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第44話 lab:耳栓(後編)

「うーん……」


「ニグレオス先輩、何悩んでるんですか?」


「バニー……前回の耳栓は、2つとも失敗だった。

 どうしたものかと思ってな」


 俺が作ったものは性能が良すぎて、すべての音が聞こえなくなった。

 ホースディアが作ったものは、耳栓をしていない状態と変わらない性能だった。


「理想は『足して2で割る』感じなんだが」


「つまりニグレオス先輩が作ったのをベースに、聞きたい音だけ聞こえるようにするってことっすか?」


「ホースディア、逆でもいいんだ。お前が作ったのをベースに、聞きたい音以外を遮断するって形でもな」


「えっと……どっちでやるか悩んでるとか?」


「違うよ、バニー。

 問題は『聞きたい音』がどれなのか区別する部分なんだ。区別さえできれば、あとは『仕分け』して、いらない音には『遮断する』処理を施すだけだからね」


「は? つまり『区別する基準』をどうするか、っていう事か?」


「その通りだ、スネーク。

 たとえば陛下の声だけを区別して遮断すれば、あの大声を遮断できる。しかし必要な言葉も聞こえなくなってしまう」


「そんなの『一定以上の音量』を遮断すればいいだろ」


「なるほど。それもいいな。

 けど、それをどうやって作るんだ?」


「んなもん、まずは『音量を数値化する魔法』を作ってだな、その数値を基準に遮音魔法が発動するように組み立てればいいじゃねえか」


「なるほど、いい考えだ。

 まずは『基準を作る魔法』を作るのか」


「なんだよ。音量の数値化じゃダメなのか?」


「いや、それも必要だ。

 しかしそれだけだと、工事現場や戦場みたいなやかましい場所で会話だけきちんと聞こえるように、という性能にはならない。

 やはり『人の声』だけを区別する方法が必要だ。それと音量の数値化を組み合わせれば、どこでも静かに会話できる理想的な魔法が作れるだろう」


「でも『人の声』ってどう区別すればいいんですか?」


「そうっすよ。音程だと、声の高いひとも低い人もいるし、何をどうやって区別するっすか?」


「音波の波形かな。

 人間が人間の声をそれ以外と区別して認識できる以上、人間の耳の仕組みを再現すれば区別できるはずだ。そして人間の耳の仕組みなんてのは簡単なもので、すべての音は鼓膜で拾っている。

 つまり太鼓の打面がどう振動するかという違いだけで、この世のあらゆる音が再現できるはずなんだ。その振動のパターンに『人の声』とそれ以外を区別する特徴があるだろう。

 あとは『その特徴を持つ音』だけを区別すればいい。もしかすると似たような音なら人の声じゃなくても拾ってしまうしかもしれんが、まあ無視できる問題だろう」


「てことは、まず音波の波形を記録する魔法から作らなきゃならんのか。

 うわ、面倒くせぇ。俺パス」


「勤務態度が悪いと、ちょっとボーナスの査定を考えなきゃいかんなぁ」


「横暴だ!」


「いやいや正当な評価だよ」


「くっ……! この暴君め! 名は体を表すとはいうけど、ピッタリだよお前は」


「何言うんだ、この蛇め。その言葉はブーメランだぞ」


「……? ニグレオス先輩の名前って『暴君』なんですか?」


「バニーさん。ニグレオス先輩の名前は『黒いライオン』って意味なんすよ。ライオンは百獣の王だから、腹黒の王っていう皮肉っす」


「そういう君は馬と鹿だがな、ホースディア?」


「あっ! 先輩! それはヒドイっすよ! 侮辱っす!」


「お前が先にディスってきただろ」


「……えっと……じゃあ私って……」


「「兎は亀に負けるからな」」


 俺達の声は揃った。

 できる事をやらないせいでおかしな結果になる。報連相が不十分でトラブルを起こすバニーにはぴったりだ。











 なんやかんやあって、魔法が組み上がった。

 音量計測魔法と音波測定魔法を組み込み、それぞれに遮音魔法と波形識別魔法を接続して、波形識別魔法の先にも遮音魔法を組み込んで、これで「一定以上の音量を防ぎつつ人の声は聞こえる魔法」になったはずだ。


「とりあえず完成だな。さっそく試してみよう」


 そうして魔法を起動してみると、重大な失敗に気づいた。


「あー……しまった。

 計測結果を非表示にする魔法を組み込まないと、視界が塞がれて何も見えねえわ」


 目の前が数字と波形で埋め尽くされてしまった。

 落ち着いて魔法を解除しようとしたのだが――


「あ、じゃあ一旦解除するっす」


 横からホースディアが手を出してきた。

 ホースディアが魔法回路を消去――しかし俺のほうが魔法能力が高いため、消せたのは一部の細い回路だけだった。

 毛細血管が詰まって太い血管に血液が集中したような状態になり、残った魔法回路で霊圧が急上昇。


「まずい!」


「防がないと!」


 スネークが封印結界を展開して周囲の被害を防ぎ、バニーが防御結界を展開して俺達を守る。

 直後に魔法回路が耐圧限界を超えて爆発――ここまで一瞬の出来事だった。

 爆発の直前に、俺は俺で残った魔法回路を消して減圧を試みたのだが、勢い余ってスネークとバニーの魔法まで消してしまった。


 ズドオオオオオオオオオオオン!











 王都新聞 ○月✗日

 王城でまた爆発事故か

 昨日午後、王城で爆発が発生。周辺住民が多数目撃しており――


「バカもーん!」


 国王陛下の怒声で、王城の残っていた部分まで崩壊した。

 その後も雷鳴のごとき怒声が続いたが、新たに開発した静音魔法はいい仕事をしてくれた。

 今日は医務室に行かなくて済みそうだ。帰ったらビール飲もう。

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