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第55話 建築:学校

 今日は国王陛下の執務室だ。

 入室すると、珍しい顔があった。


「おや? たしか文部大臣?」


 宰相直下の部下の1人で、軍務大臣でもある元帥の同僚だ。


「うろ覚えかね? 呆れたものだな。私は君の上司だぞ」


「ほえ?」


「研究以外のことが頭にない典型的なオタク型人間かね……やれやれ。

 いいかね? 国王陛下の国政補佐として宰相閣下がおられる。宰相閣下の政務補佐として分野ごとに大臣が何人もいる。私はその中で学問に関することを専門とする文部大臣だ。

 その下には教育機関や研究機関などの統括組織があって、その統括組織の下に実際の教育機関や研究機関がある。宮廷魔術師団もこの研究機関のひとつだ。宮廷魔術師たちの上にも統括組織があって、経理部や監査部がそれだ。君たち宮廷魔術師が研究費を不正利用したり違法な研究活動をしていないか監督している」


「へぇ~。つまり上司の上司? ……の、そのまた上司……?」


 俺の直属の上司は、宮廷魔術師の団長だ。経理部はその下にあるが、予算が通らないと経費が落ちないという意味で、たしかに宮廷魔術師より上にいる。監査部は団長より上になければ、団長が不正を働いたときに機能しない。たぶん宮廷魔術師団から独立した形になっているはずだ。

 ということは、俺から数えると、団長の上の、監査部の上の、文部大臣ってことか?


「まあ、そういう感じだ」


「それじゃあ会ったことないし、顔知らんわ」


「わお、なんて正直な。図太いな、君は」


「あらやだ照れちゃう」


「褒めてないぞ!?」


「で、今回はそういう分野のお話ですか?」


 陛下を振り向いて尋ねると、陛下は孫を見るおじいちゃんみたいな顔で俺を見ていた。


「ニグレオスは能力の高さを買って余が宮廷魔術師に推薦したのじゃ。組織図がちょっと抜けているぐらい、たいした問題ではないんじゃよ」


「えへへ」


「まあ小さくは問題だがの」


「おっと? チクッと刺してきたぞ」


「そりゃお前、20年も宮廷魔術師やってて組織図わからんとか、普通にダメじゃろ」


「あっ、はい。さーせん」


「まあよいわ。そんなことより本題じゃ。

 大臣、例のものを」


「はっ」


 文部大臣が地図を広げた。

 王都の地図だ。

 ある部分に丸がついている。


「建築予定地じゃ。

 ここに学校を作ってほしい」


「学校?」


「貴族の子供たちを集めて教育を与えるための施設じゃ。

 現状、貴族たちは各自で教師を雇って子供に教育を与える。じゃが、この方法では教育のレベルが偏る。貧乏な弱小貴族に至っては、満足に教師を雇えない事もあるほどで、領地を発展させたくも方法が分からない者も多いようじゃ」


「それは国益の損失ですね。

 それで全員集めて少数の教師でまとめて教えようと」


「うむ。そうすれば全員が、優秀な教師から優れた教育を受けられる。

 さらに教育中の子供たちは毎日直接顔を合わせることになる。自然と会話するじゃろう。子供時代から貴族同士の横のつながりができる。これによって教育だけではカバーできない部分も補えるじゃろう」


「大変結構な施策かと。ですが問題も」


 ここまで何も喋ってない文部大臣をチラッと見ると、うなずかれた。

 問題は認識しているということか。


「子供同士とはいえ仲良く出来るとは限らないという事だな。

 それに貴族の子供たちが多く集まっていると、よからぬ輩に狙われる可能性も高くなるだろう。

 そういった事を加味して、安心して学べるように設計してもらいたい」


「気軽にやってみよ。どうせお前なら作り直すのも一瞬じゃろ?」


「まあそうですね。生成魔法ですから」


 生成魔法は物体を生成する魔法だ。そして生成できる物体の大きさは、魔力の量に比例する。そして消すのはいつでも自由にできる。生成魔法の特徴として、素材は不要である。

 結論として、魔力量が人並外れて豊富な俺は、建物の1つや2つ、一瞬だ。城郭都市ひとつ作るのだって1日あれば終わる。学校なんぞ余裕である。



 ◇



 道中で学校に必要なものを教わりながら、文部大臣といっしょに現場に到着。

 更地を前にパチンと指を鳴らす。

 それで俺の仕事は完了した。


「はい完成です」


「……デタラメだな。この規模の建築を一瞬で?」


「まあ俺ですから」


「うーむ……。

 とにかく確認してみよう」


「どうぞ。

 ご注文通り、内部への監視と、外部からの敵の侵入を防ぐための構造を取り入れています」



 ◇



「まずはこちら、教室だけを集めた建物です」


「ふむ、なるほど。大会議室といった印象だな」


 全ての椅子が、ひとつの壁に向かって並んでいる。


「そうですね。少数の教師が大勢の生徒に教えるという形を考えると、自然とこうなるしかないかと」


「この壁際のカーテンレールは何だ?」


「この2つのカーテンレールは『板書』です。

 1つは『1回の授業内容の板書』を吊るすためのもので、制作済みのものを設置して広げて使います」


「なるほど。毎年同じ内容を教えるのだから、繰り返し使えて、毎回書く手間もなく、教師が変わると内容が変わるという問題も防げるわけだな」


「その通りです。授業ごとに取り替える必要がありますが、どうせ10年もすれば内容自体が変わるところが出てくるでしょうし、破れたり汚れたりして作り直す場合にも小さいほうがコストが安く済みますので実用的かと」


「うむ、同感だ。

 もう1つのカーテンは? ただの白い布のようだが」


「ここに光魔法を使って板書することで、生徒からの質問に即応するための板書を臨時的に書き込むことができます」


「ふむ。柔軟性もあるわけか。大変結構だ。

 だが、石板や木簡ではダメかね? 光魔法を使えない教師もいると思うが」


「個人用のサイズならともかく、この大きさでは消すのが大変です。それだけで石工や大工レベルの腕前が必要になります。

 しかしこの方法なら魔法をやめれば消えますし、削りカスも出ません。

 教師の問題については、鍛えて出来るようになってもらえばよろしいかと。自分が努力しない奴から『お前は努力しろ』と言われては、生徒だってやる気が出ませんよ」


「なんだか実感がこもっているな?」


「そりゃあもう! スネークのやる気の無さには苦労していますから!」


「お、おう……そんなにもか」


「実際の授業内容は知らないので、板書の作成はそちらでお願いします。

 次の場所へ行きましょう」


「うむ」



 ◇



「こちらは生徒たちの寄宿舎です」


「廊下側の壁が、木製の格子だな?」


「竹製です。鉄製だと牢屋みたいになってしまうので」


「十分に牢屋みたいな印象だが?」


「いえいえ。大陸東部に実在する建築様式です。あちらでは湿度が高いため、風通しを良くするために、このような。

 まあ、ここで採用したのは職員の目が届きやすいからですが」


「牢屋と同じコンセプトじゃないか!?」


「いえいえ風通しを良くするためですよ」


「その風通しは別の意味だよな!?」


「最低限の家具や設備は作っておきましたので、追加で装飾する場合はそちらでお願いします。

 次へ行きましょう」


「んスルー!?」


「次が最重要設備です」



 ◇



「これが最重要設備? ……なんだ、この塔は?」


「監視塔です」


「監視塔!?」


「周囲の建物は、見て回った教室や寄宿舎などです。

 全ての部屋が内側に作られており、監視塔から窓の中を見ることができます。

 外側に配置した廊下に教員を巡回させることで、内外両面から監視でき、問題が起きた場合にいち早く発見できるようになっています」


「いや刑務所ぉ! これじゃ刑務所だよぉ! 何作ってんのお前ェ!?」


「ご注文通りのはずですが?」


「ご注文通りが過ぎるんだよぉ! 囚人か!? 家畜か!? お前は何を相手にしているつもりなんだ!? 貴族の子供がこんな生活耐えられるわけないだろ!?」


「貴族の最も重要な役割は、有事の際に軍を率いて参戦することです。そのために領地を貰っているのですから。

 従って軍隊方式の生活スタイルに慣れておくことは、実用面だけでなく情操教育としても効果的かと思いますが? 逆に戦場で『自分は貴族だから特別扱いしろ』とわめくアホなんて、真っ先にターゲットになって死にますよ?」


「んぐ……ご……げぇ……!

 ぐ、軍隊でも幹部連中はそういう扱いじゃあないんだよ! 駐屯地でも前線基地でも幹部用に建物や天幕が別枠で作られるのを知らんのか!?」


「いや、そもそも学校制度自体が木っ端貴族への救済措置なのに、それを幹部扱いしろと? どこの駐屯地でどの男爵が幹部待遇なのですか?」


「あん……ご……らぁ……!? お、お前はぁ……! 貴族を一般兵と同じに扱ったら、学校制度を始めた陛下が批判の的になっちゃうだろぉ!?」


「新しいことを始めるときは、必ず反対勢力が現れるものです。

 その程度の批判に忖度していては、新しい事など始まりませんよ?」


「なんでちょっと諭す感じで言ってんのぉ!? もうやだこいつぅ……!」


「やれやれ話になりませんな」


「おま……いう……!?」


 結局その後なぜか作り直しをさせられた。

 解せぬ。

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