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第4話 医療:レントゲンと仮死薬~過去編~

 俺には「知らないはずの記憶」がある。

 具体的に何をしていたのか分からないが、知識として「AならばBである」みたいな情報が大量にある。しかも、それらは今の王国では見かけないものだ。

 俺はその知識を生成魔法で形にする。これが王国の技術力向上に寄与するところ大である、と判断されて宮廷魔術師に任命されたわけだ。


「何をやっておるのじゃ、ニグレオス。

 宮廷魔術師がなんか変なことやっとるって、余のところまで報告が来たぞ」


 研究室から近い中庭で、作ったものを実験していたら、国王陛下がやってきた。

 今回の発明品は、新型の火鉢だ。


「おや、陛下。今日はよい天気ですな」


「曇天でちょっと肌寒いが?」


「それが良いのですよ。焚き火が恋しくなる」


 集めた枯れ枝を火鉢に入れて、火魔法で着火する。

 枯れ枝はたちまち燃え上がり、周囲はほんのり暖かくなった。


「……新型の火鉢か? 火の回りが早いようじゃな。それに煙も出ないではないか」


「さすがは陛下。ご明察です。

 火の回りが早いのは、この下部にあけた穴のせいですな。火の熱で上昇気流が起きると、下部の穴から空気が吸い込まれて、効率的に燃焼するという仕組みです。

 煙が出ないのは、二次燃焼の効果ですな。一次燃焼で出た煙を二次燃焼で燃やすことで、煙が出ないようになっています」


「ふむ……よく分からんが、1度に2回燃やす火鉢なのじゃな?

 早くよく燃え、煙も出ない……軍に配備すると良さそうじゃな」


「御意の通りにございます。

 ただ構造が複雑なため、少々かさばりますが」


 王子の頃に従軍するので、陛下も従軍経験がおありだ。

 戦場の過酷さを体験することで、たいていの事には耐えられる精神力を身につけるのと、戦争を単なる盤上遊戯のように考えない倫理観を身につけることが目的で、実は本当に過酷な最前線には配備されないようになっている。万一にも命を落とすようなことがあってはならないからだ。

 とはいえ、その「万一」になりかけた経験があるほうが、王として名君になりやすいというのが難しいところである。


「であるか」


「最終的には組み立て式にしよう思っておりますが、今日のところはまだ予想通りに燃えるかどうか確認する段階でして、まだまだこれからですな」


「うむ。期待しておるぞ。

 じゃが、研究室の外で実験するときは許可を取るようにな」


「チッ……忘れてくれませんでしたか」


「うぉい!? 舌打ちしおったな!?」


「まあ、陛下ですから」


「まあ陛下ですから!?」


 陛下とじゃれ合っていると、ふふふと笑い声が聞こえた。

 振り向くと王妃陛下だった。


「仲のよろしいこと」


 王妃陛下に言われて、俺は国王陛下と顔を見合わせた。

 この人に言われると弱い。なにしろ国王陛下と仲良くなったきっかけだからな。



 ◇



 20年前。

 まだ平民だった俺は、生成魔法で「知らないはずの記憶」の通りに形を作れば「知らないはずの記憶」の通りに機能することを確かめる日々を送っていた。

 実験が終わって動作が確認できたら、次はそれをどうやって売るかだ。何らかの方法で、まずは有名になる必要がある。まっとうな方法で有名になれば、多くの人に話を聞いてもらえる。そうすれば効果的に商品を宣伝できる。

 俺は有名になる方法を探していた。


「……こいつは、見つけちまったかな」


 王子妃殿下が謎の病に倒れた。

 国王陛下も王子殿下も手を尽くしたが、治す方法どころか原因さえ分からない。

 ついには「治せた者には褒美を与える」と一般公募まで始めたらしい。

 俺は王城へ向かった。


「そなたが息子の妻を治せると? 僧侶には見えぬが」


 岩のような顔をした国王陛下に睨まれると、その顔が実際よりはるかに大きく見えた気がした。なんというか、圧がすごい。

 今の陛下の父君である。陛下が即位したのは10年前なので、当時はまだ陛下は王子だった。


「僧侶ではありません。魔術師です。

 ですから『治せる』とは申しません。原因を特定する一助になればと思ったまでで、どこまで調べがつくかもわかりませんし、褒美がほしいとも思っておりません」


「ふむ……? して、どのような魔法で何を調べるというのだ?」


「生成魔法を使いまして、特殊な板と光を生成します。

 板に人体を密着させ、人体の背後から光を当てますと、人体の中、骨や臓腑の様子が板に描かれます。

 ……と申しましても、イメージが掴めないでしょうから、よろしければ私の体で実際にやってみせて、どんなものかご覧いただきましょうか?」


「よろしい。やってみせよ」


「では失礼して」


 俺は板を生成して胸に抱え、背中に光を生成した。

 すると板に骨がくっきり写り、内臓の形もうっすら写った。レントゲン写真だ。


「このようなものです。

 このはっきりと白く写っているのが骨で、こちらにうっすら心臓や肺が写っているのがお分かりになるでしょうか?」


「おお……なんと面妖な。

 つまりこれは体の中の様子を見ることができるのだな? これを我が妻に使おうというのか」


 王子殿下がレントゲン写真に目を見開く。


「骨が折れていたり、あるいは臓腑が変形しておりますと、そこに様子が写るわけで、具合の悪い原因が分かるかもしれません」


 すぐに王子妃殿下を診察せよと命じられ、引きずられるようにして大急ぎで王子妃殿下の寝室へ。

 そしてレントゲン撮影の結果、王子妃殿下のレントゲン写真には白い塊が写った。臓器が変形して分厚くなっている証拠である。


「ここに回復魔法を集中して――」


「ぎゃああああ!」


「ほい撮影」


「影が大きくなっている!?」


「バカな。回復魔法で育つ病巣など……」


「ああ、これはガンみたいなヤツでしょうな。切除してから回復魔法で治せば元通りでは?」


「「なにそれ!?」」


「治る力が暴走した状態で、元の形を通り越して大きくなり続けるのです。

 形が崩れることで本来の機能が失われ、大きくなることで周辺の臓器が圧迫されるので……まあ、良いことは何もありません」


「そんなことが……」


「せ、切除ができるなら回復はお任せください。

 しかし、王子妃殿下の体を切除など……そのような手技は習得しておりませんので、私では手においかねます」


「切除ならば刃物でできよう。しかし激しい痛みを伴う上に、傷つけるのだから死亡するリスクも……」


 全員が青い顔をしている。

 そこへ俺はひとつのポーションを取り出した。


「これをお試しになりませんか?」


「これは?」


「超ぐっすり君1号。平たく言えば、仮死状態になる薬ですな。

 これを飲めば8時間ぐっすり眠って、何をしても目覚めません。焼いても凍らせても切り刻んでも決して目覚めず、痛みを感じる様子もない上に、脈拍や呼吸が極端に低下するため切り刻んでもほとんど出血しないという代物です。

 8時間後にすっきり目覚めて、後遺症や依存性もありません。ご心配でしょうから、これも私が飲んでみせましょう。毒見のために少量だけにしますから、時間が短くなるか、眠りが浅くなると思います。よろしければ、その間に傷つけてみてください」


 宮廷医務官にポーションを渡して、毒見でちょっとだけ指につけて舐めた。

 ばたん。

 ……………………。

 …………。

 ……。


「おはようございます。どのぐらい眠っていましたか?」


 目覚めると別室だった。

 国王陛下と王妃陛下と、王子殿下と、もう1人知らない女性がいる。この人が王子妃殿下か。


「8時間だ。あと、眠っていたのではなく、寝ぼけたような感じになっていたぞ」


 国王陛下が答えた。


「なるほど。時間は変わらず、眠りが浅くなりましたか。

 それでは、傷つけてみましたか? どんな様子でした?」


「うむ。すまぬが左腕を剣で貫いた。

 寝言で『でかい蚊に刺された』とか申しておった。剣が刺さった腕をボリボリかきむしるような仕草をしておったぞ。血もほとんど出なかった」


 左腕を見た。

 傷はない。軽く動かしてみると、ごくわずかに痛みを感じた。筋肉痛みたいな感じだ。日常生活に支障はないが、完全回復はしていない感じだな。

 状態の把握が終わって、問題なさそうなので、俺はベッドから出た。王族の前で横になったままというのは失礼だ。


「そうですか。傷は治してくださったようで、ありがとうございます」


「いや、礼を言うのはこちらの方だ。

 息子の妻はすでに治療した。この通り、意識も戻って、痛みもなくなっている。健康そのものだ」


「この度は私の命を助けていただき、ありがとうございます」


 王子妃殿下が優雅に頭を下げた。


「友よ!」


 感極まった様子で、王子殿下にがっちり抱きしめられた。

 しきりに感謝され、功績を称えられ、伯爵位をもらって、宮廷魔術師に推薦された。うーん……王子妃殿下、愛されてんなぁ。

 その後すぐに試験を受けて宮廷魔術師になり、王子殿下(今の国王陛下)の紹介で王室御用達の商人と引き合わせてもらい、数々の発明品を世に送り出して、今に至る。

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