第七話
ドゴォ。そんな音と共に俺は顔面の痛みに襲われた。
「大丈夫か!?」
そんな声があちこちから聞こえるが全く大丈夫じゃない。鼻の骨が折れたかと思うほどの衝撃と痛みに襲われた。痛みの原因はバスケットボールだ。隣のコートで練習をしていた俺に、試合をしていたコートから暴投ともいえるボールがすさまじい勢いで飛んできたのだ。
スポドリをがぶがぶと上を向いて飲んでいて、下を向いたらボールはもう目の前にあった。避けられるわけがなかった。俺の鼻からは止めどなく血が出ており、押さえている手も今日着てた練習着も血まみれだ。練習着が血まみれなせいで上半身はほぼ血まみれと言っても過言ではない。
痛みはちょっと引いたが、見た目が血まみれなせいで周囲からはとても心配されている。おかげで監督が心配でこちらに来たくらいだ。
「高井。大丈夫か?」
「はい”。多分ほね”は折れてな”いので、ひどいのは見た目だけです。暴投した方に”も”心配はいら”な”いと伝えてほしいです」
鼻を押さえていないと血がどばどばと溢れてきて、体育館の床が血まみれになるから押さえざるを得ない。だから鼻声みたいになってしまうがしょうがないと思ってほしい。すでに俺の血が床にちょっと垂れてしまってて、申し訳ない思いでいっぱいだ。
「そうか…心配だから今日のこれからの部活は見学にするか、整形外科に行くこと。それから…とりあえずその血まみれ状態をなんとかしたらもっかい戻ってこい。いいか?」
「はい”」
とりあえず、止血と思い体育館の端に座り血が止まるのを待つ。
「アキ、大丈夫か?暴投したの1年の子みたいでめっちゃ凹んでたぞ。その子はキャプテンが慰めてたから平気だと思うけど」
俺は大丈夫じゃない、と言う意味を込めて首を横にゆっくり振る。とりあえず暴投した子はわざとじゃなさそう、ということを知れてよかった。それにキャプテンが慰めているならなんとかなるだろう。
「あー喋れない系?てかマジで血まみれだけど大丈夫?タオル持ってきたから使えよ」
珍しく気が利いた翠からタオルを受け取り、鼻を抑える。さっきより血が出る勢いは弱まったけど、まだ多分全然出血していた。
「喋ると口の中が血の味するんだよ」
「うわ、鉄の味すんの?嫌すぎる。ま、今日は休めってことだったんじゃね。お前頑張りすぎだし。それにシャワー浴びてきたらスッキリするだろうし、ロッカーに替えの練習着入れてたよな?取ってこようか?」
「翠はちゃんと部活参加しろ。自分で行けるから大丈夫だ」
翠に部活参加を促し、俺はロッカーに練習着を取りに向かった。ロッカーから練習着を取り出し、シャワー室まで向かう。時間はもう7時だし、すれ違う人がいなくて良かった。こんな状態で歩いている人がいたら、ぎょっとするだろう。
シャワー室でシャワーを浴びて血を流し、血のついた練習着とタオルを洗う。全然血は落ちなかったけど、スッキリとした気分でシャワー室を出た。その時、女子のシャワー室から叫び声のようなものが聞こえた。
『、めて!!!』
『…さ…いで!!』
やめて、触らないでって叫んでいるのか?何か起こってるのかもしれないが、聞こえてくる場所は女子のシャワー室だ。もちろん、使用中の際は女子は全裸だ。そんなところに誤って入ったら、俺の方が処される。
『いや!!!!』
『だ、たすけ、!』
いや、やっぱり誰か襲われてるよな。もし誰か襲われてるなら早い方がいいけど、これが襲われてるのを演じててシャワー室を盗撮してるみたいに貶めようとしているなら怖い。だが元警察官の”カン”は誰か襲われていると言っている。
(様子だけ見るか…なんかあったら血まみれの服たちを見せて貧血でふらふらしてたって嘘つこう)
そうして俺は、シャワー室のドアをそっと開けた。