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下手くそな反乱に巻き込まれた女の子のリベンジマッチ。  作者: Saiki
アナスタシス 立ち上がるということ。前編
3/19

◯幕間


 旅団本部を後にした二人は、車両に乗り込み、部隊を引き連れ再び首相官邸に向かう。

 がっしりした体型の木原が言う。

 「応援やらなんやらとか言って、結局膠着してるんだから世話がやける。」

 朔望団占拠後の首相官邸に最初に取りついた03小隊だが、すぐに憲兵や武装警察も到着し、“連携”と言う名の攻撃停止と部隊再編が行われ、部隊の半分を旅団本部救出に向かわされた。建前や筋という呪縛で我々が、真っ先に首相官邸を攻略することは、どうも都合が悪いようだ。それはそれで先程の旅団本部でのゴタゴタは結果論で言えば、こちらの判定勝ちだろう。

 「おそらく総括は“真実”とやらに気づくかもしれないが、慎重な人達だ、断片だけでは何も判断しないだろう、いや、できないだろう」

 そうあって欲しいと、願う部分もあった。手元にある大きな穴が開いたデータ保存端末を眺め、先ほどの狼狽した姿からすっかり立ち直った中村が言う、彼は、木原と違い細身である。二人が並ぶと否応なく凸凹コンビということになる。

 「中村、それにしてもさっきのはなんだ。班長のマナ保持量は随一だ、あれはご自身のマナだろう?我らの生命では無いはずだ。」

 中村は思い出す、彼女、ミカがおそらく使いきったであろうマナを再び使い、自身の支えとして立ち上がったその瞬間を。

 「不覚だが、少し見惚れてしまった。そして、ほんの少し、悔しくなった。」

 とても語弊を恐れず言うならば、自分が手に入れられないおもちゃを使って遊んでいるように見えた。

 「目の前だったんだろう、そうかもしれんな」

 木原は少し憐むような目線を向ける。

 「それでだ、これからどうするかだ、班長は今は仮でも03小隊長だ、ふわふわとした命令無視はもう出来んぞ。」

 朔望団の本命は首相官邸じゃなく、その先にある災害備蓄庫。実は災害備蓄庫と言う名前だが元は避難壕であり、有事の際の内閣等の指令部になるものだった。中道左派が政権を取り、有事では悪で、それ自体はあり得ないとされ、災害の際の備蓄庫として転用した。だから首相官邸からしか入口はないし、今、大型搬入路はメンテ不足で動かない。本当に災害という際の有事にすら対応できるのかすら怪しいというのが、それを詳しく知る者の認識。

 じゃあそこに何があるのか、そう、そこに我らの終着点が置いてある。

 「時間は稼いでる、装置は動かしてあるでしょう。」

 中村はそっけなく言う。装置、それは、我らの終着点。志ある者が適切に対処しているはずだ。そうだ、木原が答える。

 「そうだ、そうでないと困る。我らの死に場所は戦場じゃない。」

 我らには“教え”がある。それはメメント・モリ。マナが無い分社会に貢献する。そして最期にその生命を捧げる。その生命を捧げる場所は決まっている。それが、そこが終着点。

 「我々の最後は決まっているのだから。」

 中村が言い、木原が答える。

 「何がなんでも、そこに辿り着かないと意味がない。」

 教えを唱えるように応じあった二人だが、木原が気づく。

 あぁ、だからか。ここまでして捧げたマナを、自身のために使われては、我らの存在意義や足跡は無駄になるな。

 「お前って案外優しいやつなんだな。」

 何を今更、と目も合わせず中村が答える。

 前が見えない霧雨の中、車がひた走る。これは我らの状況はよく似ている。前の見えない霧の中、その中でも必死にもがいてその先へ行く、開けた景色がどうなっているのかわからないが、確実にわかるのはそこで死ぬと言う事。その為には、この霧の中で安易に死ぬことすら許されない。死ぬ為に生きる。それが我ら。

 「そう言う意味では、優しい班長は悪く無い。隊員たちが無駄に死ぬ事がないからな。」

 思い出したように木原が言う。

 それもそうだな、中村が答え、霧の中を車は進む。

 来るのだろうか、冷静に(マナを頼りに)、状況を見極め(後出しで)、根底にある優しさで(他人が傷つくのが怖い)、慎重な(臆病な)判断を優先するあの班長が。

 しかしあの人は立ち上がった。極めて利己的に、独善的に。

 「来ると思いますか?」

 中村が問う。

 「当たり前だろう、そう言う顔してたぞ」

 何を今更と意趣返しのような返事を木原が返す。

 「それもそうだな。」

 霧雨の中、車列は迷いなく進む。

 

---

 

 「勢いよく勇んで出てきたは良いですが、戒厳司令部の命令はどうしますか?総括は旅団本部の警戒を厳とされたし、との事ですよ。」

 車を運転する茜が言う。三人は中村達から遅れる事、数十分は経っていた。ナガイの教え、次へ行くべき場所の検討だけでそれだけの時間が経ってしまった。すっかり以前の物言いはどこへやら、言葉尻は丁寧だが、言い方が少しぶっきらぼうだ。実際ミカや伊織より年上であり、こちらが彼女の素だと思う。言葉がすんなり入ってくる。

 「02小隊から何人か引き抜くわ、それで充分やに。」

 いつもは茜への返答に少し間を置いて答えていたミカもすんなりと答えるようになった。

 「良いんですか?政治家さんは守ってくれぇ、って泣きついてませんか?」

 かまへんて、大丈夫。と受け流す。

 「誰を引き抜くんです?副隊長以上は無理でしょ?」

 茜は引き下がらない、おそらくと言うか、“後処理”の段取りに必要な情報だからだろう。02小隊から引き抜くことを否定している訳ではないようだ。

 適当な数名の名をあげ、それならばと、理解する茜。伊織はずいぶんな煩悩を乗せつつ黙ってそのやりとりを聞いている。

 良いなぁ、素のやりとり。

 自分が同じトーンで話したとして、こうはならないだろう。いい意味で言えば可愛がられてしまう。これは一番年下の定めであるが、それを甘んじて受け入れると気にもなれず、外の景色に目を移す。相変わらずの霧雨だ。全然遠くが見えない。後ろ振り返ると自分が過ぎ去ってきた霧雨。ついさっきこの向こう側で、突入して来た朔望団員を討った、いわゆる同士討ちを行った。そして、これから進む霧雨の向こう側には、何があるのかは知っているが、何が起こるかわからない。茜が運転する車はまっすぐ目的地である首相官邸へ向かっている。

 「先輩、確認ですが、災害備蓄庫まで“二人で”突っ走る感じで良いですか?」

 何が起こるかわからないなら聞けばいいや、と思いミカに聞く。茜もそうだろうという顔して、自分が控えるべき場所を考えるが、ミカの答えは違ったものだった。

 「ううん、茜ちゃんも一緒に来てもらわんと。せっかくやし。」

 「せ、せっかくぅ?」

 伊織が目を見開いて言う、茜への心配の裏返しという事にする。茜自身も少し驚いている。

 「03小隊のみんながうろうろしてるところに一人茜ちゃん置いて行ったらどうなるん?」

 さも当然、という感じでミカが言う。ね?茜ちゃん。と茜に促す。

 「そうですよね、そうです。いつもなら旅団本部に残るのですが、ついて来ちゃったもんなぁ、そうですよね。」

 自分の行動を振り返りつつ、驚きつつ、茜が話す。ミカへの応対というより、自分に向けた言葉のように聞こえた。

 「大した事はせぇへんし、万が一、03小隊が通してくれたらそれでええしねぇ」

 先程に引き続きあっけらかんと言うミカに、少しゲンナリした伊織が言う。

 「先輩、万が一って言ってしまってますよ。なんですか、その可愛い顔、そんなのしたってダメですよ」

 「まぁ、なんとかしますよ、そうでしょう?」

 「えぇー、茜さん、さっきから振り切りすぎじゃないですか?」

 「良いんだよ、もう、取り繕うのはもうやめだ。ね?班長?」

 これから起こる事は未知の世界、命令違反に再度の同士討ちにの可能性すらある未来。それなのに車内は朗らかな空気で進む。


---


 木原と中村は部隊と合流する。その背景で霧雨に浮かぶ古ぼけた首相官邸は、さながら魔物の居城であった。まぁその主人はお飾りの耄碌老人だと言うことが世間の常識となっている。

 土嚢、鉄条網、そして機関砲。それぞれも周りには殺気立った兵士がたむろしている。彼らは朔望団の兵士。いわゆるマナを持っていないとされる兵士の集まりで、マナがなくても生きていける社会の確立を目指す集団、だった。彼らが流した血と汗が、新月(朔)、から満月(望)への糧となる。と言うらしいが、今日ここにおいてはただのテロリストで相違ない。しかし、彼らはこのテロで不思議な話を訴えている。マナは全ての人間に有り、我々はそれを外に出す、いわゆる接続口がないだけなんだ。と。

 人としてあるべきものがないなら、それは欠陥というものだ。中村はそう認識する。だから我らは欠陥品である。同じ人間じゃない。そこの理解の仕方がどうも、朔望団の連中はわかっていない。

 マナは人に宿る生体エネルギーであり、世紀の発見、「マナと生命の切り離し」により、マナを人々の生活に惜しみなく使えることになった。エネルギー効率が良く、電気やガソリンなど大半のエネルギーが不要になった。そう、我らを除き。

 人々から少量のマナをいただき、それが社会に回っていく、つまり我らは社会へのコストを精算していないということであり、「進化から取り残されたもの」ということだ。そのレッテルは非常に危険なものであり、我らマナ無しとマナ有りで種族が違うという事になり、劣勢とされる種族がどうなっていくか今更語る必要はないだろう。今はその社会から、“生かされている”状態であるということだ。つまり社会に生かされているなら、最大限貢献すべきであるが、その生かされているという事実自体が枷となっていた。

 ただそこへ、誤解を恐れずにいうならば、変な光が刺して来た。

 生かされていう枷と鬱屈した劣等感にまみれる日々に送る中、小隊長のナガイさんに呼ばれ、話を聞かされる。

 全ての人にはマナがあり、我らですら、それはある。ただし、それは生命と引き換えだそうだ。接続口がないということは栓のない風呂であり、一度開ければ全て出ていく。つまり死だ。ナガイさんは奇跡的に、我らからマナを取り出す方法と、そのマナ貯蔵する方法を発見してしまった。本当は、我らにもマナの接続口を作るという目的だったというのに。ナガイさんの言葉を覚えている。

 「君の鬱屈した感じはよくわかる、だから、ここで、これを使って、我らで最後にしよう。次代にこの業を背負わせるわけには行かんだろう。」

 そんな話をしたのは、この下の災害備蓄庫だったな。我らからすれば“災害”が“備蓄”されているようなもんだ。木原もそこに行ったことはあるそうだが、自分と同じで、そこにある我らの終着点は見たことがないそうだ。ただ、そこにあるということは間違いないらしい。

 だから、朔望団ごときにそれが見つかるわけもない、という絶対の安心がある。だから、憲兵や武装警察の筋論争いも黙って待ってやる。その論争の争点に乗っかるならまだ、首相の安否もわからないしな。

 ふと通信用端末に目を向ける。この霧雨も夕方には晴れるそうだ。それまでにはまた、日常に戻っているだろうな。中村はもう一度古ぼけた首相官邸を見る。魔物の居城も見慣れれば大したことないな。そう思う。

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