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第八話

シャワー室のドアを開けると、声は鮮明に聞こえた。女子のシャワー室も男子のシャワー室と構造は同じだったから迷わず進むことができた。


「いやだ!!触らないで!やめて!!誰か!!」


「くふふ、誰も来ないし、この瞬間を楽しもうよ。君は…七海ちゃんは僕ので犯される。そして、永遠に七海ちゃんの記憶に残るんだ」


叫んでいた女の子、多分ななみちゃんっていう子と男の声が聞こえる。自分のカンを信じて良かったと思い、シャワー室の一番奥の個室まで進んでいく。俺が到着するまでに行為を辞められても困るため、出来るだけ気配を消し足音も殺して進む。


あと3つで一番奥というところでスマホのカメラを用意する。いつも部活中はロッカーにしまいっぱなしだが、今日はなんとなく手に取ってしまっていた。それが功を奏した。奥の個室ににじり寄り、左手にカメラを用意して右手で勢いよくドアを開ける。


「そこまでだ!!!」


連写して証拠を撮影する。ブラジャーがたくし上げられた状態で、パンツも足首に引っかかっているだけ。身体中は痣だらけで、女の子の性器に男の性器が擦り付けられ今にも挿入されそうな所だった。


これだけ打撲創があれば、照合も可能だと考え俺は犯人を取り押さえにかかった。とりあえず、女の子から男を剥がし持っていたタオルを使って腕を縛り上げる。


「くそっ、あと、少しだったのに!!なんで俺の邪魔をしやがる!このくそがっ、んぐ、ぅぐ、」


腕を縛り上げたあと、うるさい犯人の口もタオルで塞ぐ。一旦これで犯人は放置する。次は女の子のケアだ。まず、全裸に近しい格好してるから俺が今着ている練習着を脱いで、あんまり体を見ないようにして体の上にかける。


「大丈夫だよ。助けに来たよ」


優しく子供に語りかけるように話すと、相手の女の子は安心したのか泣き出してしまった。半裸の男に何言われてもって感じだが、体が見えるよりマシだろう。手首と足はM字開脚するように縛られていて、それを優しく解いていく。急に解くと血の巡りがおかしくなったりするので慎重に、だ。


俺は縛られていた紐を解く合間に、血まみれでしかもびしょ濡れの練習着を着直していた。半裸の男よりかはびしょ濡れでも服を着ていた方がマシだと思ったからだ。


「解けたよ。後ろ向いてるから着るのが嫌かもしれないけど、下着とか着けて欲しいな」


紐を回収して犯人を縛っていたタオルの上から紐でさらに腕を縛る。このレイプ犯の顔を見たことあるような気がするが、正直誰だか思い出せない。


「ぐすっ、…着れた」


後ろを向くと俺の服を着た女の子が座っていた。さっきは気づかなかったけど、体の周りには髪の毛が散らばっており、髪の毛も切られたのかと思う。


「なんで俺の練習着着て…そんなことはどうでもいいか。今から警察とか先生とか呼ぶから男の人がたくさん来ると思う。その度に怖い思いをするかもしれないけど、今ここで呼ばなかったらこのレイプ犯を逃すことになる。それに撮った写真は流出させないって誓約書も書くけど、デジタルタトゥーになるかもしれない。我慢できる?」


「…うん」


「じゃあ電話するね。嫌かも知れないけど、少しここにいてほしい」


俺はひとまず到着に時間のかかる警察から電話をかけることにした。警察には事情を話し、写真も撮り被害者に性的、外的傷害が多いことを伝え、すぐ駆けつけるとの返答をもらった。


次に職員室に電話をかける。保健医はもうさすがにいないと思うが、女バスの顧問は女の先生だし、かろうじて女の先生はいるかもしれないと思い電話をかける。


「2年の高井明偉です。学内で、レイプされている被害者と加害者がいたため電話しました」


応答してくれた先生は、2年の国語を担当しているもうすぐ還暦の先生だった。


『…本当なのかい?犯人に見覚えは?』


「本当です。犯人は見たことあるのですが思い出せ」


「3年の理科」


そうぽそっと女の子が呟いた。


「被害者曰く3年の理科担当の先生です。それから警察にはもう通達済みで、すぐ来てくれるそうです。犯行現場は部室棟の2階の女子のシャワー室の一番奥の個室です」


「そうか。ひとまず、警察が来たらそちらへ向かうから被害者の女生徒を気にかけておいてほしい」


「わかりました。失礼します」


会話して電話を切り、被害者の女の子と向き合う。


「助けに来るのが遅くなってごめん」


そう言って頭を下げると、女の子は慌てて手を振り出した。


「ううん、平気じゃないけど最後の最後に来てくれた。あなたは私のヒーローだよ。…私の名前はね、新田(にった)七海(ななみ)。ねぇ、ヒーローの名前、教えて?」


未だに犯人の男が何か言って、うーうーいう度に肩がびくついている。それに手だってまだ震えてる。そんな子に気を使わせてしまいまた申し訳なくなる。


「俺の名前は高井(たかい)明偉(あきひで)。ヒーローだなんて、俺はそんなすごくないよ」


お互いに自己紹介し合っていると、廊下が騒がしくなってくる。けど声は女子のものじゃなくて、足音だけの静かな集団。警察が来たと思っていたけど、新田さんはそれがまた新しいレイプ犯なんじゃないかと思って恐怖で顔が引き攣っていた。


「警察だから、大丈夫だよ。落ち着いて。深呼吸して。」


「しんこきゅう…」


「はい、吸って…吐いて…」


俺の吸って、吐いてに合わせて呼吸をしてくれたおかげで、過呼吸にならずに済んだ。そして警察官たちがこちらに来て犯人を回収していく。新田さんを陰に隠すようにしていたが、やっぱり大勢の大柄な男たちを見て恐怖がぶり返したのか新田さんはまた泣いていた。そんな中1人の女性警官が俺たちに近づき、話しかける。


「あなたが第一発見者で、被害者の方よね。今日はもう遅いから事情聴取とかは今度行うから連絡先だけ交換しましょう。怖かったわよね。それにあなたは勇気ある行動ありがとう」


連絡先を交換した俺らは解放され、新田さんは親と連絡を取り迎えに来てもらっていた。


「高井くん、私あなたのおかげできれいな人間のままいられるの。本当にありがとうね」


「高井くんっていうの?…高井くん。あなたは娘の恩人よ。今度ぜひお礼させてちょうだい」


そう言って新田親子は家に帰って行った。俺は部活のことをすっかり忘れていたので、監督やら翠やらから連絡がたくさん来ていたが無事なことは後から連絡しておいた。自分から助けたとはいえ、事情聴取は面倒だなって思った。

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