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第5話 災害対策:仮設住宅

 今日は国王陛下に呼ばれて執務室だ。

 近衛騎士団長に案内されて入室すると、さっそく違和感があった。

 陛下の机の上には、ワインボトルが1つあったのだ。執務室で飲む陛下ではない。


「このワインの産地が、大変な事になっておっての……」


 疲れたようにため息をつく国王陛下。

 ワインの産地というと、原料がブドウだから南部だな。ブドウは温暖な気候でよく育つ。

 俺はビールしか飲まないが、ビールの産地は北部である。原料の麦が寒冷地でよく育つからだ。


「大変な事というと?」


「津波に襲われて、街全体が更地のようになってしまったと報告が来ておる。

 救助のための部隊は送った。支援物資も集めておる。あとは仮設住宅が欲しいところじゃ」


「ああ、はい。作ってこいと」


 災害救助か。嫌だとは言えないが、正直面倒くさいな。

 だってワインの産地だろ? ビールの産地なら転移魔法使って秒で行くけど、ワインの産地には転移できない。座標を確認――つまり「1度でも訪れたことがある」状態にしておかないと、転移先が設定できないのだ。

 しかし俺の内心を察してか、国王陛下はニヤリと笑う。


「大正解。問題は建築物資まで輸送する余裕がないことじゃ。その点ニグレオスの魔法なら、あれはもうたまらんのじゃ。あれは人をどうにかさせるのぅ。作っても作っても資材が要らないんじゃから」


 言いながら国王陛下は立ち上がり、壁際の棚――以前に俺が献上した冷蔵庫をあけてガラス製のジョッキを取り出した。たちまちジョッキは真っ白に染まる。霜がついたのだ。キンキンに冷えてやがる。


「そして20年間作り続けたらこうなったのじゃ。何かの呪いにでもかかったようなジョッキじゃろ? まったくビールのパワーって凄いのぅ」


 白くなったジョッキに、黄金の液体が注がれる。

 発泡する黄金の液体は、純白の泡に蓋をされて……ああ、なんてクリーミーな泡だ。

 ビールに見とれていると、俺の視線を遮るように横から緑色の物体が差し出された。こ、これは……枝豆じゃねえか……! あ、悪魔的だ……!


「ニグレオス。飲んだら向かってくれ」


 お、お許しが出た、だと……!?

 はっ……!? こ、これは罠だ!

 進めば戻れなくなる! 手を付けたら逃げられない!

 ああっ……! しかし目の前の餌はうまそうだ!

 ……はっ!? そうだ、どうせ断る選択肢は無いのだ。面倒くさいだけで、元々一方通行だった。ならば遠慮する必要はないではないか!

 俺はガシッとジョッキを掴んだ。冷たい! もう分かる。うまいヤツだ。飲むまでもない。……飲むけど。


「はい喜んで!」


 グビッ! グビッ! グビッ! ぷはぁ!

 もぐもぐ……グビッ! グビッ! かぁーっ! さ、最高だ……!


「戻ってきたら、もう1杯どうじゃ?」


「すぐに行ってまいります!」


 よし行こう! すぐ行こう! さっさと片付けて戻ってこよう!


「……えらい勢いで飛び出していきましたな」


「団長、あやつを使うときは、こうやって使うんじゃよ」


「はっ。勉強になります」



 ◇



 行くと決まったなら、行かねばならぬ。

 手早く仕事を終えてビールを飲みに戻るのは既定路線。そのためには速さが必要だ。現地までの移動時間を破壊的なまでに短縮せねばならない。


「そうだ。飛んでいこう」


 生成魔法は、物質を生成するだけでなく、その生成した物質を操ることができる。

 魔法と言えばのファイヤーボールも、生成と発射を組み合わせたものだ。発射がないと生成したその場で爆発して、術者が自爆することになる。発射する、指定方向へ前進させる、という操作があるわけだ。

 ということは、足場になる板を生成して、その上に乗って、板を飛ばせば、空を飛べるわけだ。

 透明素材で風防もつけて、空気抵抗を減らす形にして、あとは全力で飛んでいくだけだ。



「あれ……? これって強化魔法の代わりに使えるくね?」


 飛びながら考えたが、すぐに目的地が見えてきた。また後で考えよう。



 ◇



「ニグレオス様! 来てくださったのですね!」


 現地に到着。

 たしかに更地になっている。

 小高い場所に避難して生き延びた人たちが、低い場所へ戻ることを恐れて避難所生活をしている。

 そこに近衛騎士のアーネストがいた。立っているだけだが、それだけで華がある。周囲では忙しく兵士たちが動き回っていた。


「こんな所に近衛騎士が?」


 しかも単独だ。

 他の兵士たちは近衛騎士ではない。


「救助活動と支援物資のために派遣された部隊の、お飾りの隊長ですよ。

 国王陛下の名のもとに派遣されたものである、という事を示すためのシンボルマークとして来ています。実務はあちらの副隊長が取り仕切っていますので」


「ご苦労だなぁ」


 周りがせっせと動いている中で、任務として、ただじっと動かずに立っていなければならない。その難しさとストレスよ……。

 いっそ周りと一緒に動きたいだろうに、本当にご苦労なことだ。


「いえ、陛下の御威光を我が身で示すことこそ近衛騎士の主たる任務ですので」


 儀仗兵みたいなものだ。戦闘力ではなく表現力が求められる。

 まあ、実際に警護の任務もあるので、戦闘力も高いのだが。近衛騎士が他の部隊とは一線を画して「洗練された様子」なのは、そう見えるように表現力を磨いた結果である。

 華々しいイメージとは裏腹に、同じ場所でほとんど1歩も動かず何時間も立ち続けるといった任務がメインになる。

 今回も、言ってみれば広報担当って感じだ。


「そうか。じゃあ引き続き頑張ってくれ。動けないってのは大変だな。

 さて副隊長殿。宮廷魔術師のニグレオスだ。仮設住宅はどこに建てればいい?」


「はい閣下、お勤めご苦労さまです!

 仮設住宅につきましては、図面を用意しておりますので、こちらへお越しください」


 副隊長の案内で指揮所へ。

 地図で建設予定地を確認し、見取り図で仮設住宅の間取りを確認した。

 後続の、支援物資を持ってくる部隊が使うための設備も頼まれた。中には被災者のための共同浴場なんかもあって、それらは後回し。まずは上下水の大型貯水槽と、特にトイレを大量に用意することになった。

 順番も図面もバッチリ準備されていて、あとは建てるだけだ。何も考える必要なく、指示通りに動くだけでいい。なんて楽な仕事だ。有能だな、この副隊長。すぐにビールを飲みに戻れそうだ。


「このような形でお願いできますか」


「構わんよ。だが1つだけ修正点がある」


「は。何でしょうか」


「順番を考える必要は無かった」


「は。……は?」


「全部いっぺんに作るからさ」


 パチン。

 指を鳴らして、俺の仕事はそれで完了した。


「任務完了。確認してくれ。

 追加注文は随時受け付ける。

 完了後、俺は帰投するので、注文は遠慮なく頼む」


「は……え? は、はい! 直ちに!」


 15分ほどで確認してもらい、問題なしと言われて帰ることになった。

 的確な指示で部隊を動かし、素早く確認作業が終わった。やはり有能な副隊長だ。

 全員ポカーンとしていたが、副隊長とアーネストに挨拶してさっさと帰ることにした。帰りは転移魔法で一瞬だ。

 さーて、ビールビールっと。

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