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第18話 if:芋男爵の領地でダンジョン発見

 今日はルナの屋敷だ。

 ルナに呼ばれたので来てみたのだが――


「すみませんが、姉は来客対応中でして、代わりに私が」


 と弟のアーネストが対応してくれた。

 話の内容は、以前の架橋工事デートで建設した橋の、その向こう側を調査した結果に関するものだった。新しい問題が発生し、また協力を仰ぎたいとのことだ。


「わかった。あとは任せろ」


 そう言って部屋を出たところで、ルナとばったり出会った。

 隣には、芋男爵がいた。ルナの領地から労働力として領民を借りて、見返りに食料を輸出している男爵だ。その特産物であるジャガイモが、俺のレシピで素揚げになって大好評。生産が追いつかないほどで、ルナの領地から借りた労働力で対応している。そのための輸送経路を俺とジェームスで作ったわけだが。


「あ、師匠。すみません、呼び出しておいて……こちらの男爵のほうが先に到着されましたので、師匠の到着までに終わらせるつもりだったのですが」


 芋男爵とにこやかに話していたルナが、俺を見つけて申し訳なさそうにする。

 まるで咲いていた花がしおれたような有り様だ。


「ああ、いや、それは構わんが……」


 言ってから、我ながら首を傾げた。

 構わん「が」……なんだというのだ?


「用件はアーネストから聞いた。対応しておくから心配するな」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるルナが、なんだか事務的に見える。

 俺はモヤモヤした気分のまま、王城へ転移した。



 ◇



 芋男爵がルナに面会していたのは、領地でダンジョンが見つかったからだった。

 もともと芋男爵の領地は、土地が痩せていて麦の栽培に適さず、仕方なく芋を栽培している弱小領地だ。領地軍も弱く、人数も少ない。

 が、そこにダンジョンである。ダンジョン内の魔物を領地軍で倒して、訓練を兼ねつつ素材を獲得して売却益を領地運営費にする一挙両得状態を作るには、芋男爵の領地軍は弱すぎる。

 となれば冒険者に解放して、利用者に課税するような方式にしたほうが、負担も小さく利益になるだろう。しかし冒険者が集まれば、治安の悪化は免れない。基本的に冒険者というのは、他では食っていけない「盗賊になる寸前」みたいな連中だ。荒くれ者が多い。

 芋男爵は治安維持のために領地軍を強化する必要に迫られるわけだが、募集しても訓練させる時間がかかるので自領の兵士を急に増やすことはできない。そうなると他の貴族に応援を求めることになる。

 この利権には多くの貴族が飛びつきそうだが、中には骨までしゃぶろうという悪意に満ちた貴族も……いや、そっちのほうが多いぐらいだろう。そうなると頼る先といったらルナ伯爵だ。

 レンタル労働力の輸入と食料輸出の関係にあるルナの領地から、レンタル労働力の輸入拡大として戦力になる人物をレンタルする。今日はその交渉に来たのだ。

 ルナは新興貴族だがドラゴン殺しの英雄で個人戦力の高さは国内最強格であるし、その父親はゴーファ辺境伯なので少し遠回りだが組織力もある。



 ◇



「……という事でした」


「なるほどねぇ……あの男爵も大変だな」


 近衛騎士として王城勤務に戻ったアーネストから事情を聞いた。

 平然を装いながらも、俺はますますモヤモヤした。

 急接近する芋男爵とルナ。

 話の流れ的に、このまま芋男爵がルナと結婚してしまうような気がする。そうすれば芋男爵はルナとゴーファ辺境伯の後ろ盾を得ることになり、見返りにダンジョンの利益を出せる。ルナやゴーファ辺境伯にとっても、ダンジョンは領地軍の訓練所や収入源として大きな魅力だろう。


「うーむ……」


 ぬるくなったビールをちびちび飲みながら、ぼんやりと窓の外をながめる。

 そんな俺に、ジェームスがクソデカため息をついた。


「まったく……見ちゃおれませんな」


「何がだ、ジェームス?」


「閣下。そんなに気になるなら、さっさとルナ伯爵を口説いておしまいなさい。

 今ならまだルナ伯爵のお気持ちは閣下に向くでしょう。かの男爵と親しくなってからでは遅いですぞ」


「おま……! はあ!? 何いってんだ?」


「何って、閣下の恋愛相談です。

 こう見えても、私は妻も子もおりますので、この方面に関してなら閣下よりは詳しいかと存じますが」


「ばっか……! おま……! 俺は別にそんな……!」


 慌てる俺に、ジェームスはますますクソデカため息をついた。

 やれやれと言わんばかりに、肩をすくめて首まで振ってくれちゃいやがる。


「10代前半の子供ですか、閣下は」


「ぐぬっ……!?」


「まあ、仕方ありませんな。閣下は恋愛ド素人でいらっしゃるようですし」


「ぐぬぬっ……!? おま……! この野郎……!」


「なにか?」


「ぐぬぬぬっ……!」


 ち、畜生め……何も言えねぇ……!


「さっさとルナ伯爵に縁談でも申し込みなさいませ。

 同じ伯爵同士で、男爵と伯爵でくっつくよりは家柄の抵抗も少ないでしょう。かたや領地なしの宮廷魔術師、かたや領地ありの新興貴族というのもよろしい。閣下がルナ伯爵のところへ婿入りなされば、何の問題もありません。かの男爵とくっつくには、領地が飛び地という問題が起きますからな。

 ご当人の感情としても、早いほうがよろしいですぞ。遅くなればなるほど、新しいご友人とどんどん親しくなっていきますからな。相対的に閣下の存在が軽くなります」


「う……うーむ……」


 その通り過ぎて何も言えねぇ。

 しかし俺が? 縁談だと?

 ……。

 …………。

 ……………………。

 考えたこともねぇ。何をどうすりゃいいんだ?


「な、なあ、ジェームス」


「こちらが縁談申込みの手順書です。

 先方へのお手紙の文言に関してサンプルも用意してございますので、ご一読ください」


「この野郎……仕事早ぇな、こんな所でも」

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