第九話
学内は騒然となった。もちろんこのことはニュースにも取り上げられた。今だって、夕方のニュースでやっている。
「次のニュースをお伝えします。都立高校で33歳の教師、増渕実容疑者が強制性交等罪、暴行罪の疑いで逮捕されました。警察によりますと増渕容疑者は、教師をしながら被害者の女子学生に執拗なストーカー行為をしていたとのことです。被害者は生徒であることからニュースを続けます======」
新田さんは実はモデルをやっているらしくて、ストーカー被害にあったりすることは前々からよくあったそうだ。だけど今回のようなことは今までなかったらしく、お礼をしたいと言われた。発見したとき暗かったけど、たしかに顔は整っているなとは思った。
学校も学校で、被害者が犯人である増渕先生は懲戒免職にするということは保護者には伝えてはいるものの、抗議の電話が鳴り止まないそうだ。曰く、レイプ犯がいるような学校に自分の子供を安心して通わせられない、教師側の教育はどうなっているんだ、などなど。
俺は親じゃなかったからわからないけど、親だったら安心して子供を通わすなんてできないだろうなって思った。しかも、3年の先生っていうことだから単位をたてに関係を迫られたらなんて考えることもできるわけだし。
そんなわけで学校は生徒の安全を守るため、という体で保護者からのクレーム対応と説明会を開くために10日間ほど休みとなった。もちろん部活動も休みになるわけで、暇を持て余した翠からストバスをしないかって連絡が来た。待ち合わせはファストフード店で、そこで昼を食べてから運動する流れだ。
「にしても怖いよなー。俺増渕先生の授業受けたことあるけど、優しそうな先生だったのにな…人間って怖ぇ」
「あんま大きな声で言うなよ」
「あ、そっか。わりぃ」
がっつり今話題の人物を大声で喋る翠に注意したけど、本人はなんとも思ってないようで軽いノリで謝られた。
「で?ヒーローになったあきひでくんの感想はなんですか?」
「もっと早く気づけば傷が浅くなったのに、ていうか俺はヒーローでもなんでもない。本人からは事後に気づいたわけじゃなかったからヒーロー呼ばわりされてるだけで、俺としては全然間に合ってない」
「まぁ…そうか。でもやっぱ俺ショックだよ。身の回りでそんなこと起こるなんて思ってないし」
俺は警察官だった手前そういう場面に何度か出会したことがあるけど、気持ちのいいものではない。被害者が女であっても、男であっても嫌な気持ちにしかならない。特に子供が性的対象に選ばれた場合なんて悲惨、なんて言葉じゃ言い表せない。
「なら翠も助けられるようになったらいいんだよ」
「えー…警察官とかになるってこと?んー考えとく」
ちょっとしんみりしてしまったが、しょうがない。もそもそと互いに口数も少ないなかポテトを頬張る。
「ま、これ食べてストバスしますかー」
「おー」
その日はお互いに熱中してしまい、どんなプレーで攻撃したらいいかとか練習していたら日が落ちていた。やっぱりこんなに動いても膝と腰が痛くならないのは羨ましいなと感じてしまった。