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第39話 諜報:国王の秘密

 今日は国王陛下の執務室だ。

 呼ばれたから来たのだが。


「というわけで、よろしく頼むぞ」


 用件を告げた陛下は、さっさと話を終わらせた。

 単純に命令だけして「行って来い」というのは、陛下らしくない。この陛下は、俺のやる気を引き出すのがうまい。具体的にはビールを餌に釣ろうとする。だが今日はその様子がない。


「陛下、なにか悩んでます?」


「いや、別に何も悩んでなどおらぬが?」


「じゃあ隠し事ですか?」


「何を言うておるか。さっさと行って来い」


 怪しい。

 絶対なにかあるぞ、これは。



 ◇




「というわけで、国王陛下を探りたい。

 ジェームス、何か手はないか?」


「閣下、さすがにお戯れがすぎるかと」


「俺は真面目だ」


「国王陛下にそういう事するのはマズイですって。洒落になりませんよ」


「むー……」


 ジェームスが仕事言葉を崩すほどか……じゃあマズイな。建前じゃなくて本気で言っているときの態度だ。

 しかし気になる……。


「閣下」


「何だ?」


「諦めてください」


「無理だ」


「はぁ~……」


「だって気になるんだもん」


「ビールあげるから諦めましょうよ」


「むむっ!? それは……だ、ダメだ! ダメダメ。諦めがつかん」


「えええっ!? 閣下がビールを袖にするほどですか!? まったくもう……恋する乙女じゃないんですから」


「気持ち悪いこと言うな」


「どうしてもやるなら、バレたときの言い訳ぐらい考えてからやってくださいよ?

 あと、私を巻き込まないようにお願いしますね」


「分かった」


 仕方ない。自分で何とかしよう。

 光学迷彩の魔法に、ノイズキャンセラーの魔法、消臭魔法、魔力探知をジャミングする魔法などなど……何度か陛下に隣国への潜入を命じられた成果を今ここに。

 まさか潜入関係の魔法技術の集大成を自国の王に試すことになるとは思わなかったが……間取りや警備の位置なんかを把握できている分、他国で潜入するより簡単だな。さあ行くぞ。



 ◇



 できちゃうんだよねぇ。

 何とかしようと思ったら、何とかできちゃうんだよ、俺は。

 隣国の首脳陣に下剤盛ってきたのは最近のことだからね。同じようにすれば楽勝だね。特に光学迷彩の魔法が強力だ。目の前にいても気づかれない。


「うーむ……なかなかウマくいかぬ……」


「あなた。練習あるのみですわ」


「うむ。何としても当日までに完成させねばな」


 王妃陛下の趣味で作った「家庭用」サイズのキッチン。

 そこで国王陛下が王妃陛下と並んで何やら作っている。

 何を作っているのかと回り込んで見てみれば、それはどうやらケーキのようだ。

 形は一般的なホールケーキのようだが、どう見ても「いびつ」だ。歪んでいる。クリームの塗り方が下手なのだろう。分厚く塗ったところと薄くなってしまったところがあり、なんだかホール全体が斜めに傾いているように見える。

 夫婦で仲良く作って食べるだけなら十分なように思うが、何をそんなに頑張っているのだろう?


「まだ時間はありますわ。焦らず繰り返しましょう」


「そうだな。

 とはいえ急がねばならぬ。ニグレオスの誕生日は待ってくれぬからな」


 え?


「うふふ……少しばかり不格好でも、きっと喜んでいただけますわ」


「そうは言ってもな……あまりに不格好では恥ずかしい」


「ケーキをプレゼントすること自体は恥じらいませんのね?」


「うん……? まあ、それはな……何かプレゼントを贈るぐらいは、毎年やっておるし。料理を、というのは、あやつのアイデアだしのぅ」


「ああ、それで珍しく私の誕生日にあんなことを?」


「う、うむ……」


 一緒に料理をしてもらった。俺の発案で。

 ちなみに王妃陛下にはドレスのようなエプロンを贈り、国王陛下には「王妃ラブ♡」と大きく書かれたエプロンを着てもらった。

 あとで真っ赤な顔した国王陛下に殴られたが、反省はしていない。


「それに喜んでいただけることも疑いませんのね?」


「お前も喜んでくれたからな」


「あれは私の趣味に付き合ってくれたからですわ。

 まあ、一緒に作ったものを食べると思うと、美味しかったですけど」


 しばし見つめ合う国王陛下と王妃陛下。

 ……あッま……!

 もう出ていこう。限界だ。甘すぎて砂糖吐きそうだ。


 ガタッ


 あっ、しまった! 何かに当たった。


「誰じゃ!? 者共、出合え! 侵入者じゃ! 姿が見えぬ! 油断するな!」


「あっ……ちょ……待っ……!」


「「確保ォー!」」


「ぎゃふん!」


 なだれ込んできた警備兵に、あっという間に捕まった。


「なんじゃ、ニグレオスか。

 お前こんな所へ忍び込んできて、何やっとるんじゃ」


「あ、すみません。ジェームスの差し金で、陛下にサプライズを計画してまして」


「……ジェームスが?」


「はい」


「……本当は?」


 あれっ? バレてる?

 はっ!? しまった。ジェームスはサプライズを計画する性格じゃなかった。あいつは通常行動がサプライズみたいなもんだからな。そもそも計画するのが得意すぎて一瞬で計画しちゃうから、計画段階に時間をかける奴でもない。

 くそっ。巻き込むのは失敗か。仕方ない。


「すみません。なんか陛下に避けられてるっぽかったんで、気になって」


「あらあら、まあまあ……」


「甘っ!? 青春時代の初恋か!? 余はソッチの気はないぞ!?」


「いやそんなの俺だって無いですよ!? 単純に興味が湧いただけで!」


「嘘こけ! こんな事までしておいて!」


「嘘じゃないですって!」


「ニグレオス」


「なんですか?」


「バーカバーカ!」


「なっ!? バカって言うほうがバカなんですぅー!」


「うふふ……仲良しねぇ」


 言い合う俺達を、王妃陛下が微笑んで見守る。

 今日も王国は平和だ。

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