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◯2回目の戦闘 ヴィルとマリー

「っていうことなんよぉ、頼めるん04小隊だけなんやわぁ」


 相変わらずだ、この人は。

 細かいことは告げられず、ワンボックスカーで移動する総括班と04小隊。本来オペレーターがやるべき運転手は伊織だった。千里は助手席に座っている。車は街を抜けて、徐々に舗装状態が悪くなる道を走る。

 そもそもなんで昨日の今日なんだ。なんで装甲車ですらないんだ、なんで総括班と我々だけなんだ。何か身内に見つかってはいけない都合の悪いことがあるのか。そんな数々の疑問はミカの説明ですぐ解けてしまったが、千里にとっては状況証拠が揃いすぎて、あえて考えなかった想定通りで、それはそれで千里をげんなりさせるにはとても十分なものだった。

 ミカの説明の概要はこうだ。03小隊長の不適切な行為については、軍自体で大掛かりな関与がありそうだ、憲兵隊に書類やナガイ本人を突き出しても、おそらくトカゲの尻尾切りで終わる。だから、我々で証拠を押さえる。でも表向きは行方不明者の捜索だ。

 物語としては、ありきたりだけども。それって憲兵隊の仕事でしょうに…いざ自分の目の前にそれが転がっているということ自体に、理解はするが、納得感は一切ない。

 そして個人的最大の謎、なぜ伊織が運転しているのか、それもさらっとミカに説明されて、千里のげんなり具合は加速する。

「04小隊でなぁ、あの怪人さん引きつけておいて欲しいんよぉ」

それだけなら構わない、自分は04小隊としてやるべき事をする予定だった。

「そんでな、千里ちゃんは、ウチらと一緒に来て欲しいんやわぁ、実験のログとか上手に回収したいねんなぁ」

 なんで?どうして?とこちらが言う前にミカが言う。

「茜ちゃんはお留守やねん。総括が勝手に空けられへんもんなぁ。堪忍なぁ。」

ヘッドレストの横からミカが顔を出す。相変わらずいい顔をしてなさる。

 敵がうじゃうじゃいるかもしれない本拠地に突入する二人に、凡人の私がどうやってついていけばいいのか行くのか。

 はぁ、車に乗ってからもう何回目のため息だろう、直前に控える憂鬱と、仮にそれが終わった後に関する憂鬱で、千里のげんなり具合が加速する。

 ひと通りの会話が終わり、沈黙とヴィルが愛銃を整備する音だけが響く。車は舗装状態が悪い道を走り、前回の出発点と同じ切り通しに着いた。


「ほな、始めよかぁ、レイちゃん、ヴィルちゃん、よろしくなぁ」

 声の柔らかさは変わらないが、そのトーンは組織の長であった。

 海側から山にかけ、夕陽がさす。昨日とは違った色を見せる街に向けて、夏の手前の少し湿った大地を踏み締め、レイとヴィルが歩みを進める。二人を見送り、これから夜になっていくであろう、少し冷たい風を感じながら、車のドアを閉め、ミカ続ける。

「ほな、うちらも行こか。」

 はい、と小さく伊織が答え、ギアを入れアクセルを踏む、昨日は装甲車が走った舗装が悪い道を、ワンボックスカーが進んでいく。


---


 レイとヴィルは街に入る。明らかに自然の色合いが濃くなる境界がある、それが彼らの領域であることを示している。はっきりと別れたそれは、現代で街中にある、神社の森を彷彿とさせる。

 レイはヴィルに目配せをする、ヴィルは真っ直ぐにこちらを見た後、銃に弾を一発ずつ込めていく。静寂とは言わないが、風に揺れる葉音の中に、銃に弾を込める金属音がまじっていく。一発一発ずつ毎回少し音を変えながら、銃は弾を取り込んでいく。

 再び目を合わせて、アイコンタクト、ヴィルは愛銃を携えて、色濃くなった自然の中に足を踏み入れ、二足目からは掛けていく。姿勢は低く、そして早く。昨日とは違った形、ここから始まるのだ。


---


 車が山から街に入り、車窓を流れる景色が加速したタイミングで、ミカが口を開く。

「千里ちゃん、昨日さぁ、ヴィルちゃんに持たせんかったん?なんでぇ?要救助はいないっていうたやんかぁ」

千里がその情報ほんとだったの?とバツの悪そうに答える。

「伊達に女神の勘じゃないよぅ」

 少し拗ねた声色で言い、再びヘッドレストの横から千里の顔を覗き、言葉を続ける。

「だって、ヴィルちゃんにとってアレはただの装備じゃないんよぉ」

 千里の顔がこわばり、何かに気づいたようだ。その顔を見てミカの顔がニヤける。

「そう、ワンちゃんの骨っこ!それはとても大事な宝物なんよ」

「なんでやねん!」

 普段関西弁を話さない人間のぎこちないツッコミが車内を包む。伊織は真顔だった。


---



 ヴィルは先行するが、どこにレイがいるのかは気配で把握している。街は廃墟というには真新しいが、林としても一定の成熟を見せている。窓から突き破った枝葉、ビルの屋上に不釣り合いな巨木。大地を割りうねる根。しかし、草木の密度は低く、言うなれば異形の林、更に奥にはその密度を増して森と呼ぶに相応しい箇所が見える。ヴィルは林の中でポイントを探す。

 倒すべき緑色の怪人、マリーというらしい。次は私の番だ。今回はただの手合わせでは、終わらせない。班長が言う通り、もうこの一帯には要救助者はいない。つまり余計なことは考えなくて良い。着物、確かユリだったかな、は間違いなく、レイを狙う。これはこの戦場の最初のルール。そしてマリーはそのルールを守り間違いなくユリに花を持たせる。健気だね。良いよ。良い。


 この戦場のルールはユリが形成する。それも大きな掟。

 最初は乗っかってあげる、その方が楽しいから。

 良い場所が3ヶ所もある。けどなぁ、、、エサだけ撒いておこうかな。


 市街戦でもないが、密林というわけでもない現状、障害物が多く、狙撃手にとってはとても有利なはずであったが、相手が相手なだけに普通では効かない、もっと何かあるはずだ。興奮が抑えてきれない、ソワソワする。


 あぁ、そいう言うことか。


 ソワソワの根源は、林と森の境にあった。明らかにあそこだよね。今回もどうやら相手は手合わせのつもりらしい。


 その場はすでに用意されていた。


 いわゆる異形の者との戦いにおいて、先行する近接方、その後方の中距離支援がいる。自分たちはその更に奥、完全に裏方だった。広く言えば彼らの取りこぼしを掃除するのが主であった。火薬による打撃は異形にもある程度は通じるのだ。正直に言えば、自身のマナを持て余す。そう言う場面の方が多い。


 けど今回は違う、愉しいなぁ、もっと増えるのかなぁ。


 側から見れば不謹慎な気持ちでしかない感情を吐露する。加えて今は相手の領域、全て見られている可能性は0ではない。それでも彼女たちはいま私を認識していない。


しないのが美学なのかもしれない。相手の方が正々堂々かもしれない。


まぁ関係ないんだけどね。


---


 そろそろだろうか、レイは、明らかな境界線上、不思議な自然がもう一段色濃くなるその線の手前で待っている。明らかに整えられた舞台がそこにはあった。数メートル四方の、緑色濃い小さな舞台、それを仕切るのは緑の濃さの違いだけであったが、そこには明らかな境界が存在した。


 ここを踏み越えたら始まる。この線は手合わせの会場の境界線らしい。

そうなると仕切り線は、別であるのかしらね。と関係のない疑問が浮かぶが、多分あるんだと思う。どこまでも何かしらの美学があるらしい。


 聞き慣れるほどは聞いてないが、自分の名を呼ぶ大声がする。森の影から、ユリがゆっくりと現れる。続いて一歩下がって歩くマリーがついてくる。

「待ってたわぁ、待ちきれなかったわ!始めましょう!」

 マリーは向こう側の境界線で止まる。ユリは刀を抜く、刃を吟味してるが歩みは止めない。

レイはゆっくりとホルスターからブレードを抜き、軽く振る。ブレードの柄から日本刀を模した刃が現れる。ユリと同じく歩みを止めず、刃にマナを込める。刀身が順に光る、仕切り線があるとしたらここだろうかと、相変わらずぼんやりと考えてしまった。結果的に中心から等間隔の箇所で、二人は歩みを止める。


 互いに切先を下げ、正対する。お誂え向きな風が、二人の間に流れる。


 静寂。互いの集中を高めるわずかな時間。


 開始の音を吹く主審はいない、各々タイミングで足を引く。レイは両の手で刀の柄を握り、切先は地面、中腰、迎え打つ構え。ユリは基本に忠実な正眼の構えから腕を降りあげて、止まる、いわゆる上段の構え。


 盤面が整った。


---



 今回の戦場におけるルールは、ユリが作成する。それが掟。昨日から突如制定された不文律。つまりこの整った盤面、次に動かすのは、ユリ。


 それが4人の共通の認識だった。だがしかし、その掟、不文律、価値観は、一発の銃声により、壊される。そう、銃声が鳴ったのだ。

 全員が瞬時に「理解」する。その銃声は誰に向けられたものか。この場にいるべきだが、いない者。ヴィルが放ったであろう弾丸。その銃弾の進む先はユリ、そのはずだった。

「ふざけんじゃないわよ!!!」

 ユリの絶叫がこだまする。マリーはその絶叫で意識を取り戻す。違った。弾丸は自分に向かっていた。


 そう来たか、この外道。マリーは焦る。適切な行動より感情が先に立つ。自分の悪い癖だ。まさか自分が、その動揺を隠せない。伊達と酔狂でこのお嬢様を支えると決めてその意地だけで生きてきた。それは生まれる前から決まっていた。これは、お嬢様に暇を出されても変わらない。嫌われても変わらない。お嬢様がやりたいことをできるそのために私はいる。


 状況認識よりも自分の感情を高め、意識を研ぎ澄まし身体を動かす。初動が遅れたが、かろうじて左手で銃弾を受け止める。しかし、衝撃までは逃すことができず、左手の爪が砕け、自らの手で自分の頭を殴ったようになり、少し頭がフラフラする。

 しかしだ、心の揺らぎは収まった。むしろ昂っている。どこの誰が撃ったかそれはもうわかる。絶対に許さない。お嬢様を差し置いて私を撃つなんて。

「行きなさい!マリー!」

 お嬢様も背中を押してくれる。あの銀髪、ヴィル。お前は絶対に許さない。


---


 ヴィルは軽く息を吐き、整える。

 手合わせの会場を覗ける場所、比較的植物の侵食が少ないビルの2階、時間帯を加味して西側の場所を選んだ。そこからスコープを覗く。レイが一人で手合わせの会場の淵で立っている。

 大仰な美意識。拘り、このタイミングにおいて、それを生き様として提示する。仮にどちらが人間らしいかと言う問いを出されたら、ほぼ全員がユリとマリーの方を選ぶだろう。


 良いよ。すごく良い。


 彼女ら自身も自分に酔っている、自分たちの美学を提示できる舞台を用意したのだから。4人での共通認識を形成するため、私はあえて気配は消さなかった。無理に消そうとするだけで、彼女らに選択肢を与えることになる。茂みからユリとマリーが現れる。ユリだけが手合わせの会場に入る。仕切り線までレイとユリは歩みを進める。

 マリーは予想通りその場、茂みから少し出た、手合わせの会場の淵にいる。レイとユリが仕切り線で止まる、開始の笛が鳴るわけではないが、お互いに呼吸を合わせ構えを整えていく。


 わかっているわよね、マリーがそう言ってるような気がした。悪いんだけど、その提案には乗れないわ。私にとってはそうでもないのよ。私は私のやり方がある。今度は私の番だから。私以外の3人の共通認識が形成された後の一拍。心地よい一拍。

 そう、今度は私があなたを狩る。開始の笛はならず、無粋な銃声を響かせる。そのために引き金を引く。




 銃声に対して一番に反応したはユリだった、しかもそれは、自分への狙撃ではないことを理解した上での反応に見えた。マリーは少しだけ遅れたようだ、かろうじて、左手の爪で弾丸を受ける。


 良い。楽しくなってきた。


 あれでは衝撃は受け流せない。ユリが何かを叫んでいる。マリーが瞬断から意識を取り戻す。


 構わない。


 怪人二人の中の盤面を狂わせる。


 悪くない。


 ボルトアクションで次弾を装填する。次弾は初弾より軽い弾だ。初弾ほどの打撃力は期待していない。マリーが尋常ならざる速度で、あらゆる物を蹴散らしながら最短距離でこちらに来る。次弾、そして三弾目の射撃、初弾より速い弾。初撃が重いジャブならば、こちらは速いストレート。一発はユリに、もう一発はマリーに。


 どうかしら。


 ユリへの弾丸は風にブレたか、彼女の黒髪を掠める程度。マリーにはどうだろう、右肩に直撃し仰け反る、目線が切れる。しかし突進は止まらない。その顔には怒りと焦りが滲んでる。


 いままでに三発銃弾を撃った。彼女は草木や瓦礫を蹴散らし、駆けてくる。

その顔は怒りと焦り、そして迷いに囚われている。彼女と目が合う、彼女が跳躍する、ほんの少し山なりに飛ぶ。撃つ、これは弾頭の重いもの、先ほどを早いストレートよりは遅い、しかし重いストレートだ。来るべきタイミングに衝撃が来ないだろう、感覚が、意識がズレる、そのズレが余計な思考を生むだろう。


 良いね。とても良い。

 貴方はとても素直でとても健気で。


 あなたに私はどう見えている?

 何に見える?


 初撃で欠けた左手の爪で銃弾を弾き、彼女は逆腕を振りかぶる。跳躍に乗った前進は止まらない。狙うなら私だけと、伝わる気配。舌舐めずりをする。とても甘い味がする。


 ごめんなさい。そう言うの、大好きなんだ。


 また軽い弾丸、狙いはもちろんユリ。


 当たらなくて良い、相手の意識を逸らすだけ、そうだよね、目線が泳ぐよね、気になるよね、大丈夫、当たらないから。


---


 マリーは後悔した。迂闊だった、とにかく早くと思い、飛んでしまった。

 正直に言うと浮かれていた。ただ歯応えがある程度の認識だった。我々が勝手に自分の美学を相手に押し付けていた。相手は理性のかけらもないケダモノだ、我々とは対局の次元に生きている。苛烈な生存本能と凶暴性、剥き出しの野性。お嬢様が奇襲を好む理由もなんとなくわかった気がした。美学なんてものはない、これは一種の横暴だ。楽しいとか言う次元ではない。ただその横暴もこれで終わり。可愛くはないけど、終わらせる。さっきよりも重い銃弾を弾く、小賢しい。まだ跳躍中だが、その跳躍の先に、あの銀髪のヴィルがいる、発砲。あいつまたお嬢様に!本当に飛んだのは迂闊だった、ああ、もどかしい。


 でもね、その雑な射撃が命取りよ。


 スコープ越しに目が合う、その赤い瞳の網膜まで捉える。スコープごと串刺しにしてあげるから、そこでじっとしてなさい。


---


 ヴィルは目が合った時に察した。ユリができるなら、当然彼女も出来るよね。

 

 振りかぶる右手を反動にして、左手が突き出され、爆ぜる。線をなぞるように、殺意の蔦が伸びてくる。スコープが割れる、砕けるガラス、伸びる蔦。ゆっくりと共に自分の瞳に飛んでくる。体は動かない、動けない、衝撃と共に貫かれる。感じたことのない衝撃だった。


---


 交戦中であること伝えるタブレット情報、無線から漏れ聞こえる吐息と怪人の叫び、激しい戦いだろうが、タブレット端末からは、二人の状態には異常がない旨の表示が続く。

 千里はふと思い出す。班長の言う通り、ヴィルにとってあれは、本当に大事な宝物なんだろうか?


---


 手ごたえは確実、何かを貫いた。マリーは確信する。

 我々と人間では質量の違いが大きすぎる。ヴィルに激突し、そのまま部屋の奥へと転がっていく二人。貫いた左手を引き抜き、大の字に倒れているヴィルに馬乗りになり、胸を貫く。他の人間と違い、プロテクターなどをつけていないからだろう。爪は安易に彼女の胸に突き刺さる。手ごたえは床のコンクリートだけだった。最期の表情も髪に隠れてわからない、最期の言葉も聞けなかった。まぁ仕方ないか。お嬢様のところに戻ろう。刺さった爪を抜くために意識を戻す。


 いない

 あるはずのヴィルの亡き骸が、いない。

 まさか。そんな。


 マリーは背中への衝撃を感じた、振り返る余裕もなく頭部への打撃、床に打ち付けられる身体。刺さった爪で床ごと切り裂き反転、出鱈目に左手を振る。当然手ごたえがないが、ケダモノであるヴィルから距離を取る。胸部に違和感、背中に突き立てられた敵のブレードの刃先が覗いている。足に力が入らない、崩れ落ちる、かろうじて膝で立つ。この期に及んで実感がないが、これがナガイが言っていた死というものか、それとも恐怖というものか。それでもまったく、わからない。


 ただ、浮かぶのはお嬢様の今後だけ。申し訳ありません。お嬢様。


---


  我慢できずに千里は訊ねる。

 「班長、ヴィルにとっての骨っこというのは?」

 ミカはニヤニヤしながら答える。

 「二人の時はミカさんでええよぉ、そうやねぇ、わんちゃんも困った時に掘り返すやん?だから困ったときのとっておき、宝ものなんよ。」

 なんの返事にもなってない。そもそも毎回マメに手入れしているが、あの銃だって既製品でもう何挺目かわからない。

 「そう言えばさぁ千里ちゃんはヴィルちゃんのマナって見たことある?」

 あ、そうだと言って、ミカが思い出したように言う。千里も思い出す。そう言われてみれば見たことは無い。

 「すごいんよ、なかなか使うことないから、今度見せてもらいなよぉ。猟犬は一人では狩りはせぇへんから。」

 相変わらずだ、この人は。そりゃヴィルとレイは基本セットだし、あれ?でも今日は一対一だな。そういう風に仕向けるから、ヴィルは班長のこと嫌いなのか?そう思っているうちに通信が入る、ヴィルからだ。

 「こちらヴィル、終わった。レイのところに行く」

 まぁそうだよね。一拍おいてヴィルが続ける。

 「マリーは爆破したビルの中にいる、生死まで確認できない」

 通信を聞き、千里より先にミカがお疲れさまぁと伝えて、ヴィルはうんと返事をした。

 それを聞いて、伊織がちらりと前方を見る。

 「先輩、そろそろです」


---


 影絵が止まる。茜が大きく息を吐く、流石に多くの人間が絡み合う状況だ。出力する側の消費も激しい。ユリたちが植物経由で送っている真水のマナも多く消費されている。休憩の合図と言わんばかりに茜ではなくユリが伸びをしてから、少し戯けながら言う。

 「壮絶な死に際だったわね。顔にも声にも出ないけど、貴方ってずいぶん健気なのね。マリー。」

 いつもありがと。とユリはマリーに笑顔を向ける。マリーは表情ひとつ変えず頭を下げる。

でも、たぶん内心では、顔真っ赤っかなんだろうな、と茜は思ったが、そこの真実を知る必要もないだろう。

 「死に際って言ったが、じゃあそこにいるのは誰なんだ?」

 和泉が訊ねる。ユリがあ、と言って右手を口の前に持ってくる。

 「言葉のあやよ、別に、建物が爆発する前に良い感じで蔦かなんかで守ったのよ。大事なところだけ。」

 そうよね、とマリーに目線を向ける。マリーは頷くだけ。

 「だってほぼ植物なんですもの、根っこがあればまた生えますわよ。それだけのことです。」

 ユリの言葉に和泉は少し苛立った気配を見せるがすぐに持ち直し、軽い調子で言い直す。

 「ずいぶんと人間くさいのに、根っこは植物っていう自意識なんだな。」

 ユリが和泉の意図を図りかねるとっいった感じで、首を傾げる。

 「うーん。人か植物かと言われたら、そうなるんだけど、根源的にそれは違うって囁く声が聞こえるのよね。だからこんな格好するしこんなところに住むし、こんなふうにお話しするわけだし。」

 たぶん、と一呼吸置いて続ける。

 「たぶん、その声が聞こえなくなったら、本当に植物になるんじゃないかしらね。」

 和泉の苛立った気配の真意は、おそらく、何かあったら自分がユリやマリーのように、若しくはヒトガタになるという危機感に近い不安だろうと茜は類推する。

 マナを使える自分はは関係ないと心のどこかでまだ、たかを括っている。残酷だが、まだ誰も忘れてはいない、あの木原の最期を、ひとつ間違えていれば、自分だったかもしれないという、恐怖は間違いなく和泉は感じているはずだから。

 もう。と言うのはユリだ。茜が和泉向ける視線に気付き声を上げた。

 「心配するのはいいけど、いまの主役は私達よ、夜は長いし、明日もあるんだから、早く続きを見せてちょうだい。私とレイの決闘よ。」

 早く早く。とせがむ声を意識の外に持って行き、また影絵を動かす。


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