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第66話 災害対策:未知の魔物

 今日は国王陛下の執務室だ。

 入室すると、元帥が居た。


「あっ、嫌な予感……」


「ふっ……宮廷魔術師殿は私が嫌いかね?」


「はい、そこまで。

 本題に入るぞ」


 いつものやり取りを始めた俺と元帥を、国王陛下がさっさと切って捨てた。

 バサッと投げ出された書類には、ちらっと見ただけでも結構な被害が出ていると書かれているようだった。

 その書類を指でトントン叩きながら、国王陛下がため息をつく。


「どうやら隣国がまた何か始めたらしい。

 ゴーファ辺境伯の領地が、謎の魔物に襲われた。

 魔物は昆虫と爬虫類を混ぜたような姿で、見たことがない生物だったそうだ。これが群で現れ、農作物や家畜が食い荒らされる被害が出ておる」


 雑食性か。

 食い荒らすということは、食欲によって動いているということ。

 国土防衛魔法は悪意に反応して遠ざけるが、食欲には反応しない。

 兵糧攻めを目的とする作戦行動にしては、攻撃対象が奇妙で、被害を受けたのは防備の薄い農村が中心。砦とかに備蓄されている分は、被害が出なかったらしい。

 統率された部隊というより、好き勝手に暴れている害獣という印象だ。


「また異世界から魔物を召喚したとか?」


 尋ねると、国王陛下は考え込み、代わりに元帥が答えてくれた。


「分からん。

 姿絵を見る限り、以前に対処してもらった、異世界から召喚された魔物とは異なるようだが、近縁種にも見える。

 討伐してみると、その体液は有毒だったらしい。しかし以前の魔物よりは毒性が弱いようだ。

 よって、似ているが別物と考えられる」


「結局のところ、倒しても倒さなくても被害が拡大する、と……」


「うむ。その点は実に厄介じゃな。

 ゴーファ辺境伯からも、まさにその点を『なんとかしてほしい』と要請されておる。そういうわけでニグレオスよ、なんとかするのじゃ」


「丸投げ!?」


「それが国王の仕事じゃよ」


「それはそう。

 しかし、あんまりな言い方ですね」


「余とお前の仲じゃろ?」


「それはそう。

 ぐうの音も出ませんね」


「変に格好つけて格式張っても仕方ないからのぅ。

 ほれ、さっさと取り掛かれ。ぐずぐずしておると麦畑が食い荒らされてビールが飲めなくなるぞ」


「すぐに取り掛かります。では失礼」


「……相変わらず分かりやすい男だ」


「そこが良いところじゃよ」



 ◇



 俺の執務室。


「というわけだ、ジェームス。どうしたらいいと思う?」


「まず死体のサンプルを要求しましょう。燃やせば無毒化できるとかの『後から処理する方法』があれば、討伐方法自体はゴーファ辺境伯に投げ返せます。

 すでに倒した分の死体処理も必要なので、この方法はなんとか開発しなければなりません」


「なるほど、そうだな」


「それと、生け捕りを依頼しておきましょう。

 捕獲したサンプルを使って、体液を漏らさずに倒す方法、もしくは隣国へ追い返す方法を研究します。そうすれば後処理はかなり楽になるはずです」


「凍らせるか、窒息させるのがいいか?」


「とにかく毒液のサンプルを手に入れないと、なんとも……」


「そうだな。じゃあ、ちょっとゴーファ辺境伯のところへ行ってくる」


「いってらっしゃいませ」


 転移魔法で一瞬だから、ゴーファ辺境伯のところへ行くのは簡単だ。



 ◇



 ゴーファ辺境伯の領地。

 魔物の死体はすでに回収され、1箇所に集められていた。

 山と積まれた死体を前に、兵士たちが何やら言い合っている。


「トカゲだ!」


「いや虫だ!」


「カニじゃないか?」


 どうやら魔物の分類を議論しているようだ。

 たしかにトカゲのようなフォルムで、カニのように甲殻に覆われている。なので全体としては虫っぽい。

 この特徴は、隣国が異世界から召喚した魔物とよく似ている。召喚された魔物は、クワガタやカブトムシみたいな、もっとゴツい形だったが。


「あっ、これはニグレオス殿。お疲れ様です」


「やあ、みんな。俺だ。

 そいつはもう死体だが、俺はそいつを殺す方法を研究しなきゃならない。

 それじゃ、みんなはどうするのがいいと思う? 生きている姿を見たのは君たちだけだからな。そこから何かヒントがあるかもしれん。教えてくれ」


「燃やすのはどうでしょう? 戦った感じ、火は効果的なようでした」


「埋めれば良いんじゃないか? 戦場の死体は放置すると疫病の原因になるから埋めるだろ。あれと同じでいいんじゃないか?」


「塩漬けにすれば保存できるかも。うなぎも血は毒だろ? しっかり焼けば食えるかも……」


 たしかにウナギの血は有毒だ。大量に飲むと、下痢や嘔吐など様々な症状が出て、ひどい場合には死亡することもある。なお、60℃で5分加熱すると毒性を失うので、通常の加熱調理をすれば問題はない。


「誰も食わん。というか私が食べたくない。お前らはあんなもの食いたいのか?」


 言い合っていると、ゴーファ辺境伯が現れた。


「あ、ちょうどいい所へ。

 今度こいつが現れたら生け捕りにしてください。傷つけずに倒す方法とか研究するので」


「うむ。任された。

 力はさほど強くないようだから、次は檻でも用意しておこう」


「お願いします。

 それから、解毒法については要求されませんでしたが、返り血を浴びた兵士は?」


「通常の解毒魔法で対応できている。

 皮膚に付くだけでは問題ないようだ。目や口に入ってしまった者は、いくらか症状が出たものの、行動不能になるほどではなかった」


「では、よく洗うのが効果的ですか」


「うむ。おかげで大浴場が賑わっているよ。いつもは面倒くさがって入らない者も多いのだがね」


「えっ……毎日訓練で汗だくでは? よくそのまま過ごせますね」


「汗の不快感より疲れのほうが強いということだろう。

 しかし、今回を機に、義務化することにした」


「病気の予防になりますから、良いことですね」


「うむ、それもあるが、もっと重要なこともあってな」


「もっと重要なこと?」


「モテないんだ」


「はい?」


「兵士が女性にモテない。そこらの平民よりは良い給料を出しているはずだが、なかなか結婚できない者が多くてな。ちょっと前に調査したところ、給料が多少よくても汗臭くて小汚い男は嫌だという意見が多かったんだ」


「あー……」


「今回のことで、敵が毒物を使っていた場合への対策として……という口実のもとに、清潔保持を義務化することにした。

 成婚率が下がって領民が減るのは困るからな。税収に直結する」


「税収て……」


 まあ、軍隊は金食い虫だからな……。


「あ、そうだ。

 この魔物、新種ってことで名前が決まってないんですが、なにか候補ありますか?」


「候補か……お前たち、どうだ?」


「トカゲムシ」


「カニワーム」


「ヒョロデカダンゴムシ」


「よし黙れ。お前らのネーミングセンスが死んでるのはよく分かった」


「ゴーファ虫」


「何だと?」


「ゴーファ虫か」


「ゴーファ虫……」


「おいコラお前ら」


「ゴーファ虫で」


「ゴーファ虫でお願いします」


「ぜひゴーファ虫で」


「冗談じゃねえよ!?」


 嫌そうな顔をするゴーファ辺境伯を尻目に、ゴーファ虫のサンプルを貰って帰ることにした。

 その後、高温で燃やしたら無毒化できたのだが、攻撃に使うには燃費が悪すぎるので、凍らせて倒す方法を推奨することになった。

 さらに後日――


「ゴーファ虫の生け捕りに成功したと聞きましたので受け取りに来ました」


「それ、何とか別の名前にならんか?」


「定着しちゃったので……」


「畜生め! あいつら、地獄の特訓を施してやる」


 その後ゴーファ辺境伯軍がレベルアップしたらしい。合掌。

 なお、生け捕りのサンプルが届いたことで、体温が下がると極端に動きが鈍くなることが確認され、凍らせる方法が効果的だと分かった。

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