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下手くそな反乱に巻き込まれた女の子のリベンジマッチ。  作者: Saiki
アナスタシス 立ち上がるということ。後編
17/19

◯出鱈目同士 その2

 森をかけるマリーの意識はヴィルただ一人に向けられる。そして先の闘いを振り返る。ヤツの本質は銃を依代にしたマナによる分身の具現化だ。

 相変わらずマナ有りは出鱈目だ。人一人、自分そのものを形成するなんて、一体どれくらいのマナを必要とするのか。

 それに加えてヤツは狙撃兵だ、こちらの意識を乱し混乱させてくる。こちらが無視してもしなくても致命的なミスになりうる存在。

 ただ完全に前回の轍を踏むような事はしない。種はすでに割れている。そして前回の敗因はお嬢様の戦いの邪魔をさせないという伊達と酔狂に絆された私の敗北。だが今回は違う。お嬢様が私のために行けといった。

 だからこそ、だからこそ、だからこそ。今度こそ殺す。覚えていろ。今度こそ、その顔を貫く手応えを感じてやる。狙撃の発火点は視認出来ている。そこまで全速力で駆けていく。どうあがいてもまずあれを黙らせないと話にならない。跳べば一足飛びだが前回の失敗がある。大地を踏み締め、湿気で滑る苔や草を自身の蔦で無理矢理固定して、反動をいっさい逃さず疾る。直線上にある岩や、巨木なんかは迂回せず吹き飛ばす。文字通り粉微塵にして獲物までの最短距離をひた走る。

 自身の中の怒りと想いが最高潮に達した時、ふと、突然に冷静になる。

 人一人。なのだろうか。と。前回、ヤツは、その場から動かなかった。狙撃というスキルだけの、マナで具現化した、いわゆるタレットの可能性。もしそうであれば、使用するマナも少しは節約できるかもしれない。

 先ほどのミカと連携が取れたとは言えない狙撃。そしてその前の防御壁に当たった弾丸、あれが防御壁に当たらなければ、どこに当たっていたか。

 「出鱈目だな。」

 思いついた仮説を俯瞰して言葉が漏れ出る。

 そんな訳、できる訳ない。あらかじめ我々全ての動線を読み、適切な弾丸を選び、適切なタイミングで射撃するなんて。

 それなら狙撃する自身を丸々コピーする方がよっぽど合理的だ。巨木をまた一つ吹き飛ばす。もうすぐ自身の間合いに入る、そうすれば植物が、そこにいるのは誰か、そこにあるのは何かを教えてくれる。あれを片付けたらすぐ戻ろう。

 悔しいはどれだけ精度を持ってしても本体は探知できるところにいないのだから。

 だから私がここに居ると見せびらかす。お嬢様を囮に使うようで気が引けるが、うまく行けばお嬢様の目の前でヤツをやれる。そう決めた。派手にやろう。そう思い踏み出す足に力を入れる。

 

 ふと、不思議な香りが鼻腔をくすぐった。不思議というよりは気づいてしまえば、もはや不快。とてもとても獣臭い匂い。理解した瞬間わかる。ヤツの匂いだ。

 ここに居る!直感でわかる生々しい獣臭さ。ここに居るならば狙撃はやはり分身だ。入れ違いでお嬢様をやる気だ、どこまでもコケにしやがって。

 「あぁ!」

 もどかしさに声が出る。自分の蔦の限界範囲まであと数歩。数歩進まなければ、分身を蔦で串刺しに出来ない!迷って速度が落ちる、そこにすかさず弾丸が頬を掠める。

 「あぁ!くそぉ!」

 迷いが声に出る。狙撃が来る、あえて直撃をさせないように、意識だけを削ぐように、進もうにも反対方向へ獣は逃げる。

 ふざけやがって。

 取れる選択肢が限られる、どうすべきだ。

 「あぁあ!」

 迷いながら情けない声を出す、大ききな大きな木を生やす、これでお嬢様への射線を切る。気休めだ。その木に強烈な弾丸が刺さる。ここまで読み切っているのか!?

 逆に考えろ、あちらが本体、ここにある匂いがフェイク。じゃあいま動いたのはなんだ。

 迷っている暇はないが、

 「ああああ!、」

 焦る、何をすべきかわかんない。でも何かしなきゃ。

 「嗚呼ああああ!!」

 叫ぶ、決めた。自身の限界を越える。届かせる、限界までの数歩を全力でいく。

 もどかしい、蔦が上手く絡まない。一歩が遅くなる。それでもいく、こちらの一歩、相手も一歩逃げていく。不快な匂いを撒き散らしながら。ただ狙撃の分身は動かない。もう一歩踏み込む。万が一に備える一歩。足が滑る。銃弾が頭部を掠める。こっちが滑ることまでは流石に読んでない。狙撃がフェイク、そう決めた。もう届く。地面に手と足をつけ、全てを送り込む。自分の限界を越える、邪魔すらさせない細い針のような蔦。銃弾を躱わす。

 見えた。ヤツの目が、瞳孔が開いた気がした。ヤツの首、翻して背中から心臓、そして銃を穿つ。手ごたえは銃に当たる金属の感覚だけ。

 「うううう」

 悔しさで唸る。ヤツとはこれで五歩は離れた。

 こっちはが狩るはずだった、最初から間違っていた。どれだけ出鱈目なんだヤツは。

 「お嬢様!百合お嬢様!」

 ほぼ半狂乱で疾る。間に合わなければならない。そうでなければ、私の生きる意味がない。疾る、地面を掴み、全速力で。


 「出鱈目だな。」

 ヴィルの口から言葉が漏れ出る。自分の走るスピードに合わせて、地面側から受ける蔦を出し捉えて走る。巨木も岩石も打ち砕く。人ではなくもはや戦車か何かだ。

 狙撃ポイントにおいてきた分身もそう長くは持たないだろう。彼女は一生懸命にやっている。マリーの怒りと戸惑いがごちゃ混ぜになった叫び声、唸り声がする。

 迷うよね。私はすぐそばにいるのに、どっちにいっても大事なお嬢様を守れない。

 ヴィルは自身のコンバットナイフを抜き力を込める。するともうのヴィルが1人現れる、目も合わさずにその彼女は、マリーの歩幅に合わせて、ユリがいる方向へ走っていく。ヴィル自身動けない、なぜならばマリーと同じでここが狙撃ポイントに届く限界点だからだ。

 マリーが巨木を生やす、相変わらず出鱈目だ、あんな質量どこにあるんだ。分身にあえて木を撃てと命じる。分身その2に走れと命じる。マナを通り越して命を削る感覚。流石に分身二人は厳しいかも。

 早く届けマリー、分身を穿て、そうすれば私は楽になる。撃てと命じる、少しブレた。

 マリーの雄叫びが響く、獰猛な叫び。大きな蔦で踏み潰されると思っていたが、針のような細い蔦。弾丸が滑る、そして目の前にある。分身の生命もこれまでだ、マナを打ち切る。なるほど確実に殺しにきている。勉強になるな。

 ただ、間に合いはしない、レイもああ見えて満身創痍だから、助けてあげないといけない。分身がユリを貫く絵を描く。今回も私の勝ちだ。そう確信する。やはり狩りは楽しい。


 マリーが走る目に先にある茂みの遥か向こうから、お嬢様の声が聞こえる。

 「出鱈目なのはマナ持ちそっちだって言ってんでしょうが!」

 そして響く無骨な打撃音。ドサっと倒れる人の音。お嬢様の音ではない。お嬢様は勝ったのだ。

 「駄目ええええええ!」

 叫ぶがもう遅い、勝利の余韻に浸る、お嬢様の後ろに迫る銀髪の猟犬。目があった気がした。畜生。文字通りの畜生だ。

 お嬢様の胸を貫く白刃、それが一回しながらまたお嬢様の胸へ戻っていく。私たちは簡単に死なないらしいが、二回も奇跡は起こらない。私たちだってあそこまでされたら、その先は考えない。できるだけ早く、お嬢様を助けないと、すぐに。 

 「ああああ!!」

 何回目のだろうかと自問自答したくなる情けない声を上げて、その猟犬に切り掛かる。持てる全てを込めて振りかぶって横に薙ぐ。

 その猟犬は不思議なことに避けなかった。そのまま突っ立っていた。持っていた大きなコンバットナイフだけ砕き、私の爪は空を切った。本体でなかったことに安堵してしまった。そう安堵だった。

 ただ力を全く制御できていなかったので、ほぼ空振りに近い自身の動きに持っていかれ地面を複数回転がっていく。

 ジャリジャリした砂の味が自分の間抜けさを後押しする。安堵している暇はないと教えてもらえたと理解する。手だか足だがどちらかでも構わない。回転する中で地面を捉え、止まる。顔を上げる。

 「お嬢様!?」

 位置を確認する、立ち上がる間も惜しく、走るのと這うの中間のようにとにかく向かう。

 「お嬢様、お嬢様、お嬢様。」

 お嬢様もこちらに手を伸ばしていた。滑りこみながら手を掴む。うっすら握り返されたような気がした。

 「お嬢様!」

 抱き上げる、目は虚ろだ、とにかくとにかくとにかく何とかしないと。

 持てる力で急いで生体培養槽を作る、急げ急げ急げ。私が遅れる分お嬢様の命は遠くなる。

大きな口を開けてお嬢様をほぼ投げ入れるように急いで入れる。蓋を閉めつつ液体を満たす、急げ急げ急げ、どれだけ早く入れてももどかしい。

 「お嬢様、あぁ、そんな目をしないで、安心したような目をしないで、まだ、まだなんです。」

 手を離せない、離したら終わるような気がする、でも、でも、でも、でもでもでも。

 「ふ、蓋を、しないと、い、けませんから。」

 もう馬鹿みたいな声しか出ない、どれだけ震えてるのか、どれだけ情けないか。ぐしゃぐしゃの私をお嬢様は優しく見る。

 「そう。じゃあまた後でね。」

 お嬢様は優しく手を押し返し離す、蓋が閉まる。

 「ぁあぁああぁ」

 本当に何回目かの情けない声を吐き出してその場にへたり込む。その瞬間に背後にいる不思議な気配に気づく、獣臭い匂いともう一人の気配だ。その気配は黙って近くに倒れているレイの上に、人を放り投げる。匂いと気配が混ざっていると思ったがどうやら担いで来たようだ。放り投げられた方は見なくても匂いでわかる。あの銀髪の猟犬だ。彼女も気絶している。ヴィルとレイが折り重なるように転がっている。

 こんなにあっさり気絶なんかしやがって、と興醒めする。でもやはり安堵が勝る。そして私の背後に立つ何か。

 「大丈夫だ。百合は死なないよ。」

 ぶっきらぼうだが、優しい言い方、ただ今の私たちにはそれも嫌味にしか聞こえない壮年の男性の声。

 「また魔が刺したのですか。」

 ゆっくりと振り返る。そこにはレイの姿をした何かがいた。

 「今度はそのカッコですか、ずいぶんと趣味が悪いですね。」

 レイの形をしたそれは両手を広げる。

 「そうだな、合理主義もここまでいくと自分でも訳がわからなくなる。」

 私は彼を睨みつける。気分が悪い。

 「要は済みましたか?帰ってもらえますか?貴方と分かった時点で、手を出してしまいそうでウズウズしています。」

 どうですか?ナガイさん。と畳み掛ける。彼は両手を軽くあげ降参の意を伝える。

 「分かった、分かった。帰るとするよ。」

 そういうと、するすると地面に溶けていき、鼻から上くらいだけが地面から出ている状態になった時に、ふと何かを思い出したかのように訝しんだ顔をする。

 「勢いに負けてしまったが、思い出したのか?」

 とどこから声を出してるのかわからないが、ナガイはそう告げる。

 マリーは黙ってそれが答えだとでもいうように黙って蔦を振る。その蔦が当たる前に、ナガイはするっと地面へ逃げていった。


 しばらく、その場に立ち尽くしたマリー。彼女のそばには生体培養槽と、気絶した04小隊の二人。マリーはゆっくりと生体培養槽に寄り添う。安堵か疲労か、力が抜ける。ダメとわかっていても意識が遠のいていく。


---


 物心ついた時から、百合というお嬢様にお仕えすると決まっていた。鳥のヒナへの刷り込みと言えばそうなのかもしれないが、自分は人間なので、自分の意志でこれを選んでいると言える。

 お仕えといっても時代が時代なので、特に難しいことをする訳ではなかった。一緒に遊び、一緒に習う。ともに食べ遊び、寝る。そんなものだ。年齢を重ねるごとにお嬢様として、使用人としての線引きがなされることはあったが、双方合意の上というか、そういうものと理解している。

 それなりに平穏だったが、将来に対して漠然とした不安はあった。昔の言い方をすれば、お家が傾いて行く。新しいマナという価値観に対応できてると言いがたい先代たち、羅針盤もない、ボロボロの船体で大きな波に抗っていく。そういう危機的な状況で、お嬢様は、いつまでお天馬なお嬢様というわけにはいかなかった。しかし、時代なのか。若いお嬢様が急遽当主になって無双する。などという事態も起こらず、いわゆる学業、武道、そして文化などに研鑽を積む日々だった。人として成長する、言うなれば簡単がそうもいかないが、そうすれば積み上げた伝統がどうにかしてくれる、どことかで転がってきたチャンスを掴む。そのために己の牙を剥く。そのつもりでお嬢様は生きていた。

 しかし、我々にはチャンスは巡って来なかった、正確に言えばチャンスが転がって来る場所にも立てなかった。お嬢様が遠方の大学に行き、自分もお供することになった。ここでお別れしても面白くない。ついて来なくて良いと言ったお嬢様に私は言い放った。

 「伊達と酔狂です。お嬢様にお支えするのが、私にとっての伊達と酔狂です。」

 その時はまだ半分おふざけなところもあった。大学生活はそれなりに楽しかった。ただその4年間で、さらにお家の状況は悪化の一途を辿り、卒業する時にはご両親も施設に入ることになっていた。

 卒業式は雨だった。見せたい人もいない卒業式。ずぶ濡れになり卒業証書を握りしめて歩くお嬢様。でもなぜだろう、泣いてもいなかった。ただ真っ直ぐ前を見ていた。そのお姿に私は心を撃たれた。脳を焼かれた。


 伊達と酔狂が、本当になった。この人と死のうと思った。

 

 私、軍人になろうと思うの。そう言ったお嬢様の顔を今でも忘れない。見惚れる顔だった。まだこの人は私の脳を焼くのかしら。ただ成り上がる訳でもない、生きる価値をそこに見いだす。命を賭けることに意味を見いだす。その場ができたようだ。この人と死ねるチャンスが増える。変なことを言ってるかもしれないが、最大限に愛情表現だと思って欲しい。愛しているとは言えないから。でも簡単には殺させたりしない、死なせたりはしない。


 ただ、終末は思ったより早かった。淀んだ目をしたカリスマ、そんな人がいた。死地へ赴く我らのカリスマ。死ぬことは許さないが、死ぬために生きる。それが教え。お嬢様に脳を焼かれてなければ、取り込まれるところだった。実際取り込まれた人間は何人も見てきた。いわゆるメメント・モリ。私には先約があって本当に良かった。

 何回かの紅葉の季節が過ぎて、私とお嬢様は小隊長室に呼ばれ、後ろから殴られた。死ぬ場所はここじゃないはずだった。お嬢様も一緒だった。手を伸ばす、届かない。最期くらい手を繋ぎたかった。ちょっと悔しかった。


 いや、たぶん今回は届いたんだと思う。


 ハッとして目を覚ます。どれくらいだった?景色、臭い、空気で、意識の断絶は一瞬だったと理解する。

 奥の茂みからガサガサと音がする、相手にする気分にもなれないから、木に言って道を開けさせる。突然、視界が開け、支えがなくなり転倒する青い髪と赤い髪、千里と茜だ。

 「あなた方を相手をする気はありません、そこの二人の介抱をしたければなさって下さい。これで私たちとこの人たちは1勝1敗ということにしてあげますから。」

 精一杯のいつもの調子でマリーは続ける。

 「私はいま動けませんので、休みます。私をやるなら今でかもしれませんが手加減は一切出来ませんよ。」

 多分そうじゃないと思いますけどね。と、言い切る前に茜がマリーの胸ぐらを掴む。

 「何勝手言ってくれてるんだ!伊織を返せ!!」

 わずらしい、小さな虫が耳元で飛んでいる時のような嫌悪感とめんどくささを混ぜた顔でマリーは目線を送る。その瞬間、伊織に吹き飛ばされてボロボロになったミカが転がって来た。


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