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◯馴れ初めとは言えないもの


 「せやから!説明せんとわからへんやん!!もーーーーー!」

 ユリに続いてスタスタ歩くレイの耳元で叫んだ後、いたた、とうめくミカ。しかし怒っているのに取り合ってもらえないというのは、彼女の優しさからくるものだろうと、多少の哀れみをもつ和泉であった。

 「だからあの子、人前では怒ったりしないのよ。」

 顔に出てたのだろうか、茜がボソッとこちらに話かける。

 「やっぱり優しいし、ああいう顔立ちでしょ。怒っても可愛いじゃない。」

 そういう君も、上司に向ける顔というより年下の妹を見るような顔じゃないか。という言葉を飲みこむ。

 それよりもだ、反乱に参加した他の団員の安否が気にはなる。多分全滅だろうが、幾分か残った人間はいるだろうから、どこかで再起を図りたい。しかし、どうしたものか。ここはどこなんだ。そしてこれからどうなるんだ。

 「ねー!馴れ初めってなんなん!もーーーー!!」

 レイは、傷に触るから静かにしたら?とまた、ミカを逆撫でする事を言ってしまい、ミカはさらに顔をを赤くする。そしてそれを気配で察したユリがトドメを指す。

 「あらあら?これがヤキモチって言うものなのかしら?」

 さっきよりも煽るように、より艶っぽく。ミカの、もー!という叫びがこだまする。

 ただ結局、傷に障るようで、大人しく歩くことにしたようだ。

 それからとてもとても長い距離を歩いて、人間側の疲労が限界を超えそうな時に、やっと、ユリ達の住む場所についた。

 「まぁ、あなた方のような文化的な生活じゃないけど、なんでしょうね、最低限の文化的な生活はしたいのよ。よくわかんないけど。」

 そうユリが言い、家を案内する。その建物はいわゆる純和風の平家造であった。ただ明らかに異様なのは、枯れた、伐採された木々ではなく、青々とした草や木がそのまま生きてそれを形作っていた。ともすれば落ち着かない色合いだが、なぜか不思議と嫌味なく、疲労感は和らいだ。香りも若々しい草木の匂いだった。

 居間のようなところに通されて、座るよう促される。囲炉裏もあり、マリーが甲斐甲斐しく火を起こし、部屋の各所にある蝋燭に火を灯す。そうすっかり夜になっていたのだった。

 とても長い1日だったと思い返す。まだその1日を終わらせる気にもならない。

 「いい加減というのは失礼だが、ここは首都からどれくらい離れてるんだ?」

 座るや否や、和泉が口を開く。

 「そうね、ざっと40から50キロくらいじゃない?」

 案外近いのよ。と最後にゆっくりと座り、囲炉裏の炎を見つめながらユリが答える。

 「私たちが最初に戦った街からもそれくらいかしらね。」

 ユリはレイに目をやる。レイは相変わらず無表情だ。そういえばと、和泉は朔望団で上がってきた報告を思い出す。最初の邂逅はどうも隣県のKという街だったそうだ。その報告書では身も蓋もなく、彼女らのことを怪人と表記してあったな。

 「首都で今日なにが起こってどうなったか、そういうのはご存知かな。」

 和泉は続けて質問する。旅団装備も自分の装備も通信機器は軒並み圏外。つまり情報はなにも入らない、この怪人たちが知らなければ。素直に教えてくれるかわからないが、聞く。リアクションで判断することにする。

 「知らなければ、あそこで待ってると思う?」

 ただ続けて、今日はたまたまなんだけどね。とユリは言い直す。なにかしらで知ってるけど教えない。まぁ予想通りではある。質問の方向性を変える。座り直して聞く。

 「質問がバラバラですまないが、君たちのような存在は他にいないのか。」

 「いないわ、私とマリーだけ。知っている限りはね。」

 ユリはそっけなく答える。少しだけ寂しそうだった。

 「それと首都では非常に凶暴なヒトガタがいた、彼らは一体何者だ?」

 ここにくる時にちらほら見えたヒトガタは、知識として知っている通常にヒトガタだった。ナガイの残留思念が率いたが自滅したあのヒトガタは一体なんだったのか。

 「それは、少し長くなるわ、他にあるなら先に聞いて。」

 ほう、知っているのか、と和泉は心内で驚く。次の質問を出す、これは多分ゼロ回答だろうなと思うがぶつけてみる。

 「君たちは、前は、なんだった?誰だった?」

 「それはわからないわ、誰かの記憶のようなものはあるけど、夢みたいなものよ。」

 いたって普通、そんなの知らないわ、という、自分がなんだったかはもう興味の範囲外か、もしくは、諦めに近いような言い方。

 「他には?」

 無ければ、話すが?というニュアンスの問いをユリがする。

 「あるが、先に凶暴なヒトガタについて話を聞こうか。」

 見た鮮度という意味では、これが現実感のある、言い換えれば理解が追いつくかも知れない出来事であるような気がした。

 「長くなると言ったけど、そんなにじゃなかったわ、簡単なのよ。不本意かどうかということよ。」

 あなたにはなんとなくわかるんじゃない?とユリが続ける。今日何度目かの背筋が凍る感覚だ。

 「不本意なら、暴れる。」

 ユリが頷く。

 「あぁ、そうか。じゃああれだな、俺はそうなる。ということだな。」

 ユリは目も合わせず答える。

 「あなたの心情なんか興味ないけども、多分思うことは同じよ。」

 そういうことか、生命を、マナを供出することに納得しているマナなしが通常のヒトガタで、無理矢理そうされたらあぁなると、ヒトガタが簡単に人を襲わない理由がそこにあるのか。ナガイの教えとはここまで強力なのか。和泉は感嘆する。

 「じゃあなぜ、その通常のヒトガタも時には人を襲う?」

 ユリが外を見る、大きな月が出ている。

 「簡単な話よ、家に帰りたいだけよ。」

 そのまま続ける。

 「人の性とでもいうのかしらね、自分が生まれ育った街に帰りたいって思ったことはない?どんな姿になったとしても、その帰りたいところがどんな状況であっても、帰れる可能性があるなら、帰りたくない?」

 ただ、それだけ。とユリはいう。

 「あ、でも、あれよ、攻撃されたらやり返すわよ、そういうものでしょ?」

 望郷の念というのは簡単だが、自分に中に小さな納得感があることを感じた和泉であった。

 少しの間が開き、ハッとしてユリが手を一回叩く。

 「それよりもさぁ、レイの友だち、あなたよ、あなた。もう限界じゃない?大丈夫?」

 ユリは心配そうにミカを見る、ミカは、レイにもたれかかり、小さく息をしている。

 「そうね、ありがと、、もう、あかんわぁ、、、流石に、、、」

 そうか、とレイが言い、ミカの頭を自身の膝に置く。

 「あかんて、まだ、馴れ初めとか、なんで生きてるのか、伊織ちゃんとか、、、聞かな、、あか、、」

 あかん、と言い切る前に、伊織と同じく気絶するように寝てしまった。

 「あらあら。ずいぶんと可愛いのね。」

 ユリが言い、マリーが伊織を寝かせているのと同じベッドを用意してレイに近づくが、レイが、後で。と言って手で制す。

 「大丈夫、マナが切れただけ、伊織と違って傷は全部マナで治してるから。」

 そう補足する。

 「あら、そうなの?」

 と、ユリが意外そうに手を合わせながら言う。レイは頷くだけ。

 「あ!そうそう!レイ!」

 ユリがまた何かを思い出したように身を乗り出す。

 「あの銀髪の子、ヴィルだっけ?それと千里っていう青髪の子。あの子達どうしたの?」

 ヴィルという単語に珍しくマリーがピクッと反応する。

 「別行動だ、まだ首都にいる。」

 あら、残念ね。とユリは言いつつ、和泉に視線を向ける。

 「レイちゃんの部隊強いんだから。」

 レイ自身の強さは、今日目の当たりしたばかりだが、レイ率いる04小隊の様子はよく知らない。

 「それよりも少し聞きたいことがあるがそれは聞いてもいいだろうか。」

と訊ねる和泉であった。

 「なによ、関係あるの?」

 少し意地悪な言い方をするユリ、しかし、和泉は気にしない。

 「関係ある話ではあると思う。」

 なによ、言いなさいよ。とユリが促し、和泉が続ける。

 「その馴れ初めってなんだ結局、そしてなぜ、君たちはレイに対してそんなに友好的なんだ?」

 ユリの顔が緩む。

 「だってぇ、私を倒したんだもん、私より強いんだもん。」

 手を合わせ右頬に添えて身体を傾けながら、ねー。とレイの方へ視線を送るユリ。

 「だから、馴れ初めなんてなくてただの戦闘記録だ。」

 まー!つれないこと!とユリは言いながら、最初の戦闘について思い出話をし始める。

 まぁいいか、どうせ今日は眠れないし、馴れ初めとやらを聞いてやるか。そう思い和泉はユリの思い出話を聞くことにした。


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