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第41話 past:新人バニーの就任

 宮廷魔術師団の研究室は今日も平和とはほど遠い。


「スネーク! 頼むから昼寝は定時後にしろって言ってるだろ!」


 頭をひっぱたいて、文字通り叩き起こした。

 この忙しいときに……!


「いてっ。邪魔すんな、ニグレオス。俺は今、熟練の魔法使いにしか聞こえない、精霊たちの鎮魂歌を聞いていてだな……」


「それ、ただのいびきだよな?」


「ちっ……ちがうぞ! これは瞑想だ!」


 ジト目で見ると、スネークが慌てる。はいアウト。


「瞑想してて良い時間でもねぇよ。次眠ったら電撃魔法で起こすから」


「ちょ……! おま……! 洒落になってねーよ! お前の魔法なんか食らったら死ぬわ!」


 指先に電撃魔法をバチバチ光らせながらにっこり笑って告げると、スネークは慌てて仕事に戻った。

 このスネークは勤続三十年になるベテラン魔法使い。昔は王国一の攻撃魔法使いと謳われた実力者だったが、今や「精霊たちの声が聞こえる」と言っては仕事中に寝てばかり。それでも知識や技術は高いから厄介だ。居なきゃ居ないで困るのだから。


「ホースディアは、その書類に何を書いたんだ?」


 チラッと、おにぎりがどうとか見えたんだが……?


「え? ああ、王立図書館から取り寄せた、古代魔術の歴史についてですけど……」


 どうぞ、と見せてくるので、ざっと目を通すが……。


「『古代魔術師がなぜおにぎり型の家を建てたのか』……?

 ……ってなんだ、これ!?」


「え? こっちの文献から資料を作れって……」


「おいおい……ここまでの文献だよ。ここまでが建築の資料。ここからは食料の資料。別の仕事だよ。建築と食料、分けて資料を作ってくれって言ったじゃん。何で混ざっちゃってんの?」


 中堅のホースディアは、やる気はあるものの勘違いが多い。受けた指示を勘違いして間違った結果を出すのが日常茶飯事だ。


「ダメっすか?」


「お前、ジョークとしては面白いけど、やり直しだよ」


「えー……」


「えーじゃねーわ」


「せっかく作ったのに」


「間違いだらけの無駄な資料をな」


「うわ。ひでぇ」


「ひでぇはこっちのセリフだよ。メチャクチャな資料つくりやがって」


 そして本日、新たな騒動のタネがやってきた。

 新人魔法使い、バニーの初出勤日だ。


 コンコン


 ノックの音がして、ドアが開く。


「どうz――」


「失礼します!

 今日からお世話になります、バニーです! 一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」


 そう言って、バニーは元気いっぱいに自己紹介をした。

 こいつ……ノックしたくせに許可が出る前に入室しやがった。何のためのノックだよ。


「よろしく。ニグレオスだ。

 あっちがスネーク、こっちがホースディア」


「よろしくー」


「よろしくっす」


「はい! よろしくお願いします!」


「それじゃあバニーは、とりあえず間取りを覚えるところからだな。

 王宮は広くて迷いやすいから」


「よろしくお願いします。

 今ここまで来る間にも3回ぐらい迷っちゃって、警備の人に聞きながら来たんですよ」


 そうしてバニーに王宮の案内を始めたのだが。


「うわぁ……! 素敵なバラ園ですね!」


「ああ。ここは陛下が――」


 ブーン。


「きゃあ!? ハチ!?」


「待っ――」


 ドカーン!

 バニーが反射的に放った魔法で、ハチもろともバラ園が吹き飛んだ。


「あっ……」


「あっ、じゃねーよ!? 何してくれてんの!?」


「ご、ごめんなさい」


「どーすんだよ、これ……陛下が趣味で育てていらっしゃるバラが、こんな跡形もない感じになっちゃって……無惨だ……」


「へへへへへ陛下がががががががが!? 趣味で育ててててててててていらっしゃるるるるるる!?」


「うん。庭師に任せず、毎日ご自分で世話をなさっててな」


「ひいいいいいいいい!? クビですか!? 私クビですか!? 初日なのに!?」


「物理的に『首』になるかもな……」


「ぎゃあああああああああ!?」


「はぁ……しょうがない。なんとかするから、さっきの部屋に戻って、スネークが寝たら叩き起こせ。あいつはすぐサボるから遠慮なくぶっ叩けよ? ホースディアの資料には触るな。俺があとで見るから」


「わかりました!

 すみません、ニグレオス先輩。じゃあ、後はお願いします」


 バニーを見送って、ボロボロのバラ園に向き直る。


「はぁ~~~……」


 せっかく新人が来たのに……。

 まともな新人が来てくれて、少しは楽になるかと思ったのに……。

 増えたのは「助けになる人物」じゃなくて「新しいトラブルの種」だった。

 後始末ができるのは俺しか居ないというのが苦しい。あー、仕事やめてぇ……。でも給料がいいからなぁ……。


「しょーがねー……とにかく直すか……」


 まずは原形を失った花壇を元通りに組みなおして、あとはバラを復活させて……。

 でも、ほとんど残ってないバラをどうやって復活させようかな。


「そうだ」


 強化魔法と回復魔法を組み合わせたら、なんかいい感じに生命力が強化されて、一気に育ったりするんじゃないか?

 俺は生成魔法しか使えないが、植物が相手ならあまり強力なものは必要ないし、市販の魔道具を改造すればいいだろう。

 というわけで、ちゃちゃっと改造して実行した。


 ズドドドドドドドドドドドドド……!


 爆発的に育ったバラが、一気に王宮全体を包みこんだ。

 ツタに覆われた古い洋館みたいな感じになっちゃった……。


「あー……」


 ま、まあ、あれだ。

 陛下はバラを育てようとしておられたわけだから。

 しっかり育ったのは喜ばしい事ってことで。


「よし、今日はもう帰ってビールでも飲むか」










「なんじゃこれはぁー!?」


 急に暗くなって不思議に思った国王は、窓の外を見て、バラが咲き乱れるツタにびっしり覆われていることに気づいた。

 そしてすぐに調査を命じたのだが、もちろんすぐに犯人は特定された。











 腕組みして仁王立ちの国王陛下が俺を睨む。

 その隣には、太刀持ちが剣を持って付き添っている。

 周囲には護衛の近衛兵がずらり。


「マジっすか……」


 そして渡された剪定バサミ。


「魔法の使用は禁止じゃ。またやらかす危険性があるからのぅ。

 すべて手作業で剪定せよ」


「勘弁してくださいよ陛下ぁ! 今日中に終わらないじゃないですか!」


「終わるまで帰らせぬぞ!」


 あー……これ本気だ。

 くっそー……新人の後始末をしただけなのに。

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