瞳でフレッグを見つめた。その瞳には、恐怖と絶望が入り混じっていた。


「…近づかないで。触らないで…」


彼女の声は、か細く、まるで凍てつく風のようだった。


「…私の魔力…みんな…壊してしまうから…」


シャルーテ。それが、彼女の名前だった。彼女は、自分の魔力を制御できず、その力に怯えていた。心の状態が、そのまま魔法の規模になる彼女にとって、感情の揺らぎは周囲を破壊する力へと変わってしまう。彼女は、他者を傷つけることを恐れ、孤独を選んだのだ。


フレッグは、眉をひそめた。故郷を滅ぼした魔女は、冷酷で、人間を虫けらのように扱う存在だった。しかし、目の前の少女は、ただ怯えている。彼女の涙が、頬に触れた途端、小さな氷の粒となってこぼれ落ちていった。


「お前は、この力を恐れているのか」


フレッグはそっと手を差し伸べた。 「俺は、お前を傷つけるつもりはない。それより、そのままだとお前自身が凍りつくぞ」


シャルーテは、信じられないものを見るようにフレッグの手を見つめた。彼女の人生の中で、彼女の力に恐れを抱かず、手を差し伸べてくれた人間はいなかった。フレッグの手は、彼女の魔法とは対照的に、温かく、力強かった。


「…どうして…怖くないの…?」


フレッグは淡々と答えた。


「俺の故郷を滅ぼした魔女の力に比べれば、お前の力はまだ制御できる。だが、このままではいつか本当に誰かを傷つける。お前は、どうしたいんだ?」


シャルーテは言葉に詰まった。彼女が望むのは、ただ一つ。この呪われた力から解放されること。誰かを傷つけず、穏やかに生きたいという願いだけだった。


「…制御、したい…」


そのか細い願いを聞き届けたフレッグは、剣の柄を握り直した。復讐の対象ではない。この少女は、故郷を滅ぼした魔女とは違う。彼女は、力に抗おうとしている。その姿が、彼の心の奥底に眠っていた何かを揺さぶった。


「…わかった。お前の力の制御、手伝ってやる」


シャルーテは驚いたように顔を上げた。


「でも、あなたは…魔女を…」


フレッグは静かに言った。


「俺は、故郷を滅ぼした魔女を追っている。だが、お前は違う。お前は、自分の力と戦っている」


フレッグは、シャルーテの周りを囲んでいた氷の壁を、魔剣の一撃で粉々に砕いた。その力強い一撃に、シャルーテは目を丸くした。


「旅に出よう。そして、お前の力と、お前の心と向き合うんだ。お前はもう、一人じゃない」


シャルーテは、フレッグの言葉に涙を流した。それは、もう恐怖の涙ではなかった。温かい、感謝の涙だった。彼女は、そっと差し出されたフレッグの手を握った。冷たい彼女の指先が、フレッグの温かさに触れる。その瞬間、彼女の心が少しだけ温かくなった。


こうして、孤独な魔剣士と、力を恐れる氷の魔女の、奇妙な旅が始まった。彼らは、互いの過去と向き合いながら、心を分かち合っていくことになる。そして、この旅の先に、彼らを待つ強大な敵、雷の魔女ベルサの存在を、まだ誰も知る由もなかった。






氷の魔女と魔剣士の物語


【第一章:絆の萌芽】

フレッグとシャルーテの旅は、決して穏やかなものではなかった。 シャルーテの魔法は、相変わらず不安定だった。少しでも感情が揺らぐと、彼女の周囲はたちまち凍りつき、道端の草木を氷漬けにしてしまう。フレッグは、その度に無言で魔剣を振るい、道を切り開いた。彼は、彼女の魔法を制御する方法を模索しながらも、まずは彼女の心の平穏を保つことを第一に考えた。


「あの…ごめんなさい」


旅の途中、シャルーテは力なく呟いた。彼女はまた、魔法を暴走させてしまったのだ。


「…また、道を…」 フレッグは、背を向けたまま答えた。


「謝るな。俺は、お前の荷物持ちじゃない。剣士だ」


彼の言葉は、一見冷たく聞こえるが、シャルーテは彼の真意を理解していた。彼は、彼女が自分を責めないように、あえてぶっきらぼうな言葉を選んでいるのだ。


「お前は、自分の心を描け。俺に任せろ」


フレッグは、前方に立ちはだかる氷の壁に魔剣を向けた。それは、シャルーテがうっかり作り出してしまった、高さ数メートルの氷の塊だった。


「俺は、お前の剣だ。お前の心を描いた魔法の、道を切り開く」


そう言って、フレッグは一閃。氷の壁は、美しく砕け散り、太陽の光を反射させてきらめいた。


旅を続ける中で、二人の間には、言葉にはならない絆が芽生え始めた。 ある日、彼らが立ち寄った街で、フレッグは子供たちに絡まれていた。その子供たちは、フレッグの魔剣を見て、冷たい視線を向けていた。


「魔女殺し!」


「人殺しの剣だ!」


魔剣士という職業は、人々に恐れられ、嫌悪される存在だった。フレッグは、慣れた様子でその言葉を無視しようとした。


その時、シャルーテがフレッグの前に進み出た。


「その人は…違う…」


彼女は震える声で言った。


「この人は…優しい人…」


子供たちは、シャルーテの言葉に、一瞬戸惑いの表情を見せた。彼らは、氷の魔女の噂を知っているのだろう。恐れから、すぐにその場を離れていった。


「どうして…庇ったんだ」


フレッグは、少し驚いたようにシャルーテを見た。


「だって…あなたが優しいから…」


シャルーテは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。


彼女は、フレッグが夜中にこっそり、街の子供たちのために、壊れたおもちゃを直している姿を知っていた。彼は、人には言えない優しさを、いつも行動で示していた。シャルーテの心は、少しずつ、フレッグの温かさに触れて、温かさを取り戻していった。


その夜、シャルーテは眠れずにフレッグに話しかけた。


「ねえ、フレッグ…あなたの故郷を滅ぼした魔女は…どんな人だったの?」


フレッグの顔から、一瞬、温かさが消えた。彼の瞳に、憎悪の炎が燃え上がる。


「…冷酷で、人間を虫けらのように扱う、化け物だった」


シャルーテは、その言葉を聞いて、胸が締め付けられるような痛みを感じた。彼女は、自分もまた、いつかフレッグにとって、そのような存在になってしまうのではないかと、恐れた。


「でも…私は…」


「お前は違う」


フレッグは、シャルーテの言葉を遮った。


「お前は、この力を制御しようとしている。苦しんでいる。お前は、故郷を滅ぼした魔女とは違う」


フレッグは、シャルーテの頭にそっと手を置いた。その手は、かつて魔剣を振るい、復讐の炎に燃えていた男の手とは思えないほど、優しかった。


この旅は、フレッグにとって、復讐のためだけの旅ではなくなっていた。彼は、シャルーテを守るという、新たな目的を見出していた。そして、シャルーテにとって、この旅は、自分自身の力と向き合い、孤独から解放されるための旅だった。二人の間には、確かな絆が築かれていた。


しかし、その絆が試される時が、近づいていた。






氷の魔女と魔剣士の物語


【第二章:雷の魔女、ベルサ】

二人の旅は順調に進んでいた。シャルーテは、フレッグの支えのおかげで、少しずつ自分の心と向き合えるようになっていた。感情の波は依然としてあるものの、その度にフレッグが寄り添い、彼女の心を静める手助けをした。彼女の魔法は、以前よりも繊細で、意図した通りの形をなすことが増えていた。


「見て、フレッグ」


シャルーテは、手のひらの上で小さな氷のバラを作り出した。それは、ガラス細工のように精巧で、光を浴びてきらめいていた。


「すごいな」


フレッグは素直に感嘆の声を上げた。


「…前は、ただの氷の塊しか作れなかったのに」


シャルーテは少し寂しそうに微笑んだ。彼女の魔法は、心の状態そのもの。この美しいバラは、彼女の心が少しずつ平穏を取り戻している証だった。


その日、二人は開けた平原に差し掛かった。見渡す限りの地平線が広がり、風が草を揺らしていた。そのとき、遠くの空に黒い雲が湧き上がり、雷鳴が轟いた。


「フレッグ…?」


シャルーテは不安そうに空を見上げた。その雲は、一箇所に留まり、二人のほうへ向かってくる。ただの嵐ではない。その雲からは、圧倒的な魔力の気配が感じられた。


雷鳴が近づくにつれ、地面に稲妻が走り始めた。まるで、生きているかのように地面を這い、二人の足元をかすめる。


「面白い組み合わせね。氷と炎、かと思ったけど、あなたはただの魔剣士のようね」


空から、少女の声が響いた。二人が見上げると、黒雲の中から一人の女が降りてきた。金色の長い髪を風になびかせ、緑の瞳は雷のように鋭く光っていた。彼女こそ、雷の魔女ベルサだった。


「その魔剣…確か、私の獲物だったはずよ」 ベルサは、フレッグの腰にある魔剣を指差した。フレッグは警戒して剣の柄に手をかけた。ベルサの魔力は、故郷を滅ぼした魔女に匹敵する、いや、それ以上かもしれないとフレッグは感じた。


「…何のつもりだ」


「あなたたち、私の邪魔よ」


ベルサは冷たく言い放ち、一瞬にしてフレッグの目の前から姿を消した。雷の速度。その速さに、フレッグは反応できない。


「遅い!」


次の瞬間、ベルサはフレッグの背後に現れ、雷をまとった拳を振り下ろした。フレッグは辛うじて魔剣でそれを受け止めたが、衝撃で体全体が痺れる。


「フレッグ!」


シャルーテは叫び、咄嗟に氷の壁を創った。強固な氷の壁が、ベルサとフレッグの間を遮る。


「そんなもの、意味がないわ」


ベルサは嘲笑いながら、雷の一撃を放った。雷撃が氷の壁にぶつかると、壁はまるでガラスのように粉々に砕け散った。シャルーテの得意な防御魔法が、全く通用しない。


「…私の魔法が…」


シャルーテは膝から崩れ落ちそうになった。彼女の想像力を具現化した氷の壁が、ベルサの力の前では無力だった。


「それが、あなたの想像力の限界?」


ベルサは、その言葉でシャルーテの心を深く抉った。


フレッグは、痺れる体を奮い立たせ、ベルサに突進した。だが、ベルサはまたしても雷のスピードで彼の攻撃をかわし、フレッグの剣の届かない場所から、容赦なく雷撃を放つ。


「お前ら二人では、私には勝てないわ」


ベルサは冷酷に言い放ち、再び雷撃を放った。それは、シャルーテの目の前で、フレッグの胸を貫こうとしていた。


その瞬間、シャルーテの心に、強い恐怖と怒りが湧き上がった。


「やめて!」


彼女の絶叫とともに、地面から無数の氷のトゲが、雨のようにベルサに降り注いだ。それは、これまでで最も大きく、鋭い魔法だった。


ベルサは驚き、その氷のトゲを避けようと後退した。しかし、彼女の動きは、わずかに遅れた。その隙に、フレッグは魔剣を振るい、ベルサの横腹を浅く斬りつけた。


「…よくも」


ベルサの顔から笑みが消え、激しい怒りがこみ上げてきた。


「その力を…私に捧げなさい!」


ベルサはさらに強大な雷撃を放ち、大地を揺るがせた。フレッグはかろうじてシャルーテを抱え、その場から退避した。


二人の前に、強大な敵、ベルサが立ちはだかった。彼らは、この圧倒的な力の差を、どうやって乗り越えるのだろうか。そして、シャルーテがこの戦いで使用した、心のすべてを削るような魔法は、彼女の精神にどのような影響を与えるのだろうか。






氷の魔女と魔剣士の物語


【第三章:最後の戦い】

ベルサとの最初の戦いから数日、フレッグとシャルーテは、廃墟となった教会で身を潜めていた。 「…ごめんなさい、フレッグ。私の魔法が、通用しなくて…」 シャルーテは、力なく呟いた。ベルサの圧倒的なスピードと雷撃は、彼女の心の支えだったフレッグを苦しめ、そして何よりも、自分の魔法を無力なものだと突きつけた。


フレッグは、シャルーテの言葉に静かに答えた。


「お前のせいじゃない。俺たちの連携が、まだ足りなかっただけだ」


彼は、ベルサとの戦いを何度も頭の中で反芻していた。ベルサの動きは速いが、決して無敵ではない。彼は、彼女の動きに、わずかな癖があることを見抜いていた。雷の速度は、常に直線的で、予測可能なのだ。


「シャルーテ、お前には、あの女にはない力がある」


フレッグは、シャルーテの手を握った。冷たい彼女の手は、以前よりもしっとりと温かい。


「それは、想像力だ。お前が心に描いたものが、そのまま魔法になる」


フレッグは、静かにシャルーテに語りかけた。


「俺は、剣で雷を断ち切ることはできない。だが、俺が奴の動きを止める。一瞬でもいい。その一瞬に、お前の想像力のすべてを込めるんだ。お前の心を信じろ」


フレッグの言葉に、シャルーテの瞳に光が戻った。彼女は、フレッグの言葉を信じた。そして、彼女は、これまでで最も大きく、最も鮮明な想像力を心に描いた。それは、二人の未来を、そしてフレッグを守る、ただ一つの願いだった。


ベルサは、二人が隠れている教会を見つけ出した。彼女は、まるでゲームを楽しむかのように、教会の上空に浮かんでいた。


「もう隠れるのはやめたのかしら?」


ベルサの声が、雷鳴とともに教会に響く。 フレッグは、シャルーテを背中に庇い、一歩前に出た。


「お前を倒す」


「愚かね。あなたは私に勝てない。あなたの剣は、雷には届かない」 ベルサは、嘲笑いながら、無数の稲妻をフレッグに向かって放った。


フレッグは、その全てを魔剣で受け止め、捌き続けた。魔剣士として培ってきた経験と技の全てを、この戦いに注ぎ込んだ。


「…どうしたの?もう終わり?」


ベルサは、フレッグが消耗していくのを楽しみながら、容赦なく攻撃を続ける。


フレッグは、わざと無防備な隙を見せた。ベルサは、その隙を見逃さなかった。


「もらったわ!」


ベルサは、雷をまとった拳を振り下ろす。その一撃は、フレッグの心臓を狙っていた。


その瞬間、フレッグは、ベルサの動きの癖を利用し、一歩だけ横にずれた。雷撃は、彼の利き腕に命中した。骨が軋む音が響き、彼の右腕はだらりと垂れ下がった。だが、彼はベルサの動きを止めた。


「…馬鹿な」


ベルサは、まさか自分の攻撃をあえて受けるとは思っていなかった。その一瞬の隙に、フレッグは魔剣を握りしめ、ベルサの足元に、最後の力を込めて突き刺した。魔剣から、魔力が大地に流れ込む。それは、シャルーテへと伝わる、最後の合図だった。


「…今だ、シャルーテ!」


フレッグの叫び声が、シャルーテの心を揺さぶった。彼女は、震える手で、心の全てを魔法に込めた。


「…フレッグを…守る…!」


その声とともに、地面から無数の氷の鎖が、ベルサを捕らえた。それは、かつてないほどに太く、強固な鎖だった。


「こんなもの、すぐに砕いてやる!」


ベルサは、雷撃を放ち、鎖を破壊しようとする。しかし、鎖は、彼女の雷撃を受けても、決して砕けない。それは、ただの氷ではない。二人の絆が想像力となって具現化した、愛の結晶だった。


「…馬鹿な…どうして…」


ベルサは、その氷の鎖に閉じ込められた。彼女は、雷撃を放ち続けたが、鎖は、その全てを吸収し、その場に留まり続けた。


ベルサは、二人の絆という想像力に、敗北したのだった。


【終章:静かなる結末】

戦いは終わった。しかし、その代償は、あまりにも大きかった。 フレッグは、右腕を失った。もう、彼は魔剣を振るうことはできない。魔女への復讐を成し遂げた代償として、彼は、その人生の全てだった剣を失った。


シャルーテは、魔法を使いすぎた代償として、精神に多大な負荷を負った。彼女の心は、深い霧の中に沈み、外界の刺激を受け付けなくなった。彼女は、ベッドから動くことができなくなり、車いすでの生活を余儀なくされた。


彼らは、静かな森の奥にある、小さな家に身を寄せた。そこは、かつてシャルーテが力を制御できずに作った、美しい氷の家だった。


フレッグは、もう剣を握ることはない。彼は、不器用ながらも左腕で、シャルーテの世話を続けた。食事を作り、彼女の髪を梳き、彼女の手を握り続けた。


シャルーテは、言葉を発することはない。しかし、彼女の瞳は、静かにフレッグを見つめていた。彼女の心には、もう激しい感情の波はない。ただ、彼がそばにいる温かさだけが、微かに感じられた。


ある日、フレッグは、シャルーテの手に、小さな氷のバラが握られているのを見つけた。それは、彼女がかつて、フレッグに見せてくれたものと同じ、精巧で美しい氷のバラだった。


彼女は、まだ、生きていた。 彼の温かさに触れ、彼女の心は、少しずつ癒されていた。


物語は、ここで終わる。 彼らは、世界を救った英雄ではない。ただ、愛と絆の力で、お互いの人生を救った二人だった。


この物語は、ハッピーエンドではないかもしれない。だが、これは、真実の愛の物語だ。彼らは、すべてを失っても、互いを見つけ、支え合い、そして静かに生きていく。


これが、氷の魔女と魔剣士の、静かなる結末だった。

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