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2、リョコウバト

「……あのさ」


 アリスのそばで、オードリーは配給のビスケット(略奪品)を噛みながら、ぽつりと呟いた。朝食を共にしようという事になったのだが……それの最中。


「……昨晩。レベッカが夜中に大隊長殿の部屋に向かってるの、見たんだよね……部隊じゃ公然の秘密だけど。少し、もやもやするな。……何だろう、この心の渇きは」


 隣に座るアリスは、それに軽く笑みを浮かべながら答えた。


「まぁ……あの子なら、いいんじゃない? 特別枠って事で。あの子以外にスカイの正室は務まらんでしょ。一番初めの相手になった幼馴染なんて、正面からいっても私ら勝ち目無いし……さ?」


「ふーん、余裕だな。第二婦人様。あんたのことだから、今朝は包丁でも研いでるのかと思ったけど?」


 オードリーが笑い混じりにそう言うと、アリスの表情からふっと笑みが消えた。


「…………」


 沈黙。いつもなら軽口が返ってくるはずのところに、妙な間が落ちた。


「……何、その間。冗談だってば。気に障ったなら謝る。部隊公認ヤンデレ様が、そんな余裕見せるから、つい」


「いや、怒ってはいない」


 アリスは、ビスケットをかじりつつ、ゆっくりと話し始めた。


「……今のコーモラント第1小隊ってさ、『ヤンデレ四天王』とか言って、へらへらしてるけど。……昔はもっといたんだよ、そういう子」


 私は思わず手の動きを止めた。


「……何の話?」


「スカイに、拗らせた想いを抱いてた連中。……結構いた。みんな、似たような目をしてた。嫉妬深くて、独占欲強くて、でも、スカイには優しくてさ」


 朝日がアリスの瞳を赤く照らす。だが、その目は笑っていなかった。


「で、察しのいい奴が、気づいたわけ。レベッカとスカイの仲に。……中には、行動に出ようとしたのもいたよ。……背中を撃つ計画立てた子達がいた。私ら『四天王』は反対したんだよ? 流石にやりすぎ、レベッカはスカイの精神的支柱だから、下手に壊したらスカイ自身も連鎖的に壊れちゃうって。こう見えて、私達『話の分かるヤンデレ』だし、4人とも根が善人だからさ。それに私、レベッカの事は、大好きだし」


「……それで? レベッカは生きてるが」


「……実行前に、全部スカイにバレた」


 アリスの声は低く、冷たかった。


「密告したのはマリー・ホーネット。オウル第1小隊所属にして、オウル隊中隊長」


「あいつが?」


「……オウル第1小隊って一見地味で真面目ないかにも優等生って感じだけど、実際の姿はかなり違う。あいつらはあんたらウッドペッカー第2小隊同様、スカイの番犬だ。密偵として、隊を監視して、問題があればスカイに報告してる……あんまりこの話、他人にしちゃダメだよ? あの子らの仕事の邪魔になる。それに、変に恨まれるのも面倒くさい」


「……で、どうなったの?」


「全員、最前線送り。支援部隊にいた子も含めて。ほら、あの悪名高い『パッセンジャー・ピジョン隊』こと懲罰部隊。……あれの第三次編成組がそう」


 オードリーの記憶にもあった。666大隊の中でも特に問題児が送られる、事実上の『死刑部隊』それが時折臨時編成される懲罰部隊、パッセンジャー・ピジョン隊だ。今までに第六次まで編成されている。


 666大隊は中隊名に、鳥の名前が冠されているが、わざわざ「リョコウバト」を隊名に関しているあたり、初めから生かして帰す可能性など考慮されていないというのが嫌でも察せられる。


「……レベッカに手を出そうとした奴はね、1人残らず戦死したよ。名目上は、『適性に応じた配置換え』。……でも私みたいなその辺の事情を知ってる奴から見たら、誰の目にも明らかだった。スカイが命じたんだって」


「……第三次……ああ、そんなやつらもいたな。そういう裏事情が……」


 ……かつて万歳三唱して決死隊として最前線に送り出した連中。彼女は、その裏事情を今更ながら知ったのであった。


「それで、全部終わった後(・・・・・・・)に回収された遺体の入った死体袋(シュラウド)をさ……呆然と眺めてたんだよ。私らコーモラント第1小隊。エレナも、フローラも、マルタも、何も言わなかった。どこかでボタンを掛け違えていたら、私達もあの死体袋(シュラウド)の中に入っていたかと思うと、何も言えなくてさ」


「……」


「そしたら、そこにふらっとスカイが来て……なんて言ったと思う?」


「何て?」


「いつもの様に、美少年フェイスのまま、それでいて感情は全く出さずにこう言ったよ「君たちは大丈夫だと思うけど…………分かっているよね?」って」


「ごめん、今、大隊長殿の事、普通に怖いと思った……」


「……流石の私も、あの時は自分の『理性』ってやつに感謝したよ。だから、今残ってるヤンデレって、私含めて――『話の分かる良い子』ばかりなんだよね。話の分からない奴は、もう『いない』から……」


 オードリーは無言のまま、朝日を見つめた。アリスの言葉が、じわじわと胸の中で熱く広がる。


「……わかった。レベッカの背中は、絶対に狙わない」


「そうして。あの子は、スカイにとって特別。そこを踏み越えると……きっと、あんたでも『啄木鳥』から『リョコウバト』にされるよ」


 冗談のように、でも真顔で。アリスは言った。


「……ほんと、いい男だね。スカイは。そういう所含めて、惚れちゃったんだ」


 アリスはにやりと笑ってビスケットを口に放り込んだ。


「ま、女子中高生の学徒兵なんてものを率いて、督戦隊まで使って部隊をまとめて、1年も戦場生き延びて、しかも敗戦後も部隊の指揮系統保ってる人間がさ……『まとも』な訳、無いよね」


 少し、オードリーは、自身が仕える大隊長の事が恐ろしくなった。


「………ただの優男の男の娘じゃないよ。ありゃあ、美少年の皮を被った化け物だ……あぁ、ぞくぞくする。ますます惚れてしまうよ」


  そして、アリスは何が面白いのか、ニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべ、意味深な事を述べた。


「……しかし、レベッカ。まあ、悪い子じゃないし、あの健気さは個人としては、むしろ好感持てるまであるが……。だからこそ、あの良い子ちゃんには、スカイの闇を全部受けとめるのは、無理だ。だから、そこに私のチャンスがある」


 狂信的な目つきで愛を語るアリスに、オードリーはかける言葉が見つからなかった。


「ああ、別にレベッカに危害を加えるつもりは無いから安心して。私はあの子自身は大好きなんだ。…………でも、あの子が致命的なミスをして、スカイに愛想尽かされる日も同時にじっと待つ。…………水底で獲物が足を滑らせるのを待つ鰐の様に。何年でも、何十年でも。スカイとレベッカが破局するなら掻っ攫う。続くんなら、それはそれでまた良し」

  

「狙った獲物は必ず仕留めるアリゲーター、か……狂ってるよ、あんた」


「……利口なヤンデレを敵にまわすと怖いぞ〜。へへへ……」


 アリスは含み笑いをした。だが、その目は笑っていなかった。その目は水底で獲物を待ち伏せする鰐の目の様だった。

おまけSS 第三次パッセンジャーピジョン隊結成式


ナラミ高原戦車戦直前

スカイ「〇〇、〇〇、〇〇、マーサ・シューティングスター。君達は今回の作戦。『リョコウバト』だよ」

レベッカ「……(これ以上ないくらいの曇り顔)」

懲罰兵「……え?」

ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……

マリー達オウル第一小隊(小声)

マリー「あの子前から調子乗ってたから……」

グレイシー「レベッカさんの事、殺そうとしたんだって、あいつら……」

アレクサンドラ「協調性無くて嫌いだったんだ、あの子……」

とかのひそひそ声が聞こえる。(※罪状確認。命令違反、軍紀違反、悪質ないじめ、スカイ君の地雷を踏む(レベッカに手を出そうとする、スカイ君の出生についての侮辱)、その他部隊の輪を乱す行為をすると結構な確率で指名される)

これ見よがしに拳銃のロックを外すオードリー達督戦隊。

アリス(……馬鹿が。レベッカ殺したらスカイも壊れるって分からないのかよ……これだから『話の分からないヤンデレ』ってやつは……)←恋敵であり、お気に入りでもあるレベッカを殺されかけてご立腹。

リューネ「……マーサ、あんた今度は何やらかしたんや……?」

マーサ「……いや、今回に関してはマジで心当たり無いんだけど……」←どのくらいの極限状態まで生き残るか実験目的に入れられた人

スカイ「じゃ、そういう事だから。君たちには本日特別任務を与えるよ」

その後、ジュリアとかシャーロットとかの中隊長が普段の変人ぶりから考えられないほどまじめな顔で水杯とお菓子を勧めてくる。

中隊長「……言い残す事があれば聞こう。それに遺書を書く時間くらいはある」

スカイ「では、健闘を祈る。君たちの名は大隊史に刻まれるだろう!……いつも通り殿下万歳って言いながら玉砕してこいや」

この後大隊員全員で万歳三唱して帽振って送り出してくれる。(この後マーサ以外全☆滅)


スカイ君、大分甘くて顔が良いだけで、本質的にはカイジの兵頭会長に近い子なんよ……。

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