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第16話 環境改善:2つの領地の発展

「だからダメですってば」


「なぜじゃ。よかろう、別に。お前が最も高く評価しておるのじゃから、何が悪い」


「もったいないですって」


「何を言うか。人が最も輝ける場所は、その人が最も評価される場所じゃぞ?」


 今日は陛下と言い争っている。

 内容は、被災地に派遣されていた副隊長の扱いだ。

 凄まじい実務能力を見せてくれた副隊長を、ただの部隊長で終わらせるのは惜しいと言う俺と、じゃあお前が副官として使えという陛下。


「あの実務能力を俺の副官にしてどうするんですか。そんなもの、宝の持ち腐れ、猫に小判、豚に真珠ですよ」


「お前は猫や豚なのか?」


「そこは言葉の綾ではありませんか」


「余とて、そこは言葉の綾じゃ。

 お前なら適切に使えよう?」


「だーかーらー! もったいないと言っているじゃありませんか!」


「ええい、この頑固者め! もったいなくないように、うまく使わんか!」


「どっちが頑固者ですか! この……この、陛下めッ!」


「ふっ……なんじゃ、言うに事欠いて『陛下め』って。何のこき下ろしにもなっておらんわ」


「この場で陛下をこき下ろせと? どこだか分かっておいでですか?」


「やかましいわ。やれるものならやってみよ」


「うぬっ……! い、言いましたね!? それで『陛下のご命令なら』って口に出したら、貴族どもから何言われるか分かったものじゃありませんよ。陛下は俺の専属護衛か何かになるおつもりですか」


「「ぐぬぬぬ……!」」


 ついに言葉が尽きて睨み合う俺と陛下。

 そこへ、大きなため息が聞こえてきた。


「まったく、仲のよろしいこと……」


 呆れたように言う王妃陛下。

 たちまち俺達のみなぎる気力はしぼんでしまった。

 この人に言われると弱いのだ。


「あ、あはは……」


 近衛騎士のアーネストが、耐えかねて困ったように笑った。

 その横で副隊長がオロオロしている。


「あ……え……えーと……」


 困っている副隊長に、王妃陛下がウインクする。


「副隊長。こういう時は、こう言うのですよ、『私のために争わないで』って」


「「いや乙女!?」」


 俺と陛下とアーネストと副隊長の声がそろった。


「ま、冗談は置いておいて……あなた。副隊長をどうしますの?」


「どうもこうも、最初から言っておろう? ニグレオスの副官につけるのがよいと」


「けれどもニグレオスは、それでは『もったいない』と申しておりますわ」


「それはニグレオスがビール飲みたさに『なるべく小さい仕事』をしようとするからじゃ。この面倒くさがりめ。妻を救ってくれたときには正確な自己評価をする慎重な男だと思ったが、あれも大きな評価を受けて仕事が増えるのが嫌だっただけじゃろ」


「おや、バレましたか」


「はぁぁぁ!? おま……! 言いおったな!? 正直に言えば許されると思うなよ!? もう怒った! お前のような自己評価の低い成果だけ大きなヤツは、仕事漬けにしてくれるわ! 存分に実力を発揮して、さっさと自己評価の低さを治すがよい!

 まずはルナ伯爵の領地が思うように発展しておらん問題! それと例の芋男爵の領地が、お前の発明した『ジャガイモスティックの素揚げ』が大好評で生産が追いつかぬ問題! お前に丸投げしてやるから、なんとかせい!

 あっ、副隊長。そなた、ニグレオスの暫定副官としてサポートせよ」


「ええ~っ!? そんな横暴な!」


「はっ! 謹んでご下命賜りましてございます!」


「副隊長!?」


「ただいま副隊長の任を離れましたので、以降はジェームスとお呼びください、閣下」


「いや真面目!」


「そういう男じゃ。頼りになるのぅ?」


「ぐぬっ!? この陛下め……っ!」


 決定事項の流れになってしまった。

 くそっ。なんてことだ。ビールを飲む時間がなくなってしまう。



 ◇



 なんて思っていた時期が、俺にもありました。


「閣下、次はこれを」


「はいよ」


 ジェームスが指示してくれる通りに、設備を作り、道路を作り、物資と人員の輸送方法を構築していく。

 ジェームスの計画では、まずルナの領地から芋男爵の領地へ道路を作り、ルナの領地から芋男爵の領地へ移民を募る。合わせて芋男爵の領地に生産設備を増築し、増産体制を整える。

 重要なのは、この移民が実際に移住して芋男爵の領民になるのではなく、ルナの領地から「派遣されるレンタル労働力」であるという点だ。

 ルナの領地では、レンタル代として芋男爵の領地から食料が送られ、ルナの領地では今まで以上に練兵に集中できるようになる。


「さて、いよいよ仕上げです、閣下。

 実際の輸送手段として、馬車を大量に用意せねばなりません」


「ああ、それだがな。ひとつ問題がある」


「何でしょう?」


「車体は俺が生成できるが、馬は生成できない。

 植物は生成できるが、動物は無理なんだ。正確に言うと、死体なら生成できるが、生きている動物が生成できない」


 元素と分子結合の複雑さが問題なのは確かだが、死体を生成できる以上、そこはクリアしているはずだ。

 しかし、どうしても「生きている動物」は生成できない。何かが足りないのだろう。おそらく魂みたいなものが。

 俺はこの限界を、むしろ喜ばしいと思う。そうでなければ恐ろしい事になりそうだ。


「と思いまして、閣下。アーネスト隊長……いえ、近衛騎士アーネスト様を通じて、ゴーファ辺境伯に退役した軍馬の提供をお願いしてあります」


「仕事早ぇなオイ!?」


 たしかに辺境伯なら大量の軍馬を抱えているはず。そして退役した軍馬も相当数いるはずだ。おそらくは、その「再就職先」に悩み、潰して馬肉にすることもあるだろう。

 騎兵の相棒たる軍馬を食肉にすることは、辺境伯領地軍にとって抵抗が強いはずだ。それを「引き取る」というのは、おそらく歓迎されただろう。


「お褒めに預かり光栄に存じます」


「どうして俺が動物を生成できないと分かったんだ?」


「それが可能なら、あの被災した町で、後遺症が残った被災者に『健康な部品』を生成して移植したのではありませんか? あるいは犠牲者の蘇生すら……いえ、それは果たして『本人』と言えるのか不明ですが」


「……やべぇな。脳みそ化け物かよ。どうしてそこまで発想できるんだ?」


 クローンを作って「だめになった部分」を交換しようとか、死者のクローンを作って「蘇生」と言い張る、みたいな発想だ。

 この世界の技術レベルで発想できるものではない。


「おそらく閣下と同じ……あるいは違うのかもしれませんが『似たようなもの』を持っているからかと」


 ぞわっとした。

 まさか俺以外にも……いや、なぜ「俺だけ」だと思っていたのか。俺という事例があるなら、他にも居るのは不思議じゃない。


「……知らないはずの記憶?」


「はい閣下。私の場合は、前世の記憶と言うべきかもしれません。

 こことは違う世界で生きた記憶がございます。そこは、技術的に閣下の『記憶』と似たようなレベルの世界かと思います」


「……だとすると、どうしたい? 俺は戦争利用される技術は作らないつもりだが」


「同感です、閣下。核戦争は回避されるべきです」


 俺は黙って右手を差し出した。

 ジェームスはその手をしっかりと握った。


「……であるならば、鉄道馬車は控えたい」


「はい、閣下。それは戦争を激化させるかと」


「そこまで考えての、『大量の馬車』か?」


「ご明察です、閣下」


「脱帽だよ。もう一緒に飲むしかないな」


「お供します、閣下。しかし私は――」


「下戸なので、だろ? お茶……いや、食事にするか」


「はい、喜んで」


 大量の馬車を生成し、馬が到着したら取り付けるのは、ルナの領地軍に任せた。

 飼育や運用も任せるしかないので、これは最初から計画されていた。

 もちろん計画したのはジェームスだ。まったく有能な男だぜ。

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