第一話
「…であるから作者の心情は、この文章に現れる」
そんな声がうっすらと聞こえる。ふ、と頭を上げて前を見ると黒板とその前に立つ男性がいる。黒板の前に立つ男性には見覚えがあり、たしか高2のときの担任だった気がする。
(ここは、教室か?随分現実的な夢だな)
手元を見ると自分の字で取られたノートが置いてあり、やけにリアルな夢に驚く。何故か、ノートを取らなければならないという使命感に襲われ、とりあえず黒板に書かれたことを写す。こんなこと20年ぶりだな、と時間の流れにも驚いてしまった。
チャイムが鳴り、現代文の授業が終わる。今日の日付のところには4月9日の月曜日だった。俺の通う学校はたしか6限が終わると、そのまま帰れる仕組みだったから今が何限か気になる。ノートや教科書を片付ける振りをして周りの様子を伺うと、各々荷物を持って帰るようだったから今はきっと6限だったのだろう。
帰れるが、俺は確かバスケ部に所属していてほとんど毎日部活漬けだったことを思い出した。癖でズボンのポケットからスマホを取り出そうとした。俺が学生時代のころはガラケーが主流だったがなぜか今俺はスマホを手にしていた。
(なぜこの時代にスマホがある?まだあと10年くらいスマホは出ないはずなんだが…)
おなじみのチャットアプリには今日が部活、という通知が来ていて俺は欠席する旨を伝える。この異常事態のなか、部活に平気な顔して参加できると思えない。それに夢の中であの激しい動きをしたくないという思いもある。おっさんに対して全力で走り回れなんて、無理な話だ。
教室から昇降口まで少し迷うかと思ったが、ツキンと鋭い痛みと共に記憶が蘇り迷うことはなかった。学校から出て駅まで向かう。20年も前に通ってたとはいえ、意外と通れば通りにあったものを思い出すもので懐かしさから若干興奮してしまった。駅に着き電車に乗って、目的である3駅隣の駅まで向かう。
スマホで日付を確認すると、ちょうど20年前の2005年。まだ誕生日の来てない俺は高2の16歳ということになる。この夢を見る前は冬だったから、春の気候を感じて脳がおかしくなる。それに、若さゆえなのかどこも体が痛くない。目もしばしばしないし、小さい文字を見るのにも苦労しない。
(若さってすごいな…)
電車から降り、昔使い慣れた道を辿り家まで向かう。家に着き、落ち着くために今までのことをスマホのメモにまとめる。
・37歳
・警察官
・妻子なし
・酒と飯が楽しみな生活を送っている
改めて文章にすると枯れた生活送ってるなと思うが、37歳独身男性なんてこんなもんだろう。なんか悲しくなるな。
「…寝たらこの変な夢も覚めてるだろう」
そう思って布団に入って眠る。
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翌朝。
数年前まで使い慣れた部屋の天井と目が合い、この夢が覚めてないことに落ち込むのだった。