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第53話 捕獲:裏切りの容疑者

 国王陛下の執務室。


「隣国とつながっているような発言をしていたという貴族が捕まった。

 容疑者という扱いで捕らえてあるから、罪状が固まらないと2週間後には釈放せざるを得なくなる。そういう規則だからな。

 その前になんとか情報を引き出してくれ」


 というわけで、俺も投獄されることになった。

 しかし相手は貴族だ。まずは変装しないと、宮廷魔術師で伯爵の俺は、けっこう知られているはずだ。



 ◇



 バッチリ変装して、牢屋へ。


「おら! 入ってろ!」


 牢番に突き飛ばされて、牢屋に入る。

 この牢番も仕掛け人だ。

 俺はすぐに振り返って、鉄格子にすがりつく。


「誤解だ! 俺は何もしてない!」


「黙れ! これからゆっくり取り調べてやるから覚悟しておけ!」


 牢番が立ち去った。

 そして牢屋の中には、例の貴族がいる。

 この貴族から自白を引き出すのが目的だ。つまり、ここからが本番である。


「クソが……勝手なことばっかり言いやがって。

 ……おや? 先客か?」


 俺は例の貴族を振り向いた。

 さも「今気づいた」という感じで。


「あびゃああああ!?」


 貴族が悲鳴を上げて後ずさった。


「あ? なんだテメエ? 人の顔みて悲鳴をあげるとか、失礼な奴だな」


「すすすっすすすみすみみみませんんんぬ!?」


「なんだよ、吃音症か?」


「アンタの顔が怖い!」


 貴族が吠えた。


「正直か、テメエ!」


 不快感を表す演技をしたが、正直「しめしめ」って感じだ。

 変装のためにホラーな顔にしてきたからな。

 人が「不気味だ」と感じる形には、単純な共通点がある。それは「あるべきものがない」場合と「ないはずのものがある」場合だ。たとえば前者は手足がないミミズやヘビ、後者は手足が多すぎるクモやムカデである。

 というわけで、極端に歪んだ顔を作ってみた。粘土で作った顔を適当に何度も曲げたような感じの顔で、たとえば目と鼻の位置が横並びになるほど歪んでおり、顔のパーツが「あるべき場所にない」「ないはずの場所にある」という不気味な顔になっている。


「チッ……ムカつく野郎だ。顔のことは生まれつきだよ馬鹿野郎。

 だいたいテメエ、人の顔を悪く言う前に、自分の顔はどうなんだ? しなびたナスみたいな顔しやがって」


「す、す、すまない……! 悪気はないが……しかし……あまりにも……」


「なにが『しかし』『あまりにも』だ、テメエ。悪気がないなら重ねて悪く言おうとするんじゃねーよクソが。

 しかし妙に上等な格好してやがるな。まさか貴族か? いや、そんなわけねーか。俺みたいなのと同じ牢に入れられてるんだもんな。金持ち商人のボンボンがグレたまま大きくなっちゃった、みたいな感じか? いったい何をやらかしたんだ? まあ、人の顔みてビビるような奴には、どうせ大したことはできねーだろーけど」


「わ、私は何も……」


「何もしてねー奴が捕まるわけねーだろ。俺は捕まったけど」


「顔のせいか?」


「うっせーわ! 顔の形が犯罪になる法律でもあんのかよ!?

 テメエの顔も同じようにしてやろうか!?」


「ひいいい!? や、やめてくれ!」


「で?」


「え?」


「テメエはなんで捕まってんだ?」


「そ、そんな事はアンタに関係ないだろう?」


「ほーう……? そういう態度か。テメエ、いい根性してやがるな。

 しなびたナスビ顔からザクロ顔に進化してみるかコラ?」


「ひいいいい!? な、なんで私の容疑なんか……!」


「そうだな。どうでもいいぜ、そんな事は。

 だが、人の顔を悪しざまに言っておいて、謝りもせず、質問にも答えねぇ上に、重ね重ね顔を悪く言いやがるその態度が気に食わねえ!

 ナメやがって、このナスビ野郎が! 今からザクロに変えてやんよ!」


「スパイ容疑だ! 私は隣国と通じている! ……と疑われている!」


「はぁ? テメエみたいなナスビが? どこにそんな肝っ玉あんだよ?

 それとも見た目通り陰湿な感じで、ネッチョリやったのか?」


「ネッチョリってなんだ!? 見た目通り陰湿とか、アンタもたいがい失礼だな!

 ていうかナスビナスビ言うけど、私の顔はそんなにナスビ顔か?」


「うるせえよ、このナスビ。

 しかしスパイ容疑ねぇ……普通に往来したぐらいじゃ、そうはならんやろ。何したんだ? 変な物でも運んだのか? 言っとくけど、危ないお薬だけはダメだぞ?」


「薬物など運んでおらん! アンタこそ薬物やりすぎたような顔して、何したんだ?」


「顔のことは言うんじゃねーよクソが! 親にどういう教育受けてんだテメエ。

 普通に街歩いてただけだっつーの」


「普通に歩くだけで捕まるものかよ。あ、わかった。顔のせいで怪しまれたんだな?」


「ぶっ殺すぞテメエ!?」


「まままま待て待て落ち着け。悪かった」


「悪いと思ってねーだろ、テメエ? さっきから口が過ぎるっつーの」


「だってアンタの顔が怖い……」


「うるせーよ!

 で? 危ないお薬じゃないなら、何を運んだんだ?」


「わ、私は何も……」


「何もしてねー奴は捕まらねーって。少なくとも疑われるような事をしたんだろ?

 話してみろよ。笑ってやるから」


「笑ってやるから!? ひどい! なんてヒドイ奴だ! 顔もヒドイが性根もヒドイ! お前なんかさっさと処罰されてしまえ!」


「ケッケッケッ。

 こんだけ無遠慮に言い合って、いまさら遠慮してんじゃねーよ。ゲラゲラ笑ってこき下ろしてやるから、話してみろ。

 それとも笑えねーような話が飛び出してくるのか?」


「ふんっ……! お前のようなヒドイ奴に聞いてもらって晴れる気持ちなどあるものか」


「おーい、牢番! こいつ『スパイやりました』って自白したぞー!」


「ふざけるな! まだ言ってねぇわ!」


「まだ? なんだよ、やってんじゃねーか」


「ぐむっ!? ……チッ。やったがどうした。王国は私の努力を少しも評価せん。隣国についたほうがマシだ」


「開き直りやがったな。

 つーか、いい大人が『努力を認めてくれない』とかスネてんじゃねーよ。大人の仕事は結果責任だろ。子供のお勉強じゃねーんだから、成果を出さずに努力だけで褒められるわけねーっつーの。合格か不合格かしかねーんだよ。30点が40点になっても不合格なら一緒だバーカ」


「うるさいうるさい! ろくに資源もないちっぽけな領地で何ができる!? のし上がるチャンスがあったら飛びつくに決まっているだろう!?」


「へっ……じゃあ勝手にスネてろよ。隣国についたところで、どうせ使い捨てにされるだけだぜ。テメエみたいなのは、ただの火打ち石だからな。火を付けるだけが役目で、ついちまったら用済みよ。薪が燃える頃にゃあ何の役にも立ちゃしねえ」


「ふざけるな! 隣国からはちゃんと重用する旨の密書が……はっ!?」


「聞いたぞ~? そんな密書があるんだな?」


 ニヤッと笑う俺。

 その背後に、いつの間にか牢番が戻ってきていた。


「すぐに当局へ知らせろ。家宅捜索だ」


「はっ!」


 俺の命令で牢番がキビキビと走り去る。


「お、お前……いったい……?」


「知る必要はねぇよ」


 鍵のかかった牢の中から、俺は転移魔法で外へ出た。

 さて任務完了だ。帰ってシャワーでも浴びよう。この変装、ゴテゴテと顔にくっつけるせいで顔が蒸れるのが難点だな。そのうち改良しよう。

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