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第17話 紛争解決:破壊工作の再燃

「で、気に入ったと」


「はい、陛下」


 今日は王城。陛下の執務室だ。

 暫定副官になったジェームスと協力して、2つの領地の発展を促す設備を作った。

 知らないはずの記憶を持つという秘密を共有した俺とジェームスは、戦争を激化させる技術を作らないことで合意し、遠い将来の核戦争をできるだけ回避するための同志となった。

 ……が、そんなことを陛下に言えるわけもなく、俺は「ジェームスのおかげで仕事が早く終わったので、ビールを飲む時間が増えた」と喜んでおいた。


「ジェームスのほうはどうじゃ?」


「はい、陛下。ニグレオス閣下のもとで働くことは、自分の計画したことがたちまち実現していく様子がまことに爽快で、今回の大きな仕事には強いやりがいを感じました。私をニグレオス閣下の副官につけてくださり、陛下には改めて感謝申し上げます」


「うむうむ。よきかな。

 では暫定副官の任を解き、正式に副官として任命しよう」


「はっ! 謹んでご下命賜ります!」


「へっへっへっ……良かったんですか、陛下? ジェームスを陛下の下につければ、陛下もビールを飲む時間が増えたかもしれませんよ?」


「余はそこまでビール好きじゃないわい。

 まったく、呑兵衛め……。

 まあ、ニグレオスがさっさとくたばってしまった暁には、ジェームスを余の下で執政官にでもしようかの。ニグレオス、お前、死ぬ予定ないか?」


「うは! ひでぇ!」


「ぷっ……く……! へ、陛下……面白いですが、お戯れが過ぎます」


 ジェームス……てめえ……!

 まあ、慣れてきた証拠だと喜んでおくか。


「面白いのか。

 よし、ニグレオスを死地に送ろう」


「うぉい!?」


「冗談じゃ。

 とはいえ、解決してほしい紛争が、ちょうどひとつあってのぅ」


「紛争、ですか?」


 核戦争を回避するため、軍事利用される技術は作らない。そのことでジェームスと同志になったばかりだ。だというのに……。

 しかも陛下が紛争と断定するような事態。以前あった隣国からの破壊工作が思い出される。あのときは俺が情報を盗んできて、その後それに基づく破壊工作が実施された。

 隣国が盗賊に偽装した兵士を送り込んで、ゴーファ辺境伯の領地で暴れさせたことがある。これは隣国の辺境伯が単独で、国費を使わずに領地の運営費でおこなった。このとき王国は俺を送り込んで情報を盗み、それをもとに「大金が必要な補修工事」が発生するように、別途工作部隊を送り込んで破壊工作を実施。結果、経済的に圧迫された隣国の辺境伯は破壊工作を中断している。


「隣国からの破壊工作に、新たな動きがあってのぅ」


「やっぱりソレかぁ~……」


 がっくりとうなだれ、大きなため息をついた。


「閣下、そう嫌そうな顔をされましては……」


「だって嫌だもの」


「閣下!? 正直が過ぎます!」


「おのれ、ニグレオス。なんという正直者じゃ。

 お前、正直も度が過ぎるとアレじゃぞ?」


「関係が悪化して戦争になっていくのは、ちょっとなァ……。

 のんびりビールを飲んで暮らしたいです、陛下。戦争反対。軍事目的のアイテムを開発する生活なんてまっぴらです」


「おぉう……閣下、ぶっこみますね」


 秘密を共有しているジェームスは、俺が単なる戦争反対ではないことを知っている。

 避けたいのは、遠い将来に起きるかもしれない核戦争。そのための技術を生まないことで避けようとしている。


「ビールぐらい飲めばよかろう。

 そもそも戦争反対というなら、今回のことは戦争を回避するためじゃぞ?」


「話を聞きましょうか」


 キリッ。


「……ったく、調子の良いヤツめ……。

 隣国からの破壊工作。これは『おそらく』じゃが『確定』じゃ。

 過去のパターンに一致しない異常気象や水源の枯渇・汚染などが起きておる。それも国境沿いで、隣国で発生して、我が国に飛んできたり流れてきたりしておる。

 しかし、おそらくは国土防衛魔法の効果を受けておるのじゃろう。いずれも途中で進路を変えて、我が国には大きな被害が出ておらん」


 国土防衛魔法は、悪意をもって近づくものを迷わせ、進路をそらす効果がある。

 異常気象や水源の枯渇・汚染が本当に自然現象なら、そこに悪意はなく、国土防衛魔法の効果を受けない。

 しかし進路がそれたということは――1度や2度なら偶然だろうが、数が重なれば偶然とは言えなくなる。


「陛下。水源の枯渇が『途中で進路を変えた』というのは、どういうことでしょうか?」


 ジェームスが尋ねた。

 だいたい分かるだろうに、細かく確認して真面目なやつだ。こいつは「根掘り葉掘り」と聞けば「葉っぱは掘れねぇだろーが」とブチギレそうだな。


「別の場所から水が湧いたために、我が国には水が流れてきたのじゃ」


「よそへ流したのではなく、せき止めたのでしょうね。

 それで、その発生源たる実行部隊を潰してこいと?」


「うむ。生け捕りにして、尋問して、芋づる式に……というのが理想的じゃが、場合によっては殲滅もやむなしじゃ。

 しかし最低でも『どうやって』実行しているのか、それを突き止めてもらいたい」


「対策を立てるには必要な情報ですね。

 アイテムなら回収してくるだけですが、儀式だった場合は――」


「ジェームスを連れて行くが良い。そやつは魔術師ではないが、知識だけは魔法にも明るい。分析ならできるじゃろう」


「御意の通りにございます、陛下。宮廷魔術師たるニグレオス閣下にどこまで迫るか分かりかねますが、微力を尽くします。

 それと閣下がアイテムを回収される場合、もちろん厳重に封印して誤作動しないように気を配ることと思いますが、その後の分析の段階では開封せねばなりません。万一のことを考えますと、どこで分析するかという点には注意が必要かと」


 あ、そうか。誤作動する可能性もあるか。

 異常気象ぐらいの威力なら、俺が持っている間は、魔力量にまかせて強引に封じ込めることも可能だと思うが、分析に回したあとの事までは責任が持てない。確かに開封しないと分析できないもんな。

 よく気がつく人だ。しかも俺を落とすことなく指摘してくるとは。こいつめ。このジェームスめ。有能め。


「あー……そうじゃの。

 そしたらニグレオス、ルナ伯爵の領地のどこか人が居ない場所で、分析用の施設を作っておいてくれ。あとで分析チームを派遣する」


「あ、はい。ルナの領地なら、無人の荒野はたくさんありますね」


「では閣下、先にそちらの設備をお願いします。

 私は明日までに調査計画を立案しておきますので」


「助かるよ。じゃあ行ってくる」


 そういうわけで、俺達は陛下の執務室から出ていった。

 そして翌日、ジェームスの計画に基づいて調査を実施し、実行部隊とそれに使役される珍しい魔物を捕獲して帰ることになった。魔物を制御するためのアイテムで魔物を使役していたようだ。馬・犬・象といった動物の軍事利用は古くから存在する。そこに魔物という選択肢が来るには、人馴れせず訓練を受け付けない魔物をどうやって制御するかという問題があるわけだが、アイテムで解決したわけだな。しかし見たこと無い魔物だったな。

 まあいい。あとは分析チームの仕事だ。俺はゆっくりビールを楽しもう。ジェームスが飲めない人なのが残念だ。

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