第45話 依頼品:虹色キノコ
「虹色キノコ?」
「うむ。今度の晩餐会で必要になってな。
手に入れるのに協力してもらいたい」
という命令を受けて、俺はまず書庫へ。
虹色キノコがどんなものか図鑑を探してから研究室へ向かった。
「そういうわけで虹色キノコを探すことになった」
「うわ、面倒くせぇ。ニグレオス、お前そんなの引き受けてくるなよ」
「バカ言うなスネーク。陛下の命令を拒否なんかできねぇよ」
「チッ……国王陛下め、今度こっそりハゲる呪いでもかけてやろうかな」
「やめとけ、スネーク。陛下の呪い対策は万全だ。失敗して返ってきた呪いにかかって、お前がハゲるぞ」
「チッ……」
「その虹色キノコってどんなものなんすか?」
「俺も初めて聞いたんだ、ホースディア。
それで書庫から図鑑を借りてきた。
で、虹色キノコについてだが、このページに書いてある」
「100年に1回、一晩だけ現れる虹色のキノコ?
え? じゃあ、今夜かもしれないし、明日かもしれないって事っすか?」
「ホースディア、ここに『満月の夜にだけ現れる』と書いてあるだろう。読み飛ばすな。重要なヒントだぞ」
「あっ、本当っすね。じゃあ、3日後っすか」
「あとは場所ですね」
「その通りだ、2人とも。
しかしそれが問題なんだよ、バニー。ここに書いてある通りなら、国中どこでも候補地になってしまう」
「えっと……『虹の根元』? 虹なんて常に遠くにありますよ?」
「そりゃそうだ。空中の水分に当たった光がいい具合に反射して虹ができるんだからな。満月にしか現れないということは、満月の光でできた虹の根本にしか現れないという事だろう。
ところが満月の夜に虹が出たとしても、その虹に近づけば近づくほど、虹は遠くへ逃げてしまう。虹の位置は『見る人』と『光源』の位置によって決まる相対的なものだからな」
「えっ……じゃあ無理ってことですか?」
チッチッチッ、とスネークが指を振った。
「バニー、よく考えろ。
存在を知られているということは、手に入れる方法があるんだ。
ここまでの話を聞けば、方法は2つだな」
「スネーク先輩、その方法ってなんですか?」
「ひとつは、他人が見た虹の根本へ行く。『見る人』と『満月』を固定すれば、虹の根元も場所が決まる。だから『見る人』と『採る人』を別にすることで解決する。
もう1つは、水をまく。空中の水に反射した光が虹になるっつーなら、手が届く場所に水をまけば虹ができるはずだろ?」
「さすがスネーク。いい考えだ。よし、やってみよう」
3日後。満月。
「じゃあまずは簡単なほうからだ」
霧吹きを生成して水を噴霧する。
満月の光に照らされ、虹ができた。
これでダメなら、観測者と採集者に分かれて虹を目指すしかないのだが……。
「あっ! ニグレオス先輩、見てください!」
「おお!? 虹色のキノコが生えてきた!」
「やったっすね!」
「いや毒々しいな……これを晩餐会に? 食えるのか、本当に?」
「スネーク。そんな事は俺達が心配しなくてもいい。陛下のご命令は納品だ。その先どう使われるかは、俺達のあずかり知らぬことだ」
「ああ……食うのは嘘で、実はハゲ治しの秘薬になるとか?」
「知らん。
それより、さっさと採取してしまおう」
「ノコノコー!」
「あっ!? 逃げた!」
「追いかけましょう、先輩!」
「逃さないっすよ!」
そして始まる逃走劇。
虹色キノコは路行く人を押しのけ、跳はねとばし、輝く一陣の風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく月の、10倍も早く走った。
「ノコノコー!」
このとき王国の緯度を考えると、月の10倍も速く走るというのは、およそマッハ11に達する。ソニックブームが発生し、衝撃波で半径2km以内のガラスはことごとく割れた。
100mを0.02秒で走破する速さだ。当然だが人が走って追いつける速さではない。
「無理だろ、あれは」
「一瞬で見失ったっす」
「ニグレオス先輩、どうしましょう?」
「任せろ」
俺は魔法を発動した。
生成魔法には「作る」と「作ったものを動かす」の2つの効果がある。
つまり板金鎧を「作る」と、その板金鎧を「動かす」ことで、中に入っている俺もろとも空を飛べる。
「待てコラァ! 逃がしゃしねぇぞ!」
相手がマッハ11で走るなら、こっちはマッハ12で飛べばいい。
王国の端、ゴーファ辺境伯の領地まで走った虹色キノコを、俺はついに捕まえた。
「陛下、こちらが虹色キノコでございます」
「ニグレオス。お前どうして『やりきった顔』してんの?
お前らが起こした爆発みたいな突風で王都は半壊。王国に新しい渓谷ができて、進路上にあった町や村が同じように被災してんだよ? 巨大竜巻みたいな被害が出てるの分かってんのかコラ?」
「陛下、こちらが虹色キノコでございます」
「ワシが命じたから、と言いたいのか。
ほーん。
よし、お前そこへなおれ。物理的に『首』にしてくれる」
「……そ、それはちょっと……」
「問答無用じゃ!」
第2の逃走劇が始まった。




