おまけEX 反政府軍Side リビング・デッド
王都制圧から5日後、第三王女クラリーチェによる、降伏文書調印と同時に行われた徹底抗戦宣言は、『勝ち』を確信していた反政府軍首脳陣に大きな衝撃を与えた。
反政府軍が制圧した王都からは次々と、急遽編成された『追討軍』が出発していく。
「まったく……あの王女様にも困ったものだね。やっと形だけでも平和になると思ったのに」
『新編』第13歩兵旅団の旅団長である私は、隣にいる同い年の副官、エルザ・バーディゴに愚痴をこぼした。現在、第13旅団も追討軍の一員として従軍すべく、進軍命令を待っている所だ。
「まったくです。カーク市には次々と政府軍残党が集っているそうですよ」
「第2ラウンド開幕って事だな。……反政府軍だって、このまま消耗戦が続けば体力がもたないっていうのに」
私は思わずため息をつく。私が弱音を見せるのは彼女の隣にいる時だけだ。普段、部下の前では飄々としたキャラをして、余裕を見せる様にしている。
この『新編』第13歩兵旅団は、新編成された旅団に、かのブラッディ・ダラにおいて殲滅された旧第13歩兵旅団の名前を襲名させた部隊だ。
そして新たな旅団長に任じられた私は、彼の地での戦いでの、数少ない生き残りの1人。
……身も蓋もない事を言うと、プロパガンダ用の部隊である。
あの『悪魔の鳥達』の異名をもつ第666特別大隊に殲滅された旅団が、ブラッディ・ダラの生き残りに率いられて復活した!
そんな演出をやりたいが為の急ごしらえ部隊。だから、この死者蘇生部隊の内情といえば酷いものだ。部隊の8割はその辺の学校から半ば拉致同然に無理矢理連れてきた学徒兵。残りの2割が士官学校を繰り上げで卒業させられた連中。つまり、ろくに銃さえ触った事がない連中がほとんど。
さすがに上層部に抗議したら、「かの第666大隊だって学徒兵部隊ではないか!」だと。参っちまう。…………あの大隊は私の人生をどこまでも狂わせやがる。
ふと、左手を見た。
そこにあったのは、生身の腕では無く、機械仕掛けの義手だった。……あのブラッディ・ダラで失った。もうこの先、左手の薬指に指輪をはめられる事は絶対にないのだと思うと、流石に寂しい気分になった。現状、私と生涯を共にしようという奇特な男がいないのが、せめてもの救いか……。
「でも、これだけの大軍を動員するのです。勝てますよ! きっと」
エルザの言葉に現実に戻される。私は希望的観測を語る副官に水を差した。
「……どうかな? 正直、そう上手くいくとは思えないな」
「そうでしょうか?」
「エルザは新兵だから、上層部に希望を見すぎだな」
私はあっさりと言う。
「……クラリーチェの徹底抗戦演説から、追討軍編成までが、早すぎる」
進軍していく味方を見ながら言う。
「しかし……早くあの王女をやっつけなければ、次々に政府軍の残党がカークに集って、手を付けられなくなります」
「気持ちは分かるがね……普通、数万単位の軍隊が万全の状態で戦闘するには、それなりの準備期間ってものがいる。今日明日で戦闘してこい! で出来るもんじゃない。第一、それだけの人数の食料と弾薬を用意するのだってタダじゃないし、時間だってかかる」
「……」
「大国の軍隊だってそんな事したら、補給が切れてえらいことになる。……それを、自他ともに認めるガバガバ兵站の我が軍がやったらどうなると思う?」
私が言いたい事を理解したのか、エルザの顔が青くなる。
「……しかも、途中で迎撃に出てきた政府軍を撃破したとして、カークは王都から遠い田舎の山奥。三方を山に囲まれた守りやすい土地ときた。……数倍の兵力差でも勝率は……ちょっと計算したくないな」
「……なぜ、こんな作戦が発動されたんですか?」
「それが我が軍の実態さ。上は理想を語りながら内ゲバ。まともに給料や補給物資すら渡せず、略奪を黙認する始末。口だけ革命家共が……」
私はつい熱くなる。上層部批判などエルザ以外に聞かれたら不味い事になるが、それでも愚痴らずにはいられなかった。
「苦労するのはいつも下っ端。……ブラッディ・ダラの時もそうだった。あの軍内政治しか興味の無い間抜けな旅団長が、砲兵と狙撃兵に追い立てられたからって、よりにもよって、あんな所に逃げ込まなきゃ……」
そこまで言って、私は口を閉じた。どうも人生で負けがこむと愚痴っぽくなっていけない。私はまだ19だというのに。
それに、あんまり部下を脅かすのも良くない。
「……ま、とりあえず、撤退命令出たらすぐに後退出来る様に徹底させておけ。いざって時の為に、補給担当には目くらましの煙幕弾を多めに用意させておいた。こんな戦で死ぬのは馬鹿馬鹿し過ぎる」
「はっ!」
敬礼したエルザを満足げに見る。……同い年だというのに、しんどすぎる現実の前で「見るべきものは見てしまった」と、スレた私とは違う世界の人間に見えた。平和な世界だったら彼女とは、部下と上官ではなく普通の友人になれていただろうか?
「……カークにはあの男もいるのだろうか?」
ブラッディ・ダラで、私の戦友達と左手を奪ったあの男……。スカイ・キャリアベース。
戦争だ。恨みはしまい。分かっている。……彼だって、私同様、今まで多くのものを失っているはずだ。
……だが、それでも。いつかは、あの日死んだ友たちと、この左手の復讐を……と思ってしまうのは、まだ私の心が完全に死んでいない証拠かもしれない。
だが、まだ時期じゃない。私に与えられた刃は、まだまだナマクラだ。……こいつらを鍛えあげて、一流の軍隊にする。敵討ちはその時だ。それまで、あの美少年には生きていて欲しいものだ。
「旅団長殿! 旅団長殿は何処におわしますか?」
味方の伝令だ。私は気だるげに返事を返した。
「私だ。私が、この新編第13歩兵旅団、旅団長のセラフィーナ・ラグナロックだ」
さーて、次回の第666特別大隊は〜?
レベッカ・シューティングスターです。
初手でスカイに手を出されてこれで正室! 安泰! と思ったら、地獄みたいな戦場に立たされるわ、スカイのあたおかっぷりや女癖の悪さに曇らされ続ける今日この頃。
幼馴染ヒロインから公式曇らせヒロインにアップグレードされるの罠過ぎない?
全国の幼馴染ヒロインは、悪い事言わないから初手で主人公君と関係持つのはやめようね! 私みたいになるよ!
さて、次回の第666特別大隊は
・悲報 クラリーチェ、モデルが源頼朝。部隊のノリが鎌倉武士団
・悲報 ニーナ、モデルが源範頼。部隊のノリがアイドルとドルオタ
・悲報 追討軍が来た! 兵力差3倍!
の三話でお送りします。
次章も見てね〜
え、P世界線はヤンデレ四天王回?! アリス回じゃないですかヤダー!
*ストックが尽きた為、以降書き溜めが出来るまで不定期更新になります




