10、めでたしめでたし……?
スカイが美術室の部屋の扉を開けると、中央の椅子に簀巻きにされたグレイシーが座らされ、三方を生徒会委員達……エリザベスとアリスとレベッカに取り囲まれていた。
「……どういう状況? これ」
眉をひそめた彼に、真っ先に答えたのはレベッカだ。
「尋問ごっこだって」
グレイシーの目の前では、エリザベスが腕を組んで仁王立ちしている。
「観念しなさい。反政府軍のスパイなんでしょう?」
「いや、意味わからないし……」
隣でアリスが肩をすくめる。
「天国のご両親も泣いてるぜ……堪忍しな」
「うちの両親ピンピンしてるけど!?」
そのやり取りの最中、フローラがグレイシーの膝の上に置かれた冊子に気付いた。
「あー! それ私の!!」
「これ? 図書室にあったから借りただけよ。……まさか隊長の写真集があるなんて知らなかったけど」
「そんな写真集は存在しないぞ」
マルタが即座に否定する。そりゃそうだ。
「ま、かくかくしかじかでな……」
エレナが一歩前に出て、淡々と経緯を説明した。
***
「――要するに、マリーとアレクサンドラが立て続けに『現場猫』案件を引き起こし、私物が誤って貸し出し棚に紛れ込んだ。……つまり、そういうことね」
グレイシーは溜息をつく。
「拍子抜けするくらい、しょーもないオチだね、こんなこったろうとは思ったけどさ」
呆れた様にアリスが言う。
「ま、これであんたがスパイじゃないってわかったわ」
エリザベスが鼻を鳴らす。
「当たり前。何よ、スパイって……」
フローラが手を差し出す。
「スクラップブック、返してもらうわよ」
「もちろん」
素直にグレイシーはスクラップブックを返した。だが、スカイは首を傾げる。
「しかし、なんで僕の写真なんか……」
グレイシーは視線を逸らさずに答えた。
「作品のアイディアに詰まってたの。そしたら、いいポーズ集があって…………隊長のこと好きだし、構図も良かったから」
背後からネクロディアの茶々が飛ぶ。
「これでスカイ君に惚れてる子、何人目? もうハーレム作れるんじゃない?」
「いや……好きっていうのはラブじゃなくて、ライクというか……」
そう言いつつも、グレイシーの頬は赤い……。
――うん、惚れられてるな。これは……。
「……本当にモテるねぇ、スカイ」
レベッカが目を細める。その目には明らかに嫉妬の炎が浮かんでいた。
そんな幼馴染の視線から、スカイはわざとらしく視線を逸らした。
「まぁ……悪意のある人間の仕業じゃなくて良かったよ」
フローラが小さく息をつき、ふと微笑んだ。
「……もし良かったら、中の写真、何枚か焼き増ししてあげる」
「いいの!?」
「構図、褒めてもらえて嬉しかったから」
「ありがとう!」
グレイシーは満面の笑みを見せた。
「これにて事件は解決の様だね」
スカイがそうまとめて、一件落着――のはずだった。
彼らが部屋を出たあと、レベッカは小さく呟く。
「……また、ライバルが増えた」
ぎゅっと拳を握り、スカイを睨みつける。
「……レベッカ。最近少し嫉妬深くなってない?」
「別に~? 気のせいじゃない?」
「お、レベッカもヤンデレ化? 良いよ。ヤンデレ四天王に入る? 5人揃って四天王!」
「入らないよ!」
レベッカは焼き餅を焼きつつスカイに抱きついてくる。
「本当にモテるよね〜スカイ。こんな可愛い幼馴染がいるくせにさぁ。浮気者〜」
「おい、こやつ私以上にスキンシップとってくるぞ?」
呆れているマルタを尻目に、レベッカはしばらく彼に引っ付いて離してくれなかった。
「レベッカ。周りの視線が痛い」
さて、それを黙って見ている周囲ではない。
「お、抜け駆けとは良い度胸じゃん。アリス・アリゲーター。推して参る!」
「……マルタ・ロングボウ、出る!」
「祖国の名誉の為に!」
「スカイ様〜、私もハグ〜」
次々にスカイに抱きついてくるヤンデレ四天王達。
……柔らかくて心地が良いけど、身動きが取れない。
「エリザベス、助けて……!」
「モテる男の修羅場は見てて楽しいですねぇ……」
「エリザベス〜?!」
夕暮れの校舎にはスカイの情けない声が響いた。




