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下手くそな反乱に巻き込まれた女の子のリベンジマッチ。  作者: Saiki
アナスタシス 立ち上がるということ。前編
7/19

◯正体


 レイは邪悪に寄り添うような形で、ブレード同士の鍔迫り合いをしている。邪悪が持つブレード、レイのブレード、ミカ、伊織。そんな順番で、倒れて動けない彼女らの上で、ブレード同士のギチギチとした鍔迫り合いが起こっている。

 レイ自身の装備もボロボロだ。どこでなにをしていたのかわからない。この地下深くの災害備蓄庫では、外部との連絡も取れず、04小隊になにがあったかも確認できない。

 「遅くなった、すまない。」

 と、レイが言う。その言い方はいつものレイ。彼女は言い終わると同時にブレードを跳ね上げ、邪悪を蹴る。小さな予備動作とそこからの爆発的なスピードが威力となって邪悪の脇腹に蹴りが入り、吹き飛ばす。

 特別速いわけでもない、特別力が強いわけではない。敵との駆け引きの中で裏を突き、的確に当てる。それがレイの強み。

 吹き飛ばされて態勢を整える前に、畳み掛ける。理屈上、防御ができないところに、確実に斬撃と打撃を叩き込む。

 対する邪悪も人智を超えたスピードとケバケバしい極彩色で出鱈目に防御するが、レイの攻撃に対して少しずつ綻びが出てきて、防御しきれなかった箇所から、さらに極彩色を垂れ流す。

 ただ唯一、左眉毛の上あたりだけが、人間と同じ赤い血を流している。

 「やりました、、、私。」

 伊織が絞り出すように言う。虚ろな目がミカを捉える。照れくさそうにいう。

 「へへ。先輩がいる、、、嬉しい。」

 喋らんでええ!とミカが大声で言う。伊織の状態はあまり良くない。ミカ自身も先程の反動で動けない。改めてマナで色々繋ぎ直して立てるか否か、それぐらいの状況だ。レイが来た、それだけで大きく盤面が動いたが、それだけではどうにもならない。これからどうする。


---

 

 ミカ自身がマナを振り絞り、極彩色を弾き飛ばし、駆けて行く様を目の当たりにして、茜は自分の不甲斐なさを呪っていた。その後のミカの決死の跳躍も間に合わないのが明白だった。ミカだけでなく、茜自身も邪悪が笑みを浮かべるのを見たのだ。


 伊織は助からない。


 血の気が引く。しかしなぜか頭は冷静だ。そうなると自分の役割は、伊織の最後を見届けることにならざるを得なかった。そのはずだった。この後悔を自分の網膜に焼き付ける覚悟をした時に、自分の意識の外側から現れたレイが、いつのまにか邪悪と伊織の間に入っていた。その後に響く金属音と、ミカが伊織に飛び込む音。茜は現実に意識を取り戻し、その音と、その景色に安堵する。

 茜を押し留めたケバケバしい極彩色は霧散して、茜自身はヘナヘナとその場にしゃがみ込む、その隣に和泉が駆け寄って来ている。

 伊織とミカの無事を理解したからもう一度、整理する。ここで腰を抜かしているわけにはいかない。このレイの形をした邪悪は完全にレイではない。もう手加減もへったくれもなにも必要ない。とっ捕まえて、文字通り白日の元に晒してやる。

 「と、でもできれば良いんだがな、瀕死二名、役立たず二名。そしてさながら救世主一名と言ったところか」

 意気込むのは良いが、現実を見据えた和泉が、自分の言葉を代弁する。実際自分の足に力は入らないし、一人では立てないような気分になる。

 いつもの自分なら、瀕死四人でも意味は同じじゃなくて。と皮肉をいうのだろうが、口から出た言葉はそうでもなかった。

 「役立たずは、これから役に立つのよ。」

 でも、その前に立たせてくれる?と和泉投げかけ、和泉が無言で差し出して来た手に捕まって立つ。自分とは全く真逆のずいぶんと無骨な手だった。つい変な感想を持ってしまったが、レイは明らかに、邪悪を二人から遠ざけるように動いている。

 指示も合図もなにもないが、とにかく駆け寄って、茜はミカを、和泉は伊織をそれぞれ抱き上げる。

 それぞれを抱えて、戦っている邪悪とレイから距離を取る。

 いたたた。と軽い感じで、精一杯いつものように振る舞うミカだが、戦闘自体のダメージに加え、それ以上に自身マナでその身を焦がしてしまったような、そういう身体の中に傷をを負っているようだ。

 一方の伊織はミカと引き剥がされたことを感じとって、フラフラと力無く手を伸ばす。ミカと一緒にいたい。くっついていたい。そういう意思と想い。それだけ彼女自身の現状認識が危うい。


 茜は一つ決断する。やるしかない。

 おい、役立たず。と和泉を呼ぶ。なんだ。と返しつつ、和泉は伊織を肩に担ぐ。

 「銃の腕に自信はあるか?」

 端的な問い。その意図を察して和泉が答える。

 「まぁそれなりにな。」

 こんなんだったら、大型の狩猟用の弾丸でも持ってこればよかったな。と思つつ。空いた片手で、銃を抜く。

 当てないでよ。と茜が言うが、当たり前だ。躊躇いなく引き金を引く。

 銃声が二つ響く。茜も撃ったようだ。なるほど、会話すらブラフか。

 二発の銃弾はレイの髪をかすめ、邪悪の視界に現れる。邪悪は極彩色で銃弾を止める。それによって何かがズレる。そのズレはレイ相手にとっては致命的だった。


 伊織との激戦で邪悪のマナにも綻びが見える。だから邪悪が持つ言わば、マナの皮、がないところ、薄くなった左目に上だけが、傷ついた。なぜそこなのかはわからないが、そう言うことなのだろう。

 つまり、コイツはまだなんだかわからないが、何かが極彩色のマナを纏い、レイの姿をしている。

 それがこの邪悪の形。

 ただ、今はマナだけの力勝負ではなく、駆け引きだけで相手を泥沼にハメることができるレイが相手であり、その相性は、今の状態の邪悪にとっては最悪であった。

 ただただ、なされるがまま邪悪はレイに圧倒され、なおのこと出鱈目にマナを消費してしまっている。

 そして、その前段で戦ったのが、純情で直情的な伊織であったが故に、今はレイの駆け引きに振り回され、より判断や切り替えが遅れている。

 さらに加えると、ミカに至っては駆け引きというものが存在しない。

 つまり、役立たず二人が援護できなかった理由もそこにはある、それが意味をなさないからだ。それがむしろ、彼女たちの邪魔になる。しかし、今はそうではない。レイや周りの一つの所作、動作、出来事すべてがフェイントになり、邪悪が見過ごせば直撃させられる。

 銃弾が邪悪の上段を捉え、下段にレイの攻撃が来る、しかしそれはブラフ。常に二択を迫りその逆で外す。レイのブレードが、出鱈目の極彩色の合間を縫ってレイの顔をした邪悪に突き進んむ。出鱈目に、時には人の形すら忘れて、その邪悪は防御する。

 怯まずに、引き金を引く、銃声を被せたり、ズラしたり。レイの身体を掠めることは厭わない。それがギリギリであればこそ、レイの駆け引きが冴え渡る。あえて弾が残っているのにリロードする、明後日の方向へ撃つ、一度疑ってしまった心理の波に、もう邪悪は抗えない。

 レイが下段に潜る、射線が通る。ありったけ撃つ。

 銃弾の狭間でレイが踊る。そう、踊る。銃弾と極彩色と、人の形を崩した何かの間を全て縫って。レイのブレードが首筋に刺さる。

 レイは、躊躇なくそれを引き抜き距離を取る。まるで噴水のように、極彩色と人間の血が吹き出す。首の皮一枚という例えがあるが、目の当たりするのは初めてだ。

 ただ、その邪悪は、目に力を宿しこちらをみる。

 「さすがだよ、やはり、君は強いな。」

 自身の状況とは全く無縁の調子で邪悪がいう。その声はもうレイでは無い。壮年の男性の声。その声には聞き覚えがある。

 「ナ、ナガイ、、なのか?」

 和泉が震える。茜も我が耳を疑う。確かに、近しいが、まさか。

 「そうと言えばそうだが、私を、特定するのなら、私はナガイではないな。ナガイは確かにあの時死んでいる。」

 「せやで、ナガイさんは死んでたんや。遺体もすぐに回収したんや。」

 茜に肩を支えられて、息も絶え絶えに立っているだけのミカが身体中の痛みを堪えて、片目だけ開けて吐き出す。

 そう。この世に下手くそな反乱と評される、朔望団事件。さらにその前段にあった、ヒトガタによる都市襲撃騒動とナガイの裏切り。その騒ぎの中で確実にナガイは命を落としたのだ。茜はその時旅団本部にいたが、ミカと伊織から無線越しにその結末を聞いている。

 「じゃあコレはなんなんだ?俺らが埋葬したのはなんだったんだ?」

 和泉が吐き捨てるようにいう、彼の理解の範疇を超えていることばかりだが、彼は懸命にその荒波を泳いでいる。

 「残留思念とでも言おうかね、私もよくわかっていないんだ。」

 誰のと言うのは言わずもがな、ナガイの残留思念が、まさかこういう形で現れるとは。

 「意味がわからんな。」

 和泉が銃を構え、ナガイの眉間を撃ち抜く。次は膝を撃つ。その次は肩。衝撃がかかれば倒れるという場所を的確に撃つが、倒れない。

 「生体培養槽や、あれがナガイさんとヒトガタの棲家にあったんや。」

 それしかわからへん。痛み耐えつつミカが伝える。

 「そうだな、そこで生まれたという記憶はあるな。」

 明後日の方向を見ながら、何かを思い出すように話すナガイのようなモノ。

 「そして、そこにノコノコきた貴様の姿を拝借したということだ。」

 首はもう逆さまだ。その逆さまの目線でナガイはレイを見る。

 レイはブレードを握り直す。彼女の目に少しの後悔と、激しい怒りが滲み出る。

 「まぁしかしだ。」

 ナガイは両手を広げる。

 「この様では戦えない。でも、誰一人取り逃すことも許されない。」

 全員の血の気が引く。

 「古典的で悪いんだが、死なば諸共だ。」

 ナガイが大きくのけぞる。そしてその身体が大きく膨らみ始める。

 「まぁ、私はまたどっかで蘇るんだがね、使命があるからな。」

 あっという間に二倍、三倍と大きくなる。

 「確かナガイはこう言うのだったな、ここで終わりにしよう。」


 ふと茜は遠くから、ナガイの背中側から、幾人もの足音がする事に気付く。自分たちが来た方向だ。つまり退路かつ進入路がそちらにあるはずだ。ただ、今の状況では、味方であっても避難してもらわないといけない。面倒になったな。と思案する。少し思考が脱線する。いま来るのは誰だ?03小隊か?それとも違う部隊なのか。仮に03小隊でも敵なのか、味方なのか。いやそれ以前の問題だ。さすがに仮に彼らであったとしても、それ以外の部隊だとしても、表面上は味方だ、ここで死んで良い訳じゃ無い。そう整理を終えて、変な脱線から戻り、その足音の主たちを確認する。

 

 茜たちは見据える。それらが何か、そして絶望する。

 

 「ヒトガタかよ。」

 茜は絶望を再確認する、首相官邸の地下に大量にヒトガタだと…

 理解が追いつかない。さらに理解ができない状況が続く。ヒトガタたちが走り出してナガイに取り付いたのだ。ナガイは捕まれ、噛まれ、もみくちゃにされる。

 どういう事だ。まだ理解が追いつかない。

 「やはり制御は難しいな。」

 相変わらず他人事にようにナガイが言う、その彼の何分かの一はすでにヒトガタの胃袋におさまっている。さらにヒトガタが、そのナガイを食べたヒトガタを襲う。ヒトガタ同士の断末魔が響く。

 訳がわからない。

 そしてまた別のヒトガタがこちらを向く、目が合う。彼らは獰猛な目をこちらに向ける。本能で察する、獲物を見つけた。とでも言うように。

 通常のヒトガタの特性とは全く違うその挙動に戦慄する。

 「逃げるしかないな。」

 事ここに至って和泉が冷静に言う。

 「逃げるってどこによ!」

 茜が怒鳴る。

 「そりゃこっちだろう。」

 木原がヒタヒタと歩いて行った方を見て走る。

 「待ちなさいよ!なんか算段あるの!?」

 ミカを引きずるように肩を支えつつ走る。襲いかかるヒトガタはレイが切り倒す。

 「本能しか残ってねぇヒトガタが迷わず真っ直ぐ行くんだ!なんかねぇ訳ないだろ!」

 和泉も怒鳴り返しながら、手榴弾のピンを口で引き抜き投げる。音に反応して群がるヒトガタ。

 爆発音、ずいぶんと湿っぽい音だった。ヒトガタが幾重にも重なったせいだろうか。


 茜も心を決める、壁際に追い詰められ蹂躙される覚悟を決める。ただ、それはその時だ。

 

 ただ、今は、走るしか無い。まだ足掻く。それだけの事。

 

 その直後、大きな音がした。


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