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下手くそな反乱に巻き込まれた女の子のリベンジマッチ。  作者: Saiki
アナスタシス 立ち上がるということ。前編
4/19

◯首相官邸


 「お疲れ様さまぁー、調子はどない?」

 中村は我が耳を疑った。木原は来ると言っていたが、自分は、全く信じてなかった。その声は旅団では日常、でもどこか浮ついた、少女のような柔らかい語り口の責任者。しかし、それは今ここにいる事は、あり得ないはずだった。

 「そんな怖い顔しやんといてー」

 その旅団総括を象徴する白のベレー帽と白のショート丈のジャケット。金髪のミドルヘアー、緑の瞳。旅団総括班長のミカである。

 いつもなら、何かを見通した、スカした目つきをしているが。

 「これは班長、良い顔つきになりましたね。」

 決意を秘めた、良い顔をしている。“従者”のお二人も同じだ。

 「ありがと、で、状況聞いて良い?これでも私、03小隊長も兼任してるやん?」

 言い方は悪いが、一応聞いてやる、くらいの軽い言い方。

 総括班の登場に気がついた木原が、おー、ともあー、とも聞こえる声をあげてやって来る。

 「これはこれは班長、よろしいのですか?戒厳司令部からは旅団本部待機と命令があったと記憶していますが?」

 何しに来た。をオブラートに包んだつもりの確認を素直にぶつける。

 「ご心配ありがとーな、02小隊から何人か引き抜けそうやから、司令部さんの命令は果たされると思ってん。そんでこっちに援護に来たんよ。」

 一応の説明、そして、自身の顎に指を当てて、言う。

 「“勘”ってやつやに。」

 戦場を俯瞰し、配置する。見えているのに勘という事にする。謙遜なのかその彼女のセンスもよくわからないが、まぁ事ここに至っては、何かしら見えてるのか、見て来たのだろう。

 対する木原は先ほどと同じ、おーともあーとも聞こえる大仰なリアクションをしてから言う。

 「こちらも、憲兵と武装警察でどっちが主導権を取るかで揉めております、お陰で一旦兵を引いてしまったので、ご覧の通り、官邸の中の様子もわからず仕舞いです。」

 いやー、困りましたなぁ。とわざとらしく言う木原。それを眺める伊織は違和感を感じていた。一国の首相が囚われていると言うのに、03小隊、憲兵、武装警察も全体的に雰囲気がゆるい。これが今の首相に対する扱いという事なのだろう。

 ミカが率いるようになってから特に、旅団としては、様々な場面で主導権争いから手を引くようにしてる。そうであってもだ、この緩さは何かおかしい。

 それどころか、03小隊の意識は確実に首相官邸から我々に向いている。隠そうともしない殺気。そしてその先には茜がいる。戦力としては確かに弱点だろう。先輩と自分だけなら手も足も出ないだろうが、茜の存在が、03小隊が我々に局地戦を仕掛ける希望と理由を与えている。ミカは茜を見捨てない。見捨てないと言う事は即ち、彼女が有効なカードであることの証左。

 雨音のしない霧雨の中、そのテント中で、建前上の状況説明が粛々と行われている。確かに首相官邸の内部については詳しくないからありがたい。

 「せやんね、首相さんはここにおるんやね。そんでさ、ここはなんなん?この平面図の変な壁?みたいな、コレがあれ?災害備蓄庫?」

 広げられた建物平面図の部屋をミカが指差す。首相がいる居室のすぐ隣に、不自然な空白がある。旅団本部の平面図でも見覚えがある。大型の保管庫だ。それが単純に災害備蓄庫へ続いているものだろう。

 「そうですなぁ、さすが班長、お察しが良いようで」

 さも当然という感じで回答する木原にミカが応える。

 「せやろ、公知の話やんね、首相さんの居室にはあると聞いとったけど、こんな真ん前にあるんやね。」

 ふーん、一息。

 「本当にここだけなんやろかね。」

 「入口ですか?大型搬入路はご存知の通りですが、正直、そりゃ元は古い壕ですから、勝手に掘った穴なんかあったらわかりませんがね。」

 確かに、ミカのマナで通して見た時にマナが流れる道がここにしかなかった。自分が一番理解している。しかし、そうなるとなぜ、彼女はそこにいるのだろう、最近顔を見ていない最も信頼すべき同期の顔を思い出す。けれども、こちらも止まってはいられない。

 「茜ちゃん、端末ちょうだい。」

 茜を呼ぶ、やはりここにいる全ての人間の視線が茜に集まる。それだけ彼女が今ここにいるのは異質だと告げる。伊織自身も何が起こるのかわかっていない、ミカ、茜の一挙手一投足が気になる、それに対して神経を注ぐ。

 「あー、よかったなぁ。首相官邸突入してええって。ほら、コレ。」

 伊織も木原も中村も、へ?と声が漏れた。ミカが差し出す画面には、戒厳司令部からの通達で確かに。

 総括班は首相官邸に突入、突破口を確保、その後、憲兵、武装警察が首相確保、災害備蓄庫へは総括班が行く。03小隊は包囲、現状維持、負傷者搬出との記載がある。

 嘘っそだろ、と木原が裏表なく大きな声を出す。

 「そこまで、我々は…!」

 溢れる感情を無理矢理押さえ込み、大きな息を吐く。冷静に自分の端末も確認する。確かに来てるようだった。もう一度大きな息を吐く。

 伊織は木原が自分より大きなリアクションをしているので、かえって冷静になっているが、完全に想定外だった。なんなら、03小隊、朔望団、憲兵、武装警察全て敵に回してでも行くものだと思い込んでいたが、この状況は一体なんだろう。でも、安堵する、いま現在のちゃんとした敵の朔望団だけ相手にすればいいだけだから。

 「じゃあさっそくやろか、準備でき次第決行せよ。って書いてあるし。」

 ミカは、端末を茜に返し、伊織に言う。

 「伊織ちゃん、いつ行ける?何が要るん?」

 まるで3時のおやつに何を選ぶかの様な軽いノリで、聞いてくる。伊織は考える、正面の機関砲、玄関から首相が居る居室までの直線の数、そして災害備蓄庫からの道のり。自分たち二人だけなら何も要らないが要は茜を守るために何が要るのか、その質問だ。

 「予備入れて煙幕2、閃光弾3あれば」

 そうやね。とミカは同意して、中村にそれらを持ってくる様に伝える。時間稼ぎなど小賢しい真似をせずに、中村はすぐに持ってきた。

 「かさばるんですよねぇ、コレ」

 自分で言ったが、いざ受け取って腰回りにつけると鬱陶しい。しかし仕方ない。装備を確認しつつ、建物正面に向かう。

 「合図などどうしますか?」

 木原が聞いてくる。合図というより、制圧射撃のことだろうと伊織は解釈する。

 「要らないわ、ありがとう。」

 そう言ってから位置に着く、建物正面、03小隊側の土嚢に後ろ。首相官邸の入り口は開いているように見える。

 「やりますよ。」

 伊織が小さく声をかける。ミカと茜が頷く。それを確認した伊織が煙幕用の手榴弾をピンの抜き投げ込んだ。


---


 手榴弾は煙を上げながら弧を描かき飛んでいく。この場にいる全ての人間の視線がそれに集まる。その刹那、伊織は土嚢から身を乗り出し、マナを展開して矢をつがえる。

 狙いはもちろん機関砲。動かない標的なんかは、見なくても当てれる。放たれた矢は機関砲の銃口を捉え、機関砲陣地が爆発する。その直後、手榴弾が到達し、正面玄関を煙幕が包む。

 爆発の破片を掻い潜り、煙幕が展開した瞬間には、総括班三人が、朔望団側の土嚢を飛び越え、首相官邸内に突入する。

 煙幕が抜ける前に、閃光手榴弾にピンを抜き、ピロティに投げ込む。軽い金属音の後、爆ぜる音が聞こえる。それに合わせてうめき声が聞こえる。うまくいっているようだ。

 朔望団員のうち何人かが、かろうじて使命感を持って進路に立ち塞がるが、それを蹴散らし、階段を登る。死角から飛び出す輩は矢を先に打って出会い頭に当たるようにしている。そのタネはもちろんミカのマナだ。誰がどこにいるのか、わかるから、全て先読み出来る。

 そしてミカのマナ経由で総括班全員は気づいているが誰も口にはしない。もう首相が絶命している事実を。居室には朔望団関係者しかいない。しかも激しく守りを固めている。

 ただ、残念ながら知った事ではない。ただの物理的な防御で伊織の矢を止める事はできない。

 重厚な扉の前に伊織が立ち、改めて矢をつがえる。マナで見通す。矢が爆ぜる、矢が分裂し、散弾の様に全てを貫く。合わせて吹き飛んだ扉におまけで閃光手榴弾を投げ込む。矢が団員にあたり、閃光弾が爆ぜる。

 目的の扉が開いている、ミカが無線越しに何かを喚く。災害備蓄庫の扉に滑り込み茜が中から閉める。非常時に備えた、防火防災防弾のとても重厚な扉が締まる。

 ひと段落。三人が大きく息を吐く。

 「えっと、、、、、なに?、、、、何?いつも、、こんなことしてるの?」

 息も絶え絶えの茜が言う。いつも信じて送り出してるだけだから、彼女らの死線は頭では理解しているが、自分はなにも知らなかった。自分は一端の軍人でそれなりに訓練も積んでいたが、なんというか、尋常じゃない。

 ただなぜか、とても気分は高揚している。茜の息切れは多分いま走ってきただけのものではなかった。それを見て笑みが溢れるミカと伊織。

 「まぁね。」

 伊織がワザとスカして言う。マジかよ。とこちらもわざとらしく驚く茜。

 「さすがだわ、で、それにしてもよくやりましたね、班長。あんな出鱈目もやればできるもんですね。」

 流れる汗も拭わずに茜はミカに言う。

 「え?どういうことですか?」

 話が見えない伊織が言う。茜はしてやったりというような顔つきだ、先ほどの伊織への意趣返しだろう。

 「だって、戒厳司令部の通達は茜ちゃんのマナを使った偽造やで。せやからここ締めたんよ。だってバレたら追いかけてくるやん。」

 さも当然、むしろ気づいてないの?とでも言うようにミカが言う。

 「え、え?え!?えええええ!?!?」

 災害備蓄庫の通路に伊織の声がこだました。


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