5、戦場のワルツ
大隊大休止中
スカイ・キャリアベースは、ゆっくりと手にしたカップ麺のスープを味わっていた。もうじき出発の時間。本日最後の夕食は昨日のバンデット作戦で分捕った食料の中にあったカップ麺だった。
大秦連合や、ブラックバニア製の安物じゃなく、天照皇国製。すでに中身は食べきり、残ったのはスープだけ。
ぬるくなったそれを、彼が舐めるようにちびちびと飲んでいると、隣から声がかかる。
「スープまで飲み干すと身体に悪いですよ」
「エリザベスか……」
隣にいたのは、彼の参謀、エリザベス。彼女は少し顔をしかめながら隣に座る。
「カップ麺って意外と塩分高いですから。スープまで飲んでたらあっという間に身体壊しますよ?」
「貧乏性だな。どうももったいなく思って。貧民街じゃ、天照製のカップ麺なんてごちそうだったから……」
「カップ麺がごちそう……ですか。貧民街ってすごい所なんですね……」
「エリザベスはお貴族様だから下々の生活は分からん、か」
「意地悪な言い方しないでくださいよ。私、貴族っていっても男爵家ですから、そこまでいい暮らししてた訳じゃありませんよ」
続けてスープを飲もうとしたスカイの腕を、エリザベスにやんわりと握られた。
「飲、ま、な、い」
「……分かったよ」
しぶしぶ、スカイはスープを地面に捨てた。地面に染み込むそれを、もったいないと思うあたり、自分は王子には向いてないと思った。
「なんか、エリザベスを見てると母親を思い出すな……こう、俺に容赦ないところとか」
「殿下のお母さまに?」
「ああ。雰囲気もどことなく似てる。桃色の瞳で、眼鏡かけてて。それで知的で……」
記憶にある母親の面影が、目の前の少女に重なった。……思わず恋しくなってしまった。……あの人も王都陥落で、生きてるかどうかすら分からないというのに……。うまく疎開していて欲しいところだが……。
「それに……」
「それに?」
「時々……俺を恐ろし気に見てくるところもそっくり」
スカイは口に出して少し後悔した。エリザベスは不満そうに口をとがらせる。
「別に殿下の事、怖がってなんていませんが……」
「でも、ブラッディ・ダラやトーラス作戦の時は実際に怯えていただろ?」
「あれは状況が特殊ですし……あそこまでえげつない作戦やるとは思っていなかったので……」
少し気まずい空気を変えようと、エリザベスは話をつづけた。
「殿下、お母さまからどんな風に見られてたんですか。恐ろし気にって」
「ん……俺が、あの馬鹿国王の落とし子って事は知ってるだろ。母さんを散々弄んで、身体も心も貪りつくして、妊娠したら捨てた。まるでオ〇ホじゃないか」
スカイはため息を一つ。
「それで生まれたのが俺だ。母さんからすりゃ、そりゃ複雑だろうよ。元々軍学校主席で、ゲリラ戦の天才なんてもてはやされて、栄光の絶頂から軍人としても女としてもプライドをズタズタにして人生めちゃくちゃにした相手の子なんて。直接口に出したことはなかったが「こいつがいなきゃ私はもっとマシな人生歩めたはずだったのに……」みたいな目で見られたことも何度もある。 正直、トラウマだ」
「……苦労されたんですねぇ。殿下も」
「ま、ね。誰しも心の闇の一つや二つは抱えてるさ」
スカイは、ニヒルな笑みを浮かべて、しめっぽい空気をごまかした。
「しかし参ったね。俺達が前線でこんなカップ麺食ってる裏で、王都の貴族王族連中、舞踏会で毎晩贅を尽くした食事をしてたんだと思うと……」
空になったカップ麺のふちをなぞって弄びながら、彼は吐き捨てるように言った。
「……別にね、俺だって鬼じゃない。実際戦場で銃撃てとは言わないよ。アイラみたいに臆病で軍人向かない奴だっているだろう。そういうのは活躍できる場所で活躍すれば良い。俺が言いたいのはね、偉いなら臆病でもそれなりに格好つけて欲しいんだよ。全員救うのは無理でも、せめて納得して死なせて欲しいんだよ」
「出たよいつもの反転アンチ王党派ムーブ」
いつものスカイの思想語りを、エリザベスは適当に聞き流している。離れず一応聞いてくれる辺り、まじめなやつではある。
「内戦中、クラリーチェ姉上達以外の主流派の王族連中が一度として前線に視察に来た事があったか? 自分たちが煽ってる戦争をだぞ。砲弾飛び交う戦場を悠然と視察してこそだろ……メリンダやヴァイオレットやセリーナ。あと、実力的にはちょっと厳しいがアイラみたいな傍流の王族の方が頑張ってるのはどういうことだ? 後方勤務ですら徴兵忌避権使って拒否しやがる。チキンどもめ」
「「前線は無理」「視察も無理」「後方勤務も拒否」「でも権限と口は出す」まぁ、下から嫌われて当然ですわね……」
「いっそ舞踏会で、ワルツの代わりに「抜刀隊」でもかければ良いんだ。少しは闘志も湧くだろう」
天照から輸入された軍歌の一つにして、この部隊の第一隊歌の名前を出して、スカイは皮肉を言う。
「……カークに逃れた貴族王族連中の中に、この手の高位で口ばっかり達者な奴がいなければ良いんだが……」
彼は焚き火にカップ麺の空容器を投げ入れる。火の中で紙製のそれは、すぐに燃え尽きた。
「クラリーチェ姉上が仕切るならともかく、流石にそんな奴らの顎で使われるなら、今度こそ亡命か、山奥で村作って引きこもる計画を立てなければならないかもしれない。こちとら、もう誰も失いたくないんだ」
その時、誰かが歌を歌い始めた。曲目は第一隊歌「抜刀隊」。ブラックバニア語に翻訳された歌詞は勇ましく、敵軍は強敵だがやってやるぞ!という気持ちにさせてくれる。歌っているのは声的にブリジットだろう。
やがて他の隊員達も彼女に合わせて歌を口ずさみ始め、それは合唱へと変わっていった。
「良いねぇ。戦場のワルツだ」
気づくとスカイもエリザベスも歌を口ずさんでいた。
心が一つになる。
夜間進軍を前に、隊の士気は静かに、だが、確かに上がっていった。
補足:666大隊で主に歌われる軍歌
ブラックバニア産
・黒い森の大地
ブラックバニア産の行進曲。可もなく不可もない無難な行進曲。曲調がソ連曲っぽい雰囲気。ロックアレンジは人気。アレンジ自体は軍上層部は複雑な顔しながらも黙認してる。若い娘達だから分かりやすいポップかカッコいいのが人気なのだ。
・国王陛下万歳!
その名の通り国王を称える曲。メロディーは良いが、プロパガンダ臭が露骨+くどすぎて原曲は不人気。国王と王族をディスる内容の替え歌が存在し、他の政府軍部隊によっては公然と歌われるほど。なお、更に一部部隊(具体的には666大隊、第2ヘリ旅団、第8機甲師団)では推し王族の推しソングに替え歌され推し活ソングに化けた。
天照からの輸入
・抜刀隊
666大隊公式隊歌。天照皇国から輸入された軍歌の一つで歌詞もリズムも良く、反乱軍に立ち向かう曲である事もあり大人気。隊歌になるのは時間の問題だった。特にロックアレンジ版はここ一番で流され、少女兵達の士気をガンギマリ状態にさせる。なお、抜刀隊自体についてはスカイ含めて天照にかつて存在した謎の超強力なサムライ部隊と思われている。ブラックバニア、元々維新を元に近代化しようとした(そして失敗した)から元々心理的な距離感は近い上、666大隊がアホな上層部のせいで孤立無援の戦闘ばっかりさせられてるから、太平洋戦争(に相当する戦争)時の天照兵に対してかなり同情的なのよね。
・軍艦行進曲
天照から輸入した軍歌の一つ。曲調がポップで歌いやすい為割と人気の一曲。なお、致命的な事にブラックバニアは内陸国である。
天照からの輸入(裏)頭ブラックバニアな独裁国家だけあり、他国のサブカルは規制で入ってこない。ただし、音楽はギリギリアングラで流通してる。なお、原典が入ってこない為、一部の曲はトンデモ解釈され、軍歌化している。
・翔べ、〇ンダム
ご存知SFアニメの金字塔。ファーストガンダムのオープニング。ブラックバニアではアニメ文化なんてとっくに規制されてる。それでも「何かの劇に使われてる歌」くらいの認識で666大隊では軍歌として親しまれてる。文化を規制していた政府軍サイドの666大隊がこれを軍歌代わりにしているのも皮肉すぎる。ガンダムは何故か666大隊では古代の伝説の戦士とされている(いや、∀とかもあるけどさ……)
・〇ャージマン研
ご存知伝説のクソアニメのオープニング。恐ろしい事に第二隊歌に設定されている。研はチャージ=突撃して戦う伝説の突撃隊員だと思われている。 でも曲調は超テンション高い→士気が上がるのは事実。中身を知らないがゆえに、かえって純粋な英雄讃歌として機能してしまう。奇しくも2025年9月現在、チャー研はカップ〇―ドルとコラボ中である。
エリザベス「しかし、この研さんって何者なんでしょう?」
スカイ「天照皇国の曲だし、きっと太平洋戦争の硫黄島やペリリューの戦いでアールガム(この世界におけるアメリカポジ)兵を多数道連れに散華した天照兵達を鎮魂し、称える為の歌なんだろう。研さんというのは特定個人では無く、彼らのメタファーに違いない。よし、彼らにあやかって本曲を第二隊歌にしよう!」
エリザベス「良いですね。鎮魂にもなりますし、士気も上がるでしょう」
・〇elp me, 〇RINNNN!!
ご存知伝説の東方アレンジ。えーりんってなんだ…?何か助けを求めてるぞ。そういえば天照は多神教を信仰しているとかいっていたな…。きっと「えーりん」は現地で信仰されている女神か何かに違いない。ははーん、テンションが高いだけでこの曲は宗教曲なんだな…なぜか祈祷歌になった!意味は謎だけどテンポ良くて楽しい!永琳のモデルはオモイカネ神だからセーフ(?)




