7、暴☆露
「……じゃ、僕らは先輩が最後にスクラップブックを見たという図書室へ」
「我々は校内を一周した後、聞き込みを。何かあれば連絡を」
役割分担が決まって、スカイ達は廊下をゆく。彼らの担当は図書室。
スクラップブック、どうか無事でいてくれよ。……そう心の中で祈る。
「この人のひいおじいさん、うちのひいじいちゃん殺しかけたんだよ」
そんな中、開幕一発目からフローラが爆弾を投げる。しかもにこにこ顔でだ。指差されたこの人=エレナは、肩をすくめてさらっと返す。
「うちは代々、ガチガチの王党派でね。それでフローラの曾祖父さんは市民革命を訴えた革命家。うちの曾祖父さんが、「推してた王族」を彼にディスられたのもあって、けしからんって殺そうとして失敗した。……アレは惜しかったな。通行人に止められなければ、未だに王政は続いていたはずだった……」
「なんちゅう会話してるんだお前ら……」
図書室行く前に歴史的確執を消化しないでほしい。スカイが困惑すると、フローラは悪びれもなく首を傾げた。
「おじいさんくらいならともかく、正直、曾祖父さんまでくるともう歴史上の人物って感じでしょ。私たち、持ちネタにしてるまであるし」
「うむ。家系の因縁はサクッと笑いに昇華するのが平和の秘訣だ」
エレナが妙に良い笑顔でまとめる。
「平和の秘訣、雑じゃない?」
「それより隊長」
と、今度はマルタがこっちに身を寄せてきた。至近距離。胸が当たる。柔らかい。やめて。
「汚れた下着に興奮する性癖って本当?」
「…………誰に聞いた?」
「アリス。持ってるエロ本的に間違いないって」
――……あのヤンデレ鰐め。
「待って。話せば分かる」
「否定しない……」
エレナが無表情で刺してくる。フローラは「あっ……(察し)」と目を伏せ、カメラをぎゅっと抱きしめた。いややめて、その悟りみたいな目。
「ちょ、ちょっと聞いて。染みパンフェチはまだ、変態性癖の中ではライトな方だ。いいかい? パンツは単体ではただの布切れ、量産品だ。だが、そこに女の子の汗や汚れが加わる事で物語が加わる。いわばプラモデルのウェザリングと同じだ」
「結局のところただの変態では?」
マルタの正論。痛い。正論は時にナイフより鋭い。
「……だが、良いことを聞いた。脱ぎたてのくたびれたパンツを貢げば、隊長の好感度が爆上がりする」
「ゴクリ……」
「上がらないよ!…………上がらないよ?」
最後ちょっと弱気になったのは自覚していた。やめてくれ、なにその裏技的な発想。
そんなしょーもないやり取りをしているうちに、図書室の扉が見えてきた。静かな空気が廊下の端から漏れている。
「よし、探偵モードに切り替えだ」
スカイは咳払いしてドアを開ける。紙の匂い。低く流れる空調。司書台には、フクロウの目を持つ女こと、マリー・ホーネット。視線がこちらに滑ってきて、ぴたりと止まった。
「話は聞いています。ようこそ図書室へ。なるべく静かにお願いしますよ?」
図書室は、紙とインクと静かな空調の匂いで満ちていた。
司書台の奥にいるマリーが、こちらに視線だけ滑らせる。
「スクラップブックが無くなったとか」
「ああ。マリー先輩は何か知らない? リョコウバトの悪ガキ共が来てたとか」
「……あんまり変な人はいなかったと思いますが」
マルタが周囲をざっと見渡す。
「フローラはその時どこに座ってたんだ?」
「そこだけど」
エレナがしゃがみこんで机の上と下を眺める。
「痕跡は……ないよな。氷みたいに消えた訳ではあるまいに」
マリーが首を傾げた。
「そもそもどんな本なんですか?」
「こう…茶色の背表紙で大判のアルバムで表紙に記録って書かれたやつ」
「……」
すると、マリーの額に、みるみる冷や汗が浮いた。
「……どうしました?」
「いやー……なんと言いますか。まさにそんな感じの、机に放置されてた本を回収した様な……」
「どこで?!」
「いやー……まさにフローラがいた席で」
頭をかきながら小声で言うマリー。スカイは深くうなずいて、宣言する。
「……犯人見つけたわ」
「マリー・ホーネットぉぉぉ!! あんたが犯人やないかい!!」
図書室にフローラのツッコミが爆音で響く。すかさず別の図書委員……アレクサンドラの「シーッ!」が飛んできて、全員背筋が伸びた。
マルタが肩をすくめて、悪い笑みを一つ。
「これは罰として『下着没収の刑』やろなぁ……」
「隊長への供物にしよう」
エレナが無表情のまま、マリーの腰に手を伸ばす。
「いや待って、落ち着いて、何?! 下着没収刑って?! なにその恐ろしすぎる刑罰!? それにここ図書館! 人の尊厳と公序良俗!!」
「良いでは無いか良いでは無いか……」
時代劇の悪代官の様な声でニヤニヤと笑うエレナ。
「マリーだって私達の『ファンクラブ』の一員だろう? 自分のパンツが隊長のコレクションになるなら本望だろう」
いやらしい目つきでマリーに迫るマルタ。
「君達楽しんでない? というか、マリー先輩も僕のファンクラブ会員だったの……?」
「だからって帰宅までノーパンは嫌ですよ!?」
「大丈夫大丈夫、トーネード姉妹を見てみろ。あいつらたまにノーパンで学校来てるから。それに比べれば帰宅までノーパンとか何でもない様なものだ」
「えっ、何その情報……」
突然、知ってる先輩達の秘密を暴露されたスカイは、困惑の色を露わにした。




