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第34話 医療:レモン汁

 アルミ箔を生成してみた。


「ジェームス。これって軍事利用できるかな?」


「直接それ自体が攻撃に利用される可能性は低いかと。

 ただ、まずは光や湿気に弱いアイテム――ポーションや精密な魔道具などを保護するとか、断熱材として鎧の表面に貼るとかの利用法が考えられます」


「鎧の表面か……。なるほど、外側に貼ると日光を反射する夏用、内側に貼ると体温を反射する冬用というわけだな」


「将来的にはチャフグレネード的なものが開発されるかもしれません」


「チャフって……レーダー技術がないのに?」


「探知魔法はありますから、アルミ箔に魔法的なジャミング効果を持たせて散布すれば、有効かと」


「なるほど。通信魔法でも開発された暁には、かなり効果的な妨害兵器になるか」


「まあ、今のところ長距離通信といえば狼煙ですから、発煙筒でも開発したほうが有効ですが」


「ふーむ……」


 俺達は、遠い将来に起きるかもしれない核戦争を回避したい同志だ。

 そのために、戦争を激化する発明は避ける。

 寿命に限界があり、永遠に根絶するなんてことが現実的には不可能である以上、俺達が核戦争に近づく技術を開発しないことが、俺達にできる精一杯の抵抗だ。


「閣下、そもそも突然どうしてアルミ箔などを?」


「ん? ああ……こうするためだ」


 ジャガイモを取り出し、アルミ箔で包んで、木炭で囲んで火をつけた。

 しばらく待てば焼き芋の完成だ。サツマイモで作るよりも甘みが少なく、ビールによく合う。


「またビールですか……あなたという人は……」


 ジェームスが呆れた。


「いいんだよ。これが俺だ。

 さて、それじゃあコレに合う調味料を作ろうか」


 ボウルを生成して、卵と油を入れる。

 あとは泡立て器を生成して、ひたすらかき混ぜるだけだ。

 塩とか胡椒とか少し入れるといいかもしれないが、それは後からでも追加できる。


「あー……なるほど。マヨネーズですか。蒸したジャガイモにはよく合いますね」


「だろ? 楽しみだなぁ! うはははは……!」


「しかし閣下、そのやり方では成功しません」


「なんだと?」


「油をいっぺんに入れてしまうと、乳化が追いつかず、分離したままになります」


「お、おう……そうなのか……え? じゃあ、どうしたらいい?」


「少しずつ入れるのです。卵を撹拌しながら。

 もう1つボウルと卵を用意しましょう。改めて卵だけで撹拌しながら、その失敗したマヨネーズを少しずつ加えていけば、成功するはずです」


「よし分かった!」


 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ――


「全然できねぇ!」


 30分以上混ぜたのにマヨネーズにならない。

 卵が混ざった油だ、コレは。

 レシピを間違えたフレンチドレッシングみたいになってしまった。


「少し油を入れるペースが早かったようです。それと――」


「うっせーわ! 手伝いもしねーでゴタクばっか述べやがって!

 畜生め! 何としても作ってやるぞ!」


「あっ!? 閣下、どちらへ!?」


「うおおおおお!」



 ◇



「ルナ! 助けてくれ!」


「えっ? ニグレオス師匠?

 師匠が『助けてくれ』とか珍しいですね。どうしたんですか?」


「まずコレを持て!」


「あっ、はい」


 ボウルを渡した。

 ルナは素直に受け取った。


「次にコレだ!」


「はぁ……?」


 泡立て器を渡した。

 ルナは戸惑いながら受け取った。


「かき混ぜろ!」


「はい……?」


 指さして、ぐるぐる回す仕草をした。

 ルナは混乱している。


「うまいビールが飲めるぞ」


「師匠……」


 サムズアップした。

 ルナは呆れている。


「はぁ……分かりましたよ。混ぜればいいんですね?」


「そうだ。混ぜれば良いんだ」


 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ――


「おおっ……! いいぞ! その調子だ!」


 ルナが混ぜているところへ、俺が少しずつ油を足していった。

 今度はうまくマヨネーズになってきている。


「師匠、これ強化魔法なしだとキツイですね」


「使っていいぞ」


「じゃあ遠慮なく」


 ブイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「おお……! すげぇ! 強化魔法バンザーイ!」


 ブレンダーみたいな音を立てて、泡立て器が目にもとまらぬ高速回転だ。

 一気にマヨネーズが完成した。


「いやっほーう! 完成だ!」


「で、コレどうするんですか?」


「待ってろ」


 転移魔法で王城の研究室に戻り、焼いていたジャガイモを持ってきた。

 アルミ箔を開いてみると、すでに「ちょうどいい焼き加減」を少し通り越しているが、まあ食えるレベルだ。問題ない。


「コレを!」


 ジャガイモを食べやすいように持って。


「こうして!」


 マヨネーズをたっぷりつける。


「こうじゃ!」


 もぐもぐ。


「うまいッ!」


 でも塩と酸味が足りないかな。少し物足りない味だ。

 追加しよう。塩とレモン汁。それと胡椒も少し入れるか。

 混ぜ混ぜ……。


「よし、こんなもんだ。

 さあ食ってみろ。飛ぶぞ」


 ジャガイモを渡した。

 ルナは戸惑いながら受け取った。


「はぁ……? では、いただきま――うまああああああっ!?」


「だろぉ~?」


「なんですかコレ!? 師匠!? コレ、師匠、めっちゃ美味しいんですけど!?」


「だよなぁ? ……はぁ……」


「なんですか、そのため息は? 何を落ち込むことがあるんです?」


「作り方は分かった。作れることも分かった。

 でも、こんなに手間がかかるんじゃあ売り物にならない。大量生産に向かないからな。ご家庭でお気軽にってのも無理。飲食店でさえコレはちょっとためらうだろうな。作るのが面倒くさすぎる」


「あー……」


「とりあえず今日は帰るよ」


「あ、はい」



 ◇



 そして王城。


「急に呼び出してすまんな、ニグレオスよ」


「いえ陛下、お気になさらず。

 それよりも、御用の向きは? 急ぎのことでしょうか」


「うむ。余の孫が病気のようじゃ」


「なんと!?」


「妻が病に倒れたとき、お前だけが妻の病の原因を特定できた。

 その実力を見込んで頼む。孫も診てやってくれ」


「どんな状態ですか?」


「歯茎が腫れて紫色になり、だるいと訴えておる。運動させてもすぐに疲れてしまってのぅ。続かんのじゃ。それに筋肉や関節が痛いと言うておる。年寄りじゃあるまいに、10歳にもならぬ子供がおかしな事じゃ」


「あー……もしかして野菜嫌いで?」


「うむ……? その通りじゃ。まさか野菜不足が原因か?」


「はい。治療は可能ですが、苦しんでいただくことになります」


「苦しむ? どのようにじゃ?」


「超ぉ~すッッッぱい! お薬を出しますので、数週間ほど飲み続けてください」


「お、おう……」


 レモン汁を出してやろう。

 純粋なビタミンCを添加して濃度を上げると効果的なはずだ。

 やりすぎると胃が荒れるから、まあ程々にな。



 ◇



 研究室。


「なるほど、そんな事がありましたか」


「そんな事があったんだ」


 俺は落ち込んでいた。

 マヨネーズが量産できないからだ。

 売り出して儲けようとかはどうでもいいのだが、マヨネーズが手軽に使える状況を作りたかった。そうすればビールに合うツマミのレパートリーが増える。


「閣下」


「なんだよ」


「混ぜる前に酢とかレモン汁とか加えると、簡単に作れます」


「先に言えコノヤロウ!?」

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