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5、第5の選択肢

「……と、いうわけで。今後の方針としては友好国への亡命を目標としたい。……しばらくはまた、逃避行生活だ。皆には苦労をかける。一応、全員の意見も聞いておきたいが……どうだ? 意見具申がある者は?」


 朝食後、スカイは皆を集めて、今後の方針について話した。


 話した内容は、だいたい、先ほどの考え通り。


 独立


 投降


 亡命


 合流


 この4つの選択肢から、一番マシと思われる亡命を選択したわけだが……。さて、皆はどう思うか。



「……私はいつも通り、スカイについて行くよ。ナナの事も放り出したくないし」


「……師匠」


「私ら『ヤンデレ四天王』も、もちろん付いてくよ。嫌と言ってもね」


 一番に声を上げてくれたのはレベッカとアリス。……今朝の事もあるし、ついて行かない、なんて言われたらどうしようかと思った。


「私ら貴族組、捕まったら死刑確定だってさ。どうするよ? サラ」


「……実質、一択じゃない。こんなの。私はジュリアと一緒に隊長についていく。それにこの至宝、雑に死なせるのは、あまりにも惜しいわ」


 そう言ったのはジュリアとサラのコンビ。まあ、名指しでお前ら死刑確定な? と言われたらそうするしかないだろう。しかも脅かしではなく、割とそうなる確率が高いときた。


 そうするうち、隊の中からも次々と同意する声が聞こえてくる。……とりあえず、皆、ついてきてくれそうだ。


 そんな中、手を上げる子が1人。


「意見具申!」


「よろしい。クリスティーナ」


 手を上げたのはクリスティーナ・ファルコだった。ウッドペッカー隊隊長にして、スカイの妹分その2は、口を開く。



「……このまま、戦争なんてやめて、この廃村で皆で静かに暮らしませんか?」


「ほう……ここで、か?」


「はい」


 クリスティーナは、一呼吸おいて話し始めた。


「隊長がさっきおっしゃっていた通り、亡命したとして、果たして皆で無事に国境を越えられるかは分かりません。そもそも受け入れてもらえるかも、はっきりとはしていない……。なら、ここに定住して、自給自足の生活を始める方が安全なのでは? 私たち、今ならまだ……戦わずに生きる道を選べると思うんです」


 言葉の一つ一つが、静かに、だが切実に響く。


「ここで、隊長を中心として、小さな一つの『家族』として静かに暮らす。そんな選択肢も、ありだと思うんです」


 彼女の周囲の数人がざわついた。


「そうですよ。ここで皆で隊長と結婚して『家族』になりましょう! もう1人も死ぬことなんてありませんよ!」


「お兄ちゃんが旦那さん、レベッカさんとアリスさんが奥さんで……クリスティーナ隊長がお母さん……大隊で、今こそ一つの家族に!」


 イザベル・リベレーター、ロレッタ・ドラゴンレディ。クリスティーナの第1小隊直属の部下達もそれを支持する。


「……一昨日の俺の告白の時に言っていた件か……」


 俺は焚火の前でクリスティーナと話した事を思い出した。


 ――戦争が終わったら、生き残ったみんなで……俺と、結婚して、『本当の家族』になる。


「……それが今だと?」


「はい。亡命の成功確率も低い……それなら、ここで自給自足生活をしながら、皆で隊長と結婚して、傷を癒しあうのもアリなんじゃないかなって……というわけで、結婚しましょう! 隊長! ここにいる大隊の皆と!!」


 それに困惑したのはレベッカである。


「いやいやいや、ちょっと待って、みんなで結婚って何?! 私、今その構想聞いたんだけど!?」


「あー……レベッカには言ってなかったね。大丈夫! レベッカとアリスは隊長の奥さん達だよ! 他の子達は娘! エリザベスは親戚のお姉さん! そして、私はお母さん!」


「話が見えないって言ってるの! どうしてこうなったのか説明して説明を!」


 ***


「……ようは、貴族組は貴族社会崩壊、平民組はインフラと経済と治安崩壊。そもそもPTSDと『元少女兵』って偏見のせいで社会復帰自体がまず困難。666大隊の娘達は、もうここにしか居場所が無い……だから、スカイと全員で結婚して大隊そのものを居場所にしてしまおう! そういう思想……? 宗教……? ってこと?」


「そうそう。理解が早くて助かるよ! 隊長には一昨日話して、前向きに考えとくって返事をいただいたよ!」


「もうそれスカイを偶像にしたカルトじゃん……」


 クリスティーナの『大隊=家族』思想を聞いたレベッカは、困惑しつつ、スカイをジト目で見て来た。


「すまん……ちょっとした雑談のつもりだったんだが……報告しとくべきだった」


「もう、この浮気男はさぁ……」


 頭を掻きながら、ため息をつくレベッカの肩をアリスが叩く。


「じゃあ、ハーレムで起きたトラブルの対応、頑張ってね。正室様」


「あんたも頑張るんだよ。第二婦人様。なんで面倒事を私に押し付けようとしてるんだ……」


 そんな中、口を開いたのはオードリーである。


「まぁ、大隊長殿との結婚についてはともかく。ここで自給自足生活ってのはアリなんじゃないか……? 幸い、ここは田舎も田舎のド辺境。残党狩りの手もおよびにくい。……いや、物資集積所丸ごと潰した前科的に油断は禁物だが……私は、選択肢の一つとしてはアリだと思うぞ」


「そうそう! オードリーは分かってるね」


 肯定されてニコニコのクリスティーナ。……たちの悪い事に、彼女の声色には妙な自信とカリスマ性があり、まるで宗教家の言葉の様に大隊を、「隊長と結婚……そういう手もあるのか……!」という雰囲気にさせていた。


「殿下、第5の選択肢も増えましたね」


「……」


 エリザベスの耳打ちに、スカイは冷静に、メリットとデメリットを計算し始めていた。

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