6、時期尚早
「クリスティーナの提案は確かに魅力的ではあるが……根本的解決にはならんのよなぁ……」
スカイは、頭の中で算盤をはじき終えて、口を開く。
結論から言うと、悪くない。悪くはないが、なんだかなぁ……という感想だ。
「メリットとしては、まずこれ以上戦わなくて済むこと。これ以上、誰も死なずに、大隊を維持出来る」
「そうそう」
ニコニコ笑顔のまま、クリスティーナはうなずく。
「そして、最大のメリット。戦場以外に居場所の無い子達に、666大隊自体を『居場所』にすることで精神的支柱を与える事が出来る。これについては、皆が薄々恐れている『戦争終わったら、私達どこに行けば良いんだ問題』に対して、ほぼ完璧な回答だ」
「そうでしょう!そうでしょう! それが狙い目だよ!!」
可愛らしい顔でドヤ顔をしているクリスティーナ。
「…………で、ここからがデメリット」
「……」
上げてから落とす論法に、クリスティーナは顔を強張らせる。
「まず、ここにいるのは本来女学生達で、農業についてはほぼ初心者という事。自給自足と簡単に言ってもそう簡単に出来るとは思えん。農民出身の子は何人かいるが……素人が農業っていうのは少し現実的じゃない」
「む……」
「そして、先立つものもない。現状、大隊が保有する物資は、昨日の作戦でかっぱらった2週間分の食料と、数回の交戦分の武器弾薬。……そもそも種籾も無しじゃ、ちょっと厳しい」
「むむ……」
「………最悪、反政府軍の拠点ではなく、民間の集落を襲撃して物資と人手を『徴発』する手もあるが……あまりこれはしたくないな。倫理的に」
スカイがそう言うと、レベッカが「スカイに倫理観とか残ってたんだ……」とポツリ。正室からの嫌味に、流石に少し胸が痛んだ。
「……そして、最大の問題。反政府軍に集落が見つかった場合、一発アウトという事。こういってはなんだが……この思想、カルトまがいなんだよ。俺を教祖、偶像にした。それを山奥で崇拝する元政府軍のエース部隊の生き残り達がいる……こんな情報が入ってきたら、俺が反政府軍の偉い人だったら、消すな。躊躇い無く。色々と危険過ぎる……」
「ダメ……ですか?」
ボコボコに言われて少し涙目になっているクリスティーナ。スカイはさすがに可哀想になってフォローする。
「まあ、考え自体は悪くない。特に、他に行き場の無い子達に大隊自体を共同体と化する事で居場所を与えるという発想。これは良い! 凄く良い!」
笑みを浮かべてクリスティーナを賞賛する。
「……ただ、現状やるには、何もかも時期尚早って話だ。まあ、それに亡命失敗時の最終手段としてなら、この案も考えておいても良い」
フォローされて、クリスティーナは微笑む。
「……情勢がある程度落ち着いてくればではあるが、この大隊の結末としては、これはこれで有りかもしれない。な」
スカイは、小声でつぶやいた。その声は誰にも聞こえず、風にかき消された。




