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第42話 lab:魔法陣

「スネーク! 起きろ!」


 スパコーン!

 ひっぱたいたスネークの頭が、小気味いい音を立てた。


「いてぇな。なんだよ、ニグレオスか」


「仕事中に寝るなといつも言ってるだろ」


「いや、精霊の声を聞いているだけだ。仕事だよ」


「嘘こけ。いびきかいてたくせに。

 鼻提灯まで膨らませてバカ言ってんじゃねえよ」


「ま、まあ、たまには寝落ちする事もあるさ。

 物質界の刺激を遮断するほうが精霊の声は聞こえやすいからな。つまり目を閉じるほうが都合がいいわけで……」


「うっせえわ! 働け働け!」


「へいへい……まったくもう……」


 渋々といった様子でスネークが机に向かう。

 紙とペンを取り出したと思ったら、スラスラと何かを書いた。


「ほらよ」


 投げ捨てるように差し出されたのは、1枚の企画書だった。

 ざっと目を通すと、それはとても革新的なように思えた。


「おお……」


 思わず感嘆の声を漏らし、俺は改めてじっくりと目を通した。

 が、じっくり見ても、ダメ出しする箇所が見つからない。

 これならウマく行きそうだ。


「いいじゃないか、これ。

 なんで実力を隠すんだよ。

 さあ、試してみよう」


「隠してるんじゃなくて、精霊に聞いてるんだよ。

 精霊は体系的に説明してくれないから、断片的な情報をたくさん集めて、あとでそうやって書類にまとめるしかないんだ。

 つーわけで、俺は精霊の声を聞くから邪魔すんな。試すならホースディアでも誘え」


 そう言ってスネークはさっさと寝てしまった。

 ちなみに「精霊は存在しない」と証明したのは、10年ちょっと前のスネーク自身だ。見える・聞こえると主張する人は、自己暗示で自分に魔法をかけてしまっており、幻覚・幻聴を見聞きしているのだと証明してみせた。

 しかし「聞こえる」というのは本人にとって実際に存在する感覚である。声の内容を作り出しているのも自分自身なので、精霊の声を聞くのは瞑想しているのと同じ。そこから良いアイデアが生まれ、良い仕事につながるなら、頭ごなしに否定はできない。


「ぐぬぬ……」


 特に良い仕事をされた後では、さすがに叱りにくい。

 仕方ない。ホースディアを誘うか。











「これがこうなって、ここがこうなって……チェック、チェック、よし。

 次は……」


 研究室には物が多いので、外へ出て地面に魔法陣を描いていく。

 魔法陣というのは巨大で精密な回路だ。ゆえに間違った場所へ接続すると正しく機能しない。また配線ごとに魔力容量を考えて適切なインクを選ばないと、霊圧が足りなくて動かなかったり、高すぎて回路そのものが故障したりする。高度な魔法になるほど魔法陣も複雑になるため、これが非常に気を遣う。

 なので確認が大事だ。暗記している内容でも、きちんと文献と照らし合わせて間違いのないように確認しながら描いていく。


「えーっと、ここがこうなって……これは、こっちかな?

 これは……あっ、バニーさん5番のインクとってください」


「はい、ホースディア先輩。どうぞ」


「ありがとう。

 こうして、こうして……あれ?」


「どうした、ホースディア?」


「あー……書きすぎちゃったみたいっす。

 ここまで5番で、ここから9番のインクっすね」


「わかりました! 取ってきます!」


「バニー! ついでに修正液も頼む!」


「はい! ニグレオス先輩!

 ……取ってきました! どうぞ!」


「ありがとう」


「助かるっす。

 じゃあ、まず修正液でちょちょいと消して、改めて9番のインクで――」


「んっ!? 待て! それは6番だ!」


「え?」


 ドカーン!


「ゲホッ! ゲホッ!」


「ひどい目にあったっす……」


「ひゃあああ!? 陛下のバラが!」


 バニーが叫ぶので振り向くと、陛下が趣味で育てているバラが、アルラウネになっていた。

 しかも、ポタポタと水滴を垂らすような勢いで増えていく。


「まずい……! ファイヤーウォール!」


 炎の壁を作って散らばるのを阻止。

 そして壁を移動させて包囲を狭めれば、そのまま焼き払うことが可能。

 ……のはずだったのだが、アルラウネは俺の魔法をかき消した。

 わずかな火傷はたちまち治ってしまった。


「マジか。レベル高いな」


 魔法能力と治癒力。突出してそこだけ強いなら、2つ同時はまずありえない。

 ならば答えは、全体的に強いということ。

 レベルが高ければ、能力も全体的に高くなる。


「ホースディアとバニーは警備隊を呼んでこい」


「「はい!」」


 すぐに2人が走り出した。

 王城警備隊は、呼ばなくても爆発音を聞きつけて集まってきているだろうから、すぐに合流できるだろう。

 重要なのは2人が離脱したことだ。


「それじゃあ、今度はもうちょっと強めに焼いてみようか」


 再びファイヤーウォールを発動。

 さっきのは2人が熱波でやられないように加減したものだ。いわば弱火である。

 今度は中火で焼いてみよう。











「何事じゃ!?」


 国王陛下がやってきた。


「なんでぇ!? 陛下が来ちゃダメでしょう!? 警備何やってんの!?」


 危険が発生した現場に近づけてはいけない人ナンバーワンだろ。


「え? 『見たほうが早い』って言ったら『じゃあ行く』って言われたんでご案内したっす」


「ホースディアてめえ!?」


「やかましいぞ、ニグレオス! 早う説明せい!」


「ニグレオス先輩が陛下のバラを焼いてるところです」


「バニー!? おいコラ! マジで!」


「ほーう? そうかそうか……ニグレオス、お前というやつは……」


 ズラリと陛下が剣を抜いた。

 なんか無駄に笑顔なんだが。


「そこへなおれ!」


「おわぁ!? 危ない!」


 斬りかかられて思わず避けたら、その場に残った魔法が切り裂かれた。

 断魔剣――幽霊や魔法といった、物理的実体がない相手も切り裂ける魔法剣の一種だ。魔術師や装備による魔法的な防御も切り裂けるので「魔術師殺し」なんて呼ばれることもある。とにかく効果的な剣だ。


「あ」


 ドカーン!


 斬られた魔法が大爆発。

 王宮が半壊してしまったあげく、放出された魔力を吸収したアルラウネが巨大化した。


「あっれぇ~……? これ何かワシがやらかした感じかのぅ?」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 アルラウネが暴れ出した。


「せっかく抑え込んでたのに! 陛下のアホー!」


 暴れたアルラウネのせいで王宮が全壊した。

 もうやだ……帰ってビール飲みたい……。

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