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第37話 紛争解決:隣国への報復

 ゴーファ辺境伯の領地軍に起きた下痢症状を鎮静し、俺は王城へ戻った。

 とりあえず状況は落ち着いたが、これで終わりではない。


「あとは犯人たる隣国への報復ですな」


「うむ。目にもの見せてやりたいものじゃ」


 陛下が力強く拳を握って言う。

 やられっぱなしで泣き寝入りはできない。王国の沽券に関わる問題だ。


「では『目には目を』ということで、隣国の首脳陣に下痢になってもらいましょうか?」


「ホッホ~~~ッ! 冴えとるのぅ! さすがニグレオスじゃ!

 もちろん痛烈にやってくれるじゃろうな?」


 陛下が目をキラキラさせて言う。

 ヒーローを見る子供のようだ。

 それなら期待に応えなくては。


「数日はトイレから出られなくしてやりましょう」


「よし任せた! ぶっちめてやれ!

 隣国が何か言ってきても、知らぬ存ぜぬで押し通してやるから、存分にやるがよい」


 陛下が満面の笑みでサムズアップした。

 それじゃあ、やるか。



 ◇



 研究室。


「ってことで、ジェームス、強力な下剤の化学式を教えてくれ」


「C18H13NNa2O8S2⋅H2Oですね。

 ピコスルファートナトリウム水和物といいます。1滴でも効果がありますが、多く盛るほど強力に作用します。数日トイレから出られないほど、という目的であれば100mlも飲ませれば事足りるかと」


 打てば響くような返事とは、まさにこの事だ。

 いや、この場合は、立て板に水というべきか?

 とにかくジェームスの口からは、すらすらと化学式が出てきた。


「よし、わかった」


 化学式さえわかれば、分子構造が分かるわけで、あとはその通りに生成魔法を使うだけだ。

 ……と思ったら、ジェームスが1枚の紙を差し出した。


「閣下、こちらをご一読ください。

 隣国の首脳陣、特に軍部の上層部にいる人物の一覧です」


「用意が良いな。さすがジェームス」


 しかしなぜこんなものを用意していたのか。

 被害を受けた話から、次に報復するなら……と考えたのだろうか? 相変わらず脳みそ化け物だ。

 そして誇るわけでもなく淡々と言うのが、いかにもジェームスである。


「いえいえ……。

 お気をつけて、いってらっしゃいませ」



 ◇



 隣国。

 分刻みの過密なスケジュールが組まれている国王が、今日はすべての予定をキャンセルすることになった。


「ぐおおおお……!」


 強い腹痛。

 何度も出る下痢。

 下痢と下痢との「間」でさえ、気の休まる暇はない。腸が勝手に動いて、何も無いのに何かを押し出そうとしてくる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!」


 トイレから出られない。

 ちょっと落ち着いたと思って立ち上がった瞬間に、もう次の便意が襲ってくる。

 朝食のすぐ後からこの調子で、すでに昼過ぎ。正直けっこう空腹なのだが、それどころではない。たぶん食べたらすぐに出てしまうだろう。

 すでに何度も尻を拭いたせいで、そろそろ尻が痛くなってきた。


「へ、陛下……お加減のほどは……?」


 医務官がドアの外から声をかけてくる。

 役目柄そうするのが当然とはいえ、今は放っておいてほしい。


「良いわけないだろう!? ああっ……! また出っ……ぐおおおお……!」


 腹がよじれる。

 何ひとつ愉快なことなど無いというのに。

 そして、出そうとする感じはあるのに、結局なにも出ない。


「陛下がトイレにこもってから、すでに6時間ほどが過ぎております。

 どうか診察をお受けください」


「無理だ! すぐにパンツを履いても、トイレから出る頃には漏れてしまう!」


 何も残ってないのに、何かが出てきてしまう。腸がひっくり返りそうだ。

 絶対に、診察が終わるまで「もたない」だろう。漏れる。間違いない。

 これは予感というより確信だ。そして確信よりも確かなものだ。


「ならばそのまま診察させていただきたく……」


「バカ言うな!? こんな情けない姿をさらせと!?」


 とんでもねぇ事を言い出しやがる! このバカタレ医務官が!


「決して口外いたしませんゆえ、どうか……」


「ダメだ! ふざけんな!」


「下痢が続けば脱水症状で命を落とします。

 プライドも命を失えば何にもなりませぬぞ」


「プライドじゃねーよ!? 人としての尊厳の問題だわ! トイレでうんこしながら診察されるとか、どんな拷問だよ!? やりたかったら全裸で王都1周してから来い!」


 精神的な拷問――もとい刑罰として、さらし者にするという方法がある。

 晒す時間が長いと受刑者は脱糞するハメになるが、国王がそんな扱いを受けるなんて冗談ではない。衆目に晒されるわけではないとはいえ、冗談ではない。マジで。本当に。このクソ医務官め。せめて同じところまで落ちてきてから物を言え。


「それはどうか平にご容赦を……」


 ほらみろ! お前だって嫌じゃねえか!

 と言ってやりたかったが、そのタイミングでまた腹がゴロゴロと雷鳴を響かせ始めた。


「ぐおおお……! 腹がぁぁぁ……!」


「陛下……!?」


「まだまだ元気いっぱいだぜ! 脱水で死ぬほどぐったりしてねーわ!」


 とてもつらいが。

 なんだか、すぐに息が上がってしまうが。

 まだまだ倒れるほどじゃあない。


「幸いでございます。

 しかし診察を……」


「冗談じゃねえっつーの!

 もう放っといてくれ! これ午後いっぱい問答続けなきゃいかんのか!? 下痢に苦しみながら!? お前、医務官が患者苦しめてどうすんだよ!?」


 ていうか、午後いっぱいで終わるのか? まったく落ち着く様子がないんだが?


「申し訳次第もございません。

 しかし陛下のお体を健やかに保つのが役目なれば……」


「うっせーわ!」


「陛下……どうか診察を……」


「だああああ! しつけぇぇぇぇ!」


 鬱陶しいったらない。

 それもこれも王国のせいだ。腹下しの毒を盛った報復に、同じことをやり返してきやがったに違いない。証拠はないけど、絶対そうだ。間違いない。


「畜生めぇぇぇぇ! 大ッ嫌いだ! バーカ!」


 結局、それから数日はトイレから出られず、最後には脱水で倒れて、尻を出したままトイレから運び出されるという間抜けな姿をさらして治療を受けることになった。

 ぐおおお……気持ち悪い……! だるい……! 痺れる……! 苦しい……! 王国め……! おぼえてろよ……絶対泣かせてやるぞ!

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